第10話 お告げ
大学のヨット部の先輩、Sさんには現役時代から大変お世話になっています。みいちゃんとS先輩には呼ばれている奥様にも、飲みに行ったり泊まりにいったりすると、いつもおいしい料理を作って頂きお世話になっています。
またS先輩に登場して頂きます。
*****
僕らはOBになってからも江の島でヨットに乗っていた時期があり、先輩ご夫婦とは何度も乗船していました。
「堀ちゃんは俺と同じ年のつとむは知らないか…」
ヨットの上で先輩が僕に話かけました。
「堀ちゃんはきっと知らないよ…、ヨット部じゃなかったじゃない、つとむちゃんは…」
みいちゃんがサングラスの目をS先輩に向けながら言いました。
僕らのヨットは通常二人乗りですが、3人までは乗船可能でした。
僕は舵をあやつりながら聞いてました。
「そうだったな…、ちょっとヨット部に顔を出したときがあったけれど、それは堀なんかが入るまえだったな…」
珍しく先輩がしみじみと言われました。
S先輩、本当は面倒見がよく、きっぷのいい人なのですが、お姉さま好きで、ナンパが得意で見た目がホストみたいな感じでちょっと怖そうな印象を与える人なのです。
そんな先輩がしみじみと言われたので意外でした。
「どうしたのですか…、つとむさんと久しぶりに会われたのですか…」
「ああ、堀ちゃん知らなかったな…」
非常に仲良しだったS先輩とつとむさんでしたが、つとむさん、就職してすぐに急病で亡くなられたそうです。
「そうだったんですか…、でも前にお聞きしたことがあったかな…」
そんな人がいらした…、聞いた覚えがあったような…。
「でも、つとむさんがどうしたのですか…もう十数年くらい前ですよね」
「ああ、あいつが死んだのはそれくらい前だけど、たまに墓参りとかするけれどな…、な、みいちゃん」
「そう、Sはね、こうみえて義理堅いというか、そうゆうところはえらいのよ…」
S先輩、笑っている。
でもなんとなくわかる。
お姉さま好きだけど、基本的には本当に尊敬できる良い人なのです。
「それでさ…、つとむがな…久しぶりに夢に出てきたんだよ…」
「夢ですか…」
「ああ…」
S先輩から以前、青い海で、白い水着のお姉さまがいっぱいいる海岸に立った夢のお話を聞いたことがありました。
思わず「ヤッター」だか「ヒャッホー」だか言って、
「お姉ちゃんがいっぱいだ、よーしがんばるぞ!」
と叫んだ寝言を奥さんに聞かれたというお話を聞きまして、作品にも書かせて頂きました。
その手のお話かな…?
「つとむさ、俺に言うんだよ…」
「はぁ…」
「『S…、株とか懸賞とか宝くじとか、たまに確認したほうがいいぞ』ってな…」
「はぁ…」
「でな…、思い当ってさ、昔に買った宝くじを見つけたんだな…」
「そうなんですか…」
「番号確かめたんだよ…」
まさか…。
「どうしたんですか…」
僕はちょっと緊張した。
奥様は目を水平線に逃がし、S先輩は僕というより僕の後ろのヨットが造った白いウエーキ(引き波)を見ていた。
「あったんだよ、俺の宝くじの番号…」
「本当ですか…、いくら当たったんですか…」
あるのか、そんなこと…。
「10万…」
「よかったですね!」
僕は思わず声が大きくなった。
つとむさんすごい!
あるんだね、そんなお告げ。
「換金したんですよね!」
「それがな…」
ちょっと寂しそうな先輩。
「え…」
奥様が急に笑顔になり、
「まったくね…、知らないほうがよかったよね」
とS先輩の肩をたたくでもなく、どちらかというとさすっていた。
「あいつよ…、つとむよ…」
何があったんだろう…、気になる。
「どうしたんですか…、聞いてもいいお話ですか…」
奥様、あいかわらず先輩の肩をさすってあげている。
「あいつよ…、夢に出るならもう少し早くでりゃあいいのによ…」
奥様、明るい笑い声を出して、先輩の言葉と引き取った。
「その宝くじね、一週間前に換金期限切れていたのよ…」
「え…! 一週間…、七日…、10万円…」
「つとむよ…、中途半端な時期に夢に出やがってよ…」
悔しそうな先輩…
「今度、墓参りしたときに墓の前で声だして言ってやる、『夢に出るならもう少し考えてからでろ』ってな」
先輩、誰かに話して悔しさを紛らわせたかったのかな…。
「でもSさ、久しぶりにつとむちゃんに会えてよかったじゃない」
いい奥様だ…、先輩はいい女性とご結婚された。
「まあいいんだけれどな…、いいんだけれどさ…、つとむよ…」
先輩、すいません、またネタにしてしまいました。
こんなことって本当にあるんですね。
とりあえず、ヨットの上で 参 終わります。
了
ヨットの上で…(参) @J2130
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