魚拓

夏川しおめ

第1話

「何ですかこれ」

魚拓ぎょたくだヨ」

「いや、動いてますよ?」

 旅行先の港町、俺は釣具屋の店先に不思議なものを見つけた。

 サケの魚拓ぎょたくが紙の中で泳いでいたのだ。まるで生きている本物のサケのように、ゆったりと泳いでいる。

「生きてるからネ」

 店主が言っている意味がわからない。

「一体どうなってるんですか?」

「そりャ企業秘密」

 よくわからないけど面白い。これはいい土産になる。

「これ、売って頂けませんか?」

「ダメダメ、これウチの看板娘なんだから。魚を持ってきたら魚拓ぎょたく取ってやるヨ。それか……僕のコレクションを見ていくかイ?」

 店主の目がギラリと光った気がした。

「気に入ったのがあれば売ってやる……かもしれなイ」

 面白そうだ。 

「見たいです! コレクション!」

「よしきタ‼︎」

 店の奥に通されると、店主の魚拓ぎょたく自慢が始まった。

 店主のコレクションは多様で、リュウグウノツカイ、シーラカンスなどなど珍魚に、クリオネ、サンショウウオなんてものもあった。そのどれもが本物のように動いている。

 俺は、なんとかクリオネの魚拓ぎょたくを売ってもらうことができた。

「流氷とか海藻とか描き足してやったら喜ぶかもナ。じゃあ、またコレクション見に来いヨ」



 旅行から帰った俺は、魚拓ぎょたくを飾るための額縁がくぶちを買いに行くことにした。

 サイズを間違えないように、実物を手に持って行った。ら、突風で飛ばされてしまった。

 魚拓ぎょたくは、すぐ近くにある公園の水路に落ちたようだ。

 慌てて駆け寄って拾い上げる。

 あ、逃げてる……

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魚拓 夏川しおめ @colokke

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