(11)

『ああ、今まで話した内容は好きに公表してもらってかまわない』

 変性された声ではあったが、「正義の味方」の中でも伝説中の伝説、あの「悪鬼の名を騙る苛烈なる正義の女神」は、はっきりとそう言った。

「あ……あの……これ……SNSと動画サイトにUPするんですよね?」

「……」

「今日中でしたよね……?」

「…………」

「どうすんですか?」

「う……うるせえ、黙ってろ……」

 翌日の「正義の味方」監査委員の公務が終った後に、俺と羅刹女ニルリティの会話を課長に聴かせた。

 課長は……「親会社」の分析チームが考えたロジックで、羅刹女ニルリティをあっさり論破出来ると思っていた。

「状況によって異なるが、近代戦において、損耗率が五〇%を超えた状態で、戦闘の系統は愚か、組織の存続さえ不可能な筈だ。よって、このシミュレーション結果は嘘である」

 それが、ウチの会社の上部組織の分析チームが、俺に言えと命じた事だった。

 しかし……返ってきた答は、あまりに予想外のモノだった。

 果たして……それが嘘なのか真実なのか……多分、俺よりは頭がいいにせよ、俺が思ってたより、遥かに馬鹿揃いらしい「親会社」の分析チームには、それすら分析出来ないだろう。

「お……おい……奴ら……ウチの会社の正体を知ってるんじゃ……」

「わ……わかりません……」

「で……でも……そう考えないと……この答は……」

「ど……どうすんですか? い……いや……この音声を公表したら……『正義の味方』達のイメージダウンに繋がる……」

「ああ、繋がるかもな。だが、やったが公表したが最後、俺達も『親会社』に粛清される」

 その時、課長の携帯電話ブンコPhoneに着信音。

「あ……は……はい。今日中にUPします。ええ、もちろん、これをUPすれば……ちょっと待って下さい」

 課長は一端、携帯電話ブンコPhoneから顔を離した後……。

「お〜い、音声のノイズ除去処理、あと、どれ位で終る?」

 そう明後日の方向に向かって叫んだ後、俺の方を指差して、口をパクパク。

 ん?

 課長は更に口をパクパク。

 わからない。

 どんどん、課長の顔が真っ青になっていき……。

 鞄から手帳とペンを取り出す課長。

『何でもいいから、てきとうなこと、こたえろ』

 ああ、そう云う意味……。

「ちょっと待って下さい。長いしPCが低性能なんで」

 俺は、わざとらしく大声でそう言った。

「ちょっと、予定より遅れますが……はい、なるべく早めに……ええ」

 課長は……電話を終えた後、疲れ切ったような顔になり……俺の方を見た。

「しばらく旅に出る……。探さないでくれ……」

 そう言って、課長は、寮の俺の部屋からトボトボと出て行った。

「あの……課長……」

「仕事の事は話すな……。もう嫌だ……」

「課長が何者かに拉致されたって事にでもしときますか?」

「ああ……そうしといてくれ……」

 冗談じゃない……。

 だが……本当なのか?

 ウチの会社の上部組織を含めた「悪の組織」が「正義の味方」の都合で存続しているなど……。

 それどころか……「悪の組織」は……喩えるなら2人のクソったれなでお節介な神……「正義の味方」どもの呼び方では「解放者リベレイター」と「守護者プロテクター」がやってる将棋の駒に過ぎないなど……。

 俺は……今日、羅刹女ニルリティとの会話を再生した。

『貴方達は我々を「正義の味方」と呼ぶが、厳密には、我々と「神の怒りフューリー」の戦いは正義と悪の戦いなどではない』

『じゃあ、何だと言うんですか?』

『人々の自由と安全のどちらをより重視するかを巡る戦いだ』

『えっ?』

『だから、我々は、内部では君達の云う「正義の味方」と「神の怒りフューリー」を別の呼び方で呼んでいる。「正義の味方」をリベレイターつまり「解放者」と呼び、「神の怒りフューリー」をプロテクターつまり「守護者」と……』

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