第48話 極楽天福良22

 森を通る道に座り込み、福良たちはこれまでの経緯を話し合った。

 諒太たちは浸蝕領域や聖女について語り、福良は主にスマートフォンの機能、バトルソングと呼ばれるシステムについて解説していたのだ。


「じゃあ諒太くんの初期設定をしましょうか」

「このスマホを起動して設定することで何かの罠にかかるってことはねぇのか? 俺は初期設定をしないてのも選択肢のひとつだと思うんだけどよ」

「だとすると私がすでに罠にかかってることになると思いますけど」

「だったら大丈夫か」


 諒太はすんなりと了解した。諒太も極楽天家の直感には信頼を置いているのだろう。


「ボーナス値は再ロールで何度もやり直せます。最小は5で最大は29です。確率は均等ではなく、1桁が出やすくなっています。再ロール前提であれば19は欲しいですね」

「それってさ、初期設定後にマニュアルとかを確認してわかることなんだよな?」

「そうですね」

「クソゲーすぎんだろ……」


 諒太はしみじみと言った。


「ちなみにステータスを後からアップさせる方法は限られているので、ステータスはほぼこのボーナス値にかかっています。妥協するべきではないですね」

「ちなみにお嬢は?」

「初期値が29でした」

「そんなことだろうと思ったよ」


 諒太がスマートフォンを取り出したので、福良は画面を覗き込んだ。

 電源を入れると、初期設定画面が表示される。

 初期ボーナス値は9。これでは物足りないので、もう少し上を目指してもらいたいところだ。

 諒太が再ロールボタンを押しはじめた。一桁が続いている。満足のいく値を出すにはまだ時間がかかりそうだった。


「なあ、レトロゲームでこんなんあった気がするんだよ。これどうなってんだ?」

「喋りながらで大丈夫ですか? 勢い余って押しすぎると面倒ですよ」

「これぐらい大丈夫だろ」

「このシステムは上位存在、いわゆる神が作ったものらしくゲームのように感じられるのは私たちにわかりやすく翻訳した結果……とのことですが、そう単純とも思えないですね。スマートフォンのシステムに紐付いているあたり、九法宮学園の意思があるように思えます」


 現状、システムは様々なゲームを混ぜ合わせたような仕様になっている。単純に翻訳したとするには複雑すぎると福良は感じていた。現代人にわかりやすいように翻訳されただけというよりは、具体的にこのようにデザインした何者かがいる気がしているのだ。


「お、19出たぞ。これでいいだろ」

「そうですね。20以上はさらに出にくくなっていますのでこれ以上を望むと沼にはまりそうですし」

「で? どう割り振るのがおすすめだ?」

「このステータスでジョブが決まりますので、そこから考えるべきですね。私はポーターをお勧めします」

「ポーター?」

「荷物運びに特化したジョブです」

「……お嬢、俺に荷物持ちさせようと思ってる?」

「はい! 不思議な袋があっても私が持てる量には限度がありますから」

「……わかったよ」


 諒太は不承不承という感じではあるが、結局は福良に従うべきだと思ったようだった。


「体格と感覚を多めに、他もちょっと振ってみるという感じでしょうか」

「具体的にどうしろってのはないのかよ?」

「値によって出やすいとかはあるのですが、ジョブもランダムなんです。ステータスをふり直すと再抽選されますので狙いのが出るまで適当に変えてみてください」

「初期値が1でそれにプラスすんのか。体格6、感覚10、美貌3、魔力3、運2。これだと?」

「ナイトですね」

「いいんじゃねーの? 護衛なんだし」

「ナイトは馬に乗ってるだけの人だと思いますが、なんかむかつくので他のにしてください」

「むかつくってなんだよ。えーと、レンジャー、ファイター、ビーストテイマー、マーチャント、ダンサー……このあたりは狙ってないんだよな?」

「所持重量アップとストレージ系のスキルを取得できるのが理想ですね」

「それがポーターかよ……シーフ、バード、クラフター、マジックナイト、マスターバンデット」

「ストップです!」

「ん? マスターバンデットか?」

「マスターとかついてるのは上位ジョブですね」


 福良はスマートフォンでジョブの解説を確認した。詳細なスキルツリーまではわからないが、傾向ぐらいならわかるのだ。

 マスターバンデット。シーフなど盗賊系の上位ジョブだ。その特徴として、盗むスキルと盗品専用のストレージスキルを持っていることは明言されている。上位ジョブなのだからかなりの量のアイテムを保持できそうだ。


「これにしましょう。便利そうです」

「バンデットって山賊とかだよな? すげーイメージ悪いんだが」

「ゲームだと盗賊とか当たり前にいますしいいんじゃないですか?」

「正直なんでこんなことしてんのかわかんねーし何でもいいけどよ」


 諒太はそのステータスを確定して先に進めた。

 最終的に諒太のステータスは体格5、感覚12、美貌2、魔力2、運3でジョブはマスターバンデットだ。

 見た目の変化がほぼなかったのは十分に鍛えているからかもしれない。

 

「私はどうすればいいと思う?」


 諒太の設定が済んだところで、綾香が訊いてきた。


「そうですね。ボーナス19は欲しいのは同じですが、後はお好きなものでいいと思いますよ」

「ステータスに魔力があるってことは魔法が使えたりするのよね?」

「はい、魔力を上げると魔法系ジョブになりやすいはずです。ただ魔法がどんなものかはよくわかっていませんので積極的にお勧めはしづらいです」


 諒太と違って強制はできない。アドバイスぐらいはできるが、どうするかは本人に決めてもらうしかないだろう。


「せっかくなら差別化は図っておきたいしね」


 綾香は何度かやり直し、最終的にボーナス19を魔力に全て割り振った。ジョブはホーリーウィーバーで、聖属性魔法をメインに扱うらしい。ただ聖属性が何かはよくわかっていない。


「二人とは友達登録して、シャノンさんもインストールしましょう」

『承知いたしました』


 シャノンがメッセージを送信した。二人は指示に従ってユーザーのフォローを行い、AIアシスタントをインストールした。


「地図は結構表示されてるな。移動した範囲が解放されてく感じじゃないのか?」

「地図の描写範囲は感覚の値が参照されてますね。諒太くんの場合だと半径120メートルが一気に表示されます」

「その範囲にある木とか建物とかが表示されるんだろ、便利だな」

「動いてる物もわかりますよ。その範囲も120メートルですね」


 動体感知は基本スキルであるため、全員が持っていた。それだけでも初期設定をする価値はあるだろう。


「動いてるのってこれか?」


 半径120メートルの範囲ともなると離れた場所にいて無警戒に動いている魔物も表示されるようで、赤い点が散見された。


「ゆっくり動いていると表示されませんので過信はできませんが目安にはなると思います」

「まあ常に見続けるわけにもいかないしな」

「条件を設定しておけばシャノンさんに警告していただくことは可能ですよ」

「じゃあこっちに近づいてくるやつがいたら教えてくれみたいなことができるのか」

「そうですね120メートル範囲内の全てを教えてもらっていると煩雑になりそうですし……おや? 何か来てますね」


 諒太のスマホを見ていた福良は気づいた。

 近づいてくる赤い点が四つ。まだ感知範囲に入ったばかりであり、それだけならさほど警戒する必要はないのだが、それらは道の上を移動していたのだ。


「あっちか。ここからじゃ見えないな」


 道は少し先で右に曲がっている。木々が邪魔でやってくる何かの姿は見えなかった。


「はっきりとは言えないけど、向こうはこちらに気づいてないようね」


 道の上を移動していることから魔物の可能性は低い。人間だとすれば、木々が密集した森の中で百メートルほど離れた場所にいる何者かを察知するのは難しいだろう。


「移動速度に変化がないな。気づいたなら多少は変化がありそうなもんだが。どうする?」


 福良は少しばかり考える。

 このまままっすぐ歩いて行って遭遇するというのは論外だろう。何事もなくすれ違えるとは思えないし、相手が気づいた瞬間から戦いになるはずだ。

 先に気づいた優位を活用するなら、森に身を潜めてやり過ごす手もある。だが、森は安全ではなく、いつ魔物が襲ってくるかわからない。魔物に襲撃されて、その上やってくる何者かにまで気づかれれば最悪の状況になるだろう。


「涼太くんの50メートル走の記録はどれぐらいですか?」

「最近測ってねーけど6秒ぐらいじゃねーか?」

「了解です」

「なにが?」


 福良はポケットから何個かの小石を取り出した。

 大きく身体を捻り、全力で上空へと投げつける。

 壇ノ浦流百舌落とし。放り投げた石が落ちてくるだけの技だ。威力、命中率共に期待できる技ではないが、その真価は陽動にあった。

 上空からの攻撃に注目させ、本命の攻撃を繰り出すのだ。


「七秒後、50メートル先ぐらいに着弾します。ゴーです!」

「何やるか言えよ!」


 文句を言いつつも、諒太が走り出した。

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無理ゲーみたいな異世界ですけど、壇ノ浦流弓術でどうにかなりますか? ~即死チート外伝~ 藤孝剛志 @fujitaka

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