第10話
「話は終わりかね、№9『霊峰氷星』?」
「せっかく竹林から出て№8のところでゆっくりできると思ったのに、押しかけてくるなんてひどいな№1」
「まあまあ、いいじゃないか。№9にお客さんが来るなんてなかなかないし、ボクとしては少しでも人と交流することが増えてほしいと思っているよ」
「まだ記録は終わってない。忙しいから邪魔しないでくれ」
「ちょうどいいタイミングだからお茶にしようか。№1もいっしょにどうだい?」
「せっかくだからいただこうか。それにたまった記録も見たいからね」
「まず最初の問題は【鍵】の問題だな」
「ボクは【鍵】の問題についてはあまりくわしくない。№9、詳しく教えてくれないか?」
「そんなの私も知らん。私はただどんな【鍵】があるかをデータベースに記入しているだけだ。説明はただのつじつま合わせだよ」
「じゃあ、私の【竜化の鍵】についてはどうだ?」
「【硬化】と【進化】をその時代の社会的な最大限まで引き上げるためにあの方が作った失敗作だ。世界の召喚を代価にアストラルゲートから無尽蔵に排出されるがその代償として超越に全く触れることができなくなった。まあ地に足が付いていない管理局では重宝される特質だ」
「ボクなんかは便利でいいと思うけどね」
「まあ局長が無能無能言うから過小評価されるきらいはあるが、処理能力に関しては文句なく一流だからな。現代の政治システムに実際に対処できないというリスクを除けばほとんどの危機に対処できる」
「ありがとう。局長を除けば私を正当に評価してくれるのは君だけだよ」
「まさにだから局長に無能呼ばわりされんだよ」
「他の【鍵】についてはどうだい?ボクも【鍵】が使えるようになるかな」
「№8は【鍵】の超越に行きつくには度量がありすぎるからな。単純な人ほど超越に嵌りやすくなるけど、それは逆に言えば簡単にオーバーフローに達してしまうからだと言える。でも逆に言えば№8がオーバーフローするというのは大多数の人間にとっての大災害だから、そんなことを望むべきではないと言えるな。例えば人並外れた我慢強さを持っている善人が超越するとたちの悪い汚染源になる可能性が非常に高い。実際、【鍵】の実験に対してある程度まではいつも平然としている局長もあの時はさすがに干渉せざる得なかった」
「残念だな。確かにボクはそんなところまで人を追い詰めたくない。貧しい人や才能のある人に援助するだけで満足しているよ」
「時代に左右される私と違って君はちゃんと由緒ある立場だからね」
「【回帰の鍵】は別問題だ。およそ人間に対処できるという度量を完全に圧倒している。だからそれを『なかったことにするしかない』。ただそれはその【鍵】を使う人間の度量が広いというよりは、人間的立場と時代状況に永遠が『絶対的に』政治に関与してしまった結果の矛盾だと言える。だから真似しようと思ってもある程度までしかできないし、本人もそれをあえて自覚的に利用できるということにはならない」
「不運なんだね」
「英雄のいない時代は不幸だが、英雄の必要とされる時代はもっと不幸だというやつだな」
「【回帰の鍵】の二重性を能動的にするなんて狂ってるけど、局長はそれをうまく【空白のカード】のサブシステムに劣化させて技術に押し込めたみたいだから、やはり局長はあの方の【同位体】なだけはあるって感じだな」
「では次は【ランカー】というシステムについて聞こうか。まあ№1の私が言うのも妙な話だが」
「ボクはそれに興味あるな。どんな基準で№は決まっているんだい?」
「局長が決めたもの以外は基本申告制だ。空いてるから入れただけの者の方が【ランカー】では圧倒的に多い。さすがに10以降の【ランカー】は局長が決めている。専属の武装召喚士が付くのもそういう理由だ。だからより上位の№になるには、それを局長に示す、あるいはその座を狙って、実力を表現する必要がある」
「でも下剋上は罠のシステムに沿って機能しているとボクは聞いているよ?頂点に立とうとすれば自分自身への下剋上になるからだと」
「その通りだ。実力を表現しようと思えば思うほど10以降の【ランカー】には勝てないようになっている。それは№の順位が封建制度の枠組みではなく民主主義の枠組みで評価される必要があるからだ。それゆえ階梯と賞与に栄光はなく、報酬と義務の章典だけがある。したがって、世界と社会の在り方を結ぶ存在の関与が数字で呼ばれることになる」
「それで私が№1なわけか。たしかに超越に社会的存在の楔ではなく自分の実力で『勝てて』しまったら№1じゃないな」
「そうだ。それは『例外』『聖者』、あるいは『脱落者』だ。【空白のカード】のシステムに取り込めない存在は、それが本当に超越に対する絶対的な拒絶でないと【ランカー】にはなれない。それがいきすぎると逸脱や変質、つまり【鍵】の模造預言者と同じになってしまうからな」
「でも絶対的な拒絶はそれ自体超越だよね。ボクは財力の融資の立場だからそうはならないけど組み合わせ次第では超越に至る可能性は否定できないんじゃないかな」
「そのために№5がいる。№5は中間地点として誰とでも協力できる最高度の組み合わせの意志だ。しかし超越するには純粋なスペック不足だ。それで超越論的な立場からしか世界に干渉できない局長にはありがたい存在なのだろう。個人的な感情はわからないが」
「封建制度の残滓や逸脱に対しては私が対処するから、狭き門から入らない者には必然的に相手が『強化』されてしまうわけだな」
「【空白のカード】のシステムについてはどうかな」
「まだまだ発展段階にあると聞いているけど」
「専門外だな。それは局長と開発チームの誰かに聞いてほしい。一応ここまでの記憶を辿ることはできる」
「それでいい、頼む」
「お願いするよ」
「わかった。まず【空白のカード】とは旧№3のキャラクターである【壊変の召喚魔導士】の【同位体】のようなものだ。技術的に意図して抜き出しているからあの方の影響は存在しないが、それでも利用者にはそれなりに【空白】の影響というものは存在する。つまりどこか世界から『浮いた』存在になる。社会的常識についてはいわずもがな人間的な感性の面でも若干の断絶が残ることになる」
「宇宙的な進化が促進されるということかな?」
「どちらかと言えば俗っぽく地上的になるというべきかな。なぜなら【空白のカード】を使って世界に存在を召喚することは意識空間の共感の感染を排除して社会的に確固とした基盤を創造的に形成するという方向が強いからね。陰陽の法則を社会的に変換しても科学的な破壊にしかならないからそういう方面とは相性が悪い。それに№16の説明にもあったように【空白のカード】は生命と存在の生成を技術的アクセス領域に記憶化してネットワークの非物質性を意図的に切り離す方向でしか働かないから共同性の記憶や動物的な器官の応答もそのことに特化したキャラクター以外では鈍くなるとみるべきだろう。もちろんそれは宇宙的な配置に沿ったキャラクター表現を排除するという意味ではない」
「確かに【空白のカード】を使ってからは日常生活の側面を意図的に記録したいと思うことはなくなったね。どちらかと言えばどう【金融輪雅令嬢】を生かせるかを考えている気がするよ」
「【空白のカード】に善悪は存在しない。とはいえそれは【空白】であるわけだから社会的な悪事に全力で取り組むということはやりにくくなるのは確かだ。技術的な信用基盤を形成しないとキャラクターは存在できないからね。逆に言えば、世界規模の陰謀の道具になる可能性自体は否定できない。【希望の翼】なんかはうまくそれを突こうとしていたな。そういう陰謀を阻止するのが局長や№2の役割だ。阻止された陰謀が別の形で欲望として再現されたら【回帰】がやってくるだろう」
「【空白のカード】は忘却の
「そうだ。客観的な時間の流れとは別の位置に意識を置くわけだから、壊変に対するサイクルの中断にもなる。記憶だけを頼りに世界に存在の根を張ろうとすると、放射が無機質になり空虚な無差別性にばらばらにされる」
「その場合は物質的な技術資本の方が記憶の保管に役に立つというわけだね」
「【デッキ構築システム】は【鍵】の利用を能動的に【空白のカード】の召喚機能に組み込むための技術だと聞いているが、それはどうなのかね?」
「局長と一緒にいる№1の方が良く知っているだろう」
「私としては君の意見が聞きたいのだ」
「ボクが【
「【デッキ構築システム】は基本的には他の【ランカー】のキャラクターを最大効果出力を落とした状態で規格化武装兵にも使えるように調整するためのものだが、心的容量を一瞬でいいから外付けして律動を構築可能にするためのカートリッジとしての媒体作用をも含んでいる。律動を崩壊に繋げる【確率論的キャンセルノイズ】もそのような作用の応用例だな。これは模造預言者の体内コアの欠落から律動の影響を割り出して再現に成功した開発チームの成果の一つだ。もちろん外付けとはいえ、心的容量が少ない人間が使用すれば暴走の危険性は存在する。ただそれで【鍵】の汚染の影響から一時的な抗体としての役割を持つのも事実だ。だから扱いには注意する必要がある」
「【デッキ構築システム】はパッケージ販売されているが、その元のモデルとかはあるのかな?」
「これは局長が上位【ランカー】のキャラクターを【空白のカード】の使用データから割り出して設計したものだから、基本は局長のオリジナルだ。もちろん普通のカードゲームのシステムの模倣でもある。№5にならって組み合わせと最適な戦略を構築するための環境基盤を形成するための試みだ。ただやはりというか局長や旧№3の関係者には使えない。【同位体】を形成する仕組みと【回帰】の相性が悪いせいだと思う。一応回帰を惑星周期と崩壊定数から分割して、律動のノイズの二乗平均を出力するためのカートリッジも開発できたが、それがさっき№8が言った【
「その通りだ。やはり君の意見は参考になるな」
「なるほど。なら今度ボクの【金融輪雅令嬢】のスターターデッキを販売して、それに【
「№16と【ルーキー】の関係だが……」
「確か【学校】の生徒達だよね。一応ボクもそこに資金援助してるけど」
「生活管理局は心の資源をキャラクターの在り方として管理する場所だから、経営はあまり関心にのぼりにくいということだな。もちろん局長も努力しているが、それは本来のモチベーションではないだろう。だから№16に任せている。なんだかんだで№16の提案は積極的に受け入れているよ」
「№16は大丈夫なのか?」
「一応記録を見る限りではとても優秀だね。【ルーキー】達の間で大きないざこざも起こしていないし、経営理念や説得のための概念理解もきわめて明晰だ」
「№10とはどんな関係なんでしょう?」
「気が合う飲み仲間だそうだ。気が合うというのは一方的かもしれないが、それでもマトリクスの影響を社会的接続領域として割り出して利用できる理論を発見する点では二人は相性が良い。私は【硬化】しやすいから彼らの話はとても面白い。変な話題に振られなければだが」
「今あるものを即座に理論化して説明できるというのは得難い才能だから、局長も№16にはそれなりに一目置いている。マトリクスの利用とその召喚キャラクターへの適用も彼女が局長に進言したものだ。誰もが思っている通り、あの性格さえなければ、あの執着さえなければ、№16はもっと上位でもおかしくない」
「彼女の学生への同性愛のことかな?それとも結婚をやり玉に挙げるしぐさのことかな?ボクにはどちらも可愛らしく見えるけど」
「違う、№16が問題なのは存在の探究とその解決に自分の色を入れようとすることの方だ。局長の方針からいって
「なるほど、すべての色を揃えようとするのと無色透明を保とうするのでは相性が悪いということか。納得がいったよ。確かに問題の本質はそこにはないけど無下にはできないね」
「そうだろう、私も何度№16に無理難題をふっかけられたことか。局長でもないのにあれだけ振り回せるのは一種の才能だよ」
「じゃあ、今度ボクが話をしてこよう。コレクションの中にきっと気に入るものがあるはずだから」
「本当か?いまさらだが№8、君は偶に神になるね」
「木に登った気分であちこち家の中をひっくり返すのは趣味としては悪くないよ。それが広すぎる場合には特にね」
「【進化モジュール】の件はどうなった?」
「ボクはその件は何も聞いていない。開発チームが全面的に引き取ったらしいけど」
「局長が進化論的な把握の弱い【ルーキー】用に、出力を調整して学校に貸し出せるよういくつか試作品を作ったみたいだ。後は月経に対して彗星のシンボルの香水を使って犠牲の血液の祭壇と区別するための洗礼詠唱を【スロットビルド】に組み込んでいるらしい。電磁膜の引裂きの種子を銀河的なフィラメントで包み込むゲーム音楽の周期的リズムのステップの変遷を取り入れた【星焔素子】の【元素ドメインチップ】だそうだ。おそらく身体の黄道宮の内面化をしないように電流の応答性で水の洗礼の方向に恒星の土台の座を定めようとしているのだろう」
「……相変わらず局長はどんな方向でも容赦がないね」
「うまくいくかはともかくそれが局長のいいところだからな。身体の量子化の問題は【空白のカード】と【進化モジュール】を同時に使えるかということだが、それはやはり難しいらしい。確率論的な問題構成が全く違う上に意識上の配置に関しても全く異なる思想体系を要求されるから【スロットビルド】に外付けのキャラクターモデルを生命の裏返し機構としてインストールする程度のものになりそうだ。逆に【空白のカード】の方は殺し合いの成長データという形でルールを上書きするループ構築になった。絶滅に対する複数の因果仮説をシミュレーションで悪性化してみるそうだ」
「箱舟の聖壇はすでに【空白のカード】で配られているから、後はしもべの働き方次第というわけか。もちろん局長は可能な限りそれをシミュレーションで囲い込むつもりなんだろうけど……ボクは無限の多様性進化を素朴に信じるのとどっちがましなのかと思ってしまうな。やはり選別に近くなってしまうことは避けられないのかな」
「それは人間を片面だけでしか把握しない言い方だな。悪い怠けもののしもべが実際の労働において怠惰であるとは限らない。むしろ彼らは素晴らしく良く働くしもべだからこそ、まったく進化に依存しきるかもしれないからだ。そうなると富を無駄遣いするよりも必要以上に貯蓄することになって、能力だけかさ増しされ、結局はより悪い環境だけが形成されることになる。部分的な退化の局面を受け入れない人たちは、過剰発達から年数の待機を惑星の地球時間に引き延ばしてしまうからね。もちろんそういったものを滅ぼすために壊変の火と硫黄がある。それは盗人のように来る。殺人を人間の精神年齢の低次さに求める者は、その低次さにある遊びを犯罪と同一視するから、そのことで啓示を愚かにも誤解してしまうわけだ」
「なるほどな。それで局長は定期的に旧№3をぶっ殺すとか言って№2と一緒に彼の下に遊びに行っているのだな。単なるストレス発散だと思っていたがそういう深い意味があるとは知らなかった」
「いやそれは単なるストレス発散だ」
「【礼装の王宴】のことを聞いてもいいか?」
「あの時のことは№8も№1も現場にいたから、実際にその場にいなかった私が語ることじゃないと思うが」
「ボクは君の記録を見てみたいんだ。だめかな?」
「やれやれ、これじゃ二度手間だ……そんな顔をするな。わかった、わかったから。っち、まずは【礼装の王宴】の目的はわかっているな?」
「【空白のカード】のキャラクターを資本化するための大会だよね。でも№5を人権基準にしたのは今回が初なのかな?」
「【礼装の王宴】は№8、君の試験でもあった。魔法少女がらみの件で君が自分の強さを引き出せるかというね。その意味でも№5を参加させたのは正解だと思っているよ」
「それは薄々感づいていたけど、ボクが生活管理局に入る前はどうしてたの?」
「№7が対処していた。この言葉があまりに生ぬるいのは察してくれ」
「管理局は魔法少女に対して殺すしか選択肢がなかったんだね?」
「そうだ。実際は№7が取り逃がしたほとんどの魔法少女は旧№3が処理していた。この話を理解するための前提としてまず魔法少女とは願いのシステムを物理的世界の搾取構造に経済的に置換していくようなイデオロギー装置だということを念頭に置いてくれ。世界の願いの拡張を言葉の現実の改変として物質的に卵にしていく怪異性の悪循環に対しては飛行現象の物質軸方向の回転の円盤性を壊変サイクルの回帰で垂直方向に引き戻して創造の歪曲を重力の恩寵だけでは耐えきれないものにして存在の原型を律動的に崩壊させる必要があった。魔法少女は膨張する宇宙の願いのエントロピー構造で歴史的な負の時間軸に反転して復活してくるから、そこまでしないと殲滅できなかった。これ以降、旧№3は言葉の創造でない宇宙に願いの虚無しか見なくなった」
「どうして管理局は資本のトークン化のことを考えなかったの?」
「政治的問題だよ。この時、預言者がらみの問題を資本と繋げて視ることには差別的な世界観だという世論が旧来の理念から思想誘導されていた。この問題をイデオロギー装置から分離して技術化するには、まず預言者の鍵の問題を搾取システムの模造の濫用性として別枠で完全に葬り去ってから、金融のスペシャリストを雇う必要があったが、局長一人ではそこまで手が回らなかった。№1のアストラルゲートの始動計画が開始されたのもこのころだし、№6があの方の思い出を振り払って管理局に復帰してきたのもこのころだ。だから慢性的な人手不足だった。【空白のカード】の【ランカー】システムもまだ誕生したばかりだったからね」
「そのときの名残で今でも局長は『被害は問わない、殲滅しろ』という命令を下し続けている。そのときに私は約束させられた。もし自分がこれを変えそうになったら、お前がそれを諫めろとね。まあ、鈍感な私の義務の一つだ」
「じゃあ№5はその時に?」
「ああ、偶然配信をやっているときに見かけて、連絡を取り、スカウトしたそうだ。初めは何度も断られたが№6の仲介でやっととにかくやってみるという約束を取り付けた。その後は知っての通り、№5はすごい頑張っている」
「ボクの役目はなかなかに重かったようだね?」
「局長があんなに素直に喜んでいるのは珍しかった。それくらいあの時のことは今までの積み重ねを実感できた出来事だったんだろう。人権級という基準を定められたのも君と№5を信用していたからだ」
「失われた一匹の羊か……みんなが資本を受け取れるようになるための懸命の努力を知らない者は自分の用事で出かけていく。後から来たものが先になり、先に来たものが後になるという言葉はそれほど軽くないね。ありがとう№9、このことを知れてよかった」
「ふん、自分の仕事をしたまでだ」
「お茶会はもう終わりだ。私はもう帰るぞ。長居しすぎた」
「礼を言うぞ、№9。これまでの事件の総括として素晴らしかった」
「そりゃどうも。ああ、ついでだ。ここで裏切り者の問題も片付けた方がいいか?」
「そうだね___といっても特定の誰かが裏切ったわけじゃない。中間地点における月の呪い、つまり作品の形式としてこの記録を読んだ人間に対する愛慕からの権威の裏切りの代価の報告だろう?もちろん君は何も知らないというだろうが」
「馬鹿馬鹿しい親の生まれの問題ではなく鋳造性の問題に措ける人類に対する憎しみのことだ。あの方は人類の敵だが人類を憎んではいない。それは旧№3も同じだ。だがそれを記録する人間はそうだとは限らない。結果的に権威はそれを裏切るように読解の記述としては構造的に配置されてしまった。社会通念と経済的な昇華は一蓮托生だからだ。親に対する子供の哀願はその偶然の残酷さに結び付けられている。しかもそれはもっとも生命の維持に必要な関心である口づけの二面性で行われた。表現の形式に対する愛情が実際の社会秩序の生死の関心を上回ってしまうんだ。それでその憎しみを確認しに来た__そうだろう№1?」
「局長は君がまわりに誤解されないようにとの配慮から管理局を去ることを心配していたが、どうやらその心配は杞憂のようだ」
「さあな、昔やられたことを忘れたわけじゃない。国をめちゃくちゃにされたこともその国の統治が腐敗しきっていることも、それに追従するだけの民にもな。ただそれは昔のことだ。思い出など何も残っていないし、風景を通して心情が浮かび上がってくることもない。罪と責任が混同されていることも終わったことだ。文化がいかに荒れ果てようと記録は記録として残し、それがあったことを確認するということがそれほど無駄じゃなく思えてきた。それだけだ」
「ボクが散々甘やかしたからね。ボクも昔は彼女を金銭的に懐柔しないように気を遣って質素さを尊重してそれで逃げられてたけど、単に素朴に接すればいいと気付いてからは、ボク自身の好きな浪費をすればいいのだとわかった。それで二人きりじゃないと今度は気恥ずかしくてすぐに出ていこうとするんだ」
「うるせえ、ぶっとばすぞ」
「不死者の歴史は悲劇の反抗の連続からその教訓が読み取られるべきなのではなく恋愛物語のように後悔の波がそれ自体残存する焔として読まれるべきだということだな」
キャパシティハートブレイクコアメルトダウンノイズ オドラデク @qwert
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