未確認飛行物体の会

結騎 了

#365日ショートショート 139

 そこは予想より胡散臭くはなかった。

「ようこそ、未確認飛行物体の会へ」

 オカルト、UMA、妖怪、超常現象、そしてUFO。いわゆる「そういう系」が好きな僕は、このサークルに入るためにこの大学を選んだ。未確認飛行物体の会。名前がとても胡散臭いが、実績は確かだ。学生の身分でUFO研究に取り組むなら、日本でここが最も良い環境とされている。全国から寄せられるUFOの目撃情報を収集し、各種研究機関へ調査を依頼する。そして、サークル室では夜な夜なUFOの実在性についてディスカッションが繰り広げられるという。学生ならではの好奇心に満ち溢れたエネルギッシュな活動は、一部界隈で熱い支持を得ていた。

「どうも、よろしくお願いします」

 僕が頭を下げると、部長である男-名を野見山というらしい-は歓迎の笑みを浮かべた。他にもメンバーが数人、それぞれのパソコンに噛り付いている。室内は意外にも整理整頓が行き届いており、清潔感を覚えた。

 ぐいっ、とこちらを覗き込むように、野見山が尋ねる。

「愚問だが。君はUFOを信じているかね。それが実際にいるか否か、という問いだ」

 本当に愚問だ。どんな思いでここまで来たと思っている。

「もちろんです。UFOは実在します。いや、いて欲しい。そこに確信とロマンを覚えたからこそ、僕はUFOが好きなんです」

「素晴らしい回答だ」

 にやりと微笑んだ野見山は、そばにあった椅子を引き着席をうながした。音も立てずパソコンを点け、キーボードを僕の前に置く。

「では、この未確認飛行物体の会における最も重要な仕事を君に任せたい」

 なんだって。まだ入部して数分だぞ。

「なあに、簡単なことだ。ほら、このウェブページ。君も見たことがあるだろう、我がサークルへの投稿フォームだ。全国の有識者からここに情報が寄せられる」

 自宅で何度も閲覧したページだ。もちろん知っている。しかし、僕は残念ながらUFOを見たことがない。ここに投稿する機会に恵まれなかったのだ。

「では、君に目撃情報を投稿して欲しい。手始めに毎日10件といこうか」

「なんですって」

 僕は思わず大きな声を上げた。

「もしかして、捏造ってことですか」

 他のサークルメンバーはこちらを一瞥もしない。

「言葉は慎重に選びたまえ。いいかい、うちのサークルに寄せられた情報は、然るべき研究機関に送られる。君も知っての通り、定期的にマスコミにもその活動が取り上げられる。つまりだね、我が国におけるUFOの実在性において、この未確認飛行物体の会がその確度を上げているのだよ」

「でもそれは、嘘になってしまいます。UFOはきっといるんですよ」

「そうさ、UFOは絶対にいる。だから目撃情報が大切なんだ。UFOがいるかもしれないという可能性を世間が知らなければ、UFOは実在しなくなってしまう」

 野見山の細い目が、すぅっと開いた。

「君も経験があるだろう。UFOの話をすると、人は二言目にはそんなものはいないとこちらを馬鹿にする。しかし、ワイドショーで我がサークルの活動を見た人も、同じことが言えるだろうか。当然、一度ではまだ信じないだろう。しかし、雑誌で二度見れば。新聞で三度では……。もしかしたらいるかもしれないと一ミリでも感じ始めたら、それはUFOがいるってことなんだ」

 背筋に野見山の指が触れた。僕はつい俯いてしまう。

「もう一度聞こう。愚問だが。君はUFOを信じているかね。それが実際にいるか否か、という問いだ」

 ごくり、と生唾を飲んだ。ここで僕が実は宇宙人だと独白すれば、面白い小噺のオチにでもなるだろうか。残念ながら僕はちっぽけな地球人だ。そして、自分が信じているものを、ロマンを覚えたものを、どこかの誰かにも信じていて欲しい、愚かな地球人だ。

 僕はゆっくりと息を吸い、キーボードに手を伸ばした。ここは清潔で、空気がきれいだ。

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