黒き怪盗

新幹線悪臭地獄号

『今日も新幹線をご利用いただきありがとうございます。この列車はのぞみ285号、博多行きです。次は新大阪、新大阪です。新大阪の次は新神戸に止まります』


 車内にアナウンスが流れる。

 恵とフリンは、恵の地元の鳥取県に向かうため新幹線に乗っていた。

「あ〜、朝から酒臭いわね──」

 恵は、車内に漂う日本酒の匂いが鼻につく。そして、恵の隣で寝ているフリンを睨んだ。

「よく寝れるわね──」

 すると、新幹線は駅に止まり大勢の乗客が乗り込んだり降りたりしていた。

「やっぱり大阪も東京並みに人が多いわね── さすが日本3大都市なだけあるわね」

 恵は、うごめく乗客達を見てそう思ってた。

 すると左手に紙袋と鞄、右手に切符を持ったスーツ姿の中年の男が恵の乗っていた3列のシートにやってきた。

「16-C── 16-C──」

 男は熱心に、座席番号を確認していた。

 男は、すぐに確認し終え、切符をポケットに入れると恵に話しかけた。

「おい姉ちゃん?」

「あ、はい──」

 恵は男に顔を向けて返事をした。

「すまんけど、この荷物どかせてもらえるか? ワイの席ここやねん」

 そう言って男は恵に切符を見せて、そこに書かれた席に置いてあるボストンバックを指して言う。

「あら、ごめんなさい──」

 恵は恥ずかしそうに、ボストンバックを避けた。

「おお〜、おおきに」

 男はそう言うと、席にずっしりと座った。すると、男は紙袋の中から小さなカップぐらいのサイズの日本酒と肉まんの匂いがする白い箱を取り出した。

──え、嘘! ちょっと待って!?

 そんな恵の願いも虚しく、男は日本酒の入った入れ物の蓋を開けて豪快に飲む。

「ブッハ〜」

──うわ臭ッ!

 そして今度は、白い箱から肉まんを取り出して豪快に食らいつく。箱からは、ニンニクなどの濃く強い匂いが漂っていた。

──うわ〜、誰か助けて



「ああ〜、死ぬかと思った──」

 4時間後、恵はなんとか鳥取駅のホームに降り立った。



「──どうしたの? 恵お姉ちゃん」



 新幹線と特急の中で、眠り潰していたフリンが恵の疲弊した顔を見て言った。

「貴方はぐっすり眠ってたわね〜」

 恵はフリンを睨んで言い返す。



「──え?」



「それより早く行きましょう。駐車場でパパが待ってるはずだから」

 そう言って、恵はフリンの手を引いて改札口に向かう。

 駐車場に出ると、恵は辺りを見渡し父親を探す。

「えっとパパの車は──」

 その頃、フリンは視線の先にいたヤクザ風の白髪の50代後半ぐらいの男を怯えた目で見ていた。

 すると──

「あ、パパー!」

 恵はそう言って、フリンの視線の先にいたヤクザ風の男に手を振った。

 それを見たフリンは目を丸くしたと同時に、背筋に冷たいものが走った。

──あの人が、恵お姉ちゃんのパパ!?

「行くわよフリンちゃん── あら、どうしたの?」

 恵がフリンに声をかけると、フリンは恵の後ろに引っ付いて隠れていた。

 恵は、そんなフリンを見ているとヤクザ風の男が恵に声をかけた。

「おい、恵。どないした?」

 ヤクザ風の男は、恵に関西弁の口調でそう言った。

「ああ、この子が恥ずかしがっちゃって── ほら!」

 そう言うと恵は、フリンを抱き上げてヤクザ風の男の見せた。

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