予告状

「東京にも、西成みたいな所があるんやな──」

 恵の父親である石治は、そう言いながら車を運転する。

「ていうか、パパ──」

「なんや?」

 後部座席に座っている恵が、ルームミラーに映る石治を見ていう。

「なんで反社の人みたいな格好できたのよ。子供が怖がるでしょうが」

 石治の格好は黒いジャケットにノーネクタイ姿のシャツ、そして黒ズボンに黒い革靴という暴力団のような格好をしていた。

「何言うとんねん、お前ワシは知り合いの親父さんの法事の帰りで喪服やったからそんな格好しとるだけや」

「じゃあ、ネクタイどこいったのよ?」

 恵がそういうと、石治は助手席に置いていた紙袋から黒いネクタイを取り出した。

「邪魔やったから取ったんや」



「親父さんの法事──」



「フリンちゃん、変なこと考えないでね!?」

 小声で呟き青ざめるフリンに、恵は考えている事を察したのか考えさせないようにしていた。

 その後も、石治が煽ってきた車の運転手と喧嘩したりと色々あったがなんとか山奥の集落にある恵の実家に到着する。

「あら、あなたがフリンちゃん! 可愛いわね〜」

 家で出迎えた、白衣姿の恵の母親である正美がフリンを抱きしめる。フリンは、急すぎて理解が追いついていない。

「ちょっとママ! いくら可愛いものが好きだからって子供まで手を出さないでよ!」

 恵は、正美にそう言う。



「恵お姉ちゃんの── お姉ちゃんじゃないの?」


 フリンが正美にそういうと、正美は喜んで言った。

「まあ! ほら、私の若さは子供公認って事よね!」

 確かに、正美はその歳からは思えないほどに若い容姿をしており20代にしか見えない。

 だが、実年齢を知っている恵からは見てられないのか

「ママ── 現実みよう」

と言われているのである。

「またコイツか──」

「え?」

 居間でテレビを見ていた石治がそう言う。

 画面には『全国で相次ぐ窃盗 容疑者が新たな犯行声明を出す』と出ていた。


「怪盗フィリアと名乗る容疑者は、予告状と書かれた犯行声明を、ここ鳥取市にある中四国第一合同銀行鳥取支社宛に差出人不明の普通郵便で送ったとの事です」


 記者がそういうと、テレビ画面に予告状の全文が映し出される。



予告状

 配達日の静寂なる22時丁度に、貴社んl保有する金78000000円を頂きに参ります。

              怪盗フィリア



「この、手紙が今日の朝届き銀行は警察に相談し威力業務妨害で被害届を出す方針です。しかし、近年同一の人物── すなわち怪盗フィリアによる犯行と思われる窃盗及び強盗事件が全国で相次いでおり、万が一の場合に備え今支社ビルは機動隊員が配置されている状態です」

「普通怪盗って、宝石とか狙うものじゃないかしら? 銀行の金盗んだって、お札の番号は全て控えられてるのよ」

 テレビを見た恵が言う。



「番号って?」



 フリンが恵に聞くと、恵は言った。

「番号が分かれば、捜査の時に足がつくのよ。にしても、本当に変ねこの怪盗は──」






 その頃、鳥取市内の鉄塔の頂上に高校生ほどに見える金髪の女が立っていた。

「さあ、楽しいショーの始まりよ──」

 女はそう言うと、舌で唇を舐め笑みを浮かべる。

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魔女弁護士めぐみさんの事件簿 @nishiyoshi

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