(12)

 課長が失踪した翌日の昼ごろ、九州に台風が上陸した。

 しかし……「正義の味方」監査委員の公務には出ろ、との連絡が有った。

 その後、ずっと待機を命じられ……その間、台風は北上し……。

「危険ですが、これから台風の被害を受けると予想されている地点に行ってもらいます」

 俺が待機している部屋にやって来たレスキュー隊の「鬼女」はそう言った。

「な……何の為に……?」

羅刹女ニルリティからの連絡です。この機会に見ていただきたいモノが有ると」

 俺は……ヘリに乗せられ……。

『今の監査委員全員が、ほぼ同じタイミングで、同じ情報を知る事になった。私達が誘導した訳ではなく、純然たる偶然だ』

 防音を兼ねたヘッドフォンから聞こえてくるのは……変性されたモノだが、聞き覚えのある声。

『いい機会だ。今から、私が明かした情報の傍証を見せる』

 豪雨の中、ヘリは空を飛び続け……まて……まさか……ここは……。

 通称「テロリスト封じ込め地域」の1つ。

 正式名称は「筑豊伝統文化地域」。

 旧・福岡県飯塚市。

 新しい日本に適応出来ない者達が住む場所。

 そして、俺の会社の上部組織の所在地。

『あのボタ山は以前から地盤が弱っている事が指摘されていたが……「伝統文化地域」の政府は何の対策もしてこなかった』

 ずっと……ヘリは、そのボタ山が見える位置に対空し続け……。

「うそ……だろ……」

 水を含んだボタ山の土壌は……やがて……。

『運良くと言うべきか……運悪くと言うべきか……』

 待て……俺は……何を見ている?

 地下から次々と壁が現われる。

 巨大な壁だ。

 何mかさえ、とっさには判断出来ない。

 ともかく、上空のヘリからでも見える……ビルの何倍もの大きさの壁……。

 どうなっている?

 壁は土石流の流れを変え……被害は出た。

 しかし……住宅地への被害は最小限だ。

『民主主義の重要な原則の1つは……「重要な事を決めるのは普通の人間であるべきだ」と云うモノだろう』

 冗談じゃない。決められるか……政治家にも、普通の人間にも……。

『普通の人間の中から無作為に選ばれた貴方達にこそ決めて欲しい。人が人のまま、この危険な力を持つ者と共存し続けるか? 人が人でなくなる危険を犯してでも、この力を持つ者を、この世界から駆逐するか? それとも、第三の道を探るか?』

 そして……最後に……本当だとすれば、極めて絶望的な事が告げられた。

『言っておくが、この力を持つ者を「神」と崇めるのは悪手だ。見ての通り、。しかし、

 おい……まさか……そう云う事なのか?

 「悪鬼の名を騙る苛烈なる正義の女神」……その渾名を持っていた伝説の「ヒーロー」は……本当に……だったのか?

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Dystopia Now!!/「正義の味方」監査委員に選ばれてしまった「悪の組織」の末端構成員ですが…… @HasumiChouji

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