第45話 思い出を乗り越えて

有希那の想い、彩音との事を話しても変わらずに・・・いや、それ以上に強い想いを持って伝えてくれた。

俺は、どうすれば良いのだろう?有希那の事は一人の女の子として確かに好きだ。

だけど・・・彩音の事がどうしても気になる。


俺は胸の中に居る有希那をそのままに空を見上げるのと同時に、一陣の風と共に柑橘系の香りが俺の鼻を擽った。

その香りに惹かれるまま、顔を下げ、前を向くとそこには・・・彩音が居た。

彩音は、俺に向けて変わらずに優しい顔をしながら、一つ頷く・・・俺もそれに応えるように彩音を見ながら頷いて・・・有希那の背中に手を伸ばし、確りと抱きしめる。

そんな俺の行動に満足そうに彩音は頷いて・・・柑橘系の香りを残して消えていった・・・。


「なぁ、有希那、聞いてくれるかな?」


「うん。何でも聞くよ。」


「俺さ、どうやってもどれだけ時間が掛かっても彩音を忘れるなんて出来ないし、彩音を想う気持ちは変わらない。」


「うん。知ってるよ。」


「でもさ、先に進むべきなのも分かってるんだ。じゃないと、怒られちまう。」


と、言わなくても分かってくれてる様で、俺をきつく抱き締めてくる。


「有希那は彩音と同率で一番にしか成れないけど、それでも俺とこれから一緒に居てくれるか?」


「そ、それは・・・?どう言う・・・?」


「うん、俺も有希那が好きだから俺と恋人になって欲しい。」


「はいっ!////改めてよろしくお願いしますっ///」


その言葉と共に有希那は、スッと背伸びをする、そのまま俺と有希那の影は重なる。


「えへへっ///キスしちゃったっ///蓮夜くんっ!」


「うん?どうし・・・わぷっ。」


俺の頭に手を回して自分の胸に俺の顔を押し付けてくる。


「嬉しいっ///絶対に幸せにするからねっ!!」


「それは俺の台詞なんだが・・・うん、そうだな。一緒に幸せを作っていこうな?」


「うんっ!何時までも一緒に!」


そうして、もう一度キスをして、俺達は恋人になって・・・。


〜〜良かったねっ!蓮夜っ!幸せになってねっ!〜〜


何処からか、そんな言葉が聞こえた気がした。


……………………………………………………………

その後、腕を組んで降りてきた俺達を見て、花屋のおばちゃんも、泣きながら有希那と、俺に良かったねっ!ちゃんと、幸せになるんだよ!って言ってくれた。態々、お店から飛び出してまで。

しかも、直ぐに小さなブーケを作ってくれて、俺の門出の記念としてプレゼントまでしてくれた。

そのブーケを有希那は大事そうに持ちながら俺達は帰りの電車に揺られてる。


「えへへっ///綺麗で可愛いっ。」


「良かったな、有希那が持ってるの、凄く似合ってる。」


「そ、そう言う事をサラッとっ///でも、貰って良かったの?」


「勿論だ、有希那に持ってて欲しい。」


「うんっ///」


照れた顔のまま片手で俺の手を握ってきて片手でブーケを持って、俺の肩に顔を預けながら俺達は特に会話をする事は無かったけど電車の音に揺れながら、静かに二人の時間を楽しんだ。


ガチャッと音を立てながら自宅の玄関を開けて帰宅するのと同時に、リビングから皆が出てくる。


「「皆、ただいま!」」


「おかえりなさい、先輩。上手く行ったんですね?」


「おかえり、話したい事、聞きたい事が沢山あるんだ。言わなきゃ駄目な事もな。」


「おかえりなさい。有希那、先ずは良かったね。」


「蓮夜も有希那もおかえり。全く見せ付けてくれて!ほらほら!先ずは今までの事、これからの事、沢山話そう。」


「あぁ、司も、信也も、美織も、雫もありがとう。俺も沢山話したい事があるし、聞きたい事もある。それと、謝りたい事も・・・。」


「うん、沢山の事を話さないとね、でも今は・・・。」


有希那のその言葉の後に俺と有希那は顔を見合わせて・・・同時に・・・。


「「改めて、皆!ただいま!」」


「「「「おかえりなさい!!!!」」」」


皆のその声に俺と有希那は笑顔になって墓参りだけなのにとても遠くから帰って来たと感じたのだった。


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それから、司から聞いた、彩音との事の説明、俺のその時の心情、考えを皆に話した。

それでも、変わらずに、親友だと、仲間だと言ってくれて、俺もそれに全力で応えないと行けないなと、改めて思うのだった。


「それにしても、濃すぎでしょ?色々と。」


「まぁ・・・普通には体験しないよな〜、蓮夜らしいと言えばらしいけどさ。」


「おい!信也も雫もなんだよそれっ!」


「いや、だって中学生で恋人はまぁー、あるとは言えさ・・・その後が・・・。」


「だからこそ、有希那の時に手を抜かなかったんだろうけどさ。」


「あの時はそこまでする?って思ってたけど、こんな経験してたらそりゃこうなるわな。」


「まぁでも、有希那先輩の崇拝者も似たような相手でしたし、あれで良かったんですよ。」


「それは思うけど・・・。」


「まぁまぁ、皆もその辺でっ!蓮夜くん、この後の予定は決まってるの?」


「あぁ、おじさんとおばさんに皆の紹介かな、夕飯に誘われてるんだ。」


「えっ?!この人数なのに?!」


「俺の為にここまで来てくれた子達だからもてなしさせてってお願いされた。」


「あれは断れませんね、紹介だけは兎も角、夕飯は流石にと思うんですが・・・断れませんでした。」


「あ、あはは・・・二人が無理なら仕方無いねぇ〜・・・。ところでさ、彩音さんの仏壇にあいさつはしても良いんだよな?」


「あぁ!皆も拝んで貰えたら彩音も喜ぶと思う。それと、明日はお墓参りもして貰えたらって思ってるんだけど・・・。」


「「「勿論っ!」」」


「皆、ありがとう。」


「良かったね、蓮夜くんっ。」


「あぁ、取り合えず・・・話しはこの辺にしてお隣に挨拶に行こうか?」


「そうだな、余り遅くなっても良く無いだろうし柊さん達もやきもきしてるかもしれないもんな。」


「ん~・・・どうでしょうねぇ~・・・おばさんは間違いなくうっきうきで準備してますよ・・・。」


司の言う通りだろうな~っと俺も簡単に想像できた。


「兎に角・・・行こうか・・・?」


俺の言葉に皆が立ち上がりそれぞれ準備して柊家に向かった。その顔は皆すっきりとした顔をして居て、俺も有希那の手を取ってゆっくりと隣まで歩いて行く・・・有希那を連れて行くのを何故か緊張しながら。


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「いや~~!酒がうまい!!!やっと蓮夜が一歩進んだ記念日だからなー!」


「飲みすぎですよ・・・。」


「おもしれぇ~おじさんだなっ。」


「おぉー!間島くんは分かる子だねぇー!よぉーーし!飲め飲め!」


スコーーーンッ!っとおじさんの頭に空き缶が当たる。


「未成年にお酒進めるな!ばかたれ!」


「いってぇぇ・・・冗談だってば・・・。」


話しを聞いていたおばさんがおじさんに空き缶をクリーンヒット・・・相変わらず良いコントロールだわ・・・。


「アハハ・・・すっげーコントロール・・・。」


「まだまだ行けるわねぇ~!流石私っ!」


「何かしてらっしゃったんですか?」


「うんうん、学生時代はソフトボールをずっとねっ。」


「ほぇ~・・・。」


俺達はあの後、直ぐに柊家にお邪魔した。直ぐにおばさんが出迎えてくれてリビングに通されておじさんとも皆が挨拶を交わす。

それを俺と司は後ろで見ながら順番に進んで行く挨拶の後、有希那の番になって少しハラハラ・・・。


「は、はじ、初めまして!!陵 有希那と言います!本日は、お招き戴きありがとうございますっ!」


この通りガッチガチに緊張しているのだ・・・。


「君が有希那ちゃんか、蓮夜と司ちゃんの言っていた子だね。うん、とても綺麗な子だ。」


「本当に綺麗っ。それで、えっと・・・蓮夜くんとは・・・?」


「は、はいっ!おつ、お付き合いをっ。」


「そんなに緊張しないでくれ、何故か虐めてる気分になって罪悪感が・・・。」


「す、すす、すすすいませんっ。でもっ!えと、その!」


「有希那ちゃん、蓮夜くんの事、好き?」


「はい!大好きです!」


「そう・・・、それなら約束して欲しい事があるの。」


「な、何ですか・・・?」


「うん、蓮夜くんを裏切らないで欲しい、信じてあげて欲しい、側に居てあげて欲しいの。」


「・・・分かって居ます。私は蓮夜くんに救われもしました、仲良くなれて本当に嬉しくて、そんな蓮夜くんに恋をして、恋人になれた。・・・ですから、絶対に裏切る事なんて有り得ません、何があっても信じ続けます、そして・・・絶対に離れてなんてあげませんっ!」


「ん、安心した。」


その言葉と共におじさんもおばさんも確りと頭を下げる。


「「蓮夜(くん)を宜しくお願いします、幸せにしてあげてください。この子がもう泣く事の無い様に。」」


「は、はいっ!・・・ぐすっ、ありがとう・・・ござい・・・ます・・・っ。」


二人の真剣な態度と言葉に感極まったかの様に有希那は涙声で確りと返事をしてくれた。

まるで俺の親に頼まれたかの様になってるけど、この二人は確かにもう一人の両親と言ってもいい位の人達だ、それくらいずっと心配して貰っていたから・・・だからこそ・・・。


「おじさん、おばさん。彩音を忘れる事はありません。だけど、彩音との思い出を抱き締めて、辛い記憶も乗り越えてこれから確りと歩いて行くから、俺にはこんなにも親身になってくれる友達が、仲間が居る、そして・・・有希那って言う特別な大切な子が出来たから。だから、もう大丈夫だっ。」


「そうね、彩音に笑われない様に頑張りなさい、そして思いっきり幸せになりなさいね?」


「そうだぞ、蓮夜は俺達にとっても息子みたいなもんだ。だからこそちゃんと幸せになってくれ。有希那ちゃんの手を放すんじゃないぞ?」


「うん、分かってる、ずっと繋ぎ続けるよ。」


どんっと俺の胸に有希那が飛び込んで来る、俺はそれを確りと受け止めて、泣いてる有希那を抱き締める。


「あらあら、既にラブラブねぇ~。」


「良い事じゃ無いか。ささっ!皆も彩音の仏壇に挨拶して貰えるか?」


「「「「はいっ!是非っ!」」」」


そうして、皆が仏壇の前で彩音に挨拶を終わらせる、その中でもやっぱり有希那は人一倍真剣に拝んで居たのが印象的だった。


「何か真剣だったけど?」


「うんっ。でも・・・秘密っ!」


「えぇぇ?!」


っと、まぁーそんなやり取りもあってからの冒頭の騒ぎと言う訳だ・・・。


「全く!息子が前を向いて歩き出して嬉しいのは分かるけど飲みすぎよ!貴方は明日は仕事でしょ!!!」


「うっ・・・そろそろ、止めておくか・・・。」


「もう良い歳なんだから身体に気を付けてくださいよ。」


「お、おうっ。蓮夜にそう言われたんじゃな・・・。」


「頼むっすよー、成人したら一緒に飲むの夢なんですから!」


「あ!そん時は俺も一緒に参加したいわ!」


「いいねぇ!信也も一緒におじさんと飲もうぜー!」


「おうっ!やべぇ、今から楽しみだわっ!」


俺等のそんなやり取りにおじさんは目を潤ませてる。


「だー!駄目だな~歳取ると涙腺緩くなってだめだぁ!おし!二人と飲むためにも健康に気を付けるかな!」


「そうしてくださいっ。」


そうして俺達は夕飯をご馳走になって、家に戻る、必ずまた遊びに来る約束を交わして。


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家に戻った俺達は順番にお風呂を済まして、それぞれに宛がわれた部屋へと引っ込む。

俺も自室で向こうに持っていく物を集めながら寝るまでの時間を過ごしていた。

彩音との思い出、写真やデートで買ったもの、貰ったものを一つに纏めてる。


コンコンッ


そんな作業をしていると、俺の部屋をノックする音が聞こえてきた。


「どうぞー。」


俺の言葉の直ぐ後に扉が開いて、現れたのは俺の恋人になった有希那だった。


「あれ?どうしたんだ、有希那。」


「えっと・・・ね・・・?///」


「うん?顔赤いけど風邪でも引いちまった?」


「そうじゃなくてっ。その・・・美織に追い出された・・・。」


「はぃ・・・?」


「その、司も雫も、蓮夜くんの所に行けって・・・///間島くんの所に行くわけも行かないし・・・。」


「はぁ・・・何考えてるんだあいつら・・・。」


「ご、ごめんねっ!あのっ///」


「良いよっ。有希那は悪く無いしベッド使ってくれ、俺は床で良いし。」


「だめっ!それは駄目!」


「駄目って言われても他に方法無くないか?」


「そのぉ///一緒に・・・///」


ん?まさか一緒に寝るつもり・・・か?


「一緒に・・・寝よ・・・?///」


「ごふっ。まじかぁ・・・。」


「駄目・・・かな・・・?///」


いや、駄目な訳無いし、顔真っ赤にして様子伺う様に聞かれて断れる男は居ねぇよ・・・。


「分かった・・・我慢するの大変だけど・・・。」


「ぁぅっ///そ、そのぉ・・・我慢しなくて・・も・・・?」


「流石に初日からは・・・な・・・?それにあいつらにバレるぞ?」


「ぅっ///だよね・・・///私もがまんしまふ///」


はぁ・・・凄い事になった・・・でもまぁ~・・・良いかっ。


俺は先にベッドに入る、もう時間も遅いし寝てしまわないと明日に響くしな。

そんな俺に続いて有希那もおずおずとベッドに入って来て俺にくっつく。


「えへへっ///幸せっ///」


「あぁ、俺もだっ。もう遅いし今日は寝ような?」


「うんっ。おやすみなさい、蓮夜くん。」


「おやすみ、有希那。」


有希那の言葉の後、抱きしめるように有希那の身体に手を回して目を閉じる、有希那も俺の胸に顔を埋めて寝に入った。


こうして、長い一日が終わり、俺もけじめを付ける事が出来たと思うし仲間達と、司と有希那と・・・沢山の人に囲まれて俺は一歩先に進み始める。


これで、良かったんだよな?彩音。あの時の笑顔はそう言う意味だよな?

そんな事を思いながら俺の意識も沈んで行き、長い、長い・・・一日が終わりを告げたのだった。


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