第4話

「№1が殺された?」

「その通りです、【ランカー】№6【シャドウルーター】様」

「生活管理局からの通達は?」

「被害は問わない、殲滅しろ、との命令です」

「ん、武装召喚士達を集めて」

「了解です」


……この状況で起こりそうなパターンは……焼き立てパンの株式会社【マナの恵み】が大ヒット?他の可能性は小粒のパン企業が細々と生きながらえる……。№1が殺されたこととあんまり関係がなさそうだけど……何か関係があるの?№1のデータを調べてみよう。


『№1【タキオン・ドライブ】任意記述欄:銀河のすべてを観測し、それに介入し、やり直せる能力。「君たちの新しい意志を私に見せてくれ!」(局長コメント)嘘をつくな、この無能。それで一生満足していろ』


あいかわらずひどい。でも№1が殺されたということは、新しい意志が現れたということ。それはつまり___


「預言者」


この状況でトリガーしそうな鍵の種類を検索してみる。見つかった。


『【罪無の鍵】天来:かの鍵の所有者は幼くして迫害を受けながらも、自分のやるべきことをやり続け、ついにそれを多くの人たちが望むような希望として結集させた。創始者が死んだ後もその組織は他者の思いやりに満ち、仲間の連帯を守り、果たすべき約束を履行し続けた。だが【罪無の鍵】のトリガー条件はまさにそれだった。その結果思いやりは無責任に、連帯は共犯に、約束は騙しの手口に反転した。この鍵の影響を受けると人は他人の罪に寛容になる。いやむしろ他人の過ちを気にしなくなると言うべきだろう。そうなるとどうなるか。人は心の中で思ったことを言わなくなり、結局は損得勘定で動いているのだと思い込むようになる。それが繰り返されるたびに他人の悪いところだけに目がいき、長所を発見できなくなり、それを言わなくなるというサイクルが繰り返されることで不信を募らせ、プロセスの把握が阻害される。最終的にあらゆるプロセスは崩壊するから、そこから逃げることだけを考え律動性を求めて破滅する。そうなったら終わりで存在ごと消失させるしかない。』


……なるほど、事情はわかった。でもそうなると協力者が必要だ。そういえばあいつはどうしてるかなと思って再びデータを検索してみた。


『№5【ノーマルチアシープ】任意記述欄:「すごい頑張って応援するよ!!!」(局長コメント)えらい!!!』


「……超アホ」


とりあえずメールだけは送っておいた。また見るのにすごい時間かかりそうだけど副官の人がどうにかしてくれるだろう。こちらも仕事だ。はぁ眠い。




「わが社【マナの恵み】の合言葉は?」

「「すべてはお客様のために!」」

「そのためにはどうすればいい?」

「「業界№1の品質を安全にできるだけ安く届けることです」」

「それで我々にできることはなんだろうか?」

「「最高の努力と心がけでお客様の信頼に応えることです!」」

「結構」


この前の会議では売り上げは順調で右肩上がりとはいかないまでも持続的な成長が見込めていると報告することができた。従業員たちの士気も高い。これもすべてあの鍵のおかげだ。営業もそれなりだし多少の困難があっても誠心誠意取り組めば結果はおのずとついてくるということだ。そのためにちょっとした問題があったがまあいい。それを補って余りあるいい取引だった。ただああいうことは二度とごめんだな。


「社長、大変です!」

「なんだ、騒がしい」

「新しい焼き立てパンの企業が設立されるそうです!」

「それがどうした。所詮資金も規模も大したことではないだろう」

「それが、どうやらあの生活管理局の指示で設立された会社みたいで」

「なら、なおさらどうでもいいではないか。彼らは政治屋だ。我々とは何の関係もない」

「しかしあの鍵のことがばれでもしたら……」

「安心しろ、セキュリティは万全だし、もしばれても、奴らに干渉する口実など与えないさ」

「ならいいのですが……」

「はっはっはっ、君は心配性だな。もちろんそれが君のいいところであるが。これからもいいアドバイスを頼む」

「はい、ありがとうございます。ではこれで失礼します」


新しい会社を設立?

それに何の意味があるというのだ。

それにこの鍵は私のものだ。誰にも渡すものか。

そのためにあの集団と取引をしたのだ。

いざというときにはせいぜい役に立ってもらおう。

もう時間も遅い、今日はゆっくりと眠ろう。

おやすみ。



「……今日は【羊印の焼き立てパン】の開店日。みんな準備はいい?」

「№6様、一応できてますが、まだ初日なので何が起こるかわかりません」

「……それでいい。まずは様子見。私も現場のことはよく判らないからフィードバックができるまではデータ収集に専念する」

「あの、キャッチフレーズは『羊たちも沈黙?こんなパン屋があってたまるか』で本当に大丈夫ですか?」

「……問題ない。むしろそれでOK。ただし変えるときは変える」

「従業員の方たちがどうすればいいのかと聞いてきてますが」

「まずは自分の仕事に専念して。問題があるなら報告してほしい」

「わかりました」



【マナの恵み】

☆☆☆☆☆:とてもおいしいです。いつも買ってます。

☆☆☆☆☆:種類が豊富で選び買いがある。おすすめ。

☆☆☆☆☆:店員さんの対応が丁寧で優しい。パンを余分に買ってしまいました。


【羊印の焼き立てパン】

☆☆☆:ふつう。支払いがカードでやりやすいけど。

☆☆:個性がない。まあうんという感じ。

☆☆:よくもなく悪くもない。また来たいかと言われたら別に来なくてもいい。



「社長、今期の売り上げは【羊印の焼き立てパン】を大きく引き離しています」

「当然だ」

むしろそうでない方がおかしい。こちらはずっとパンを作っているのだから。

生活管理局も無駄な金を使うものだ。

「社長、社員たちがいまの待遇に不満を感じているみたいです」

「なぜだ?給料は規定通り払っているし、ボーナスもだしている」

「それが、現在の品質を管理するのに少し無理をしているらしく、従業員が集まらないところも出ているようです」

「わが社は高い教育費をかけて社員を育成しているからな。単に人数を増やすだけでは商品の質が落ちてしまう。現状はどうにか頑張ってもらうしかない」

「わかりました」



「№6様、この通り、売り上げは若干の赤字です。このままだと資金を回収しきれません」

「……ファイルを見た。大丈夫。ここから何とかする。店舗のデータはそろった?」

「はい、他の小型店舗からのリサーチと実際の購入を繰り返して、おおよその傾向はつかめています。ただ元の味を再現するのは難しいかと」

「うん、にはね。配信サービスのチャンネルは作れた?」

「はい、『あなたの理想のパンが店頭に並ぶ?』というフレーズで№5様にも手伝ってもらっています」

「まだ№5を大っぴらに使っちゃだめだよ。ただネットワークは利用するようにして」

「従業員達にはなんと伝えましょう」

「気に入ったアイデアがあるなら報告してほしい。ただ問題があるアイデアならそう言ってほしい」

「わかりました」



【マナの恵み】

☆☆☆☆☆:すごいおいしいです。毎日買ってます。

☆☆☆☆☆:いいセンスしてる。ただ他の種類もちょっとみてみたいかも。

☆☆☆☆:おいしいです。ただ従業員がちょっと態度が悪かったです。


【羊印の焼き立てパン】

☆☆☆:種類が増えた。ただおいしさはピンキリ。

☆☆☆:アイデアの反映はいいけど、どれを選ぶか迷う。

☆☆:従業員はいいセンスだけど、パンはそれほどでもない。



「社長、まだ売り上げは【羊印の焼き立てパン】を引き離していますが、やや全体の売れ行きが落ちています」

「理由は?」

「単純に従業員のモチベーションが下がっています。商品の品質はいいのですがそれを維持するための人手が足りません」

「どうにかならないのか」

「現在やっている事業の縮小をすれば資源を集中できるかと。あとは今やっているいくつかの仕事を外注するとかですかね」

「いやそれよりもパンへの食欲を増すようなイベントを開催しよう。ちょうど人々の興味も生活の中で食品を活かすことに向けられている。それを利用しない手はない」

「しかしわが社はあまりその手の宣伝は得意ではありませんが……」

「まだ余裕があるうちに一度やってみよう。それでどうなるかは天のみぞ知るだ」

「わかりました」



「№6様、売れ行きはぼちぼちと言ったところですが、特によくもありません。これからどうしますか」

「……ファイルを見た。アイデアの中で人気のものは絞り出せた?」

「はい、それは問題ありません。ただこれからもアイデアを募集するのですか?」

「それ自体は続ける。ただ今度はパンを食べるシチュエーションのアイデアも募集しよう。店内に合いそうな場面をいくつか設計してみて」

「それだとシチュエーションとパンのレシピはどう分類すんですか?」

「その二つがセットのものはそのままで、別々のものはいい組み合わせを従業員に聞いてみよう。従業員達はなんて言ってる?」

「自分達が作るパンをどのような人たちが食べるのかを知りたい、と言っています」

「わかった。用意しておこう」



【マナの恵み】

☆☆☆☆☆:とてもおいしいです。いつも買ってます。

☆☆☆☆☆:いい雰囲気!ここで買えるのは最高!

☆☆☆:態度の悪い従業員を見つけた。せっかくの気分が台無し。


【羊印の焼き立てパン】

☆☆☆☆:普通においしい。まあおすすめ。

☆☆☆:トレンドの反映が早い。ただ自分にはちょつと合わないかな。

☆☆☆:いいとこ取りの真似っこ。



「社長、売り上げが落ちています。【羊印の焼き立てパン】との差は縮まっています」

「なぜだ!」

「慣れない宣伝をしたせいで資金繰りが悪くなっています。それに従業員の待遇をよくする手立てがありません。辞める人数も徐々にですが増えています」

「パンの品質は?」

「それは変わりありません。ですが維持するためのコストで赤字が出そうです」

「それは死守しろ」

「ですがこのままでは経営に支障が出ます。次の会議でどう報告しますか?」

「……地元の力を使えばまだうまくやれるはずだ」

「はい?」

「各地の支店に割引券を配らせよう。季節の旬を取り込んで宣伝するんだ。わが社の商品を食べてもらえればきっとおいしさがわかってもらえるはずだ」

「でもそれは問題の解決になっていませんが……」

「不満があるのか?」

「いえ、わかりました」



「№6様、売り上げは順調です。どこか別の部署でも設立しますか?」

「今回の目的はそれじゃないからしない。経営が軌道に乗ったらノウハウだけ教えて引き上げるよ」

「左様ですか。では今回はどうしますか?」

「№5を使う、いい加減うるさくなってきたし」

「いいですね、どんなふうにします?」

「……『羊ちゃんといっしょにパンを食べよう!』なんてどうかな、おぇっ」

「なるほど、それでシチュエーションとレシピのお題を募集に乗せるんですね」

「そう、№5にそのことを配信してもらう」

「そういえば従業員たちの報告にあった件はどうですか?」

「アレンジのレシピ毎に検索して感想やシチュエーションを割り出せるアプリを作った。これを店舗サイトに接続してダウンロードの表示に載せる。スマホですぐに調べられる。わからないなら従業員に聞けるようにするし彼らにも使ってほしいと提案する」

「わかりました」



【マナの恵み】

☆☆☆☆☆:すごいおいしい。毎日買ってます。

☆☆☆☆:いいけど、最近なんか質が悪くなった?気のせいであってほしい。

☆☆☆:悪くないけど、他の店舗で買ってもいいかな。


【羊印の焼き立てパン】

☆☆☆☆:とりあえず食べるには推せる。

☆☆☆☆:種類があっていいけど、配信者の信者がうざい。

☆☆☆:羊ちゃんのパン買ってる場所ってここ?



「社長、完全な赤字です。【羊印の焼き立てパン】に売り上げで負けています!」

「なぜだ!」

「あちらは人気配信者の動画で宣伝を行っているようです。それで売り上げが伸びたようです」

「馬鹿な!それでパンの味はどうなっている?」

「わが社には及びませんが、それでも十分においしいパンを作っているそうです」

「素材や品質管理はうまくいっているのか?」

「その点は彼らもうまくやっているようです。ただ業者に外注しているというよりはネットワークで輸送を管理しているみたいですが」

「わかった。わが社も有名配信者とコラボしてみようじゃないか」

「社長、しかしそのための費用は?」

「もちろん自腹でやる。その程度できなくて何が社長だ」

「しかしよろしいのですか?わが社のパンはそのような宣伝と合うのでしょうか?」

「それを君に考えて欲しい。頼む、この通りだ」

「……わかりました」



「№6様、売り上げはとても順調です。このまま№5様とうまくやれば業界一位を取ることも夢ではありません」

「……死んでもお断り」

「そう言うと思いました。では何をしますか?」

「セット商品を販売する」

「セット商品?」

「いままでレシピやシチュエーションを募集してパンを作ってきたけど、今度はそれを消費者にもやらせてあげる。ただしある程度は簡略化して即席に完成できるようにする」

「そのためにアプリの検索を利用させるんですね」

「うん、後は包装紙とか袋とかのカスタム性を増やして作ったパンを他の人にあげるのにも手間がかからないように工夫しよう。従業員たちは何と言ってる?」

「ややアプリの検索が使いにくいと。どうも種類が多すぎるみたいで狙ったものをうまく拾えないみたいです」

「わかった。もうちょっとキーワードとトレンドの提示を追加しよう。ただメニュー画面では見やすくなるように画像で選べるようにしてみる」

「わかりました」



【マナの恵み】

☆☆☆☆☆:すごいおいしい。いつも買ってます。

☆☆☆☆:コラボはやらないでほしい。パンはおいしい。

☆☆:パン以外のすべてがよくない。



【羊印の焼き立てパン】

☆☆☆☆:おいしいと思います。

☆☆☆☆:コラボが終わって普通に買えるようになった。ありがたい。

☆☆☆:「」



「社長、今度の会議でなんと報告しましょうか。わが社は崖っぷちだと?」

「そんなことはない!」

「しかし従業員はどんどん辞めていっています。しかも残された従業員達に負担が集中するので、完全に悪循環です」

「どうすればいい?」

「宣伝もうまくいきませんでしたし、コストも上がり続けています。資産運用も難しくなってきました。やれることが見当たりません」

「何かあるはずだ、諦めなければまだやれる。実力自体はわが社にはあるのだ」

「社長、ご報告が」

「何だ?」

「この度の宣伝の失敗の責任を取って辞職したいと思います」

「馬鹿な、ここで君に辞められたらどうしようもないじゃないか!」

「どうかお願いします。これ以上は私には務まりません」

「……わかった」



「№6様、本当にお辞めになるのですか?」

「うん、後は君たちに任せた。まあわからなかったらメールぐらいは送ってもいいよ。時間があるときに見るから」

「いままでありがとうございました。チームもお礼を言っていました」

「私は仕事を片付けただけだからね。まあチームも成長したし、いなくても回るでしょ」

「従業員達は何と言ってる?」

「自分もパンを作りたいと言う人たちが押しかけてきて困っている。まあいつも通り№6様がやった通りに教えるだけだが、と言っていました」

「……ごめん、ありがと」

「みんな笑顔でしたから、大丈夫ですよ」

「……」

「ではご達者で」

「うん、元気でね」



「へい、お嬢ちゃん、あんたが№6【シャドウルーター】かい?」

「……何?」

「こんなところで夜遅くに歩いたら危ないって教わらなかったのかい?」

「……」

「気をつけないと怖ーいお兄さんたちに襲われちゃうかもよ、例えば俺達とか」


気が付くと十数人ほどの男たちが逃げ場を塞ぐように寄ってきていた。手にはナイフやら鈍器やらを持っていた。……あぶり出された。やっと隙を見せてくれた。


「やっちまえ!」

「【空白のカード】キャラクター【シャドウルーター】召喚」

「ビビるな、どうせそいつも雑魚だ、一気にかかれ!」

「……確かに【シャドウルーター】は【召喚物の性能とネットワークを繋げる】だけの効果だよ。でも」

「な、なんだこいつ、ただの根暗女じゃない?」

本体性能プレイヤーの能力が低いとは言ってない」


一人また一人と倒されていく。ナイフの射程範囲、跳躍、フェイク、同士討ちのリスク計算、すべてが明白で単純だった。武器は奪えばいい。残りは情報源の一人だけ。



「待て、降参だ、そのナイフをしまってくれ」

「誰が命令した」

「それは言え___やめろ眼球は、ああああああああああああ」

「誰?」

「ま、【マナの恵み】の社長だ。変な鍵を使い続けておかしくなっていやがった。ただ金払いはよかったからな、そのまま___両目はやめろ、やめ」

「わかった、ありがとう」



しっかりと録音し、その場を後にする。もうここに用はない。【マナの恵み】の本社に行って鍵を回収するだけだ。最近は寝不足で困っている。早く用事を片付けたい。




一人の男が割れた鏡と向かい合っている。

「なぜこうなった?」

自問自答する。わからない。

他人に思いやりをもって接してきたか?:YES

従業員に対しての連帯を守ってきたか?:YES

果たすべき約束を履行し続けたか?:YES

私は何か悪いことをしてしまったのか?


故郷の風景が見える。そこで自然に包まれながら大地と共にパンを食べるという姿を夢想する。そこには動物たちがおり、山々が連なり、星は輝いていた。

なのになぜ?

肥沃な土地に手を付けて耕しその豊かな収穫を皆で受け取るはずだったのに。

湖から水が引かれ、日差しはうららかであり、その草原には純朴の風が吹いている。

そこには何が足りなかったのか?


「この鍵は誰にも渡さんぞ」

ひょいと出た言葉がすべてを裏付けるように、その時は反復しつつ止まっていた。

【罪無の鍵】は何も言わず、そこで優しい調和をもたらすかのようにそこに在った。

もはや彼は独りでありその孤独を分かち合えるはずの者は立ち去ってしまった。

一人の影を除いては。


「……」


(あなたの【シャドウルーター】ってすごいじゃない!)

(そ、そうですか)

(ええそうよ、これがあれば世界中の人々と繋がることができるじゃない)

(お、大袈裟です)

(この夢をあなたにも抱いていてほしいの)

(世界中の人々が平和を目指すのに、召喚の力がもたらす接続を利用しない手はない。そうすればキャラクターを持つことが人々の願いを叶える懸け橋になる)

(それは……)

(そう、あなたの力があればそれを現実のものにできるの、すごいよ)

(あの、それに危険はないんですか?)

(もちろんある、でもこれは今まで誰もやり遂げたことのない挑戦よ)

(誰かがそれを先んじてやらないと、誰もついてこない)

(だから私はやる。この願いを世界中に届けて見せる、そうすればきっと___)

……

(アストラルゲートの暴走?ネットワークが現実に侵入してきた?)

(無限召喚の制御ができない?内部の構築が崩壊に変換される?)

(まだ彼女が中に!すぐに助けないと!)

(し、しかし暴走状態のゲートでは人間の意識を維持したままではとても……)

(それじゃ彼女はもう……)

(おい大変だ、あいつが無理に中に入りやがった)

(すべてを壊変させちまうぞ。すぐに取り出せ!)

(ですが、そもそも操作を受けつけないのです。どうすれば)

(どけ、俺がやる。世界を分離させるんだ。いますぐに)

(じゃないとあいつのせいですべてがぶち壊しだ)

(___もう遅い___すべては回帰した)

(何?)

(壊変サイクルは完成した。あいつはもういない)

(そん、な……)

(クソが!俺は諦めねえぞ、必ずアストラルゲートで彼女を助けて見せる)

(だがお前は許さん、死ね!)

(ああ装置が!)

(アストラルゲートのネットワークが、消えた?)

トリガーした律動準備。壊変サイクル。クロックシーケンス起動)


確かにこの世界にはどちらも悪くなくても人を追い詰めてしまうことがある。

でもだからこそ___

自分が何一つ悪くなかっとしてもその罪が許されてはならないのだ。


「……あなたは何も悪くない。ただ【罪無の鍵】の影響を受けた人たちが無意識に非道を働いていたというだけ。でも」

「だからこそ、何も罪のないあなたを殺す」

「それが、わたしの仕事だから……」

「ああ、ああ、そうだ、私は、何も、悪く、ない……」

「さようなら【シャドウルーター】回線切断」




人を殺した夜はどんな罰が似合うのだろう?

そんな疑問を抱えながら、管理室に報告し、任務を完了した。

仕事が終わって家に帰ると、メールが届いていた。



『ひつじだけど、今日も夜ゲームできる?やる人いなくて困ってるんだ』

『いやいや、配信でいつも実況してるじゃん。もう眠いんだけど』

『ひつじチャットで話そ、ほら今回のパン屋すごくうまくいったじゃん』

『……だから?』

『これからもこんな感じで協力できないかなーって』

『お断り』

『え、でもいつもゲームにはなんだかんだ付き合ってくれるじゃん』

『ゲームは別』

『じゃあこれから生放送手伝ってよ!』

『zzz』

『ちょっと起きてる?ねぇ、ねぇってば』


……つまり連続の徹夜はひどい罰ゲームなのだ。






「報告は以上です」

「ご苦労様、【罪無の鍵】天来の解析結果はどう?」

「やはり影響を受けた人間は潜在的に不死になっていました。罪を抱えている人間以外には傷つけられないみたいです」

「なるほど、だから№1はまぬけにも時報役になったのね、いい気味」

「それともう一つは、№6【シャドウルーター】の回線切断の影響が【罪無の鍵】にも変化を与えていることです。これは彼女の【壊変】の記憶によるものでしょうか?」

「まだわからないけど、その可能性はあるわね。【回帰】を耐えた人間のキャラクターには鍵の影響を改変させることができるかもしれない」

「そうだとすれば、それを今開発している【空白のカード】の【デッキ構築】機能に取り込めれば鍵自体をトリガー条件として召喚できるかもしれません」

「そうね___おや、おかえりなさい」

「こんばんは局長、今回はあっさりやられてしまったよ」

「№1様、ご苦労様です」

「ただのだからそうなるのよ」

「面目ない。あの程度の超越でも負けるとは思ってなかった。やはりまだまだだな」

「アストラルゲート召喚機能制御完了しました」

「ありがとう、さての私は敗北したがの私を倒せる人類を探すとしよう」

「ほんと、無能ね。まあちょうどいい時報兼飾りだけど」

「竜を追うものは自らもまた竜になる。なら人類も竜を目指してもらおうじゃないか、なあ局長」

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