4

 あてもなく、街の中を彷徨さまよう。


 ふと、前方にぼくと同じ種族の狐がいて、こちらを見ていることに気付いた。体は少し痩せ気味だが毛並みは美しい。匂いからして、メスだ。発情期だったら交尾に持ち込んでいるところだ。


 "あなたも、なのね"


 "!"


 驚いた。それは間違いなく言葉だった。だけど音声ではない。ぼくの頭の中に直接響いてくる。


 "君は……何者だ?"


 頭の中で問いかける。なぜかそれで十分伝わる気がした。


 "わたしもあなたと同じ。化かすことができなくて……家族から避けられて、一人、いや一匹になっちゃった"


 ……。


 そうか。彼女もぼくと同じ、はみ出し者なのか……


 "なるほど。お互い、化け物の中でバケモノになっちまったら、のけ者か……"


 "それ、なんだか出来損ないのラップのリリックみたいね"


 そう伝えて、彼女は右の前足を浮かせ、DJよろしくターンテーブルをスクラッチする仕草をしてみせる。


 思わずぼくは笑う。どうやら彼女も人間の文化にかなり造詣が深いらしい。彼女も笑った。


 ああ……


 これが、共感エンパシーって奴か……いや、テレパシーというべきかもしれんが……


 家族の中で、ぼくが今までずっと求めていたのに、ついぞ得られなかったもの……


 それがようやく手に入れられたのだ。たったこれだけのことなのに、こんなに気分がよくなるものだったとは……人間たちが SNS の中で「いいね!」を欲しがる理由が、よくわかった気がする。


 それに、相手の脳に直接アクセスする能力は、ぼくにも全くないわけじゃなかった。化かすことが出来ないだけで、こんな風に思念を交わすことは可能だったんだ。ひょっとしたらそれは、これまでもぼくの家族たちに伝わっていたのかもしれない。でも皆それを理解することも、反応を返すことも出来なかったんだろう。


 だけど今、ぼくはとうとう「話が通じる」相手を見つけたのだ。これを手放すのはどう考えても得策じゃない。


 "一緒に来るか?"


 ぼくが問いかけると、


 "ええ。いいわね"


 彼女が応える。


 ぼくらは並んで歩きだした。


 ふと思う。バケモノ同士で子供を作ったら、やはりその子供もバケモノになるんだろうか。たぶんその可能性は高いと思う。そして、ぼくや彼女のようなインテリジェントな狐は、実は他にもいるのかもしれない。おそらくぼくらは、人間たちがまき散らした放射能が生み出した突然変異ミュータントなのだろう。


 そして、ぼくらの子孫がどんどん増えていけば……いずれ、「万物の霊長」などとほざき、ふんぞり返っている人間たちの足元をすくう存在になるかもしれない。


 意図してなかったにせよ、お前らが結果的に生み出したバケモノは、お前らの座を奪おうと画策しているんだぞ。虎視眈々……いや狐視眈々と、な。


 だから、首を洗って待ってろよ、人間ども。

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化け物の中のバケモノ Phantom Cat @pxl12160

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