第5話
「無差別殺人鬼が局長の命を狙っている?」
「その通りです。【ランカー】№4【御影崩し】様」
「生活管理局からの通達は?」
「被害は問わない、殲滅しろ、との命令です」
「おーけー、武装召喚士達を集めておいて」
「了解です」
おじさん、機械は苦手だけど、まあ一応調べてみるかなあ……えっと何々、この状況で起こりうるパターンは、ん?URLが出てきた。『【スタンダードデッキ】【誓いの騎士】【影の接続者】【ふわふわの応援歌】販売中?【空白のカード】にデッキをインストールすると、№の規格に合わせた存在の構築と仕様の変更が行えるぞ!このデッキを使って君も№達のように強くなろう!なおこれは実際の性能を保証するものではありません』おじさん、考えるの苦手だからわかんないけど、何か関係あるの?なんだかな……局長の意図が読めない。そういえば上位の【ランカー】に局長のコメントが載ってるって聞いたから見てみるかねぇ。
『№7【ルール・オブ・パラディオン】任意記述欄:ルールの規定・追加。ルールは共有されたものにしか効果がない。抜け道がとても多い。単独ではあまり意味がない。物理的制圧力が高い。(局長コメント)信頼している。(№7からのコメント)ありがとうございます。』
いいなあ。単純に信頼されていて羨ましいなあ。おじさんもなあ、こんなだったらなあ……。さて次は
『№6【シャドウルーター】任意記述欄:召喚物の性能とネットワークを繋げたりその接続を切断したりできる。(局長コメント)お身体にお気を付けください、お母さま。(№6からのコメント)そういうことは恥ずかしいのでここには書かないでください。』
さっきとの温度差すごいねえ。いやこっちもこっちで羨ましいけど、まあこれは特別だからねえ。ふぅ、次は子羊ちゃんだけどそれはまあわかるから飛ばしておじさんのを見るか。あまり見たくないけどねえ。
『№4【御影崩し】任意記述欄:とりあえず、斬れるものは斬るよ。(局長コメント)いざというときに役に立たない者が無能であるとは限らないし、いざというときに役に立つ者が有能だとは限らない。だがいざというときにしか役に立たない有能が増長しないのなら、それはとても役に立つ。』
長っ!
……局長、なんでおじさんのところだけマジなんですか?おじさん泣いちゃうよ?
「よくぞ来てくださった、【波羅蜜探題】の方々」
「こんばんは、局長、忙しい中来てくださり感謝する」
「いやいや、ご当主様本人が来られたのでは、私が対応するしかないでしょう」
「改めて当主の森羅だ。こちらは妹の凛珠だ」
「よろしくお願いします」
「ではさっそく本題に移ろう。今回生活管理局が発売した【スターターデッキ】のことだが」
「気に入ってもらえたかな?」
「はなはだ無礼であることを承知で言わせてもらうが、この道具のせいで我ら【印呪符】の機能がおかしくなっているのだ」
「ほう」
「【空白のカード】で【スターターデッキ】を使ったものと【印呪符】の【召仙】を使ったものの諍いが起こったとき空間に奇妙な捻じれが生まれるとの報告が出ている。あなたはご存知か?」
「……いや初耳だ」
「そうか。私としてはこの道具でそちらの側に被害が出ていないかを確認したいのだ。そうすれば情報が共有できて被害の数を速やかに特定できるだろう」
「そういうと思ってあらかじめ用意しておいた。ほらこれだ」
「拝見します。これは……いやこんなに?どうしてこれで【スターターデッキ】を販売しようと思ったのですか?」
「最近は預言者の数が急増しつつある。こちらとしても早めに手を打たないと被害が拡大する一方でね。急ピッチで開発してフィードバックを取っておきたいんだ」
「しかしそれで死者が出るのなら本末転倒ではないですか!」
「それはこちらとしても本意ではないよ。我々の力及ばずといったところさ」
「【デッキ構築システム】に問題があるのではないですか?」
「そこ自体にはないとこちらは把握している。あくまで個別的ケースの影響の問題でね。まあリスクがあるのは事実だ」
「もういいです!あなたに話し合う気がないことがわかりました。こちらはこちらで独自に対処します。【印呪符】の安全性はあなたも把握してることと思います。こちらとしては【召仙】の使用者と【スターターデッキ】の使用者の間に一定の敷居を作り出したいと思っています」
「どうぞご自由に。我々としてはそれを妨害する理由はないよ」
「情報提供に感謝します。では失礼」
「おや凛珠さん、どうしたのかな?」
「ひとついいですか」
「なんだい?」
「どうして【確率論的キャンセルノイズ】のことを黙っていたのですか?」
「それはあなたが一番よく判っているはずだ」
「……」
「森羅さんは聡明だがある一点においてだけは盲目になるな。それが命取りにならないように祈っているよ」
「……わかりました。ありがとうございます。では私も」
「ああ」
「凛珠、あの局長とかいう人物は信用できない。それに生活管理局もだ。あんな副作用のある製品を売りに出すなんて」
「しかしお兄様、彼らにも一定の理はあります。ならば【印呪符】の【属性付与】の【召仙】の力をもっと世に知らせるべきでは」
「いいことを言ってくれるね。そうしよう。私の技術力があればその程度は容易い。それに凛珠、お前の【概念転換】の作用があればさらに効果的になるだろう」
「でもお兄様、預言者にはあの属性が必要になります」
「わかってる。【汚染】と【浄化】を融合する【浄土】の属性にはまだ不完全なところがある。局長からもらったデータを組み込めばさらに信頼性を増すことができるだろう。【竜樹接続】の同調変数はおおよそ特定しているしね」
「ですがそれは……大丈夫なのですか?」
「ああ、まだ一度も失敗はしていない。死者を出すことは波羅蜜の【共生】に賭けて許されないからね。絶対の安全管理の下に実験はしているよ」
「ならいいのですが」
「そんな不安な顔をするな凛珠、私がこの程度の修羅場をいくつ潜り抜けたと思っている。【家祖】の者たちに抗った時も、【血網地塊】に打ち勝ったときも、【孟辱参径】を払った時も諦めず、逃げずに戦い、民草の被害も最小限に留めることができた。もちろん共に戦ってきたお前や仲間たちのおかげだ。だから凛珠、兄を信じてくれ」
「もちろんです、お兄様、ですがそれでも嫌な予感がするのです」
「確かに、預言者がらみのことはいくら用心しすぎても十分ということはない。ただそれで心病んでしまっては元も子もないよ。今日はもう寝なさい」
「そうですね。あまりに思い詰めても身体に毒ですね。お兄様も休んでください」
「ああ、そうするよ」
「おや、これは№4殿ではないか、珍しい」
「あー、これは№1……様」
「様付けなんてやめてくれ。私をもう三回も殺しているんだから、もっと自信を持っていいんだよ」
「おじさんはこれぐらいがちょうどいいんでねぇ。№1様はどうしてここに?」
「世界平和のために活動しているところだ。何かきな臭い雰囲気を感じたのだ。№4殿はどうして?」
「【スターターデッキ】周りのことでちょっとな」
「通達か?」
「そうだねぇ」
「なるほど、そういえばこれからここで【波羅蜜探題】の【印呪符】のデモンストレーションが開始されるそうだ。それを待っていたのか?」
「さあて」
「みなさんお待たせしました。【波羅蜜探題】の森羅と申します」
「妹の凛珠です」
「今日は皆さんに生活の流れを良くするための製品を持ってきました。そう【印呪符】です」
「これは任意の【属性付与】を選択することで、問題解決のための優れた指針を生み出すことができます。例えば病に対する【水】と【風】の属性を組み合わせることで二元の理により様々な御利益を与えることができます」
「もちろん科学的な市販品を使うことが間違いであるわけではありません。【印呪符】はそれに新しい付加価値を加えることで【召仙】という別の生成に関する流れを呼び込み、忠孝による人々の因果を繋げるのです」
「病は苦しいものです。ですがそれが他の方との生活の流れを断ち切ってしまうことこそ一層苦しみを生むものなのです。【召仙】は神仏の力を借りて苦しむ人たちの気の流れを一時的にであれ外に出し、それを神々の幸徳に供えることで生命の流れを内に引き込み実際の薬の効用を増させるのです」
「どうか一度【印呪符】を手に取って効果を実感してみてください。我々も全面的に支援します」
「【召仙】によって人々の縁が神々の久徳となるように、そして陽の気が薬の成分となるように陰の問題に措ける科学的な検査も引き受けます。どうか一度お試しください」
「いやあ、成長したね、おじさん感心しちゃったよ」
「虚亡先生?」
「先生お久しぶりです。その節はお世話になりました」
「おじさん、今の名前は№4だからね、まあでも会えてうれしいよ」
「先生、いえ№4殿、お会いできて光栄です。私と凛珠はこの通り何とかやってます」
「めでたいねぇ、いいことだ、こういうことがずっと続けばいい」
「ありがとうございます。№4殿はどうしてこちらに?」
「それがまだよく判ってなくてねぇ。【スターターデッキ】周りってことはわかるんだけど」
「ああ、なるほど。それなら心配ありません。今回のデモンストレーションは【スターターデッキ】の副作用のある性能よりも【召仙】の方が安全で利便性が高いことを周知させるのが目的ですから」
「【空白のカード】で№を預かっている身としてはおじさん複雑な気分だけど、まあいいんじゃない、やってみたら」
「ふふ、先生は変わりませんね」
「先生はよしてくれ、それはもう返上したから。まあおじさんも色々あったのよ」
突如、空気が変わった。
「お兄様、これは?」
「預言者?なぜこんなところに?」
「検知器が反応してるねぇ、ただこれは別の気配だ」
「【空白のカード】【スターター:誓いの騎士】【竜化の鍵】模造、インストール」
【印呪符】のデモンストレーションを見ていた観客の一人がいきなり不自然な動きをし、【召仙】の力を行使した凛珠めがけて襲い掛かってきた。
「凛珠、危ない!【印呪符】【召仙】【属性付与】【金剛】【螺旋】合成【金剛螺旋槍】!」
森羅が飛び出して襲い掛かってきた観客を槍で弾き飛ばし、そのままその観客は気絶した。その瞬間、客席から歓声と称賛の声が上がった。
「すげえ、見たか今の?」
「かっこいい、あんな使い方もできるんだ」
「お兄さんかっこいいー」
「いい宣伝にはなったが……」
「お兄様、ここではもう【召仙】は使わないようにしましょう」
「そうだな」
「いやぁ、おじさんの出番はないねぇ。ただ」
№4は考える。これが無差別殺人の鍵なのか、と。
「君たち、大丈夫か?」
№1が急いでこちらに駆けつけてきた。
「№1?」
「別の場所でもいきなり模造預言者が出てな。そちらの対処に追われていたところだ。こちらは大丈夫だったか?」
「こんにちは、№1殿、私は【波羅蜜探題】の森羅と申します。こちらは妹の凛珠です。こちらの危機は対処しておきました」
「そうか、こんなところで怪我人が出ては局長に顔向けできないからな……」
「ええ、ですがこれで【スターターデッキ】の危険性は明白になりました。局長にこれ以上被害が増大する前に製品の回収をするように提言してもらえますか」
「それは避けることはできないだろうな。実際に判断するのは局長だろうが」
「よろしくお願いしますね。凛珠、行こう」
「先生、また」
「……二人とも気をつけて、おじさん心配性だからねぇ」
「それで№4殿、何かわかったか?」
「うんにゃ、ただこれは局長の意図から外れていないと思うねぇ」
「どうしてだ」
「局長ならこの程度のことで実験を止めるはずがない。実際二人は軽々と対処できたからねぇ。もちろん情報は拡散されるから局長は忙しくなるだろうけどねぇ」
「しかしそれだと預言者の反応が出たことはどう考えるのだ?」
「おじさん、それについてはわからないねぇ。ただ№1様の方がそれについては詳しいんじゃないかい」
「ふふっ、ばれたか。その通りだ。これは局長が意図的に仕組んだものだ。だから私がこちらに来たのだ」
「なるほどねぇ。でも局長らしくない。どうしてわざわざ対立するリスクを冒すんだい?」
「心残りさ」
「心残り?」
「ああ、悲劇の歯車はやはり止められないのか、というね」
「……」
「さてと、私は別の場所で暴走が起こっていないかを見てくる。君も気をつけてくれ。さらばだ」
「おじさん、悲劇って言葉には弱いんだけどなぁ……はぁ、やっぱり本気ださないといけないかぁ。やだなぁ、めんどくさいなぁ……」
(凛珠、この出来損ないめ、どうして我が家の秘奥を外に出した?)
(それは、預言者に襲われている人がいたから)
(そんなことは理由にならん、我が家の印は特別なのだ。俗世に流すわけにはいかん)
(ですがそれだとお兄さまが)
(アレのことを気にする必要はない。あんな奴勘当よ)
(でも!)
(くどい!次期当主のお前が気にすることではないわ!)
(お兄、様……)
……
(預言者が村を襲っている?クソ爺、いや現当主はどうしてる?)
(とっくに模造預言者になったぞ。いまは村人たちを殺し回っている)
(凛珠がまだ中に!)
(おじさんに任せなさい。森羅は逃げ遅れた人たちを導いてくれ)
(わかった、先生も気をつけて)
……
(ギャギャ、凛珠、オマエモイズレコウナルノダ)
(ソレヲウケイレルガワガカソノサダメ)
(ジョウドハチカイ、アアヨゲンシャサエイナケレバ)
(カゾクデトモニ……)
(そこまでだ)
(しめえにしようや、当主。【浄苑罪刀】!)
(ギャギャギャギャギャアアアアア!)
(凛珠、大丈夫か)
(先生、私……)
(気にするな、お前は何も悪くない)
(これからは森羅と一緒に……)
「うわだるっ」
そう独り言を呟き彼はとぼとぼと恥ずかしそうに歩き出す。
空は分厚い雲で覆われていた。
「凛珠、大事な話がある」
「なんですか、お兄様?」
「実は【浄土】属性の安全な融合方法が分かったんだが、それがその……」
「聞かせてください、お兄様、できることならなんでも協力します」
「……それがその、愛する者と交わることなのだ」
「えっ」
「何度も確かめた結果、それ以外ではないと分かったのだ。ただことがことだけにお前が無理をする必要はないと思って」
「そんなことはありません、お兄様」
「!」
「協力できることなら協力すると言いました。それにお兄様とだったら、それはその…少々恥ずかしいですが、別に嫌では……ありません」
「……ありがとう。こんな妹を持てて果報者だ」
「私もです、お兄様」
「場所を移そう」
「はい」
「武装召喚士さん達いるかい?」
「はっ、№4様、ご命令を」
「これから預言者候補を確保しに行く」
「候補ですか?」
「そうだ、可能な限り迅速で奪取することが望ましい。それとまわりのスタッフには可能な限り危害を加えるな。場合によっては【御影崩し】を召喚する。覚悟はしておけ」
「了解です」
「【空白のカード】は持ったな?おじさんと一緒に出撃だ」
「お兄様、どうですか?」
「きれいだよ、凛珠」
「____」
「____」
「ここまで色々苦労をかけました」
「いきなりどうしたんだ」
「いえ、うれしくなりすぎて、言葉が出なくて、それでつい」
「かわいいよ」
「それはずるいですお兄様」
「触るよ」
「はい」
言葉にできないほどの幸福がこみあげてくる。
こうして二人の時間を過ごせることを何度夢見ただろう。
それがこうしてここにある。
お互いがお互いを思って、相手のことを労わる。
それだけでどんな苦労も、快楽の前に小さくなる。
わたし達は夫婦になるのだ。そして子を___
(「どうして【確率論的キャンセルノイズ】のことを黙っていたのですか?」)
(「それはあなたが一番よく判っているはずだ」)
「森羅、凛珠、どこだ?クソ、場所を移動したらしいが、この辺りであっているはずだ」
「№4様、検知器に巨大な反応が!」
「明らかに預言者です。座標は(x,x)です」
「っち、間に合わなかったか。いくぞ。ここからは殲滅の時間だ」
「はっ」
「ど、どうして凛珠、私の、首を、締める?」
「お前がもう用済みだからだ」
「なっ」
「【召仙】に何の代価もないと思っていたのか?愚かだな。この娘が一人で引き受けていただけだというのに」
「それを、改善するために、私は、【印呪符】を作った!」
「そうだな。だからこそ【属性付与】でいい供物になったのだ。この娘の身体はもうもらった。いままで【概念転換】を散々使ってきたからな。実に馴染むぞ」
「がっ」
「こういうプレイもいいものだろう?死に方としては最上級の代物だ」
「【空白のカード】コアユニット【規格化武装兵】召喚開始」
「蠅か」
凛珠の意識が森羅から離れて、武装兵に移った。いまだ。
「【空白のカード】キャラクター【御影崩し】召喚。斬撃一閃!」
森羅の首元から凛珠の手が離れる。
「がっ、はぁ、はぁ」
「大丈夫か森羅、おじさん助けに来ちゃったよ」
「先生、なぜこんなことに」
「それは後だ、いいからここから逃げろ、後は任せておけ」
「でも凛珠が」
「行け!振り返るな!」
「ううううううううううううううう」
「茶番は終わりか?」
「おじさん、茶番結構面白いから好きなんだけど」
「死ね」
「武装召喚士の皆さん、0.5秒だけ稼いでね、後はなんとかするから」
「はっ【規格化武装兵】【スターター:誓いの騎士】インストール【ルール共有】」
「無駄な、ことを」
一蹴された。だが武装兵たちは即座に立て直し結集する。
「【共有ルール】【預言者≠召喚士】【効果:再現:拘束】」
「雑魚が」
今度も一蹴された。だが拘束の効果はわずかだが残っている。
この隙を見逃すことはできない。
概念を、斬る。
「【御影崩し】【確率論的キャンセルノイズ】インストール:秘剣【崩罪蝕滅】」
預言者の律動性が崩れた。凛珠とのリンクが切れる。
「悪いねぇ、昔より強くなってもこのざまだ」
「属性コアだけを……」
「凛珠ちゃん、さようなら、おじさん、何もできなかったよ」
(そんなことはないよ、先生)
「っ!」
(ありがとう、先生)
「おじさんは、そんなこと、言われたくない、ねぇ……」
(【笑顔】)
「____________」
「凛珠」
「森羅、なぜ戻ってきた?」
「先生、どうして……」
「許せ」
「なぜだ!」
「……」
「凛珠の遺体はもらっていく」
「そんなことをして」
「わかってる、わかってるんだ」
「なら」
「預言者を【召仙】する」
「馬鹿、それは」
「止められないよ、先生。【印呪符】【属性付与】【冥道】【呪禍】」
「ぐあああああ」
「ごめん、先生」
まだ手はある。
預言者を捕縛して、その律動性から【妹属性】を身体に【属性付与】すればいい。
【印呪符】ならそれができる。【共生】の理念からそれをしなかっただけだ。
身体は人形で作り、人格は【召仙】で集めた人間の生命で代用すればいい。
陰の気から感染が起こるだろうがそれもやむを得ない。陽を維持するには必要悪だ。
後は生きている預言者を見つけるだけ____
「見つけた」
何の変哲もない青年だが、確かに預言者の気だ。生命を感じられない。
これを殺して、律動性だけを凛珠の身体に移し替えれば、それで助かる。
あの夢の続きが見たい。あの温もりを感じたい。本心から互いを思い合える関係。
だから___
「【印呪符】【属性付与】【吸魂】【臓物】」
終わった。これで、凛珠にまた会える。それで今度こそあの笑顔を
「
あの思い出を……
「物語に閉じ込められたか」
青年は何事もなかったかのように立ち去った。
その後、しばらくして№4が錯乱状態の森羅を見つけて保護した。
森羅は凛珠の死体を胸に無邪気な笑顔で、それを愛撫していた。
それは№4が森羅の腕を切断するまで続いた。
いまでは森羅は両腕を欠損したまま病院のとある施設で妹との生活を満喫している。
無論そこには、凛珠の姿はどこにもないのではあるが。
「はぁ、おじさん仕事を止めたいよ」
一人で酒盛りをしていた。なんとなく外で飲みたい気分だった。
そこで同じ隊の召喚士が入ってきた。何も言わず酒を注文し、勝手にやっていた。
さらに一人が同じことをし、もう一人も同じことをし、別の一人も同じことをした。
誰も何も言わなかった。
「でもなぁ、ここはいい場所なんだよなぁ」
ため息をついて、杯を傾けた。
最後まで、全員が各々で酒を飲んでいて何も言わなかった。
「№4からの報告は以上です」
「ご苦労様、【スターターデッキ】の機能は予想より強力ね」
「はい、供物を用意された預言者を完全に圧倒していましたから、【空白のカード】の適合者には間違いなく有用な戦力になりえます」
「もう一つの件は?」
「【邪龍の鍵】背鏡のコアは№4が破壊したので再現不可能ですが、遺体の律動性の反応からいくつかの再現を行うことに成功しました。【空白のカード】なら鍵の利用をある程度制御することも可能かと。もちろん【確率論的キャンセルノイズ】を採用した【デッキ構築システム】なしには副作用が大きすぎて実用的にはなりませんが」
「今回は豊作ね、そうは思わない№1?」
「君がそんなに不機嫌なのは珍しいな。今回の結末が不満かね?」
「全然」
「そう言うと思ったよ」
「【竜化の鍵】模造はどうなったの?」
「あれはあの方の敵を容赦なく滅ぼすための鍵だからね。だから君を殺そうとしていた預言者の【召仙】に反応して攻撃を仕掛けていたんだろう。しかしそれはそうと【スターターデッキ】のいくつかに外付けで模造品のデータを入れるなんて小細工は珍しいね、局長」
「ただのきまぐれよ。ランダムな方がいいデータが集まるでしょ」
「そういえば【邪龍の鍵】には感染の影響もあるんだったか。預言者でない普通の人類を反転させて自分の大事な者のことしか考えさせないようにするという邪悪さが」
「……」
「なんの影響も受けない自分を囮にしてたのか。君は普通の人類なんだから無理をしない方がいい」
「余計なお世話よ」
「いつか君は言ってなかったか?『自分は決して手を汚さない。だからこそ私は諸君らに命令する。【被害は問わない、殲滅しろ】。それは私の、そして生活管理局の責任だ。だが罪は君たちのものだ』とね。それを続けてもらいたい」
「うるさい竜ね、ほんと殲滅したいわ」
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