第46話 託された物
夢の中だと認識している、それは間違いない。
だって、俺も有希那も同じベッドで寝たのだから間違えるはずがない。
俺達は気付けば公園に揃って立って居た、そこは
「あ、あれ?公園・・・?え?何で・・・?」
「はぁ・・・呼ばれたな~、当然って言えば当然だけど。」
俺は有希那の手を引いて立って居た場所から奥に進んで行く、俺と彩音の関係が変わったベンチのある場所にだ。
「呼ばれた・・・?って誰に?」
「直ぐに分かるよ。」
俺はそれだけ言って進んで行く・・・そしてベンチが見えてくると、そこには一人の女の子が座っていた。
その女の子は俺達が近づいて来た事に気付いて顔を上げて・・・笑顔で手を振りながらこう言ってきた。
「寝てたのにごめんね、蓮夜。有希那ちゃんも、来てくれてありがとうっ。」
「えっ?!何で私の名前・・・って・・・彩音さん?!」
「こうしてお互いに顔を見て話すのは初めてだねっ。初めまして、よろしくねっ。」
「は、はいっ!こちらこそ!って!そうじゃなくて!!」
「少し落ち着け、別に怖くは無いだろ?」
「うん、それはそうだけど・・・。」
「ふふっ。ごめんね?そりゃ、驚くよね。取り敢えず座って?」
俺は彩音の隣に、その隣に有希那の順番で俺を挟んで座る。
「それで、どうしたんだ?」
「うん、蓮夜が有希那ちゃんを選んだから一度話しておきたくて。」
「あ、あの。駄目だった?」
「まさかっ!私は側に居られないから有希那ちゃんが、側に居てくれる様になったから嬉しいの。それに何より、蓮夜が先に進み始めた事も。」
「彩音、ありがとう。お墓で彩音は満足そうに笑ってたから大丈夫だとは思ってたけど、やっぱり言葉で聞くと安心する。」
「もうっ。変な心配しないのっ!蓮夜は仕方ないなーっ。・・・って有希那ちゃんどうかしたの?」
「ぁ・・・何て言うかやっぱり仲が良いんだなぁ~って・・・。」
「それはそうだよ、幼馴染だし恋人なんだしねっ。」
「私も、彩音さんみたいになれるかな・・・?」
「なれるよ!勿論ね!まだ始まったばかりなんだからこれからよっ。」
「だよねっ!絶対に彩音さんと同レベルまで行ってみる!」
「そうだっ!蓮夜の事教えてあげるね!一杯あるよー?可愛い所とか、情けない所とかっ。」
「ちょ?!彩音やめれ!」
「聞きたい!是非ともお願いします!!!」
「有希那まで?!やめてくれぇぇぇぇ。」
「蓮夜ってねぇ~・・・。」
「えぇぇ?!そんなところが!何時もカッコいいし頼りになるのにっ?!」
「そうそうっ!それとねぇ~、アレとかコレとか・・・っ。」
彩音の口から俺の情けない所、かっこ悪い所、可愛い所をどんどんバラされる・・・。
「彩音・・・そろそろ勘弁・・・。有希那もこれから色々な俺を見る事になるんだから、それを楽しみに?してくれ・・・。」
俺はすっかりと、気が抜けてがっくりとしながら二人の会話を止める。
俺にはダメージしかねぇぇ。
「ごめんごめんっ。でもね?有希那ちゃん。」
「はい?」
「蓮夜は絶対に裏切らないよ、それと・・・ずっと愛し続けてくれる。ずっとずっと、かっこいい蓮夜だよっ。」
「ぁ・・・うんっ!それは私も分かってるっ!」
「ふふっ、だよねっ!良かったねぇ~?蓮夜っ。」
「むぅっ///・・・でもそれは、彩音にも言える事じゃんか。」
「うんっ!私は何時までも蓮夜を愛してますっ///今までもこれからも、蓮夜を見守りますっ。そして・・・これからは有希那ちゃんもっ。」
「ありがとう・・・っ。」
「あ、そうだ!有希那ちゃんに託そうと思って居た物があって、ここに呼んだの忘れるところだった。」
「託す・・・?」
「何の話なんだ?彩音。」
俺達の言葉に彩音は真面目な顔をして俺に向き直る。
「蓮夜、ネックレス貸してっ。」
「え?お、おう・・・、ほらこれ。」
俺は首からネックレスを外して彩音に渡すと彩音はそこから指輪を抜き取りチェーンだけにした。
「彩音・・・?」
「有希那ちゃん、右手出してっ。」
「え?・・・うんっ。」
そして、彩音は自分のイニシャルの入ったリングを有希那の右手の薬指に嵌めた。
「えっ?!彩音さん?!」
「私のイニシャル入ってるから嫌かも知れないけど・・・良かったら貰ってくれないかな?私から蓮夜をお願いしますって言う意味で、貴女に蓮夜を託します。」
「ふぇ・・・?・・・ぇ・・・。」
「蓮夜も、ほらっ!付けてあげるから!」
ボケっとしてる俺の手を取って彩音は有希那と同じ様に俺の右手の薬指にリングを嵌める。
「いや、俺は兎も角さ・・・有希那に彩音のリングをってのはどうなんだ?」
「あはは・・・まぁ、そうなんだけどさっ。今の私から出来る事ってこれくらいだからさ・・・?言葉よりも何か形をって思ったんだけど、これくらいしか・・・ね?・・・わわっ!!」
有希那が彩音を抱き締めた。
「有希那ちゃん・・・?」
「すんっ・・ぐすっ・・・が・・とう・・・。」
「え?どうしたの?泣いてる?」
「ありがとう・・っ。彩音さんの・・・リング・・・ずっとっ!ずっと!大切に・・・しますっ。」
「ぁ・・・うんっ!」
彩音も有希那を強く抱きしめる、そうして暫くの間、二人の泣き声だけが辺りに響いた。
俺も本当の意味で彩音が有希那に託したんだと理解してそんな二人を見つめ続けた。
「そろそろかな・・・。」
「そっか。仕方ないな。」
「お別れ・・・?また会えるんだよね・・・?」
有希那の言葉に彩音はフリフリと首を振る。
「これで、最後。」
「そんなぁ!やっと!やっと会えたのに!これで終わり何て嫌だよ・・・。」
「有希那・・・。仕方ないんだ・・・。」
「蓮夜くんこそそれで良いの?!もう会えなくなって良いの!?」
「ありがとう、有希那ちゃんっ。大丈夫だよっ!」
彩音の姿がどんどん薄くなっていく・・・。
その工程を有希那はぼろぼろと泣きながら手を伸ばす。
「もう大丈夫、蓮夜も、有希那ちゃんも。」
「そんな!だって!やっとちゃんと話せたのに!!!それなのにこれで終わりなんて!」
「こうやって話せるこの事態がイレギュラーなんだから・・・ね?」
ぶんぶんっと有希那は首を振って否定する、ぼろぼろ、ぼろぼろと大粒の涙を零しながら・・・。
「もうっ。泣き虫だなぁ~っ。大丈夫だってばっ!」
「何が!?何が大丈夫なの?!」
「私はずっと側に居るよっ。今までは蓮夜の中に、これからは二人の中に。これからもずっと、ずっと・・・一緒だよっ。」
「だけどっ!」
「彩音、ありがとう。有希那・・・ちゃんと送ろう?彩音もこう言ってるし会えなくなるかも知れない、話せなくなるかも知れない・・・でも、これからもずっと一緒だから。」
「蓮夜くん・・・ぁ・・・。」
泣いてるのは有希那だけじゃない、俺もそう、そして・・・彩音も・・・。
「ぅ、ぅん・・・っ。彩音さん!ずっと!大事にするから!忘れないから!だからっ!だからっ!」
「うんっ!何時までも見守ってるからねっ!・・・またねっ!」
そうして、彩音の姿が消えると同時に俺達の意識も落ちる、本当にこうやって会えるのが最後だと分かる様に・・・。
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「んぅ・・・。」
気付けば朝になってた、寝た時のまま有希那は俺の胸の中で静かに涙を流しながら寝ていた。
そんな、有希那の顔を眺めていると、有希那も目を覚ます。
「ぁ、蓮夜くん・・・おはよう・・・。」
「うん、おはよう。覚えてる・・・か・・・?」
「うん・・・覚えてる・・・。」
有希那が右手を顔の前に持ってきて、薬指に嵌まっているリングを見て夢では無かったと、彩音と話した事、託された事・・・そして、もう会えない事・・・それらを思い出したみたいだ。
「蓮夜くんっ!」
有希那が俺に抱きついてくるのを俺は確りと受け止める。
「彩音さんが・・・私に、蓮夜くんを・・・。リングを・・・。」
「あぁ、リング・・・託されたな。」
「良いのかな・・・?私がこのリング付けてて本当に、良いのかな・・・?」
「良いんだ。彩音が有希那に託した様に、俺も有希那が持っていてくれるなら嬉しい。」
「うん・・・うんっ。」
わぁぁぁぁぁっと声を上げて泣く有希那を俺は慰め続けた。
その後、有希那の泣き声に皆が俺の部屋に集まって来て俺が怒られた。
勿論、直ぐに有希那が俺は悪く無いと否定してくれたけど、直ぐには信じて貰えなかった・・・。
でも、司が有希那の指に嵌まるリングに気付いて聞いて来た。
「これは・・・彩音さんが、私に託してくれたの・・・。」
「はい?何言ってるの?有希那。」
「そう言う事ですか、それなら仕方ないですね・・・。」
司は何があったのかを直ぐに理解したようだけど、皆は頭の上にはてなマークを浮かべながら訝し気な顔をして居るのが印象的な朝だった。
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「花はどうすれば良いんだ?」
「間島くん、少し茎を切ってからこっちの花立てに挿して。」
「おっけー。次はっと・・・。」
「昨日、有希那と蓮夜くんが掃除してるから汚れてはいないし、水をかけて空拭きで良いかな。」
朝食を食べて、準備をして俺達は午前中の内に、彩音の墓参りに来てる。
「んじゃ、線香焚くよ。」
焚いた線香を皆で挿して行って、それぞれがゆっくりと拝む。
「彩先輩・・・どうか、蓮夜先輩と有希那先輩を見守って居てください。」
「司・・・。」
「司ちゃん・・・。」
俺と有希那も司に並んで彩音の墓前で拝む、ありがとうと守れなくてごめんと・・・。
そして・・・仲間達と有希那と絶対に幸せになるからと、改めて誓った。
だから、安心して休んでくれ・・・。
「おっし!改めてありがとうな!皆っ!」
「当然だし!」
「うんうんっ!蓮夜くんの大切な人なら私達にとっても大切は人だし!」
「そうよ!大切な仲間だもの!当然よ!」
「あぁっ!ありがとうっ!」
「んじゃ、帰ろうぜー!つーか、折角だし街の案内してくれよ!色々見てから帰りたいわ!」
「おっ!いいねー!蓮夜くんの母校とか見てみたい!」
「ほらっ!皆が待ってるから行こうっ!蓮夜くんっ!」
有希那が俺の手を引いてお墓から離れ皆と合流してワイワイと騒がしくしながらお墓を後にした。
そんな俺達の姿をお墓の横から、嬉しそうに、楽しそうに、眩しい目で眺めてる姿があったのだった。
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ごちそうさま、と夫の声と私の声が重なった。
蓮夜くん達が自分達の住む街に帰ってしまった後、元に戻っただけなのに柊家は少しがらんとしてしまった気がする。
それだけあの子達との時間が楽しくて、息子の成長が嬉しかったのだろう。
まぁ、息子同然と言うのが正しいだろうけど。
食器を片づけようとすると、夫の動きに違和感があることに気づく。
普段ならすぐソファーに向かうはずなのに、ダイニングの戸棚へと向かった。そこにはグラスしかないはず。
「えっと・・・ウイスキー?」
夫が戸棚の奥から取り出したのは、茶色の液体が入った瓶。そのラベルには有名なメーカーのロゴが入っていたからすぐに私はウイスキーだと気が付いた。
そこからさらにグラスを二つ取り出して、夫はそこに冷凍庫から持ってきた氷と、先のウイスキーを注ぐ。
「まぁ、飲めっ、飲めっ。」
「私あまり飲めないんだけど・・・。」
「良いから、座れ。」
仕方ないっと、私はエプロンを取り夫に言われるがまま、彼の座る反対側のソファーへと座る。
テーブルの上にはウイスキーの入ったグラス二つと、その瓶だけがある。
「蓮夜と有希那ちゃんにっ。」
グラスをこちらに向けて掲げ、夫は宣誓するかのように述べた。
私は突然のことに思考が停止してしまうが、数秒後、状況を把握してグラスを手に取る。
「二人の幸せを願って」
夫と同じようにグラスを掲げ、その間近へと持っていく。
「「乾杯っ!!」」
チンッと二つのグラスが音を立てる。
私は久々の酒を勢いよくあおって、思った。
たまにはこういうのも、悪くない。
口に流し込んだウイスキーは、ほろ苦く、美味しかった。
自慢の息子の成長を喜ぶのと同時に寂しいと思う気持ちを表すかの様な味だと感じるのだった。
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