第3話
「そういえば塩原くんの好きな人って誰だったの?」
咲さんがアルバムをめくりながら、なんとはなしに疑問を口にした。卒業アルバムからスマホのデータを見ながら思い出をたどっていく。
ぼくはあの時から必死に勉強をした。手段は選んではいられない、と桜田さんに勉強を教えてもらった。
こうしてぼくは勉強を口実にして、桜田さんと会話する機会を得たのだった。
おかげで高校や大学も同じところにいけた。ずっと「好きな人がいる」と隠していた気持ちを桜田さんに告白できたのは大学生の時だった。
あの時は確か「つき合ってください」と酔った勢いにまかせて告白したんだった。
同じように酔っていた桜田さんは、頬を赤くしながらも無表情だった。
「塩原くんは好きな人がいたんじゃないの?」
「桜田さんに一目ぼれしました」
「中学からの腐れ縁なのに、今さら一目ぼれしたの?」
「桜田さんといるとずっと楽しいです」
周囲も酔っており、その場のノリに助けられてぼくらは付き合うことになった。
そんな思い出のサークルの飲み会の写真がスマホのクラウド保存に残っている。
ぼくは咲さんの少し緊張したような無表情に、笑顔で応えた。
「中学の時に一目見てから、ずっと咲さんの事が好きです。いつも瞬きする度に一目ぼれしてます」
「ずっと私のことが好きだったの?」
咲さんの瞳がほんの少しだが驚きで開かれた。やっぱり、咲さんは分かりやすい。
「部屋にたくさん本があって、読み切れなくて床に積んでるのも好きだよ」
「ふぅん」
恥ずかしそうに、けれどぶっきらぼうに返事をした咲さんに僕は、中学の卒業アルバムを渡した。
明日はついに結婚式だ。
ぼくはその日、夢の中で中学の時に想像して絶望した桜田さんのウェディングドレス姿をまた垣間見た。
不思議と夢の中だと理解できた。
あの時、想像していたよりもずっと今の咲さんはきれいで、かわいらしい。夢の中の咲さんは、笑顔で微笑んでいた。
「塩原くん、」
呼び声に素敵な夢が霧散し、ぼくは目を開いた。
「あの時、みんなが、嫌いじゃないならつき合ってみなよ、って言ったから流されるようにしてつき合ったけど……」
目がしばしばする中、咲さんの声を聞く。もしかしたらぼくが起きている事に気づいていないのかもしれない。
「ほんとうに今気づいたんだけど、今、私の脳は錯覚してるのかもしれない」
「……恋してるってこと?」
ぽふん、と音がして咲さんが布団を頭までかぶったのが分かった。
「恋かもって話だもん」
薄暗がりの中、咲さんは照れたように微笑んでいた。
桜田咲が微笑む日 夏伐 @brs83875an
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