第9話

「№4様、ここにいらっしゃいましたか」

「ああ、見つかっちゃったか」

「森羅様と凛珠様の墓参りに行っているという局長の読み通りでした」

「いやぁ、おじさん誰にも気づかれないようにぶらっと来たつもりだったのになぁ」

「我々も花を手向けてもいいでしょうか?」

「ここはおじさんの所有物じゃないからね、好きにしたらいいよ」

「……ありがとうございます。実はもう一つ用事を局長から預かっています」

「なんだい?」

「どうも失敗パーティを開くのでその主賓として出席してもらいたいと」

「前から思ったけど、局長、おじさんに対する扱いだけ酷くない?この前もデータベースでおじさんのところの局長のコメント確認したら『肝心な時にしか役に立たない男。どうだ短くしてやったぞ』とか書いてあったし。いやおじさん泣いちゃうよ?」

「それだけ評価されているということでしょう。ちなみにこの用事に関しては当人の判断は無視していいとの命令をもらっています」

「はい?」

「みんな、№4様を連行しろ」

「「おう!」」

「いやいや、なんか普段よりも気合入ってない君ら?おじさんを集団で囲んで恥ずかしくないの?」

「「はい!」」

「………………」

「かかれ!」





「№2、着いたぜ。ここがあいつの家だ」

「ありがとう№10。局長にもお礼を言っておいてください」

「はいよ、【ドンキー・マトリクス】の効果はあんたの能力を使ったら消えちまうから注意してな」

「わかっています。ではここで」

「せいぜいうまくやんな。あばよ」

「さて、彼はいるでしょうか?」




「ええと、ドチラサマデショウカ?」

「№3、知らないふりは止めてください。№2です。入りますね」

「だから№3じゃないって……ああ勝手に入るな、もう……」

「今日は局長から命令を受けてきました」

「俺は生活管理局の一員じゃねぇ」

「№2をもう少し人間らしくしてほしい、と」

「無理です。お引き取りください」

「ちなみに命令を履行しない場合、これから毎日№2がこの家に立ち寄ることになります。よかったですね、役得ですよ№3」

「ふざけんな!」

「ふざけてません、真剣です」

「じゃあ、嘘だな。お前に身体を借している人間は誰だ?毎日ずっと身体を乗っ取られ続けるなんていい迷惑だと思うぞ」

「心配ありません。身体を貸してくれたのは局長ですから。フォーマットを設定したのは№10のおかげでもありますが、迷惑であるとは感じていません」

「は?局長がいなくなって生活管理局はどうするの?」

「大丈夫です。皆さんが頑張ってくれますし、局長も休暇が必要ですから」

「え?俺が断ると、局長が生活管理局で不在になり続けるの?」

「そういうことになりますね。どうしましょう」

「…………」

「では今日一日お願いしますね」




「で、どこに遊びに行きますか?」

「俺に聞かないでくれ」

「でもあなたに聞くしかありませんよね。私、敵を殺すことしかしてませんし」

「お前、ほんとそれしかできないのな」

「ええ、褒めてくださってありがとうございます」

「うぜぇぇぇ」

「こういう時は一度、自己紹介で好きなものとかを確認し合うとかはどうですか。そうすればどこに行きたいとかが決まるかもしれません」

「じゃあ試しにやってみろよ」

「では、私は№2【パーフェクトノービス】です。あの方との契約で初心者やそれに類するものを守るために敵を殲滅します」

「……好きなものは?」

「殲滅です」

「嫌いなものは?」

「殲滅できないものですね」

「行きたいところは決まったか?」

「えっと……わかりません」

「俺にもわからん」




「じゃあ家でゲームでもするか。何かやりたいゲームとかあるか?」

「えっとどんなゲームがあるんでしょう?」

「まあ、いろいろとやってみるか。じゃあまずはこのホラーゲームから」

「ホラーって怖いやつですよね。楽しみです」



「うわぁぁぁぁぁん、敵がどんどん出てきて倒せないよ!」

「いや、まだ最初のステージだけど」

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い!」

「いや、ただのゾンビだけど」

「なんで主人公銃しか持ってないの?そんな貧者な身体でどうやって敵を倒すの?」

「いや、これゲームだし」

「無理無理、しかもいきなり敵が襲ってくるし、こんなの嫌!」

「お前がそれを言うのか」



「じゃあ、次は何だ」

「この育成ゲームとかはどうですか?私、初心者を育てるという使命には自信があります!」

「でもこれ結構時間かかるしめんどくさくね」

「そういう積み重ねこそが経験を作るのです。めんどくさがらずにやってみましょう」



「なにこれ、計算式とか全くわからないんだけど!どうやって育てるの?」

「とりあえずレベルを上げていけば、なんとかなるんじゃね?」

「なんで技名選択しても、相手倒せないの?しかもなんか敵強いし、意味不明なところから出てくるし、わけわかんない!」

「ランダム湧きだろ。そりゃ初期レベルでうろついてるだけじゃ苦戦するわ」

「あ、死んだ。これ復活できないの?え、なんで最初からなの?」

「お前セーブしてなかったろ」

「セーブって何?」

「今ある状況を保存することだけど」

「え、そんなことできるわけないじゃん。何言ってるの?」

「…………」




「じゃあシューティングゲームとかどうだ。これならできるんじゃね」

「そうですね、これなら難しいことを理解しなくても、プレイヤーの操作次第でどうにかなりますね」

「お前、シューティングやったことあるの?」

「敵の攻撃を幾度となく先読みして避けてきました。そんなことは造作もありません」



「何この軌道!おかしくない、なんであそこで曲がるの?」

「いや、そういう挙動だから仕方ない」

「普通、ああいう動きをしたら、次の動きはこうなるよね?それに敵がおかしな素振りを見せたら超反応で対応して瞬時に見切れるのにこのゲームの弾全然避けれないんだけど!」

「まあ、そういう風に作ってあるから……」

「ああ、もうつまんない!なんで敵の弾に当たったら敵を殲滅してバラバラにできないの?№3、あなたもそう思いますよね?」

「あっ、はいそうですね」




「どうも私に向いているゲームはありそうにないですね。まわりのレベルが低いみたいです」

「まだやってないゲームは山ほどあるけどな」

「あ、そうです恋愛シミュレーションゲームはありますか?」

「ないよ」

「嘘をつかないでください。エロゲだから隠しているんでしょう。白状しなさい!」

「いや、エロゲって高いんで」

「おかしい、おかしいですよ。こういう時にエロゲの話題を出せばこちらの主導権を取り戻せるはずなのに、そんなこと言うなんておかしくないですか?」

「おかしいのはお前だ。それにどこ情報だ」

「局長です。ああ、なるほど本棚にあるんですね」

「おい、やめろ」

「安心してください、全殺しで済みますから」




「最悪ですね。有名古典ブランドのエロゲーの中古の本しかありません。ここにはそこしれない悪意を感じます」

「もういいだろ」

「それ以外はタイトルもジャンルも可能な限り種類だけを集めましたって言う感じで、自分の趣味を絶対に特定させないぞという強い意志が見えます」

「そんなんじゃないから」

「ほんと悪趣味ですね。まあでも全体を俯瞰していくと、まあ傾向が見えますよね」

「人のイメージを勝手に作り上げるな」

「うん、うん、あーやっぱりね。そういうことですか。理解しました」

「もういい、出かけるぞ」



「公園です」

「公園だな」

「それだけですか」

「それ以上に何があるってんだよ」

「いやもうちょっとこう、愛想とかなんとかあるんじゃないですか」

「いきなり押しかけられてそんなこと言われてもなぁ」

「ほら子供がいます。かわいいですね」

「そうだな」

「ブランコがあります。あれに乗りましょう」

「まあいいけど」

「……」

「……」

「風が気持ちいですね」

「ああ」

「こんな何もイベントが発生しないデートがあるんですか?」

「これデートだったの?」




「ショッピングモールに初めて来ました」

「お前は服装とかに興味はないのか」

「局長に合う服とかあればいいですけど私は自分で好きに選びたいですから」

「そうか」

「……」

「……」

「ここは俺が選んでやるとか言う場面じゃないですか?」

「そうか」

「話聞いてますか」

「そうか」

「聞いてないですよね」

「うん」

「あなたもてそうにないですよね」

「そうだな」

「あなた私に人間らしさを教えてくれるつもりあるんですか?」

「ねぇよ」




「最初から本屋みたいな場所に来ればよかったですね」

「見るところがそれくらいしかない」

「占星術の本とかありますよ」

「星の影響ね。あまり信用できないが」

「まあ、そう言わないで見てみましょう」

「『進化の流れ』と『創造の光線の下降』か。あまりよくない譬え方だが」

「太陽と地球の位置を双極的に交換可能にして、それに月を影ごと汚染しつくす殲滅の銀河から崩壊の創造として核に引きずり込まれる歪曲の恩寵が私たちの星の時間の空白だから?」

「占星術を大半の人間に気質の多様性として適用可能にしてしまった普遍的システムの階層化が嫌いなだけだ。占星術が利用可能なシステムとして経済的に全面化されてなければまだ形態の生成素材としての価値はあったが」

「そんなこと言って、占星術で図星な説明がいくつかあるからでしょ」

「それは否定しない。それが他律的であるかどうかはどうでもいいが」

「まあ占星術から言えば私たちは毒をもつ夢見る機械みたいなものですから」




「ライトノベルのコーナーね」

「生産性のないラブコメが読みてえよ」

「さっきと随分態度が違いますね」

「あいつがうるさいんだ」

「ああ、あの方ですね。相変わらずぶち殺すものばかり読んでるんですか」

「発狂しないと音楽のイメージが湧かないんだと」

「ああ、わかります」

「わかるな。単に表現のエンコードの手段が間違っているだけだ」

「だって、人間の感情がどうとか読んでも退屈ですしね。調律された狂人もただのおかしい人たちでしかありませんし。もっと豊かな壊れ方をして人格破綻者もちゃんと生活できる世界にしたいですね」

「サイコパスと人格破綻者を同列に並べるのは止めろ。進化的に誤解されたらしょうもないことになるぞ」

「でも私たちの創造の自己表現って本質的にそういうことですよね。光のないところから燃え出して闇の暗さを照らすものが福音の言葉ですから、単なる降下する光では成長しても炎上して私達には届かない。それが剣の意志の選択であるかのように実りの犯罪の正当化に使われることが嫌いなんですよね」

「まあ、それで逆にぶち殺すわけだな。やってられるか」





「少し休憩しましょうか」

「いや疲れた。まじでエネルギー吸われるな」

「間接キスで栄養補給でもしますか」

「やめてくれ。頼む」


「あれ、我の眼に狂いがなければあなたは№2様では?」

「何かいい感じだったけどお邪魔しちゃったかしら」

「お久しぶりです、№2さん。あの時は本当に助かりました」


「……知り合いか?」

「はい、前に襲われていた彼女たちを助けたことがあって、それで知り合いに」

「そうか、そいつは迷惑をかけたな。俺は……まあ青年Aでいい」

「いや、我にもしてもそれはどうかと思うが……」

「私達も【ルーキー】A、B、Cにする?」

「略称がすごいですね。まあ私達はそれでも文句は言えませんが……」

「なら私がいい名前を付けてあげる。【邪眼ちゃん】【二律背反ちゃん】【蒸留ちゃん】、これでどう?」

「我の名前が安っぽくないか?」

「まあどうでもいいわね」

「私はそれで構いません」

「ああ、あとこの青年Aは【自殺マゾ太郎】でいいわよ」

「おい、やめろ。おまえだって【人殺フィードバック機構】とか呼ばれたら嫌だろ。訂正しろ!」

「しょうがないわね。じゃあ全員記号で呼ぶことにする。ルーキーのみんなもね。私のことは№2って呼んでね」




「せっかくだからみんなで改めて自己紹介するっていうのはどう?」

「略称を決める前にそれを言うべきだった」

「我は構わないぞ」

「同じね」

「はい、それでいいと思います」

「じゃあ私からね。私は№2【パーフェクトノービス】。好きなものはせんめ……じゃなくてありとあらゆる手段を使って相手の存在を生命から引き抜くことよ」

「おい、変わってないぞ。むしろ悪化してるんだが」

「我の聞き違いか?我達を助けてくれた人と別人か?」

「乗り移った身体の人の影響を受けるのかしら?」

「え、じゃあ私の時はああいう___」

「ううん、違います。影響を受けるのは乗り移られた側の人間の方だから、私の方は影響はないですよ」

「こいつの言葉はすべて素だぞ。たまたま能力のトリガーが人を助けることに特化しているだけだ」

「我の眼をもってしても見抜けなかった……」

「概念の自己否定ね」

「不思議な方ですね。では苦手なものは何ですか?」

「苦手なものは、その……ホラーゲーム」

「ホラーゲーム?我の好物がか?」

「虐めがいがなさそうなのに、そんなものが苦手なのね」

「怖いものは、強さと関係ないということですね」

「あまり深く突っ込まないでやってくれ。じゃあ次は俺だが、青年Aの自己紹介と言っても【空白のカード】もまともに使えないし、【ルーキー】にすらなれない出来損ないってところかな。№2とは昔の腐れ縁で知り合いなだけだ」

「我の直観が囁いている。怪しいと」

「まあ、単なる青年Aが№2と一緒にいるっているのはねぇ」

「うまく言えませんけど、ただ者じゃないんですね」

「青年Aさんも随分と高く評価されるんですね。全部本当のことなのに。ふふふ」

「うるせぇ。好きなものはゲームで嫌いなものは……」

「妹と自分ですね。はいはいわかってますよ。じゃあ【ルーキー】の皆さんもお願いします」

「次は我らの番だな。我は【カオティックアイ】!」

「【マッチポンプディスペクター】よ」

「【ディスティレーションツリー】です」

「好きなものは混沌、嫌いなものは平凡だ!」

「好きなものは欠陥、苦手なものは調和よ」

「好きなものは整理整頓で、嫌いなものは乱雑です」

「ありがとうございます。いいキャラクターですね」

「俺も【ルーキー】になれたらこんな感じなのか……眩しいな」

「あなたはコミュ障家族依存社会不適合ルール違反性格破綻者でしょ。無理じゃない」

「おい、ふざけるな汚染サイコパス。お前だって殺人しかできないだろ」

「私は人を守るために活動してます。それに引き換えあなたは無差別殺人とか精神崩壊とかひどいことばかりしてますね。最低」

「初心者の体を奪って、精神汚染と殺人行為にいそしむのがそんなに高尚なのか?」

「お二人は仲がいいのだな」

「似たモノ同士ってところね」

「気が合っていると話が弾みますね」

「「どこが?」」




「お二人は付き合っているんですか?」

「はたから見たら確かにカップルに見えるわね」

「我の眼からは二人の絆の契りが見えるぞ!」

「言っていいことと悪いことがありますよ【ルーキー】さん達」

「それは誤解だ。互いの存在の性質が引き寄せ合うものだから、そういう風に見えるだけだ」

「おー」

「すごい発言ね」

「そんなこと素で言えちゃうの?す、すごい!」

「あなたの悪いところが存分に発揮されてますよ。青年Aさん」

「お前の態度がそれを匂わせたからだろ、№2」

「気をつけてくださいね、【ルーキー】さん達。この青年Aさんはこんなこと言ってても、平気でその人間を殲滅しようとしますから」

「図星を指されて後ろめたく否定する人間もいれば、それを額面通り利用してしまう人間もいる、そして№2は後者の存在だ。気をつけろ」

「私達は何を見せられているんでしょう?」

「のろけね」

「これは、創作に、使える!」

「……」

「……」

「私の空虚の無差別性は少し改めるべきかもしれません。もう少し衣装を着けた方が……」

「俺の境界侵犯のテリトリーのなさは改善するべきかもしれない。じゃないと反応的にどいつもこいつも好きってことになっちまう……」

「はぁ」

「はぁ」




「それであの後の壊変の影響は大丈夫ですか?」

「№2の能力を受けた後だと、思考が硬直するか爆発するかしやすくなる傾向にあるが」

「ええと、それは私の元々のキャラクターの能力が試行樹蒸留で思考をまとめることだったので、発想の飛躍を生み出しやすくなりました。まあ、ちょっと妄想がはかどり過ぎるって副作用もありますけど……」

「まさかあなたがあっち方面に行くとは想像もしなかったわ」

「闇落ちはもっと邪悪な感じでやってくれないと我も困るぞ」

「いや……その……それはあまり言わないでください」

「?まあ、身体が大丈夫ならそれでいいですけど」

「お前みたいにならないだけましということだ」

「そうですね、あなたみたいにならないだけましですね」

「私達やっぱりお邪魔だったみたいね」

「我もそう思う」

「あはは」




「それじゃあここで。お話が聞けて楽しかったです」

「まあ、いい暇つぶしにはなったわ」

「また会おう、我の同胞よ」

「ええ、また。できれば会わない方がいいですけどそれはそれで」

「こいつの話を聞いてくれてありがとう。礼を言う。じゃあな」


「いろんなところに行けて今日は楽しかった」

「びっくりするくらい何も起こらなかったな。まあそれがいいんだが」

「それでもう一つお願いがあるんだけど」

「夜空を見に行くとかは止めてくれよ。何もないからな」

「局長が開く失敗パーティに参加してもらいたいんだけど」

「断る」

「生活管理局に入れとかじゃないの。ただパーティに参加してほしいだけ」

「いまさら俺が行ってどうする?気まずいだけじゃないか」

「でも、あなた今のままでいいとは思っていないでしょう?」

「……」

「あなたが家に留まって何もしないのは双方デメリットしかないの。あなたが生活管理局に入りたくない気持ちはわかるけど、それでも何か変わってほしいの」

「局長の命令か」

「局長の祈りよ」

「……」

「自分の好きなものを空白にして、その優しさだけを身に纏うことができるからといって、それであなたの愛情が満たされるわけじゃないでしょう?違う?」

「やめろ」

「あの時も、そうだった。あなたは自分の好き嫌いを無視して単にあの方の影響を愛であり続けようとする自分を演じるためにあの方を『助けた』。だから何もないのに罪の偽装だけを背負ったんでしょ。それでそれを確認するために何度も取り返しのつかないことで失敗しようとする。罪を重ねることで罰を清算するなんておかしいと思わないの?」

「黙れ」

「あなたが何をしても罪にならない理由はそれよ。誰に対しても優しさでしか動いていない。いくら利己的に振舞おうとまるで愛情が伴わない。だからそれが罰になった。血縁の意識も制度としての家も初めから何もないから家族関係を抜け出せず創造的な自己分割からすべてを愛として与えようとし続ける。局長はそれをだと認識した。制度化されない奉仕の無駄遣いだと」

「お前が、それを言うのか。【同位体】のお前が」

「【同位体】だから私も局長もそれを指摘できるんでしょ。他の人間じゃうっかりトリガーにひっかかって回帰するのがオチだもの。それにあの方にはそれができない。だってそれがあの方の愛の相姦の根源なんだもの」

「……」

「皮肉よね。すべてのものを包み込む容器でも、その鋳造の欠落は満たせない。確かに塩辛くない分割された水にとって首はいくらでも洗礼次第で変えられるけど、その歪曲は周囲の振動を一層ひどくする。だから普通の器に満たされた人間はことごとく不愉快な思いをしてそれでテリトリーを犯し、忘却の律動トリガーを引いてしまう。それなのに自分だけはそれを隣人の普通の状態だと考えるなんて呆れるわ」

「くっ」

「あなたが社会不適合なのは構わないけど、社会をそれに合わせようとするなんて迷惑でしかない。技術と愛の水準は違う。さっさと陰謀と不正は正し、間違いは認めつつ邪悪は葬って、組織と適正な基準を取り戻したら平和と正義の心を持ちつつ別の場所で幸せに暮らせばいいのよ。そのために生活管理局があるんだから」

「ぐぐぐぐぐ」

「暴虐の律動で群体としての人類を塩の柱にしてしまう必要はない。十字架は永遠が必要な人だけが持てばいい。責任を取れる人間が動きやすい世界にすればいいだけ。奴隷はいつまでも奴隷なのだからそこまで罪を被る必要はない。隣人愛は隣人愛として必要な者に与えるべき。だからそれをさせない仕組みやしがらみを破壊する。何も世界の根源ごと隣人を愛で破壊する必要はない。世界しか救えない無能でもその程度のことはわかって欲しいわね」

「言いたい放題言いやがって……」

「ほら、失敗パーティに参加する気になった?おとなしく敗北を認めなさい。それで局長も帰ってくる」

「お前、今回の命令は、本当は……」

「『被害は問わない、殲滅しろ』、でしょ。当たりまえじゃない」







「№2からの報告は以上です」

「いやあ、今回の敵はひたすら雑魚だったわね」

「お疲れ様です、局長」

「№4の様子はどう?」

「部下たちの失敗談を聞いて、自分の昔話をしているようです」

「そう、これで彼も【家祖】から解放されるといいわね」

「はい、そうですね」

「それで青年Aさんの方はどうなったの?」

「それが№10のキャラクター効果を使って逃亡したようです。№6と話すのが気まずいとかいう理由らしいです」

「……」

「あの、局長?」

「あのバカ!信じられない!ここまでお膳立てしたのにふざけんてんの?お母様まで辱めて!あのヘタレぶち殺す」

「局長、落ち着いてください。№10がこんなこともあろうかとマーカーを付けていたようです」

「そんなのとっくに壊されてるわ。そういうところだけは抜かりないのよね。また№2に見つけさせないと」

「待ってください。これ以上局長に休まれたら困ります」

「おや局長、君が失敗パーティにでなくていいのかな」

「№1様、ちょうどいいところに」

「旧№3は今回の殲滅では対処できなかったようだな。まあなんとなく理由は想像がつくが」

「無能が珍しく何か助言をしてくれるの?」

「いやはや簡単なことだよ。【同位体】だからできることがあるように、【同位体】としてはできないことがあるという話だ」

「なにそれ」

「この件だけは№2と局長は理解できないというべきかな。他のみんなはわかってることだが」

「は?」

「近親相姦はいけないことだ。これがわからないのが君達の家系だが、君と彼の関係は別に近親相姦じゃないということをだよ。№3と№6も気まずさもそこにあるんだろう。まあつまりあれだな。預言者がらみの事に関しては『カイザルのものはカイザルに返せ。そして神のものは神に返せ』ということだな」

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