第62話 久々に再会して、知る彼らのその後
ラプスのギルドはマルリダと同じく賑わっていた。ただ、ラプスは少々、騒がしいようにも感じる。
マルリダは落ち着いている雰囲気があるけれど、こちらは様々な声が響いていた。相変わらずだなとクラウスは依頼が張り出されているボードに群がる冒険者を眺める。
「あいつら何処だ?」
「うーん、人が多いですね……」
アロイとブリュンヒルトが室内を探すように背伸びする。
真似るようにぴょんぴょん跳ねているルールエをシグルドが抱きかかえ、フィリベルトは受付嬢と話をしていた。
「クラウス。彼女たちはまだラプスにいるようだ」
「そうか、なら……」
「あっ! お姉ちゃんいたよ!」
フィリベルトが受付嬢に確認を取ったのと同じく、ルールエが奥を指さす。室内の奥、角のテーブル席に見知ったワインレッドの魔導士服を着た女性が座っていた。
一人でいくつかの依頼の紙を確認している彼女は間違いなくミラだ。クラウスはなるべく驚かせないようにと気をつけながら声をかける。
「ミラ」
「なにって、クラウス?」
少しばかり不機嫌そうだったミラがクラウスを見て目を瞬かせている。なんでいるのだといったふうにクラウスと後ろにいるパーティメンバーを目を向けていた。
何の連絡も無しに来たら驚くかとクラウスは「突然、すまない」とまずは断りを入れた。ミラはテーブルに置いていた紙を束ねながら、「いきなりで驚いたわよ」と席から立つ。
「お仲間さんを連れてどうしたの? わたしに何か用?」
「用はあるのだが、リングレットとアンジェはどうしたんだ?」
いつもなら一緒にいるはずではとクラウスが問えば、ミラは何とも言いにくそうに視線を逸らした。
それだけで何かあったのは分かることだたので、「何かあったのか」とクラウスが目を細めれば、「別に大したことじゃないわよ!」と、彼女は話す。
「わたし、あの二人とパーティを解消したの」
「えっ! どうしてですか!」
ミラの言葉にブリュンヒルトが声を上げると「ちょっと、いろいろあったのよ」と濁される。あんたらには関係ないでしょと言うような態度にアロイが眉を寄せた。
「その態度、なんだよ。クラウスの兄さんとは知らない仲じゃねぇんだから、教えてくれたっていいんじゃないのか」
「こら、アロイ。もうクラウスと彼女はパーティメンバーではないのだから関係ないだろう」
フィリベルトに注意されてアロイはむっとしながらも「そうだけど」と引く。それでもやっぱり気になるようでじとりとミラのことを見ていた。
クラウス自身もどうしてパーティを解消したのか知りたくないわけではない。自分が知る限りではミラとリングレットたちは仲が良かったからだ。
アンジェのミスをカバーしていたし、パーティ自体に問題はなかった。ならば何故とクラウスが首を傾げれば、ミラが「そんな目で見ないでよ」とはぁっと溜息を零す。
「あんたたちも知ってるだろうけどわたしらはランク降格されたの。それから三人で地道に依頼をこなしていたんだけど、リングレットが『他のパーティに入って修行をしよう』って言い出したの」
あの後、リングレットは暫くは地道に依頼をこなしていたらしいが、なかなか上がらないランクと信用に我慢ができなかったらしく、他のパーティに入って修行することに決めたらしい。
もちろん、自分自身が招いたことで失った信用とランクなのは理解し、反省もしていたのだが、地道にやっても何の変化もないというのが嫌だったようだ。もっとしっかりと冒険者として勉強すべきだと、他のパーティに頭を下げたらしい。
修行だと言い出しただけあり、パーティメンバーの指示は聞き、雑用もしっかりとこなしていた。アンジェもリングレットに続くように頑張っていたので、真面目にやってはいたのだ。
「なんだ、ちゃんとやってるんじゃん」
「聞いてるだけだと反省してるんだぁって感じですけど……」
「こいつはやってなかったのではないか」
「シグルド」
フィリベルトに静かに叱られてシグルドは眉を寄せながらルールエを下す。彼はまだ根に持っているのだろうことはクラウスも感じていた。
ルールエが「お姉ちゃんはどうだったの?」って聞くと、ミラは「わたしだって真面目にやってたわよ」と答える。
「ちゃんと真面目にやってっていうのに、あのパーティの魔導士ったら……」
「何かされたのか?」
「大して上手くもないのに上から目線だし、露骨にわたしをいじめてきたのよ」
パーティにいた女性の魔導士は自分よりも多く魔法を覚えているミラに苛立ったらしい。
ミラが大人しく指示に従うのをよいことに、常に上から目線で自分が任されたもの全てを押し付けて、影で悪口を言うようになったのだという。
ミラは自分たちのしでかしたことがことなので何を言われても仕方ないと受け入れてはいた。
だが、女魔導士自身がやらかしたミスまで自分のせいにされたり、私物を盗まれたり、わざと壊されたりと行動がエスカレートしてきたのに耐え切れなかったのだと話した。
「そりゃあ、わたしたちはいろいろやらかしいたわよ。それは反省しているわ。でも、それとあの魔導士に嫌がらせを受けるのは違うでしょ!」
「それはそうだな」
ミラたちのパーティの評判は自分たちがしでかしたことなのだから噂をされてしまうのは避けられない。
だからといって、彼らを苛めて良い理由にはならないので、その魔導士の行動はやっていいものではなかった。
クラウスだけでなく、アロイたちも「そこまでやる必要あるか」といったふうだ。シグルドですら、ミラに同情するような眼差しを向けている。
「腹が立ったからパーティを抜けてきたの。それからリングレットとアンジェとは話もしてないわ」
「このギルドで会ってもか?」
「挨拶ぐらいはするわよ。でも、あの魔導士に嫌味を言われるから世間話なんてしないわ」
リングレットとアンジェはわたしのことを心配しているみたいだけどねとミラは「これで説明はいいかしら?」と、笑いたければ笑えばといった様子だ。
散々、自分はクラウスを馬鹿にしていたのだ。その報いでしょ、笑えばいいと。
「えっと、ミラさんは一人なんですか?」
「そうだけど? 誰もわたしなんて面倒みてくれないもの」
噂は広まってるのだとミラはまた溜息を吐く。今まで一人でなんとかやってきたようで、少しばかり疲れているようだ。
この状態のミラに頼むのはどうだろうかとクラウスが悩んでいると、「で、用は?」と問われる。
「アンジェに用があったんなら、残念だけど……」
「いや、ミラに用があったんだ」
「わたし?」
自分に要件があるとは思っていなかったらしく、はぁっと驚いた声をミラは上げた。クラウスは「実は」と後ろに立っていたラフィアを紹介し、事情を話す。
彼女に魔法を教えてくれないかと頼まれて、事情を理解したミラはラフィアを指さして、「どうだったの」と問う。
「あんたたち彼女の実力見たんでしょ? どうだったの?」
「…………」
そっとクラウスが視線を逸らし、フィリベルトも目を合わせない。二人の態度に全てを察したのか、ミラが「見習い以前の問題じゃない!」と突っ込んだ。
「その反応だとかなりの初心者でしょ、この子。弟子入りしていたっていうのに上手くなってないなら、才能がないのよ」
「そんなこと言わないでくださいぃぃぃ」
ミラの鋭い一言にラフィアが泣きながら彼女に縋りつき、自分は立派な魔導士になりたいのだと涙声で訴える。そんな彼女をミラは「なんでそこまでしてなりたいの」と引き剥がした。
「お父さんを、見返したくてぇ」
「はぁ?」
ラフィアの父は彼女に「お前に魔導士は無理だ、諦めて結婚しろ」と、好きでもない相手と結婚させようとしてくるのだという。お前は家庭に入ったほうが幸せだと言って。
ラフィアは魔導士になる夢を諦めきれなかったのもあるが、自分の未来を勝手に決めてくる父を見返してやりたかったのだ。だから、頑張って勉強もしてきたのだと答えた。
「おねがいしますぅぅぅ」
「そんなこと、言われても……」
「無理だろうか?」
「教えることはできるわよ。わたしだって、魔導士家系だもの、それぐらいできるわ」
でも、初心者どころか才能があるかも分からない子を教えるのは大変なのだとミラは言った。
まず、才能を開花させなくてはならず、それができるかどうかは本人次第なのだと。
「魔法なんてそんな、一日二日で上手くなるものでもないし……」
「それはそうですよね」
「あたしも小さい頃からやってたなぁ」
積み重ねていくことで人というのは成長し、上手くなっていくのはクラウスにも理解できた。
自分だって義父に幼少期から叩き込まれて、今の技術を身につけている。
「今からでも頑張れば?」
「できなくはないけど……」
「おねがいしますぅぅぅ」
うわぁぁんと声を上げて泣き出し、周囲からなんだと見られてミラは「あぁ、泣かないでよ!」と慌ててラフィアの口を塞いだ。
「わたし、もう悪目立ちしたくないの! わかったから落ち着いて!」
「すまない、ミラ」
「いいわよ。ただし、条件があるわ」
「条件?」
条件とはなんだろうかとクラウスが首を傾げれば、ミラは「金銭じゃないわよ」と言った。
「わたしが入れるパーティを紹介しなさい」
「はぁ?」
ミラの条件に思わず皆の口から声が零れる。なんだ、その条件はとクラウスが詳しく聞けば、「もうソロは疲れたのよ」と自分の現状を教えてくれた。
このランクでソロ、しかも自分は近距離が苦手な魔導士だ、受けられる依頼というのが限られている。それでもなんとかやってきたけれど、そろそろ限界なのだとミラは愚痴った。
「足元見ているものばかりで嫌になっちゃう。だから、またパーティに参加したいのよ」
「理由は分かったが……」
「うちは無理だぜ、クラウスの兄さん」
アロイが「うちのパーティはこの人数が限度だ」と言う。
パーティ内の金銭などを管理している彼としては、これ以上メンバーが増えてパーティが大きくなるのは避けたいようだ。
「これ以上メンバーが増えると管理が大変になるのは確かだな」
「フィリベルトのおっさんの言う通り。うちは魔導士がいなくても成立しているしな」
「じゃあ、何処かのパーティを紹介しないとですよね?」
「そーなるよねー」
わたしたちの知り合いでいたかなとブリュンヒルトとルールエがうーんと頭を悩ませる。
クラウスも誰かいただろうかと考えること暫く、シグルドが「あの兄妹はどうだ」と口を開いた。
「いただろう、兄妹が」
「あ! シュンシュさんとランさん!」
そうだとクラウスも兄妹のことを思い出す。彼らは実力もあり、話が通じる冒険者だった。
あの兄妹ならば、話は聞いてくれるかもしれないとクラウスが提案すれば、ミラは渋面になりながらも「それでいいわよ」と頷く。
「あの二人ぐらいよ、わたしが話しかけても聞いてくれるの。だから、あんたが紹介してくれるなら有難いわ」
「彼らは今もラプスにいるのか?」
「いるわよ。ただ、そろそろ拠点を移すとか話してたかしらね」
詳しくは知らないわと言われて、クラウスは一先ず彼らを探して話を聞くことにした。
パーティを追放され幼馴染の初恋相手にも裏切られたけれど、助けた聖女と組むことにしたので何ら問題はない! 巴 雪夜 @tomoe_yuya
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