第9話 OBの集い(5/5)どうした…堀…
それでも翌日は久しぶりにひどい二日酔いでした。
先輩方も起き出してテラスに出てきました。
海はちょっと風がつよかったです。
「おはよう、堀、どうだ…体調は…」
小柳会長がすっきりとした顔でぐったりと椅子にもたれる僕に近づいてきました。
「おはようございます…」
立ってあいさつします。ふらふらです。
「堀ちゃん、つらそうだな…」
「でもよくつきあったよ…」
「楽しかったな…」
「堀ちゃん、がんばったね」
浦田さん、安本さん、鴫原さん、そして鴫原さんの美人奥様が僕をねぎらってくれました。
「正直、つらいです…」
つらい…、帰って寝たい…。
薬剤師の奥さんと結婚するのはこれから5年後なので、まだ二日酔いの薬をもらってはいません。
「浦田さん…」
サングラスをした目で海を眺めていた浦田さんは僕のほうを向きました。
「せめて駅まで送ってもらえますか…」
「ああ、いいぞ…」
安本さんと鴫原さん、さらに小柳OB会会長は
マリンハウスのマスターになにか”注文”をしています。
「自分、運転無理っす…。自分の車で来なくて正解でした…」
正解だった。
ある程度予想はしていたが、こんなにも
“ひどい”というか
“すごい”というか
“無茶苦茶”なお泊りになるとは思っていなかった。
ドッグフード食べるし…。
「お待ち…!、君たち、部屋はちゃんと掃除しておけよ。きっと酒臭くなったろうからな…」
マリンハウスのマスターが注文の品をテラスのテーブルに持ってきてそう言いました。
「やっておきました…、“毎年” すいません。こんなどうしようもない私たちに部屋を貸してくださって…」
鴫原さんの奥さんがそう言いました。
「浦田さん…」
僕は先輩方のテーブルに並んだものを眺めながら死にそうな声で訊きました。
本当かよ…。
「こんなこと…」
「なんだ…?」
波と風の音が僕の小さい声を吹き飛ばしました。
「………」
「飲み会のことか…、ジャンケン大会のことか…?」
力なくうなずく僕。
「どうした堀!」
弱々しく椅子にほぼ横たわる僕に先輩方全員が目を向けました。
僕の最後の気力が、先輩方のテーブルに並ぶ
“恐ろしいもの”を見て砕け散りました。崩れました、心も体も。
「こんなこと…………ですか…?」
「え…、どうした堀、大丈夫か…?」
心配そうな浦田さんの声、同じく心配そうな皆さんの視線。
「どうした堀、大きな声だせるか…?」
海風だ…、今日は曇りで陽射しもきつくないだろう。
体調さえよければ気持ちのいい日なんだろうね。
ああ…、来年は断ろう…。なにか絶対にぜーったいに用事をつくろう。
「先輩…、こんなこと…」
僕は息を整えた。
大きい声をださないといけないからね。
「こんなこと!!
“毎年” !!
やっているんですか!!」
普段なら大御所の先輩方へのこのような“暴言”は許されないと思いますが、もう体調も限界だったしそれにね…。
「よっぽどきつかったんだな…堀…」
浦田さん、笑って僕の肩を軽くたたきました。
安本さん鴫原さん小柳OB会会長も手をたたいて笑っています。
「ごめんね堀ちゃん、楽しかったよ…。だから…来年もきてね」
鴫原さんの美人奥さんが僕をやさしく、でも笑いながら来年のお誘いをしてくれました。
これから数年後、僕の仲人をして頂くことになる小柳会長は楽しそうに、本当に楽しそうにこう言いました。
「堀…、ほら…、これでも飲んで機嫌なおせ…」
小柳さん、コップに注がれた“黄色い液体”を僕のほうに差し出します。
先輩方のテーブルには冷えて汗をかいた飲み頃の
“瓶ビール”
が3本並び、
“枝豆”
がありました。
3人ともおいしそうにうまそうに飲んでいます。
朝からの…
ビールの瓶が…、枝豆が…
僕の最後の気力を砕きました。
ただ多少まだ理性がありました。
本当はね、先ほどこう言いたかったんです。
「こんなこと!!
“毎年” !!
やっているんですか!!
”いい大人が” !! 」
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