第2話 壁
普段は無口で周囲から高嶺の花として扱われている桜田さん。当番が同じおかげでぼくは周りに比べて一歩リードしているといってもいいだろうか。
「それで、塩原くんの好きな子って誰なの?」
「え……、あ、いない……けど」
「塩原くんは分かりやすいよね。焦ると声のトーンが少し上がる」
もしかして――! この雰囲気はもしかして告白するタイミングなのでは! ぼくは緊張で顔から火が出そうだった。今すぐに骨まで燃え尽きて灰になってしまいそうだ。
「もしかして桜田さんは気づいてた?」
「うん。私、クラスに友達少ないから」
「それは桜田さんがきれいだから……」
高嶺の花だからだれも手が届かないだけ。
だが、ぼくの言葉とは反対に桜田さんは少し俯いた。
「やっぱり、私、変な子なのかな?」
「桜田さんが変?」
「いつも、仲良くなるとちょっと変わってるねって言われるの。塩原くんもそう思う?」
「……桜田さんは……」
変じゃない、と言いかけていや少し変わっている、と思い直して言葉が出てこなくなってしまった。
だってそもそもこんな会話になっていること自体がちょっと変じゃないか?
そう思ってぼくは、桜田さんを見た。無表情でぼくを見つめている。表情はないが、祈るように瞳が揺れている。
さっき彼女は『仲良くなると』そう言われると言った。
「――変わってるかもしれないけど、そこが良い所だと思うよ」
「ほんとに?」
「うん! 友達が言うんだから間違いないよ」
ぼくの言葉に桜田さんはほっとしたように、また雑用を始めた。二人でパチリパチリとホッチキスを鳴らした。もうすぐこの二人っきりの時間はなくなってしまう。
ぼくはついついゆっくり作業を進めてしまう。この放課後も長いように思えて一時間くらいだ。たった一時間。半月に一度のボーナスタイム。
「あ、最近は何の本読んでるの?」
ぼくは沈黙がもったいなくて桜田さんに声を掛けた。桜田さんは休み時間はいつも何かの本を読んでいる。前の日直の時も同じことを聞いた。その時は確か桜田さんが推している作者さんの本でとても盛り上がった。
彼女の熱に押されるようにして、ぼくも読んでみた。その話題で日直当番でもないのに桜田さんと会話できた。あの作者さんには感謝しかない。
「えっとね、少し前にライトノベルの新人賞が発表されて今は受賞作を読んでる」
「へぇ、どれが面白かった?」
「全部面白かったよ!」
本について話している時の桜田さんはキラキラしていて楽しそうだ。
ぼくはこの時間がずっと続けばいいと思った。
ずっと――そう考えた時、ウェディングドレスを着た桜田さんを想像してしまった。
彼女はとても綺麗で、頭も良くて、性格もかわいらしい。
あれ、ぼくはどうして桜田咲とこんな楽しく会話が出来ているんだろう……。
なんだか、見えない壁が目の前にあるような気分だ。
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