クリスマス特別S S 幸せな結末のその先にあるもの

「千冬ー、春香はもう寝た?」

「うん。今日もいっぱい泣いてたね。すくすく、元気に育ってくれてる」


 この春生まれた我が子を抱きながら、私は最愛の人に微笑みかける。


「ははっ、ほんと元気だよね。千冬より俺に似たのかな」

「そうだと嬉しい。斗真君の目、ぱっちりしてて可愛いから」

「俺は千冬に似た美人になってほしいけどなあ。その方が優しい子になってくれそうだし」

「斗真くんの方が優しいもん。ね、春香ちゃん。パパは優しくて素敵な人だよねー」


 と、すやすや眠る娘に笑いかけると、その様子を見ていた斗真君がクスクスと笑う。


「斗真君、なにかおかしかった?」

「あ、ごめんごめん。いや、なんか昔の千冬を思い出したら、おかしくなっちゃって」

「そう、だね。私、こんなに笑うことなんてなかったもんね」

「色々あったもんなあ。あの頃の千冬も俺は好きだったけど、今みたいに笑ってる方がもっと好きだよ」

「斗真君のおかげ。ずっと、私を支えてくれたから。それにあの日、私の全部を受け入れてくれたからこうして春香ちゃんにも、出会えたの」

「あれからもう二年か。懐かしいね」

「うん。あの日のことは忘れない」

「そういや、円佳さんは元気? 最近バタバタしてて会えてないって言ってたけど」

「うん、転職してから忙しいみたい。でも、円佳のことも忘れない」

「ははっ、そんな言い方したら、『何勝手に思い出の中の存在にしてんのよ!』って怒られるぞ」

「ふふっ、ちょっと似てた。うん、年明けには会う約束してるから」


 今日は特別な日。


 斗真君と一緒に。

 今日はクリスマスイブ。

 毎年、二人でお祝いして来たこの日は大切な思い出ばかり。


 だからどのクリスマスも思い出すだけでほっこりあたたかい気持ちになるんだけど。


 二年前のクリスマスイブだけは、ちょっと特別。

 何があっても、絶対忘れることはない。

 その時のことをちょっとだけ、思い出してみる。



「ちょっと千冬、何悲しそうな顔してるのよ。今日はこの後、後輩君とご飯なんでしょ?」

「うん。でも、今日は朝から忙しくて斗真君と全然連絡できてないから、寂しいの」

「一緒に住んでて四六時中一緒にいるのに今更何言ってんだか。それに、後輩君の卒業も就職も決まったんでしょ?」

「うん、教員採用試験合格もしたから。春からは二人とも社会人で、忙しくなるかな。それもね、ちょっと寂しいの」


 茅森千冬、二十三歳。

 今は、親友の円佳と一緒に職場の給湯室でコーヒーを飲みながら休憩中。


 私と円佳は、地元の同じ大学に進んだあと、地元の小さな町役場の事務員に就職した。


 円佳はもっと大手企業とかにも就職できたのに、敢えて私と同じ道を選んでくれた。

 ううん、大学だってそう。 

 東京の有名私立大学にも合格してたのに、「千冬と一緒の大学行きたいもん」って言ってくれて。

 本当は、私が心配だからそうしてくれたことを私は知ってる。

 いつも一緒にいて、いつも私に優しい円佳のおかげで大学生活も楽しくて、何もできない私なんかでも社会人としてなんとかやっていけている。


 そして社会人として半年と少しが経った。

 今日は、クリスマスイブだ。


「あと一時間もしたら定時じゃない。先のことを考えるよりも、目の前の幸せを噛み締めなさい」

「うん。円佳はいつも優しいね。斗真君がいなかったら円佳とクリスマス過ごしてたかな」

「はいはい。ていうか私は今年もクリぼっちなんですけどー」

「うん、知ってる。でも、今日は斗真君と二人っきりだから円佳でも邪魔したらダメ」

「しませんよーだ。ていうか、誘われても断るわよ。私は千冬が幸せならそれでいいから」

「円佳……うん、やっぱり斗真君の次に好き」

「一言余計よ。ほら、戻るわよ」

 

 私はこの通り、いつも薄情で自分勝手。

 いつも円佳を振り回して、斗真君と会えない寂しさを埋めてもらってるくせに、円佳よりも斗真君といることを常に優先する私。


 昔は、それが悪いことだとすら思っていなかった時期もあった。

 なのにそんな私のためにずっと、ずーっと付き合ってくれている円佳のことは、ちょっと意地悪なことを言ってみたけど本当に大好き。

 いつか、円佳にも素敵な人が見つかってみんなで幸せを分かち合いたいなって。

 最近は他人の幸せを願うことができるようになった。


 それもこれも、円佳のおかげ。

 そしてもちろん……私の大切な斗真君のおかげ。

 もうすぐ、斗真君に会える。


「……あ、定時来たわよ。千冬、あがりましょ」

「うん。お疲れ様、円佳」


 夕方になると、私はすぐに書類を片付けて事務所を後にする。

 そして、いつもなら家まで円佳に送ってもらうんだけど今日はすぐに別れることになる。


「お疲れ様、千冬。円佳さんも」


 今日は斗真君が、お迎えに来てくれてるから。


「お、後輩君お久。ほんじゃっ、千冬のことよろしくねー」

「はい、ありがとうございます。千冬、いこっか」

「うん。斗真君、お迎えありがと」


 円佳とバイバイして、ここからは二人っきりの時間。

 待ちに待った、この時間。


「えへへっ、斗真君だ」

「千冬、円佳さんに迷惑かけなかった?」

「大丈夫。毎日迷惑かけてるから」

「あはは、それじゃダメじゃんか」

「えへへっ。ね、それより早くご飯いこっ?」

「そうだね。千冬、手繋ご」

「うん」


 冬だというのに斗真君の手はあたたかい。


 私の手は、冬じゃなくたっていつも冷たい。

 かつての私の心のように。

 でも、こんな私の手を彼は好きと言ってくれる。

 私らしいって言ってくれる。

 私は、いつまで経ってもダメなままだというのに。


「千冬、着いたよ」


 手を繋いで向かった先は、私たちが借りているアパートから徒歩五分ほどのところにあるレストラン。


 別に特別な場所ではなく、たまの外食の時によく使うお店ってだけなんだけど、私の希望で毎年クリスマスはここにくることになっている。

 理由は店員に女の人がいないからってだけ。

 いかにも私らしいって、彼は笑ってくれている。


 斗真君はバイトもしっかりしてくれていて、学生なのに貯金もたくさんある。

 私は、給料も安い上に仕事もろくに出来ないまま。

 ほんと、円佳や斗真君がいなければ生きていけない人間だ。

 そんなくせに、毎年この日になると私は彼を困らせてばかり。


「千冬、何食べる?」

「じゃあ、ちょっと奮発してステーキとか」

「あ、いいね。じゃあそうしよ。あと、欲しいものはある? ほら、クリスマスだろ」

「……」


 斗真君は毎年、私に欲しいものを聞いてくれる。

 でも、私は何がほしいかって聞かれたら頭の中には一つしか思い浮かばない。


「……やっぱり、子供ほしい」


 私が大学一年生の時からずっと。

 毎年同じことをねだっては、彼を困らせている。


 こういうお願いがちょっとズレてるということくらいは、ここ数年で理解できてきたけど。

 でも、愛する斗真君との子供が欲しいって言う願望を、どうやって我慢したらいいのかもよくわからない。

 こんな私を円佳はいつも「病んでるねー」と言って笑うけど。

 どう言われても、真剣なのだから仕方ない。


「子供、か」


 斗真君は呆れたように笑う。

 最初の頃は目を泳がせながら戸惑っていたけど、最近はもう慣れっこな様子。

 いつも、「俺が卒業するまで待ってね」って。


 当然だし、それが正しいってわかってる。

 斗真君はずっと、私と一緒にいるために頑張ってくれている。

 大学も同じところを選んでくれて、就職も、どうすれば私と離れ離れにならずに済むかってことだけを優先してくれていた。

 それなのに。

 そんな彼の言葉が、ただ問題を先送りにするための言い訳なのかなって、いつも勝手に疑って不安になってしまう。

 私の希望通り一緒に住んで、大学間はずっと一緒で、私が先に卒業してからも彼の学校と私の仕事が終わったらずっと一緒で。

 それでもまだ足りないって思っちゃう私は、本当にわがままでめんどくさい女。

 今日だって、せっかく斗真君が私のことを思って聞いてくれてるのに。

 

「ごめんね、毎年こんなことばっかり言って」

「そのこと、なんだけどさ」

「……やっぱり私みたいなの、嫌い?」


 絶対、斗真君はそんなこと言わないってわかってて。

 私はそんな意地悪を言う。

 でも、今日は斗真君の顔が暗い。

 それを見て、また私は不安になる。


「……嫌いになるわけ、ないじゃん」

「なんでそんなにお顔が暗いの? やっぱり、めんどくさいって思ってる?」

「ごめん、俺がこんな顔してたら千冬が不安になるよね。うん、俺もちゃんと言うよ」


 と、斗真君が頷くとポケットから何かを取り出した。

 小さな箱?


「千冬、結婚しよ。いっぱい待たせてごめんね。あと、俺も千冬との子供が欲しい」

「……え?」

「驚かないでよ。俺も、ずっと千冬と結婚したかった。でも、これからのこととか、俺の都合で勝手に待たせて、ずっと辛い思いさせてごめん。春からも、ずっと一緒にいてほしい」


 斗真君はそう言ってから、箱を開ける。

 そこには、キラキラ光る宝石がついた指輪が一つ。


「これって……」

「本当は給料何ヶ月分とか、なんだっけ? でも俺、まだ学生だからさ、これが精一杯だけど。本当は就職してからプロポーズしたかったんだけど、もう卒業も決まったし、いいかなって」

「……私なんかで、いいの?」

「千冬じゃないと嫌だ。一生、何があってもずっと二人で……ううん、家族が増えたらみんなで、死ぬまで一緒にいよう」

「斗真君……うん、嬉しい。私、斗真君のお嫁さんに、なれるんだ」

「なってくれる?」

「してくれないと私、死んじゃう。ううん、死にたくない。ずっと、一緒にいたい」

「うん。お互い健康には気をつけないといけないね」

「うん。斗真君、大好き」


 彼が私の指に指輪をはめてくれる。

 そして、その輝きと重みを堪能していると料理が運ばれてきた。


 一緒にご飯を食べるのはこれで何回目なのだろう。


 昔は、たった一度の食事だけで胸がときめいていたっけ。


 それがだんだんと。

 毎日、朝も夜もずっと一緒にご飯を食べていくとそれが当たり前になっていって。

 私も、斗真君とこうして一緒にいることが当たり前だって感じるようになっていた。


 でも。

 なにも当たり前なんかじゃない。

 彼がずっと私を好きでいてくれる保証も、確約された未来もどこにもない。


 ないからこそ。

 彼が私を選んでくれたことを後悔させないために、頑張らないといけないんだ。


「斗真君……プレゼント、あげる」

「え、いらないって言ったのに……千冬からもらうものならなんでも嬉しいけどさ、無理しないでいいんだよ」

「……無理なんかしてないよ。私の全部、斗真君にあげる。いらないって言われても、押し付けちゃう。いらない?」

「千冬……嬉しいよ。じゃあ、俺は責任を持って、いただいたものを大切にするね。千冬のこと、ずっと守るから」

「うん。ずっと、ずっと一緒」


 結婚なんて、紙切れ一枚でどうにでもなることだって、お母さんはそう言っていた。

 だから形にとらわれすぎないようにって、そんなことも言われてたけど。


 私はやっぱり、病んでいる。

 どんなに優しくされても、大切にしてもらっても、ずっと不安でしかない。

 だから確かなものがほしいって。

 そう思っちゃう私のわがまますらも、斗真君は叶えてくれた。


「斗真君のお嫁さんになっちゃった」

「正確にはまだだけどね。明日うちの親と、千冬のお母さんにちゃんと連絡してから役所に行こう」

「うん。明日は有給使うの。円佳に仕事全部押し付けちゃう」

「また俺が怒られるじゃんか。あんまり迷惑かけたらダメだよ?」

「うん。でも、奥さんが旦那様に迷惑かけるのは、いい?」

「うん、もちろんだよ。俺も千冬にいっぱい迷惑かけると思う。でも、嫌いにならないでね」

「ううん、私にだけ迷惑かけてほしい。他の人に頼らないでほしい。私だけがね、斗真君を支えてあげるの」

「俺も。千冬だけをずっと、愛してる」


 この夜は、とても寒くて雪が降った。


 だけど、家に帰る時に彼のポケットに手を入れて、帰ってからも身を寄せ合って同じ布団の中で抱き合うと、身体の芯からあったかくなって。


 私の冷え性の手も、ずっとあったかくて。

 冬場なんて感覚がなかった足元も、熱いくらいで。


 斗真君が私の全てを受け入れてくれたこの日に私は。


 全ての不安から、解放された気持ちになった。



「……幸せ、だなあ」

「どうしたの千冬? 急にそんなこと言って」

「ううん、ふと思っちゃったの。あの日のこと、思い出したから」

「まあ、それまでもずっと一緒だったけど、千冬の寂しがり屋さんなところは大学間もずっと治らなかったもんね。でも、あの日から一人でお買い物もいけるようになったよね」

「私にとっては、斗真君のお嫁さんでいられるってことが何よりの精神安定剤、だったのかな」

「人それぞれ、何かを克服できるきっかけは違うものだし。俺が千冬のためになれて嬉しいよ」

「うん、私も。斗真君に選んでもらえて嬉しい」

 

 私は、そんな愛する人との間にできた、ずっと待ちのぞんだ我が子を手に抱いたまま、そっと彼にキスをする。

 すると斗真君が照れ臭そうに笑う。


「あははっ、春香の前でしちゃった」

「ふふっ、明日は結婚記念日だから、見逃してくれるよねきっと」

「うん。いつか春香にも、素敵な人が現れるといいな」

「斗真君みたいな人に出会ってほしい。あ、でもその前に円佳だね」

「確かにそうだね。円佳さんはそういえば何してるんだろ?」

「なんか一人で飲みに行くって。ね、近くにいるなら呼んでもいい?」

「もちろん。せっかくだしみんなでパーティしようよ」

「うん。連絡してみる」

 

 昔なら、絶対こんなことを私から言ったりしなかった。

 親友で、私のためにいろんなことを犠牲にしてまで側にいてくれる円佳にすら、嫉妬してしまうような人間だった。

 自分って人間に、自信がなかったっていうのもあると思う。

 円佳みたいに可愛くてしっかりしてて面倒見がいい女の子の方が私なんかよりいいんじゃないかとか。

 そんなことを言って円佳に怒られたことも数えきれないくらいあったけど。

 

 やっと私は、自分を信じることができるようになった。

 やっと、他人を信じようって思えるようになれた。


「あ、円佳すぐ来れるって。なんかまた男の人にナンパされてイライラしてるみたい」

「モテるのにもったいないよね、円佳さんって」

「でも、きっといい人が見つかるはずだもん。それはそれでちょっと寂しいけど」

「だね。じゃあ、春香を寝かせてて。俺、もてなす準備するからさ」

「うん。ありがとうパパ」


 もう一度、彼にキスをして。

 春香ちゃんを布団に寝かせてから、私はそっと押し入れに隠してあった箱を一つ、彼女の枕元に置く。


「パパとママからのプレゼントだよ。明日はクリスマスだから奮発しちゃった。パパとママの、記念日だから」


 私は昔っからサンタさんなんて信じてなかった。

 冷めていたというか、何事にも否定的だったし両親が離婚してからは家計も大変でそれどころじゃなかった時期もあったし。

 

 だけど、サンタさんはいるんだって最近思うようになった。


 サンタさんは自分の一番大切なその人なんだって。

 生まれた時は両親かな。

 私に無償の愛を届けてくれた。


 少し大きくなったら友人。

 円佳。

 いつも側で、大切なことを教えてくれた。


 そして、愛する人と出会う。

 斗真君。 

 私を救ってくれた。

 私に愛を与えてくれた。

 私の夢を叶えてくれた。

 

 で、夢が叶ったそのあとは。

 今度は私がサンタさんになる番なんだって。


 私たちの愛する我が子。

 春香ちゃん。

 私がもらってきた贈り物を今度はこの子に渡す番。

 そして、そんな立場になって初めてわかる。

 プレゼントって、もらう側よりも渡す側の方が嬉しい気持ちになれることもあるんだって。


 こんな私の贈り物をもらってくれることが、こんなにも嬉しいことなんだって。


 私、円佳にはなにもかも教えてもらってばかりだったけど。

 これは私の方が先に知ったと思うから。

 ふふっ、得意げに話しちゃお。


「お邪魔しまーす。お、なんかいい匂いするじゃん」


 円佳が、やってきた。


「円佳さんお疲れ様です。寒かったでしょ」

「ええ、色々とね。私はいつになったらこの冬の時期を卒業できるのかしら」


 玄関先で斗真君と話す円佳の声が聞こえる。

 私も、すぐにそっちへ行く。


「円佳、メリークリスマス」

「何がメリークリスマスよ。あ、春香ちゃんはもう寝た? 一応、プレゼント買ってきたんだけど」

「ありがとう円佳。もう寝ちゃったから明日渡しておくね。優しいおばちゃんからの貢物だって」

「おばちゃん言うな。まだぴちぴちのOLじゃい」


 少し酒に酔った円佳はそう言ってからクスクス笑う。 

 エプロン姿の斗真君も、私の隣に来て「おつまみ作ってますから」と、彼女を出迎える。

 私は、そんな二人を見ながら心が和む。

 私の大切な人たちが側にいてくれる。

 最高のプレゼントだなって。

 

「円佳、今日は飲むよね? だったら泊まる?」

「いいの? でもあんたら、明日結婚記念日じゃない」

「ううん大丈夫。始発で帰ってくれたら」

「え、厳しくない?」

「ふふっ、嘘嘘。みんなで朝ごはん食べよ。円佳にもお祝いしてほしいし」

「へーへー、そうやって毎年私からお祝いの品を貢がせるわけですな」

「うん。今年は春香ちゃんのおもちゃがいいな」

「ほーんと図々しいなー。ま、今日はご馳走になるから明日また仕事終わりに寄るわよ。どーせ暇だし」

「クリスマスなのに?」

「やっかましい」

「あはは、円佳こわい。冗談なのに」

「うそうそ、知ってる知ってる。あんたの考えてることなんか言われなくてもわかるわ。まだまだ私、千冬のことに関しては旦那にも負けませんからね」


 私のことで得意になる円佳と、それに対して「俺だって、絶対負けませんからね」と張り合う斗真君。

 私は、こんな人たちの愛があったからここまで来れた。


「えへへっ、二人で私を取り合わないで。ちゃんと私は斗真君のものだから」

「おーいここに来てもフラれるんかい私は。もういいわよ、酒よ酒。千冬が飲めない分、後輩君は付き合いなさいよ」

「ええ、お供します。千冬はジュースで、乾杯しよっか」

「うん。円佳に来年こそはいい人が見つかるように願って」

「私にもサンタさん来ないかしらねえ」


 そんな冗談で笑いながら。

 寝室の見える隣の部屋に移動して、静かに飲み物を用意してから。


「乾杯」


 カチンとグラスを当てて、乾杯。

 すぐそこで眠る春香ちゃんの寝顔を横目に、私たちは少し控えめに、聖夜をお祝いした。


 これからもずっと毎年、こんな風にお祝いができる未来を夢見て。

 いつまでもこんな日々が続くことを願って。

 

 少し早いけど。

 メリークリスマス。

 


 

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雨の止まない放課後に助けた美人な先輩が完全に病んでいた件 明石龍之介 @daikibarbara1988

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