第8話

「魔法少女が現れた?」

「その通りです、ランカー№8【金融輪雅令嬢】様」

「生活管理局からの通達は?」

「被害は問わない、殲滅しろ、との命令です」

「わかりました。武装召喚士達を集めてください」

「了解です」


ボクはこの状況で起こりそうなパターンをデータベースに問い合わせてみた。これはどういうことだろう。№5を使えばうまくいくと書いてある。局長の希望なのかな。いつもは№5は№6と一緒に仕事をしているみたいだけど。ボクと組み合わせるのはあまり相性が良くない気がする……。でもデータベースが示していることは大まかなラインでは正しいから、これをどう料理するかはボクの仕事かな。それに、


「魔法少女が現れた、ね……」


確かにこれはボク向けの仕事だけど、肝心の仕上げはボクの出る幕じゃなさそう。だから最大限のお膳立てをすることが求められている。そういうことかな。じゃあ今日のチャート分析を始めよう。




「今回の大会の噂を聞いたか?」

「ああ、なんでも人権級のキャラクターを発見するための大会らしいぜ」

「生活管理局の主催か?」

「そうだ、№8をスポンサーとして開催するらしい。人権級と見なされたキャラクターには資本提供と彼女の【お嬢様資金プールトークン】によるバックアップメンバーのサポートを【空白のカード】の収益化プロデュースに当たって受けれらるらしい」

「人権分割のニュートラルネット物品販売のコラボも同時に決めるんだろ。お前やってみればいいじゃないか」

「いやぁ、俺はチョットね」

「なんでだよ、いつもなら№8の資産流通に乗っかかるところだろ」

「それがさ、今回なんかきな臭いみたいなんだよ」

「ん?」

「どうもなんか雲行きが怪しいみたいでな。俺は参加しないことに決めた」

「そうか、なんだか面白そうだな。俺は見に行ってみるぜ」

「高みの見物ってやつだな。せいぜい気をつけろ」



「コ、コンニチハ」

「こんにちは、№5。もう知っているけど改めて。ボクは№8【金融輪雅令嬢】だよ。よろしくね」

「は、はい。№5【ノーマルチアシープ】です……ヨロシクオネガイシマス」

「そう緊張しないで、ボクも有名な№5と会えて緊張してるんだ。ただ今回は大会を主催するにあたってどうしても君の協力が必要なんだ」

「ほぇ?」

「生活管理局の№5といえばエースだからね。自然と期待が集まるわけさ。ただ君も知っていると思うけど基本的に上位の【ランカー】たちはあまり人付き合いが得意じゃない。人にどうするべきかを身を以て命令するのは得意だけど自分がどうであるべきかを他人に示すことはあんまりしないから誤解されても積極的に理解を広げようとはしないんだ。理解を求めた時に追い立てられることがあると彼らは知っているから人間関係を仮面舞踏会の様なものだと思ってる。どちらかと言えばボクもそうだし局長はもっとそうだと思う。だから君は貴重な存在なんだ」

「そ、そんなことを言われても……」

「まあ、君は難しいことを言うよりやってみてできるタイプだから心配していないよ。ただ今回は魔法少女が相手だ。だから一筋縄ではいかないかもしれない。そのときにボクのサポートが必要なら遠慮なくそう言って欲しい。ボクがお願いしているのはそういうことさ」

「ええと、はい、と、とにかくやってみます!」

「うん、頼んだよ」

「シ、シツレイシマス!」



はぁ~。なにこれ、いきなり偉い人に会ってすごいこと言われたけど全然何も思い出せないんだけど。絶対№の数字の付け方まちがってるよ局長。えっと、大会だっけ?

うん、わかりません。考えても無駄です。よし頑張るぞ!




「【断片の魔女フラグメントウィッチ】様、大会に出る№5の分析が終わったのですが……」

「はい」

。こちらの圧勝です」

「それは厄介ですね」

「はい。この大会の勝負の本質が競技である以上、何らかの意味で比較を行わなければ優劣をつけられません。しかし№5には彼女の得意分野以外のことではほとんど誰でも大差をつけて勝利してしまいます。つまり差別化という点においてに近いです」

「【神廻ループパッチワーク】で奇跡を呼び起こせる可能性は存在する?」

「実際にやってみなければわかりませんが、おそらく難しいでしょう。奇跡を呼び起こす場面に至る前に勝ててしまうのですから」

「なるほど、では彼女に心の強さで勝たなければならないわけですね。でもそれならそういう勝負に巻き込むようにループを調整しましょう。それなら私にも勝ち目があります」

「なるほど。了解です」

「それと№8のことなのだけれど」

「いかがなさいました?」

「彼女は自分が有利な状況でしか動かない人間よ。だから常にこちらにとって有利な状況にループを維持できれば彼女は№5を助けない。もちろんだから№8は逆境でも決して自分に負けない№5を今回の大会の人権基準にしたんでしょうけど、№5は客観的状況で惨いことになる展開に耐性があるわけではない。それは魔法少女の強さね」

「№8のことをよく知っていらっしゃるんですね」

「昔の話よ……」

「では、【神廻ループパッチワーク】をそのように調整してデータを増やして参ります」

「ええ、お願いする」



「№8様、【空白のカード】の用意とユニット召喚の準備完了しました」

「お疲れ様。大会当日になったけど何とか間に合ったね。さて諸君、大会の設営準備本当にご苦労だった。ボクからお礼を言わせてくれ」

「いえ、№8様も各種連絡や調整などで忙しかったでしょうし、お互い様でしょう」

「そう言ってくれると助かるよ。さてボクは投資仲間に余剰資金を今回の大会で人権基準のキャラクターに割り当てられないかをもう一度相談してくる。君たちには【お嬢様資金プールトークン】を預けておくよ。リアルタイムでの送金手続きやニュートラルネットのアクセスが集中してきたら、別のクライアントを作って【令嬢サーバー】に情報を移しておいてくれ。後でボクが【金融輪雅令嬢】を召喚して資金の流れを把握しておく」

「わかりました」

「№5の健闘を祈ろう。そして大会を成功に導こう」

「仰せのままに」



ひつじ:「もうすぐ大会がはじまるよー」

名無しの呑兵衛:「緊張してないか?」

ひつじ:「き、気のせいだよ」

ひつじ:「ゴメン、やっぱり緊張してる」

にゃんこマン:「見に行くから緊張してて」

kuroron:「俺も見に行くから緊張してて」

ひつじ:「もう!ありがと!」

暁:「羊ちゃん頑張れ」

4:「羊ちゃんがんばってね」

局長:「羊ちゃん、気をつけて」

ひつじ:「うん、みんなありがと。私頑張るから!」

名無しの呑兵衛「じゃあ行きましょう」




「【神廻ループパッチワーク】の今回のループ調整におけるデータが集まりました」

「よかった。こちらも【死体人形縫合】のギミックを構築し終えたわ」

「生命ストックの収穫は順調です。魔法少女部隊はいつでも動かせます」

「後は人権級キャラクターに偽装して自動化破滅シナリオを組み込むだけね」

「はい、ループが繰り返される度に惨劇の幕が開けることを知れば、№5もきっと尻込みをすることでしょう」

「犠牲のない勝利はない。それは競技のような形式でも同じ。負けてきた数多の人たちの人生ループを踏み越えて私達は存在する。故に」

「負けることは許されない。人権級キャラクターを認めることはそれを忘れることと同じ」

「【断片の魔女フラグメントウィッチ】が宣言する。宴の始まりだ」




「さあ、始まりました。人権級キャラクターを発掘する創造のプロジェクト。【礼装の王宴】。今回実況を務めますはわたくし№16【マネジメント・マジシャン】と」

「№1【タキオン・ドライブ】がお送りするぞ」

「さてこの【礼装の王宴】とはどんな大会なんでしょうか?」

「基本的には特定のデバイスや媒体から何らかの登録されたキャラクターを使い、自身の創出の差異化点を表現してもらうことでキャラクターの生成を促し、それを資本を使って広げていこうという競演だな。ただし、それは他の参加者とバトルをすることもありうるということだ。ちなみにキャラクター登録は運営キャンプで行っているぞ」

「ルールにより過度の直接的暴力、殺傷、洗脳行為などは禁じられています。エッチ過ぎるものも自粛してくださいね」

「性的な体技も興味深いが、この大会の趣旨は資本の創出だからな。性的行為は定義違いというわけだ。もちろん性的表現は禁止されていないので各自考察を深めてくれ」

「では大会主催者の言葉を聞きたいと思います。№8、お願いします」

「№8です。今回の大会でより多くの人権級キャラクターが創出されることを願っています。我々バックアップチームも全力を尽くしますのでご協力をお願いします」

「ありがとうございます。ではこれより大会の開始を宣言します」

「さあ、諸君、新たな意志を見せてくれ!」

「【礼装の王宴】開始です」




「見つけたぜ№5」

「見つけましたわ№5」

「あなた達は№11【強食進化レックス・アダプター】と№22【喜劇盆栽サボテンテン】!」

「嬢ちゃんに覚えてもらって光栄の至りだな」

「私達もあの時のことは忘れていません」

「え、じゃあ」

「リベンジマッチだ!武装召喚士を用意しな」

「あの時の私達ではないということを思い知らせてあげましょう」

「ええ、いきなり?でもまあ、そのための大会だし……みんな準備は大丈夫?」

「大丈夫です。いつも通りやってください」

「「【空白のカード】キャラクター召喚!」」




「№7様、ルール違反者を拘束しました」

「よくやった。さて今回の大会では過度の暴力行為は禁止であるが、どうしてそのようなふるまいを?」

「あ、あいつが俺のことを悪く言いやがったんだ。だから思い知らせてやろうと」

「なるほど、言い分は理解した。ここで起きたことは罪には問わないが、大会の参加者としては失格だな。連れていけ」

「はっ」

「くそっ、人権級キャラクターになれるチャンスが……」

「これで何人目ですか?」

「もうわからん。だが昔よりはマシになった。何が何でも【空白のカード】で抜き出しを行う処置よりはな。いまはキャラクターのバリエーションと効果が研究されたおかげで拘束で済むが、あの頃は何度も局長と方針をめぐってやり合ったものだ」

「なるほど、№7様はだから信頼されているんですね」

「よせ」




「魔法少女部隊の潜入は順調?」

「はい、他の参加者達に混じりながら【空白のカード】を利用して、自らの個性をアピールしています。トラブルなども起きていません」

「【死体人形縫合】のループギミックは設置し終えたわ。【空白のカード】の効果の一環としてあるオブジェクトだから、起動するまでは解除できないでしょう」

「残りはどこでループのスイッチの起点を作るかですね」

「№7の仕事が少なくなってきたころを見計らいましょう。彼の仕事は正確だからいい目安になるはず」

「違反者が少なくなり、ある程度魔法少女部隊で操作可能な範囲まで人数を絞り込めたら計画を実行するわけですね」

「そのときまでには生命ストックの出力を演算し終えると思うわ。そうすれば惨劇の舞台に№5を効果的に巻き込める」

「他の№のことはいいんですか?」

「私達では協力しあう【ランカー】達を相手に勝つことはできない。どんな【ランカー】でも協力した時の相乗効果を侮ってはならない。私たちにできるのは自分に有利な一番弱い相手を選んで確実に殺す事よ」

「その通りですね。では機を待ちましょう」

「ええ」




「№8様、会場にいくつかの不審なオブジェクトが設置してあります。これは魔法少女の部隊が設置したものではないですか」

「そうだよ」

「ではどうして放置しているのですか?」

「ボクはこの大会の主催者だからね。【空白のカード】を用いた種類の効果および召喚物に介入する権利がないんだ」

「それは形式的すぎませんか?他の誰かに解除を要請することも可能ではないですか?」

「確かにそうすることもできる。ただその解除をすることで相手の計画を実行するタイミングを早めてしまう。それは犠牲者が多くなる可能性がある。だからボクとしては最大限リスクを減らしておきたいのさ」

「それは相手の思うつぼなのでは?」

「かつて生活管理局で局長以外に相手の思うつぼにはまらなかった人間がいただろうか?まあこれは誇張だとしても生活管理局はそういうもので勝つわけじゃない。とはいえ君たちの不安ももっともだ。だからこの【令嬢承認トランザクション】を持っているといい。これが適切な時で役に立つはずだ」

「わかりました。この大会での指揮権はあなたにあります。仰ることに従いましょう」

「ありがとう、恩に着るよ」




「あっ№7さん」

「№5か。相変わらずのようだな。こちらはちょうど一段落ついたところだ」

「はい、とりあえず前にもらったアドバイスのおかげで№11と№22に勝てました!」

「『自分のルールの弱点を探し、殺し合いをさせろ』だな。まぁ、あのアドバイスであそこまで自分にポジティブになれるのは君くらいだろうからね……。しかし私としてはルールを適切に生かしてくれる者が増えるのはうれしいよ。他の№はあまりそういうことに向かないからね」

「ありがとうございます!私ももっと頑張って、№7さんみたいにちゃんとしたいです」

「……そうする必要は全くないと思うが、まあ君なりの応援として受け取っておこう」

「はい、お仕事頑張ってください!」

「ありがとう。部下たちにも伝えておくよ」




「さあこの【礼装の王宴】もとうとう終盤戦。残ったキャラクターには全員人権級の資本提供が与えられるぞ!ここからは資本提供を受ける際の差異化や非対称性が着目されるはずだ。それをどうキャラクターの構築として召喚していくかが腕の見せどころだ。ところで可愛いキャラクターもたくさん残っているわね。とても嬉しいわ」

「キャラクターの生成も競演の繰り返して構造に対して成長の余地が生まれたはずだ。それを私に見せてほしい。場合によってはデッキ構築システムのスターターキャラに抜擢されるかもしれないからな」

「そうね。だからやっぱり可愛いキャラがいいわよね。ほらやっぱり正義だわ」

「そこまでだ。もう少しの辛抱だから抑えてくれ」

「ほぉぉおぉぉぉぉぉぉおお」

「やめろ」




「今ね。【神廻ループパッチワーク】【断片化フラグメント】」

「【死体人形縫合】の適合率80%。魔法少女部隊、反転開始」


ガラスが割れる音が聴こえる___


「何が起こった?」

「№7様、【空白のカード】を使っていた者たちがいきなり反転して模造預言者のようなものに!」

「落ち着け。確かにこれは模造預言者と似ているがそれとは違う。見ろ、我々の【ルール】が効かない」

「そのようです。そうであるとすればかなりまずい状況では?」

「まず会場の安全を確保することから始める。武装召喚兵を召喚しつつ私に続け」

「はっ」



「№16、君にこの状況を打破する名案はあるか?」

「あるわけないでしょ。私に戦闘は専門外よ。あなたはどうなの№1?」

「どうやら物理的な損傷では倒せないらしい。しかも竜化の力でも駄目だ。今できるのは君の安全を確保することくらいだ」

「ちょうど私もそう思っていたところよ。ただあの反転者達の存在の解析結果は№8に送っておくわ。だからデータを送るまでの時間を稼いで」

「わかった。時間稼ぎなら私の出番だな」

「まったく、可愛い子たちを反転させるなんて許せないわ!」




「え、え、これはどういうこと?」

「わかりません、№5様。通信が途絶えて、会場が謎の反転者達に強襲されたようです。他の№達は参加者の安全を確保するために動いています」

「私達にできることは?」

「まずは私達自身が他の№の方々と合流しましょう。方針を決めるのはそれからです」

「うん、わかった。【重撃音限グラビティソニック】でいくよ!」


「それはご遠慮願いたいわね」


「誰?」

「こんばんは、初めまして。私は【断片の魔女フラグメントウィッチ】。魔法少女部隊の統率者よ」

「???」

「こういえばわかるかしら。『あなたを殺しに来た』ってね」

「な、なんで?」

「あなたが一番弱いからよ、心以外がね」

「う、うううう」

「でもあなたをただ殺すだけでは他の人間の心の中に意志が受け継がれる。だからあなたにはこの大会の形式でルールにのっとって死んでもらうことにするわ」

「さ、殺傷は禁止なはずだよ!」

「ええ、意図的な殺傷はね。でもあなたの精神的敗北を通じて心を殺すことは禁じられていない。そうすれば生活管理局は致命的な打撃を受ける」

「て、てき、みんな、【空白のカード】を!」

「無駄よ。他の者はこのシナリオからは断片的に【排除】された。このシーンであなたの助けが来ることはありえないわ。これはループを通じて得た重みの真実」

「私一人……」

「そう、あなたがいくら他の人間に圧倒的な勇気を与えるとしても、今この状況で独りであることに対しては何の関係もない。そしてそうなったときあなたは純粋な力で私に立ち向かうしかない。もちろん勝ち目がないとわかっていたとしてもね」

「そ、それでも、私はもう逃げないって決めたんだ!」

「そう、その通りよ。だから私を殺してみなさい」

「えっ?」

「私はこの状況を作り出すために大勢の他人の人生の可能性をつぶしてきたわ。それを今から見せてあげる」

「ぁ、ぁ、ぁあああああ!」

「そう、あなたが勝ったせいで私たちは【希望の翼】の組織から粛清される。何度も何度もそれを繰り返して、他の№の行動を出し抜き、ようやくあなたと一騎打ちで勝負をつけられる状況を作り出したの。その重みは犠牲となった魔法少女部隊の人生の可能性。その連鎖を超えられるのなら、私を殺しなさい」

「ううううううう」

「ただし、私を殺さないという選択肢もちゃんと用意してあげる。そうしたら、私はあなたを殺してあなたの人生の可能性の分まで【希望の翼】で魔法少女部隊の人生を預かるわ。さあ、あなたは自由よ。選んで」

「そ、そんなの選べないよ!」

「大丈夫よ、それなら私があなたを殺すから」


どうする、どうすればいい?

私の力が足りなかったの?

私の勇気が足りなかったの?

それとも、私の頑張りが届かなかったの?

それは、私の光が暗くなるということ。

ああ、なんでこんなことに?

でも諦めたくない。こんなときに頼れるものは?

そういえば№8が____



「やっとボクのことを思い出してもらえたようだ」


「な、№8!あらかじめ仕込んでいたのか!」

「その通り。魔法少女が来るとわかっていて何もしないなんてありえないよ」

「しかし、お前の部下たちが【死体人形縫合】で動けないはずでは」

「【神廻ループパッチワーク】は時間を正確に決めた位置から死をやり直せる。でも【令嬢承認トランザクション】はその時間域に承認のトークンを形成して、それを認可するまで別の場所でループさせておくことができるんだ」

「昔はそんなことは……」

。だからこれは局長の執念とキャラクター研究のおかげだね」

「くっ、だがお前に戦闘能力そのものはない。直接戦闘で私に勝てるはずがない。№5ごと葬り去ってくれる!」

「№8、危ない!」

「だから言っただろう。魔法少女を相手取るのに何の準備もして来ないはずがないと。確かに【金融輪雅令嬢】は戦闘向けのキャラクターじゃない。でも局長からこれを預かってきた。【MDMメルトダウンマジック-シスターズノイズブレイク】起動」


『与えられた選択肢より、より一層悪い暴虐を召喚条件を無視して壊変召喚する』


「さあ、№5、君の力を借りるよ。ボクも【スターターデッキ:ふわふわの応援歌】を用意してきたけどそれだけじゃ足りないからね」

「ええと、うん、任せてください!」


クロックシーケンス起動。ブレイク、ノイズ、ノイズ、悪性ループ構築。さらなる悪化を構築、ブレイク、ノイズ、ブレイク、ノイズ、律動トリガー


「わ、私達の【断片化】の力が失われていく。【神廻ループ】が、未来が繋がらない、網目が視えない!か、返して、それがないと【希望の翼】に!」

「大丈夫。君たちの未来の【希望の翼】は存在しなくなった。№6が今頃切断殺戮しているはずさ。№5が襲われるのがわかっているのに彼女が来ないなんて不自然だと思わなかったのかい?」

「ま、魔法少女部隊は?」

「【お嬢様資金プールトークン】に回収された。反転分も含めてね。資金を投じて容量を増やすのが最大の難点だったよ」

「私達の努力は、犠牲は……」

「それは叶わない。私たちの新しい技術の暴虐で殲滅された。君たちはもう犠牲を払えないんだ。当然自殺も【認可しない】よ」

「うっ、うううう、それなら、なぜあの時、私を見捨てた……」

「ボクはあの時の自分が許せなくて生活管理局に入ったんだ。だからそのこと関してボクから言えることは何もないよ」

「____もう、いいのね」

「ああ、いいんだ」

「じゃあ、私の生きてる意味は?こんな哀れな私を殺さない理由は?ただの拷問じゃない?犠牲を受け入れた私が愚かだったの?はっ、その通りね、だから私は___」

「___そんなことないよ!」

「№5……」

「そんなことで自分を責めるなんて甘えだよ!自分が幸せになることから逃げてはいけないんだ。そうしないと人は笑顔にならないから!」

「何を、偉そうに……」

「その点だけは私はんだよ!そのことで攻める資格がある。だって明るさを手に入れられない多くの犠牲が出たのにあなたがそれを選ばないなんて、それこそその人達を侮辱することだよ」

「……」

「だから、私と一緒に歩こう。大丈夫、まだ頑張れる。まだ全然絶望してないよ。こんなことで絶望してたら、世界中の人に笑われる。昔の人の努力を無視しちゃダメ。きっとあなたの魔法少女部隊もそれを待ってる。それこそがあなた達の【礼装】だよ。さあ行こう、頑張ろう!そして光を探しに行こう!」


こんな、ガキに

こんな、弱さに、

こんな、甘さに、

なぜ……


「はぁ、___私の負け。もうどうでもいい。好きにして」

「うん、好きにさせてもらうよ」

「やれやれ、やはりボクは締めにふさわしくないようだ」



そして【礼装の王宴】が終わり、魔法少女たちは反転から殲滅的に救い出された。

生活管理局の圧倒的な暴虐は彼女たちの反転を無力化して制圧した。

そして多くの人権級のキャラクターに資本が押し付けられ、彼らの生成に収益化が取り付けられた。

そして、【断片の魔女フラグメントウィッチ】は『殺され』、それを粛清するはずの【希望の翼】の支部も殺戮された。

後に残されるは希望なき荒野と、復活の祝宴____






「今回の【礼装の王宴】の№8からの報告は以上です」

「いやあ、羊ちゃん大活躍だわ、やったー」

「局長……」

「それに【MDMメルトダウンマジック】もうまく機能したみたいだし」

「その点については№8の心的容量が深すぎるだけの気がしますが」

「まあ、利用できる【ランカー】がいるだけでも十分な成果よ。開発チームにも称賛を贈らないとね」

「今回の大会で人権級のキャラクターがループ構造を生成できるようになったようです。これは№8の資本提供の元、成長データを与えて、召喚の機能を深めるようです」

「それは問題ないわ。そのまま続けて。後は……」

「やっと帰ってこれたぞ」

「疲れたわ。可愛い子の記憶で早く一杯やりたいわ」

「ご無事で何よりです、№1様、№16様」

「無能どもの処分ね」

「あ、いけませんよ局長、人に無能と言ったら、早くその人に謝ってそれを取り消してもらわないと、どこまでも地獄行きですよ」

「№16、私は君に初めて敬意を表するよ。局長にもそれを言えるなんてな」

「……『新しい葡萄酒を古い皮袋に入れるな』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る