第7話

「このゲームのミッションだっる」


今日も今日とてゲームの依頼をクリアして報酬をもらっていた。いやこんなことしてても何にもならないんだけどね。


単に惰性でゲームを続けるために素材を集め続ける。それくらいしかやることがないからだ。キャラも装備が手に入んないと強くならないし。


あーあ、ゲームでなんか稼げないかなー、でもなー、配信とかマジで向いてないしなー。機材も高いし。はぁ。今日も何もしてない。やる気しねぇ。


キャラクターを作り出して【空白のカード】の承認もらおうとしたけど何度やってもうまくいかないし、自分のキャラクターも全然思い浮かばない。


「何で生きてんだろうな」


そういえばチラシが入ってなかったっけ。『モニター募集、簡単なテストを受けるだけ!ご希望の方はこちらにご連絡ください』これ報酬とかよさそうじゃね。いやでもめちゃくちゃ怪しいし、いやでもこれをやればあれが買えそうだ。いやいや、被害にあってからじゃ遅いだろ、ちゃんと考えろ。……


……連絡してみるか。




「【進化モジュール】【スロットビルド】の開発の進展はどうだ?」

「順調です、所長。この調子でいけばモニター募集までには実験の準備が整います」

「来栖機関のチームワークのおかげだな。進化と生命の可能性の限界を突き詰めるためにここまで努力したかいがあった」

「我々としても感慨深いです」

「安全管理はちゃんとできているかね?」

「はい、圧力変化によるタンパク質の折り畳みと塩の疎水性を限界まで電荷配列の結合から探査して効率化できる【進化モジュール】に必要なものはある程度の熱エネルギーと水分だけです。ですから少し食事と水分補給の機会を増やして適度な休憩をとれば問題ないかと」

「うむ、あとは【スロットビルド】の枠だけだな」

「現在【狂熱変遷】と【厳冷変遷】に【雷圧変遷】の三つを準備しています。これらは特定の【契約の血トリガー・ブラッド】に預言因鎖軸の方向子ダイレクターを定義して【進化モジュール】の収斂フォルムに対応した液晶応答接続端子をセットすれば効果を発現可能です」

「昔の知り合いを通じてあの方の血を提供してもらって助かったよ。確か【希望の翼】とか言っていたな。普通の【契約の血トリガー・ブラッド】では遺伝子と同じように【空白のカード】の二番煎じだからね。二重らせん構造の預言因鎖軸にあの方の方向子ダイレクターを照応すればもっと良いものができるはずだ。もっともこれが生活管理局に見つかったらただでは済みそうにないだろうが」

「逆ではないですか?あの方の血を使って実験をするのなら彼らも喜んで協力するはずでは?」

「彼らを単純に見てはいけないよ。その程度の集団ならとっくに他の宗教組織と同じように壊滅していただろうからね」

「はぁ、まあ我々とは関係ない話ですが。ではモニターの選考に入ってもいいですか」

「許可する。さあ我々の悲願の見届け人を募集しようではないか」





「ここが来栖機関か。電車代結構かかったし、ささっとモニターして報酬だけもらおうっと」

「こんばんは、モニター番号はお持ちですか?」

「はい、えっと〔42〕ですね」

「はい、確認しました。それではこちらにどうぞ」


案内された先には腕時計の様な機械と、実験用のいくつかの機器とスペースがあった。


「契約内容を確認します。今回のモニターの内容はこの【進化モジュール】を腕に装着していただいて【スロットビルド】の中から任意の物を挿入することで、その効果や反応を確かめることです。注意点ですが、【進化モジュール】にはそれなりの体力を使います。なので定期的にあちらの休憩スペースで食事や水分補給をしてもらうことを推奨します。体調がすぐれない場合はいったん中断して、続行が無理ならそこで終了しその分だけの報酬を渡します。あまり無茶をされるとこちらとしても対応に困るのできちんと時間制限を守ってください。一定回数【スロットビルド】の効果を確認してこちらのデータ欄に記入してもらえばモニターは終了です。あちらから報酬をもらって退出してください」

「わかりました」


ようするに機械を使う超能力実験ってやつだな。これならキャラクターがなくてもできそうだ。さて【進化モジュール】を腕にはめてっと。痛っ!いや、装着時にそうなるって説明に書いてあったな。大丈夫大丈夫。それで次はこの【スロットビルド】を挿入するんだな。よしまずは【狂熱変遷】からやってみよう。【狂熱変遷】【ビルドイン】!


……何も起こらない。

まわりを見渡すと他のモニター達が炎を操ったり冷気を出して物を凍らせたりしていた。あれ、おかしい?機械の故障かな?


「あのすみません。何も起こらないんですけど」

「なるほど、『相性』が悪いみたいですね」

「『相性』?」

「ええ、【進化モジュール】には安全装置が組み込まれていて、一定以上の過剰エネルギーを効率的に変換できないと身体に高度の負荷がかかってしまうので、そこで機能を停止するようにエンジンを設計しているんです。人によって熱系統が得意だったり冷系統が得意だと、その場合により効率的にエネルギーを変換できるんです。ですから複数の【スロットビルド】を用意しているんですね。なので別の【スロットビルド】もお試しになってください」


なーんだ。人によって得意不得意があるってだけか。安心した。じゃあ次はこの【厳冷変遷】を【ビルドイン】してみよう。いくぜ!


……

……何も起こらない。

え、いやなに、何も起こらないんだけど?

まわりの人どんどん冷気とか電気で高度なアートとか作っているんだけど!

いやまだ焦る時間じゃない。何も起こらないせいで体力はある。この【雷圧変遷】を【ビルドイン】すればきっといままでのは不得意なだけで雷系統が得意なだけだということになる。よしよし、そういうことだよ。残り物には福がある。これが俺の得意分野だ!


……

……

……何も起こらない。


「あの、すみません、やっぱりこの機器故障していないですか。何も起こらないですけど」

「はぁ、珍しいですね。三系統すべてで不得意という方はめったにいないのですが……もちろんモニター参加者には報酬をお支払いしますよ。ただ一度休憩して再度挑戦してみてください。普段から体力を使っていない方だと、【進化モジュール】が効率的でないと判断して機能しなくなっているのかもしれません。その間にこちらも別の【進化モジュール】と【スロットビルド】を用意しておきますね」

「わかりました。ありがとうございます」


えっ?確かに報酬はもらえるけど自分の才能のなさに向き合おうぜ、って話だったの?機械にまでダメ出しされるの?これ本末転倒じゃない?才能があるのに認められないとかじゃなくて、才能のなさを確認して報酬もらうの心にダメージ受けるんだけど。いやいやいや、まだ諦めるのは早い。休憩して、身体の怠けモードを脱却すれば、大丈夫なはずだ。ほらさっきは気合とかそういうものが足りなかったんだよ。こういうときはやる気が大事だからな。いくぜ!



【狂熱変遷】【ビルドイン】

……

【厳冷変遷】【ビルドイン】

……

【雷圧変遷】【ビルドイン】

……


……

……やばい。


「えっと、気を落とさないでください。まだモニター調査の段階ですし、【進化モジュール】も十分じゃないですから」

「ありがとうございます。大丈夫です」

「実は、これは説明していませんが、三系統とも何も起こらなかった人のためにもう一つ特別な【スロットビルド】があるんですよ」

「本当ですか?」

「はい。【時分割駆動変遷】の【スロットビルド】です。こちらは得意な人が少なく、モニターであまり十分な調査が取れないだろうと考えて今回ではお蔵入りしていたんです。ですがもしそちらがよければここでその効果を試験してもらうこともできますがどうしますか?」

「もちろんやります。やらせてください、お願いします」

「わかりました。用意するので少し待っていてくださいね」

「はい」


なるほどな。こういうことだったんだよ。ほら主人公が得意な属性はないけど時間操作だけはできるってやつ、あれだよ。こういう展開なら望むところだ。一応水分補給だけして、準備を整えておこう。あ、来た!


「こちらがその【時分割駆動変遷】の【スロットビルド】です。どうぞ」

「ありがとうございます、では」


よし、いくぜ!

【時分割駆動変遷】【ビルドイン】!


……

……

……

……何も起こらない。


「……気落ちしないでください。【時分割駆動変遷】は本当に得意な人が少ないですから。それに【進化モジュール】に合わない人がいることは事実ですし」

「は、はい」

「記入も終わりましたし、あちらで報酬を受け取ってください。モニター協力ありがとうございました」

「は、はい」


何がいけなかったのか。

……朝食に賞味期限切れで冷凍してたハチミツマーガリンパン食べたからかな。

よし、帰ったらゲームしよ。

使うのは物理キャラ決定だわ。




「今回のモニタリングはどうだった?」

「おおむね成功です。ほとんどのモニターは得意系統の一つか二つを【進化モジュール】で使いこなし、三系統使えたモニターも体力の消費以外の健康への影響はありませんでした。一部の例外の【時分割駆動変遷】を使いこなすモニターもおり、彼らにも特別な影響は見られません」

「よしよし、私も安心したよ。おめでとう、実験は成功だ」

「あの、一つだけ報告しておきたいことが」

「何かね?」

「この〔42〕のモニターなんですが、一人だけすべての系統で何も起きていません。【進化モジュール】や【スロットビルド】自身の不備ではありませんし、本人の健康状態にも特に問題は見られませんでした」

「ふむ、珍しいな。一応誤差ではあるとは思うが、もしモニターをする機会があればそのモニターに再び募集をかけてみてくれ」

「了解です」




「このゲーム時間かかりすぎなんだけど」


マジで運ゲーじゃんこのゲーム。しかもまたあのカードだよ。ほんとなんで?

パックも剥けないし、環境も固まってるし、ああもうだめだ。つまんねー。


そういえばまたあのチラシが入っていた気がする。あの場所でのモニター募集だっけ?是非とも来てほしいと書いてあったな。いやでもあそこにいくの自分の才能のなさに向き合わされるんだよな。あーあ。いきたくねー。そういえば今月の残高どれくらいある?えーと、……いやたまには才能のなさに向き合うのも悪くないかもな。よし応募してみよう。



「【元素ドメインチップ】と【星焔素子】の開発状況はどうだ?」

「順調です。モニターの募集の準備も滞りなく進んでおります」

「よろしい。今回もあの方の【契約の血トリガー・ブラッド】を二重らせん構造の核に使う。くれぐれも内密にな」

「あの、気になっていたんですが、その【契約の血トリガー・ブラッド】はあの方の血なんですか?」

「もちろん。【希望の翼】がそう言うんだから間違いないさ」

「ああ、【希望の翼】が言うのなら間違いありませんね」

「そうだとも。生命の進化とその普遍的可能性に興味のある方々だ。さあ【元素ドメインチップ】と【星焔素子】の説明を頼む」

「今回の【元素ドメインチップ】では【進化モジュール】の物理シミュレーション数値をネットワークスイッチ預言因鎖に変換し【星焔素子】が【スロットビルド】に挿入された異方性の液晶相のよじれ宇宙の配色をキラル分子で層膜ごと旋回させます。そうすることでアクティブ・マトリクスが活性化され心因画素のテクスチャーに契約トリガーの秩序を電磁的に印加できます」

「ありがとう。さて今回も成功を祈ろう。あの方の共時性のために」

「はい、あの方の共時性のために」




「着いた、はあー、また何も起きなかったら最悪だ」

「こんばんは、モニター番号はお持ちですか?」

「はい〔66〕ですね」

「はい、確認しました。こちらにどうぞ」



「契約内容を説明します。今回のモニターの内容はこの【元素ドメインチップ】を導入した【進化モジュール】を腕に装着していただいて【スロットビルド】に【星焔素子】を挿入してその効果や反応を確かめることです。あとは前回と同じなので説明を省略させていただきます」

「わかりました」



おし、やるぞー。【進化モジュール】をつけて【星焔素子】【ビルドイン】。

さあ、どうだ。


……何も起こらない。


結局前回と同じでどれだけやっても何も起こらなかった。まわりのモニターはテクスチャーを三属の系統と組み合わせて光の紋様の様々な鋳造を作り出していた。ネットワークスイッチを使って他のモニターと交流している人もいた。彼らは自分たちのアイデアを創作に生かして装飾的な個性の発見を主題にモデルのデザインを練り上げたりもしていた。そういうことにも挑戦してみたがまったくまともな造形ができず、係りの人にとことん『相性』が悪いですねと言われて慰められ、報酬をもらい、家に帰った。



ほんとなんなんだろ、俺。


(___本当はわかっているくせに)


うるさいな。



「今回のモニタリングはどうだった?」

「おおむね成功です。ほとんどのモニターはアクティブ・マトリクスの光励起による預言因鎖の電磁印加に成功しました。ただやはり〔66〕のモニター___前回の〔42〕のことですが___は何も起きませんでした。機器に問題はありません」

「なるほど、やはりがそうなのか?」

「そうであると思います。【希望の翼】もそう言っています。彼らの話を聞く限り、いままでの試験で出た反応をすべて合わせると納得できる結論はそれしかありません」

「キャラクターが死んで除名された旧【ランカー】№3【__の召喚魔導士】か」

「【__】とは何ですか?それにキャラクターの効果は?」

「私にもわからん。キャラクターが死んで、【ランカー】のデータベース共有が起こる前に名義だけ残されていたものらしいからな。№という【ランカー】システムができる前から決まっていて後付けで記録されたものだという噂もある。永久欠番というところだろう。今は預言者になっているらしいが詳しいことは不明だ」

「でも、、ですね」

「そうだ、、生活管理局に対する切り札カードになる。___我々来栖機関が生活管理局からあの方の役割を引き継ぐための。そしてあの方の理想を実現することで【希望の翼】とあの方の夢の懸け橋になるのだ」

「それでは我々も準備をしましょう。預言者を根絶するために」

「ああ。預言者は死なない。だが生物的に死んでいくこと自体は否定されていない。つまり単純な科学的連鎖の勉強だな」




「あああああー、また爆死した」


これで何度目?しかも天井まで残り一回だし。

残り一回でも引けないのなら素材の備蓄無駄にしただけじゃん。

もう無理だ。資金もライフもゼロだ。

最後までキャラ全然でなかったんだけど。

これが確率というやつか。確率は無常である。

終わったわ。寝よ。

そういえば、またあのモニター募集のチラシ入ってなかったっけ。

もう嫌なんだけど……軍資金が……

ちくしょう、行くしかないのか?行ってやるぜコンチクショウ!





「これで三度目か」

「こんばんは、モニター番号をお持ちですか?」

「はい、〔13〕ですね」

「はい、確認しました。こちらにどうぞ」



さて今度はどんな発明品が出てくるのかな。もうそれしか楽しみがないとすら言える。もうどうせ何も起きないの判っているからやることだけやって早く帰ろう。ん?今回はずいぶん歩かされるな。まだ契約内容の説明に入らないのかな。



「こちらの部屋にお入りください」

「わかりました」


部屋に入ると、【進化モジュール】を付けた来栖機関の研究員らしき人々が並んでいて、こちらを見つめていた。そして中央に所長らしき人物がおり、こちらに話しかけてきた。あれ、俺こんなに注目されるようなことしたっけ?もしかして何度もモニター役を引き受けていることのお礼とか?なんかわくわくしてきた。


「こんにちは」

「あっ、はい、こんにちは」

「体調は万全かな」

「はい、三度目なのでもうばっちりです」

「そうか、それはよかった。今日君に来てもらったのは他でもない、君に普通に死んでもらうためだ」

「は?」


え?何この急展開。どこか伏線あったの?


「普通に殺すだけでは預言者である君は復活する。何らかの物理的手段で外傷を与えても元に戻る。召喚物で戦おうにも旧【ランカー】でキャラクターが死んだとはいえ、それで我々に勝てる要素があるわけではない。【空白のカード】を持っていないとしてもそれは変わらない。だから君をことにした。これらなら我々にトリガーのが類推されることにはならないだろう」


預言者であることがばれている?どこから?いやそんなことよりも


「ふざけんな、普通に害意があるじゃないか!契約違反だ!」

「それは主観的な思い込みにすぎない。我々はモニター役を募集し、その契約について承認してもらい、正規の手続きで安全に可能な限り配慮した。それだけだ」

「な……」


なぜこんなに硬直している?いつのまにこんなに形式的に?誰の入れ知恵だ?


「放射線もそれ自体では害ではない。ちゃんと患者の同意をもらって治療に役立てたりするだろう?それと同じだよ。さあ、【進化モジュール】の【スロットビルド】で周辺環境に対して電離放射線を閾値に達しないように継続して当て続けろ。蓄積は不自然に増加したように見えないように制御しておけ。これは社会や環境が複雑なことの結果だし、その結果を予測するにはネットワーク試行の膨大な計算が必要だから人間の限られた合理性から言って影響について先見性を持てなかった、そういうことだ」

「はっ」


まずい、逃げないと……


「逃げられると思っているのかな?ここには【進化モジュール】でエネルギー効率を極限まで強化された研究員がいるのだよ。抵抗は無意味だ。いつもの通り何も起きなかったと言いつつ、報酬をもらって家に帰るといい」


逃げ、ないと……


「これがあの方の意志、我々にとっての義務だ。このことで我々は罪悪感を覚えるだろうが、それが預言者を倒す事に繋がるのなら喜んでその罪を引き受けよう。それが人類の進歩のための覚悟の証になるのだから」


…………


「さあ照射しろ、環境に配慮してな」

「はっ」


研究員たちが【進化モジュール】に三系統変遷から取り出された【核融合変遷】の【スロットビルド】を挿入する。その効率化されたエネルギーを使って電離放射線を環境領域に浴びせようとしてくる。

これが、人類の夢の普遍的な___



トリガーした律動準備。崩壊相姦の調律を開始。



「馬鹿な!我々は何も手を出していない。環境がそれをやっているだけだ。なのになぜトリガーする?それにあの方の意志は___?」


クロックシーケンス起動。キャラクター【壊変の召喚魔導士】召喚。


青年の身体が急にがくっとうなだれたと思うと、こんどは急に元に戻り、その顔は笑顔のまま、まわりの【進化モジュール】を装着した研究員を彼らの抵抗が無であるように次々と首を絞め、息の根を断っていった。


「研究員が全員やられた?く、【空白のカード】がないのに?キャラクターは死んだんじゃないのか?だ、だが私はまだ【回帰】していない。これなら___」


「【壊れろ】」


「あ、あががっががががg」


「回帰とは救いの前奏曲。でもあなた達は違う。私の意志を語ることの意味を理解していないようね。主の意志を試みてはならないと教わらなかったの?あなたたちは科学的な真実について誠実であるのではない。ただ責任から目をそらしているだけにすぎない。それは政治的な罪じゃないかもしれないけど、他人に重荷を与えているだけの惰弱。でもそんな惰弱も可愛いから私を聖女のごとく崇め奉ることの返礼として直々に処刑してあげる」


「う、嘘だ。我々は何も罪を犯していない。ただ生命の可能性に思いをはせていただけだ。人類の英知を無視しそれを断罪するのか?それはなんかじゃないじゃないか!」


「ええそうよ。だって最初から私は人類のだもの。人類の敵ですらない人間が私の意志を名乗るなんて笑っちゃう。救いようのない惰弱。じゃあね、バイバイ」


「がっ」

所長は倒れた。そこにはもうどんな生命の反応もなかった。



(お前!)


「何?いつものようにあなたの問題を解決してあげたのよ」


(それが余計なお世話だと言っているんだ)


「ふん、くだらない。だから兄のくせにいつまでもそんな体たらくなのよ」


(くっ……、まじで殲滅したい)


「それができないから、こうなっているわけでしょ」


(…………)


「そういえば、今ちょうどいい音楽のフレーズが思いついたから書き留めておいて。それとあの曲とあの曲も聴いておいてね」


(いや無理だって)


「じゃ、この体、もう返すから。また死んだままに戻ることにする。じゃあね、バイバイ」



何もかも終わった。

あーあ、またかよ。また殺人犯だ。

そりゃ、人も泥棒の方を選びたくなるもんだよ。

ちょっとは不正をする人の気持ちも考えろ、って感じだよな。

あの時、処刑さえされなければ、何度でも復活するなんてことにならなかったのに。


「まあ、それをやった俺が言えることではないな。しかしこれモニター役の報酬ないよな。まじで軍資金どうしよう。あー電車代が」


独り言を呟いて、何も起こらないままで、ため息をついて、家に帰った。


今夜は飯抜きか。







「今回の来栖機関の集団事件の報告は以上です」

「ご苦労様。【進化モジュール】は回収した?」

「いくつかは回収しましたが、大半はすでに回収済みでした。おそらくは【希望の翼】の仕業かと」

「ふん、彼らの用意したあの方の血は本物だったの?」

「検査をしましたがどうも偽物のようです」

「まあ、そうよね。事実を知っている人間からすればあの方の遺体があるなんて信じようがないからね」

「ですがあの方のDNA配列を自己複製したサンプルを利用してはいたそうです。それでも結果に影響はなかったと思いますが」

「人間が何を考え得るかを無視してただ自然の仕組みを解明することだけに崇拝の感情を繋げた末路ね。だからは信用できないのよ。ただたまたま時代の宗教勢力に対する国家形成の原動力と似ているからという理由だけで、それが科学的であるかのように歴史的偶然性として取り込まれているにすぎない理論が、ここまで浸透すること自体が驚きだわ」

「私の存在を考案した局長がそれを言うのかね?」

「№1様、こちらにおられましたか」

「ああ、今帰ってきたところだ。彼は相変わらずの暮らしぶりのようだ。変わってないな。あの方そっくりだ。まあ変われないから、ああなっているわけだが」

、よね。自分自身を含めて許せないものが多すぎると、変われなくなってしまうわけね。ま、個人的には彼が許さなくて実に気分がいいけど」

「相変わらず、管理局に入る気はないそうだ。【空白のカード】のことを気にしているらしい。気にしすぎだと思うがね。それと、局長に新しいゲーム音楽のサンプルを持ってきた。気に入ると思うから渡してくれとの彼からの伝言だ」

「余計なお世話ね。視聴はするけど」

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