もう何もやる気が起きないよ!!
――最近、テレビは殆ど見ない。
憂鬱になる暗いニュースと、代わり映えのしないバラエティ番組。
現在、自分がブラック企業に勤務していることもあるけど、
ネガティブな情報を見ると、よけい気分が落ちてしまう……。
大学生の頃は、ちゃんと自炊して規則的な生活を心がけていたのに、
現在はスーパーの閉店時間にも間に合わず、コンビニの惣菜で済ます毎日。
食卓兼机のローテーブルには、携帯やメイク道具が散乱している、
その奥に置かれた、ノートパソコンの電源が入りっぱなしだった。
どうやら寝落ちしてしまったみたい、某動画サイトの画面に、
(あなたにおすすめ)が勝手にセレクト再生される。
(イマドキ女子のモーニングルーティーン!!)
私と正反対のきらびやかな生活が映し出された。
最近、雑誌でも良く見かけるインフルエンサーの女性だ。
起き抜けでノーメイクと言っているが、ばっちりメイクしている。
場所は高級なタワーマンションで、ワンフロアの自室だ、
優雅にカフェオレを飲みながら、可愛いワンちゃんとたわむれている。
「……こんなんありえないっしょ」
あっ、今の私、性格悪っ、
独り言でパソコンにツッコミを入れてしまった……。
「……そうなんだよな、この性格、いい加減に直さなきゃ」
小学校からの親友、
『知世は、誰とでも仲良くしようとするのは良いことだけど、
八方美人がすぎると逆に友達が離れていくよ!!』
正に正論だ、私は人に嫌われることを極度に怖がる、
素の自分は親友の典子にしか見せていない、
本当の私は口も悪くて、ずるい部分も多いんだ。
だから自分の好きでもない趣味や、流行っているアイドルの話題で、
盛り上がっている輪の中にいるのが、子供の頃から大の苦手だ。
「そういえばあの時も……」
小学五年生だった頃の、教室での一場面が思い出される。
*******
『ねえねえ、ともちんはこの中で誰推しなの?』
休み時間、机を囲んだ仲良しグループ四人組で、
アイドル情報雑誌を広げていた、もちろん典子もいる。
当時から図書館に勤める母親の影響で、本の虫だった私の推しは、
常に物語の中だった、だからこういう質問が一番困る。
『……え、ええっと、この人かな?」
『やばっ、ともちんと推し被り!!
今度、一緒にグッズ買いに行こうよ!!」
隣で典子が、やれやれといった顔で肩をすくめる。
その結果、私の部屋には、好きでもない推し担の
グッズが増えてしまう結果になるんだ……。
ともちんとは小学生の頃のあだ名だ、
何でもちんと付けるのが何故か、女子の間では定番だった、
だけと嫌だったのが、クラスのいじめっ子的な男子から、
ともだち〇こ、と言っていじられたことが今でもトラウマになっている。
本当に小学生って馬鹿だなと思うのが、下ネタ大好きな上に、
一度、周りの笑いを取ると調子に乗ってしつこく繰り返すことが嫌だ。
周りの女の子もみんな、ちん付けのあだ名なのに、
いつも私だけターゲットにされた、特にひどかったのは……。
『おい、ともだち〇こ!! 早く帰るぞ、
お前、のろまだからスキモンの時間に間に合わねえだろ』
『そんなこと言ったって、私、精一杯急いでるよ!!
それにとしのり君、スキモンのアニメは今日、放送日じゃないし……』
『うっせえよ、俺はスキモンのDVDも毎日見てんだよ、
男子の中で一番のスキモン博士って言われてんの、
幼馴染みのお前も知ってんだろ!!』
この乱暴な言葉使いの男の子、
小学校高学年になってから、急に私への態度が変わったんだ……。
『……あ~あ、典子ちゃんがお隣さんだったら良かったのに』
『お前何か言ったか? 仕方がねえだろ、地区で下校しなきゃいけねえんだから、
二人で帰るのも冷やかされて恥ずかしいのはこっちのほうだ……』
『……』
私はその何倍も恥ずかしい、典子以外の仲良しグループの女の子からも、
としのり君と私が、アツアツなんじゃないかって冷やかされるんだ。
でも不思議なのは、こんな彼なのにクラスの女子受けは抜群に良いんだ、
私にとっては只の幼馴染でも結構、羨ましがられる、
幼馴染のポジションを、知世ちゃんと代われるものなら代わりたいって。
『ほら貸せよ、サブバック持ってやるから!!』
『……あ、ありがと』
『これ以上、遅くされたら困るだけだよ、ほら行くぞ!!』
私のサブバックを手に、教室のドアから出て行く彼の後ろ姿。
*******
――最近、夢に見るんだ、何で典子達と遊んでいる場面じゃないんだろう?
私、仕事で疲れすぎて、軽く悪夢を見てるのかな?
勤めているのがブラック企業で、パワハラ、モラハラ上等の職場だからかな。
ぼんやりと考えてた私を、現実に引き戻したのは、
カタカタと振動する携帯電話だった。
「……んっ、典子からメールかな?」
リアルで友人の少ない私には、メールをくれる友達は限られる、
テーブルに置かれた携帯の画面を見た私は……。
「ええええっ、何なのこれ!?」
一瞬、何が起こっているのか理解出来なかった。
「あ、アプリの通知が百件!?」
私の目に飛び込んできたのは携帯画面を埋め尽くす、
マッチングアプリのお知らせ通知だった……。
次回に続く。
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あなたに出会う前の私を、思いっきり後ろから殴りたい!! kazuchi @kazuchi
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