後編
「えっ」
そこを突かれるとは思わなかった様です。
「国民全体がしっかり食べられる様になっていることが、どれだけ平均寿命を上げていることか。他国他国とお前は言うが、そもそも貧民を出して多くの民を飢えさせ死なせる様な国の話を今は聞けぬ」
そう、我が国では貧しい人々にも最低限以上の食事を必ずさせる様な仕組みが出来上がっています。
無論それは、国民領民を把握しているということでもあります。
他国にあると言われている貧民街は、実は我が国には無いのです。
「しかも聖なる豚を、罵倒の形容として用いるとか…… 本当にお前は…… 本日はお前の王太子就任を皆に伝える目的もあったのだが」
陛下は大きく首を横に振りました。
「そ、そんな!」
「サリュート。その貧相な身体ではこの国は治められぬ。離宮へ行け。その女も下働きに使え。少なくとも我々と同じくらいに豊かな身体になるまでは、決して宮中に戻ることは許さぬ」
「ちち…… うえ…… !」
「ああ、婚約破棄は認める。お前の為ではない。豚の様に美しくまろみを帯びた令嬢への詫びも込めて」
その場に集う、福々しい身体の皆様は、明らかにずれている王子の追放に喜んでいらっしゃいます。
「よって王太子はそのすぐ下のエリュースとする。本日の料理はエリュースが材料から吟味し、その上で材料となる豚をはじめとした食物に感謝し、捨てるところ無く、最高の腕を奮ったものだ。ぜひその味を覚えて、皆のそれぞれの家、そして領民達にも振る舞うが良い」
陛下はエリュース殿下を呼びに行かせました。
まだ調理服のままのエリュース殿下は皆様が美味しそうに料理を口にしているのを見て、非常に嬉しそうな表情です。
「さて豚の様に美しきエイダ嬢。あの考え無しの骨川筋右衛門の代わりに、このエリュースに嫁いではくれまいか」
にこにこと微笑むエリュース殿下は、常にしかめっ面のサリュート殿下にくらべ、焼きたてのパンを見る様な暖かい雰囲気があります。
「はい、喜んで!」
わあ! と周囲の人々はスプーンやフォークを手に歓声を上げました。
そうですね。
私自身既にサリュート殿下が居ないうちに宮中の教育を受けています。
やはりそれを無にするのは面白くないですし、それにこの味を出してくださる殿下でしたら、きっと私は幸せになれるでしょう。
そして再び皆、その新王太子と私についての話題を加えつつも、食事に取り組むのでした。
ぽつんと残された殿下とアリ何とか鶏ガラ嬢は呆然としたまま、離宮の方へと運ばれて行くようです。
さて、と私は再びパーティの料理へと向かいました。
するとエリュース殿下が私の元にやっていらして。
「今夜の料理は如何ですか?」
「アッブルソースが素晴らしいです! 私、これからデザートもいただきたいと思うのですが、どれが殿下はおすすめですか?」
「僕のおすすめは――」
そう、こんな会話を常にできるなら、私はこの先とても幸せなのではないかと思います。
骨皮王子と鶏ガラ令嬢に何を言われたとしても、豚は正義なのです。 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo
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