第6話

「【学校】からの【ルーキー】が到着した?本当なの?№10【ドンキー・マトリクス】」

「ああちゃんときっちり輸送完了。おいらの仕事は終わりだ。あとは頼むぜ、№16【マネジメント・マジシャン】」

「ご苦労様、じゃあ認証だけして【ルーキー】を預かるわ。どこにいるの?」

「あっちだ」

そこには車酔いでぐったりしている制服を着た三人の女生徒がいた。

「はぁ、いつも通りね。どうにかならないの」

「積荷は確実にかつ迅速に送り届けてこそ意味があるんだ。そうじゃないと不便だろ?」

「限度があると思うけど……まあ、いいわ。他の物資とかは任せるわ」

「おう」

「さて、わたしはこの三人をどうにかしないとね」



「【ルーキー】【カオティックアイ】我ここに降臨した!」

「【ルーキー】【マッチポンプディスペクター】……こんにちは(なにこのおばさん)」

「【ルーキー】【ディスティレーションツリー】です。よ、よろしくおねがいしまちゅ……し、します」

「わたしは№16【マネジメント・マジシャン】よ。存在の探究をソリューションに変化させる効果のキャラクターよ。あなたたちはキャラクター生活管理局の実地研修にきたのよね」

「そうよ。我の深淵の眼から逃れられると思うな」

「一応そうなる」

「ええ、なので緊張してます……」

「よろしい、そこで基本的なことだけど生活管理局は何をするところだと思ってる?思い付きでいいから言ってみて」

「ふっ、そんなの決まってるわ、悪しき預言者達を殲滅し、世に平和をもたらすのよ!」

「【空白のカード】の開発とその利用を推進することでは?」

「えっと生活の福祉や情報を提供してるんですよね」

「全員、いい線をいってるけど外れね。生活管理局が行っているのはその名の通りキャラクターついて最大限に活用することにあるのよ。キャラクターをアクセスの手段として価値創出の起点にする。これこそ召喚の本質よ」

「そんなことを言っても無駄。我の眼は欺けない」

「あれだけ毎回やらかしているのに、【学校】の生徒だとしてもそれは信じられない」

「みなさんお仕事大変なんですよね。なのでそういってるんですよね」

「うーん、これは局長の方針が方針だから仕方がないところもあるけど、ほとんどの職員は預言者との戦いに関する人員ではないの。【空白のカード】は確かにこの組織の基幹だけどそのためだけにある道具ではないわ。だからキャラクターを通じて仕事や情報提供の在り方について模索しているわけ」

「そういう設定なら我も納得しておいてやろう」

「まあ、簡単に秘密にアクセスできるわけはないよね」

「【ランカー】じゃない方も様々な努力をしてるんですね」

「まあこうなるわね。口で言ってもらちが明かないし、実際に施設を見てもらいましょう」



「ここは訓練室よ。預言者との戦いだけではなく、抵抗者や軍隊との戦いも念頭に入れてトレーニングをシミュレーションできるわ。【空白のカード】の召喚機能をアクティブにすることもヴァーチャルにすることも可能よ」

「これこそ我が望んでいたもの!」

「【学校】のセーフティ付きのものより出力が大きいわね」

「預言者はあくまで模造データとの対戦なんですね」

「ここを最初に見せたのは、【空白のカード】は確かに預言者との戦いを念頭に作られたものだということを見てもらうためよ。でもそれは機能の一部にすぎない。ほらあそこにいる№7の部隊を見てみて。抵抗者相手のシミュレーションでもきれいに連携が取れてるでしょ」

「こんなに預言者の種類が……作り込みがすごい」

「ふうん、ちゃんと痛覚フィードバックは抑えられているのね。残念だわ」

「目が回ります~」

「……はぁ、次行きましょ」




「ここは配信室よ。各々の個室で専用の機材を用意してあるわ。もちろん自宅でやりたい人のためにレンタルも完備している。ここで収益化をした配信者達への配当は生活管理局の収益でもあるから、基本的にほとんどマージンは取らないわ。個室や機材のレンタル代くらいね。何度も使うことを念頭に置いた割引サービスもあるわ」

「ここは我の居場所ではない」

「結構すごいじゃない」

「こんなに機械があって、迷っちゃいます」

「配信者はコアな人たちが多くなる傾向にあるから、サービスの敷居は下げるようにしているけど、どうしても自力で編集とか、録音とかができない人たちには、それ用の講習コースを用意してある。職員を雇うこともあるけど、知らない人にやってもらうのは難しいから。ほらあそこにいる№5なんかは№6に教えてもらって編集とかの技術を磨いたのよ」

「ダメだー、全然勝てない。もうちょっと手加減してよ」

「それじゃ学習しない。それにキルするの楽しい。無限にやれる」

「鬼、悪魔、人でなし!」

「いい悲鳴」


「やはりここは悪魔の巣窟だったのだな」

「まあわざわざここまで来てやる事じゃなさそうね」

「うう、難しそうです」

「……はぁ、次行きましょ」




「ここはデザインスタジオね。製品やデザインを考えるのに適当なスペースを空けておいて、そこに模型やシチュエーションなどを構想して、実験するための場所よ。ギャラリーもあって、取り合えず職員の紹介として感性のプロトタイプを飾っておくこととかもできるわ」

「こ、これは、あの伝説の『蒼フクロウ』?」

「前衛的すぎるわ。評価の仕様がない」

「これゴミじゃなかったんですね、ごめんなさい、うう……」

「一応キャラクターモチーフを疑似的に造り出してモデルにして、それを召喚物に反映させたりといった使い方もできる。ほらあそこにいる№1と№4を見てみて。武器とかの模造品でキャラクターのイメージを定着させようとしているわ」

「なあ№1様、なんでおじさんおじさんなのかなあ」

「仕方あるまい、私たちが美少女になったところでどうなる。被害が拡大するだけだ」

「いや、もうちょっと武器とかにもエロス要素を付け加えるとか、おじさんそう考えるわけよ」

「私にはそういう発想がなかったぞ。勉強になる。今度やってみるか」

「秘剣【女体崩し】……おじさん急に死にたくなってきたよ」

「これがエロスの深淵なのか」

「……」

「……」

「……」

「……はぁ、次行きましょ」



「休憩室よ。いったん休憩しましょう。質問があるのなら聞くわ」

「我に世界の真実を見せよ」

「なんか全然普通ね。思ったより何もないし」

「開発班の方はいらっしゃらないのですか?」

「開発班は研究室の方にいるから、あまりこちらには出向かないわね。それに工場とかはあるけど、これ以上にあまり見せられるものはないわね」

「つまらない、我の眼に適うものはないようね」

「これなら【学校】の方が設備が充実してるわ」

「どこかに別の施設とかあるんでしょうか」

「言ったでしょ、まだ模索中だって。【空白のカード】もまだ試験段階から抜け出したばかりだし。ちょうどいい機会だから【空白のカード】についての説明をしましょうか。【学校】ではなんと教わってる?」

「キャラクターを召喚する道具ね」

「所有者のキャラとデータベースを結び付けて金銭取引を紐づけていると聞いてるわ。【学校】ではまだ限定的だったけど」

「SNSへの投稿もできるみたいですね。№のデータベースが載ってました」

「ちゃんと授業は聞いてるわね。でもそれが【空白のカード】の本質ではないの。【空白のカード】の本質は心と存在を生成的にリンクさせるためのネットワークを創出する媒体であるというところにある。少し難しいかもしれないけどね」

「しかしそれと預言者を殲滅することに何の関係が?」

「【学校】でその機能に制限がかかっているのはなぜ?何も問題がないのならそんなことはしないはずよね」

「生きてるということが心があるということではないのですか?」

「子供は心と身体が生命とリンクしていてこそ初めて成長できるわ。だから社会は成長に必要な情報と物語でそのネットワークを世界として存在にするわ。でも預言者は身体的生命と存在の生成が心の意志だけに掛かっているの。これが鍵との契約トリガー。でもそれだとネットワークのリンクは無差別にあらゆるものにアクセスの影響を与えて世界の自己組織化を自動的に完遂してしまう。これは人格が無媒介的に偏在している状態だから意志がその自動化された機能通りにしか動かないという意味で危険なの。特に模造預言者にはそう言えるわね。社会的情報と物語の意志の状態が心の存在と一体化してしまうの。一部の預言者には意志を持って心と存在を世界ごと分割できるみたいだけど、常人にはそんな苦痛は長くは耐えられない。生存の身体的な因果関係が切断され続けるのと同義だからね。大抵は死の恐怖で止まる。だから技術的記憶を使って領域的アクセスに世界の生成を制限するの。そうすると生命の自己組織化は心の構築の問題に切り離されて、生物的身体の反応から人格とキャラクターをデータベースの集積記憶に分割できるようになるわ。だから【空白のカード】を使って現実へのアクセスにキャラクターとして重層的に心の世界にリンクできるというわけね。金銭はそのことの社会的コストよ」

「ふむ、まるでわからん。我にわかるように説明せよ」

「いきなりそんなこと言われてもね……」

「頭が痛くなりそうです」

「まあ、これを意図的に理解して実践できるのは【ランカー】の中でも上位の人たちだけだから気にしなくていいわ。私も説明はできるけど、実際にその通りにできるわけではないからね。要するに、生きているということを心と切り離すことでネットワークのアクセス記憶をキャラクターとリンクさせることが【空白のカード】の役割なのよ。だから生活管理局はそれができない人間に悪影響を与える預言者を脅威として扱っているわけ」

「それは人間を殺すのと同じなのではないか?」

「人格をキャラとを分けるってそれ完全にやったら別人じゃない?」

「記憶にアクセスするって、人間の記憶を技術のように扱えないですよ」

「迷えるうちは、まだ幸運ね。そうできない人たちがたくさんいるから。まあ焦る必要はないわ。時間的猶予を作り出すのも生活管理局の役割だから。局長も【学校】は嫌いだけど創設はしぶしぶ認めたわ。どうも創始者たちはみんな学校嫌いみたいなのよね……。だからめちゃくちゃこき使われるし。はぁ、今回の見学はこのくらいにしましょう。№10を呼んでくるわ」




「着いたぞ、お嬢さんがた。おいらはここまでだ。気ぃーつけて帰りな。あばよ」

「わ、我の眼でも、この世界震は、うっ」

「荷物の安全性に配慮しているからと言って、中身の存在を考えているわけではないのが良くわかるわ……」

「もう……ダメ……」

三人が№10の運転でダウンしているところに物陰から話し声が聞こえてきた。

「姉御、【希望の翼】から【デュエルドローン】とそれに必要な【空白のカード】が手に入りやした」

「イイ子ね、これであの憎っくき生活管理局をズタズタにできるのかしら」

「そうです姉御。この【デュエルドローン】は召喚物でなく機械なので普通の召喚物では探知されません。そして【空白のカード】をセットすれば間違いなく召喚物であるかのような性能で暴れまわります」

「【デュエルドローン】に一般人を襲わせた後に、SNSで被害の動画を投稿すれば生活管理局が一方的に殲滅行動をしているように見えます。実際に彼らは何度も似たようなことをやっているので疑われないでしょう。それに【デュエルドローン】が捕獲されても【空白のカード】で動いているのを確認すれば、嫌疑は生活管理局にかかるでしょう」

「ハハハハッ、いい気分ね、ざまあみろ。あの時の屈辱をここで晴らしてやるわ。実行は明日よ。しくじるんじゃないよ!」

「ハイっ、姉御!」

そうして話していた人影は去っていった。



「ええ、これってホントに陰謀?ど、どうしよう。う、ううん。我の眼に邪悪が捉えられたぞ」

「こんなところで計画を話す間抜けがいるの?いやでも無視できないし……」

「誰か相談できる人はいませんか……でもいまからだと遅いですね」

「でも明日になったら、邪悪の計画が!」

「預言者でも抵抗者でもなくて、単なる悪質なデマを流す連中がいるって教えるの?わたしたちがそれだと言っているようなものじゃない」

「私達のキャラクターでどうにかできないでしょうか」

「我の【カオティックアイ】でか。むむむむむ」

「ただの創作の設定を発見するだけのキャラにそんなことができるはずないじゃない。そういうわたしもただ単に自分の悪いところを発見できるキャラというだけだけど」

「私の【ディスティレーションツリー】なら多分情報の蒸留が行えます。それで」

「それでどうするのだ。創作の設定の蒸留をしても、悪い点しか見つからないぞ!」

「ほんとわたしたちのキャラって使えないわね。まあそれで諦めがつくけど」

「でもこのままじゃ」

「……」

「……」

「……」


「いや、一つだけ手がある」

「何よ」

「我達が邪悪の陰謀を阻止するのだ」

「はっ、どうやって?」

「我が【デュエルドローン】を使った設定を創作する。その悪い点を見つけて情報を蒸留してくれないか?」

「まぁ、やるだけならいいわよ。特に手間もかからないし」

「私も手伝います」

「ならいくぞ、【空白のカード】キャラクター【カオティックアイ】召喚。【デュエルドローン】の設定」

『【デュエルドローン】は【空白のカード】のインストールされた内容の行動を取る。それで一般人を襲わせる。下手人はそれを撮影する』

「【空白のカード】キャラクター【マッチポンプディスペクター】召喚。人格創設:整合性の批判」

『インストールされる内容は?一般人を襲ってる映像を撮らなきゃいけないから、物理的危害を加える攻撃じゃなきゃ駄目よね。それに一般人と言っても無実の一般人だけを確実に巻き込む必要があるわ。それを撮影するための安全性はどこで確保するの?』

「ではいきます。【空白のカード】キャラクター【ディスティレーションツリー】召喚。試行樹蒸留!」

『一般人を襲うのにミサイルや毒ガスじゃだめですよね。普通に銃器や爆弾でいいと思います。でも爆弾だと無差別に襲うことに意味がないので銃器だと思います。それならちょうど【デュエルドローン】につけられます。無実の一般人は、匿名の大衆とは違いますから生活管理局に近すぎても遠すぎてもいけません。そうすると撮影の安全性と一般人が巻き込まれることを両立できる条件を満たす場所は……ここらへんですね』

「そのためにどうすればいい【カオティックアイ】?」

『撮影の安全性の地点に対して一般人を誘導できればいいかと』

「【マッチポンプディスペクター】異論は?」

『どうやってそれをするの?わたしたちが陰謀のことを話しても頭のおかしい学生だと思われるだけよ』

「【ディスティレーションツリー】お願い!」

『私たちが現地で配信をすればいいんじゃないかな。学生の勉強だーとかで。迷惑にならないようにお願いしよう』


三人は恐怖していた。自分たちのキャラクターでこんな恐ろしいことを計画できてしまうのか、と。それと同時に対処策も自分たちのキャラクターだけで見つけることができてしまうということに。


「こ、これを本当に実行するのか?我は不安だぞ!」

「やってみるだけやってみたけど、こんな結果になるとは」

「こ、これなら万が一陰謀がなくても大丈夫ですね」

「……」

「……」

「……」

「……明日、例の場所で集合しよう。我は、邪悪を見過ごせない」

「しかたないわね、付き合ってあげるわよ」

「撮影の道具を用意しておきますね」

こうして三人はそれぞれの家路に着いた。




「姉御、準備が整いやした」

「【デュエルドローン】を起動しろ!」

「姉御、大変です、なぜか襲う予定のあった一般人たちが移動してこっちに来ています!方角は少しずれていやすが、近づきすぎるとバレます」

「情報が漏れたのか?」

「わかりません。近くにいるのは【学校】の生徒でしょうか?」

「ガキか、なら構わない。むしろ都合がいい。このまま【デュエルドローン】に【空白のカード】をセットしろ」

「でもそれだと安全に撮影できやせんぜ」

「構わない。むしろ慌てて撮っているという態の方が臨場感があっていいだろう。それに【学校】の生徒も【空白のカード】を持っているはずだ。なら奴らに責任を擦り付ければいい」

「さすが姉御、機転がききやす」

「わかりました。その通りにやりましょう」




「汝らは我が【カオティックアイ】の術中に嵌った」

「いやあ、えらいねぇ。まさか学生でもう村興しの実態調査をするなんて」

「そろそろ来るんじゃない。どうするの?」

「問題ありません。【スターターデッキ:影の接続者】を使って【空白のカード】の影響を切断します。単純な機械なのでその分介入もある程度できるはずです」

「【カオティックアイ】の創作設定を追加しよう。【空白のカード】のセットが【デュエルドローン】に読み込まれる前に、我の眼はネットワークに介入した、と」

「あんた、そんなことできたの?それもうただの設定じゃないじゃない」

「試行樹蒸留を行った結果として、その効果も再現できることを発見したんです。だからこれは彼女の実力ですよ」

「ふーん、じゃあわたしの【マッチポンプディスペクター】もそれくらいできるはずよね。相手の【欠陥】を指摘してそれを実現させることが」

「できると思います」

「ならいくわよ。【デュエルドローン】の設定に【欠陥】を追加するわ。【空白のカード】が読み込まれない時、装備された銃器の照準はロックされる。そして慌てて撮影していることの代価として彼らはしばらくそれに気づかない」

「行けると思います」

「久しぶりに楽しい気分になってきたわ」




「姉御、【デュエルドローン】の挙動がおかしくなっていませんか?」

「気のせいよ、今は撮影するのが忙しいの。ふふ、楽しみだわ、どんな悲劇が待っているのかしら、ハハハっ」

「(……いくらなんでもありえない。【学校】の生徒がやれる範囲を超えている。その干渉の仕方は預言者だ。だがそんな気配はどこにも……。まずいな、先に撤収するしかないか)」

「そうですかい。ならあっしはちょっと様子を見に行ってきやす」

「いや、私が様子を見てこよう。君は姉御のことを頼む」

「新入りのくせに殊勝な心がけだ。いいぞ、お前が行ってこい」

「姉御!」

「ああ、では行ってくる」

「姉御、奴は信用できるんですかい?」

「【希望の翼】でわざわざ武器を売ってくれるんだ。データぐらい取らせてやれ」

「あっしが言っているのはそういうことではなく」

「信用なんてしてないさ、だからこそ利用価値がある、そうだろう?」

「姉御……」

その瞳にはいつからか何も映っていなかった。

ただ何かに突き動かされるように命令を出しているだけだった。



「【デュエルドローン】がやられている。【空白のカード】もダメか」

「ここは我の眼の効果範囲。もう逃げることはできない」

「かかったわね獲物が。さあどうしてやろうかしら」

「あなたが、これをやったんですか?」

「見つかったか。計画が漏れるのは想定内だが、その力はなんだ?」

「ゴチャゴチャとうるさい。我の力を思い知れ」

「欠陥だらけの人生を悔いなさい」

「なっ、それは!」

「【ナノキラーテックONG】だ。君たちの細胞記憶を絶滅する機構型ドローンだ。これを使えばキャラクター持ちの召喚士であろうと食い殺せる。しかしおかしいね。【デュエルドローン】に普通の銃弾を入れる代わりにこれを入れていたんだが、これすら機能が停止していたのは意外だ。ネットワーク切断ではこれを止めることはできないのでね。まあ観測誤差かもしれない。絶滅してから考えよう」

「【カオティックアイ】創作設定を!な、なんで、何も見つからない?」

「【マッチポンプディスペクター】欠陥を見つけるのよ。……嘘でしょ。どうして欠陥が何もないの?」

「残念だが、創作上の欠陥が何もない兵器なのでね。強いてあげるなら人を絶滅させることしか使えないことだ。だから蒸留もできない」

「う、うううう……」

「君たちの思考サンプルはもう取ってある。安心してこの世から消えるといい。ではさらばだ」

「危ない!」

機構型ドローンが三人に襲い掛かる。そのとき【ディスティレーションツリー】は前に飛び出して他の二人の身を守った。その代わり身を守った彼女の身体は細胞レベルで絶滅し、跡形もなく消え去った。



「あああああああ」

「ぐうううううう」

なんでこんなことに。

私達が迂闊に自分たちで物事を解決できると思ってしまったから。

だからこんなことも想定できなかった。

これが【ルーキー】の結末___



「思考サンプル入りの【空白カード】を回収するのにこれほど手間がかかるとは思わなかったよ。まあ少し遅いかどうかの違いだな。むしろ結果をイメージしたことでより一層絶望的になったかもしれない。残酷だな。やはり我々【希望の翼】は生活管理局に合わないな。無駄話が過ぎたね。ではさようなら」





トリガーした律動準備。【壊変歯車ブレイクギア】。クロックシーケンス起動。



絶滅したはずの身体が何事もなかったかのように元の通りに復元した。

預言者は心の意志に生成が____


「な、貴様が預言者だったのか!だがなぜ?反応などどこにも」

「私は預言者ではありません。私はただの【同位体】です。№2【パーフェクトノービス】、との契約トリガーに応じて参上しました」



「預言者は祖国の誇りにかけて絶滅する。【テックキラーONG】!」

「無駄です。記憶を殺すだけで絶滅できるのなら、あの方はとっくに___」


一瞬でけりはついた。【希望の翼】の活動分子はあっさりと倒れた。

彼らは祖国に生命を捧げた人間であり、創生の因果によりその身体は壊変には耐えられない。


絶望しきっていた二人が彼女のもとに駆け寄ってきた。

「……生きてるの?」

「ふざけんじゃないわよ、この馬鹿……」

「申し訳ありません。隠していたわけではないのです。ただトリガー条件が満たされないと出てこれないだけなのです。【ルーキー】を守り、奉仕するのが私の役割ですから」

「でも【ディスティレーションツリー】は」

「心配ありません。私が借りた身体は一時的ですが預言者に近いステータスを得ます。私が律動する時間が終われば自動的に彼女は帰ってきます」

「そんなご都合なんて、欠陥だらけにきまってるじゃない!」

「ええ、彼女の身体にも【壊変】が起こるでしょう。それに耐えるだけの意志があればもちろん助かります。しかしそうでなければ意識は戻らないでしょう。ですからお二人にお願いしたいのです。彼女の設定の悪いところを見つけ、その人格を再現する手助けを____」



【学校】の【ルーキー】達には、負荷がない。

でもそれでも、その心には意志が宿る。

それはつまり、誰かの意志がそれを守り続けるからで、

そして、それがトリガーを連鎖させていくことで、存在を選択していくのだ。

だから___







「【希望の翼】のその後の行方はどうなった?№16」

「その場所の支部はつぶしたわ。№10、あなたの輸送の迅速さのおかげね」

「誰がやったんだい」

「№1と№4よ。№1はいつも通りだし、№4は【女体崩し】というキーワードを唱えたら私の下僕になったわ」

「随分と荒れてるねぇ、そんなにあのお嬢ちゃんたちが可愛かったのかい?」

「当たり前でしょ、私だってあの子たちを助けたいの!でも№2がいるせいでそんな必要はないって言われるのよ。この気持ちがわかる?なのにいつもおいしいところはあの方の意志が持っていくんだから。ああいう生意気で初々しいのが可愛いのに、仕事が忙しすぎて結婚もできないし最悪だわ」

「局長が今度、育児保育施設の開設を検討していたぞ。なんでも子育てでキャリアのある優秀な人材を離職させないようにするための仕組みだとか」

「嫌味?嫌味なの?私が結婚できないのを知って嫌がらせをしに来たんだわ」

「そんなわけないだろ。局長もお前の能力は高く買ってるのにお嬢ちゃん好きの趣味がいきすぎてるから№を低くしてるんだぞ」

「ふーん、いいもーん。№16で色だから、マジシャンにふさわしいんだもーん。ねえ聞いて、今やっているゲームだけどショタがめちゃくちゃかわいいの、すごいのよ!あっっははは、酒をもってこーい」

「やれやれ」



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