外神人外の能力

「瞳」


僕は彼女が居た事に少しだけ驚いた。


「人を殺したんだ」


ベッドの横で横たわる男子生徒を見て僕は言った。

その男子生徒の頭部は変形していて、まるでひょうたんの様になっている。

あり得ない話だ。これが人間なら、ひょうたんにはならないだろうし、変形をしたのならば、その過程で割れて血が出て来る筈なのに。


「人殺しはいけない事だよ」


僕は彼女にそう諭した。

白い用紙に赤い点を添えた様な微かな興奮を浮かべていた瞳は即座にしおれていく。

僕が怒っているのが嫌なのだろう。床に転がる男子生徒の頭を掴むと、ひょうたんの頭は変形して、元のかたちに戻った。


「…うー」


男子生徒が唸る。

鼻から体液を漏らしていて、目はうつろだ。

ゆっくりと立ち上がると、男子生徒は酔っぱらったかの様に千鳥足でその場から逃げ出す様に離れていく。


「殺したんじゃないの?」


僕は彼女に聞いた。

死んだように動いていなかったから、確実に殺したものだと思ったけど。


「うご、動かした、ぁあ」


動かした、とつたない言葉で彼女は言う。

それは、つまりは、動かない状態から動ける状態にしたと言う事だろうか。

死んでいたものを、生かす事が出来る…と言う事か。


だとすれば、それはとてもすごい能力だ。

人を簡単に蘇生する事が出来るなんて、奇跡に近い所業だろう。

でも、だからと言って。


「人を無闇に殺したら駄目だよ」


僕は彼女を窘める。

人を殺す事は悪い事だし、人を怪我させる事はしてはいけない事だ。

それを彼女に教えて、約束を守る様に告げる。

彼女の手を掴んで、掌を温める様に、僕は彼女の目を見て言う。


「絶対に殺したら駄目だ。それは人間としてやっちゃいけない事だから、僕は誰も傷つけたくないから、だから、キミにもそれをしないように」


僕はそう言った。

瞳が理解できているのか分からないけど、彼女は苦々しい表情を浮かべながら、ゆっくりと頭を縦に振る。


「わか、わ、分かっ、た、あ」


彼女の了承の言葉。

僕は頷いて、頭を撫でる。

微妙にもふくれ面だった彼女は、頭を撫でた事で嬉しそうな表情に変わった。

これでどうにか、僕の言う事を理解して、約束を守ってくれたら良いけど。


「…帰ろうか」


僕は立ち上がる。

幸い、お腹の調子は大した痛みも無い。

また腹痛を感じたら、学校にずっといる事になってしまう。

そうなれば、保護者を呼ばれる可能性もあった。

お父さんもお母さんも居ない僕には、辛い事でしかない。

だから動ける今のうちに、帰ってしまおうと僕は思った。

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町興しの為に生贄にされたが、供物を要求する土地神に求愛されました。別に復讐とか考えてないけどヒロイン化した土地神が代わりに町に復讐するようです 三流木青二斎無一門 @itisyou

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