第3話

「【ランカー】の下剋上?」

「その通りです、【ランカー】№5【ノーマルチアシープ】様」

「生活管理局からの通達は?」

「被害は問わない、殲滅しろ、との命令です」

「わかりました。武装召喚士達を集めてください」

「了解です」


わたしはこの状況で起こりそうなパターンをデータベースに問い合わせてみた。大多数のルートでは【ノーマルチアシープ】は下剋上した【ランカー】達にフルボッコにされると書いてあった。しかし低確率で頑張れば結果が付いてくるとも書いてあった。なんですか、この検索結果は。ポンコツもいいところじゃないですか。そこで下剋上をしたと思われる【ランカー】を絞り込んでみた。すると二人まで絞り込むことができた。え、こんなこともできちゃうの?技術の進歩ってすごい。さっそくわたしは検索結果の【ランカー】のファイルにアクセスしてみた。


『№11【強食進化レックス・アダプター】任意記述欄:「俺は強い」』


……

とりあえずもう一人の方も見てみましょう。


『№22【喜劇盆栽サボテンテン】任意記述欄:「人生は予測不能」』


「ふざけないでください!」


わたしは机をバンと叩いた。こんなに虚しい気持ちになったのは久しぶりです。屋台でおでんを買ったときにちくわを食べようとして地面に落ちてしまった時いらいです。いやいったん落ち着きましょう。こういう時は№7の先輩に教えてもらったことを思い出しましょう。なんでしたっけ、「まずは私の紹介文を見ろ、それから他の【ランカー】の傾向を推測しろ」でしたっけ。そこでもう一度データベースで検索してみた。


『№7【ルール・オブ・パラディオン】任意記述欄:ルールの規定・追加。ルールは共有されたものにしか効果がない。抜け道がとても多い。単独ではあまり意味がない。物理的制圧力が高い。』


え、弱点とか書いちゃっていいの?それにとてもわかりやすい説明です。これに比べるとさっきの人たちは何を意図してそんなことを書いているのかまるでわからない。そういえばわたしも検索したら出るんですよね。試しに検索してみましょう。ありました、どれどれ。


『№5【ノーマルチアシープ】任意記述欄:「頑張って応援するよ!!」』


……

……

人のこと言えませんでした。


ひつじ:「ってなわけでねー、もうどうしようかって話よ」

名無しの呑兵衛:「それ機密条項じゃないの?」

ひつじ:「全然違うよー。誰でも見れるし」

ひつじ:「なんか【ランカー】を自由に育成するためだとか」

にゃんこマン:「俺は強いは草」

kuroron:「人生は予測不能も草」

ひつじ:「いやでもわたしも『頑張って応援するよ!!』、だし」

暁:「羊ちゃんはいいよ」

4:「羊ちゃんはいい」

局長:「羊ちゃんは許す」

ひつじ:「えっ?あれ?局長?なんでここに?」

名無しの呑兵衛:「本物の生活管理局の局長?」



昨日の配信はあの後本物の局長が配信を見ていると大盛り上がりでした。

でも問題は何一つ解決していません。

このままではフルボッコです。

ええい、頑張れば結果が付いてくるはずです。


「全員揃いましたか」

「はっ」

「今回のお題は【下剋上してくるランカーあるいは抵抗者を返り討ちにすること】です。ランカー以外にどれくらい抵抗者がいるかは正直わかりません……」

「そういえば昨日【シェアグループ】に【エンジョイ・プランナー】というネームが上がってました。どうやら『【ランカー】の実力は本物か?』という見出しで賛同者を増やしているみたいです」

「それは初耳です」

「何人かの【ランカー】とキャラクター持ちを抱えているみたいです。気をつけた方がいいですね」

「ありがとうございます。でもそうすると管理局からわたしに通達が来た理由がわかった気がします」

「キャラクター【ノーマルチアシープ】の影響範囲ですからね」

「うん。みんな【空白のカード】は持った?出動だよ」



「【回帰の鍵】の噂は聞いているか?」

「はい」

「噂の出所は不明だが、×××地区にそれの所持者が現れたという報告があるらしい」

「それは確かなんですかい?」

「ああ、【回帰の鍵】の効果である【アストラルゲート】の無限召喚のことを言っていたからな。このことを知っているのは一部の【ランカー】だけだ」

「それがもし手に入れば……」

「ああ、№1なんて敵じゃない。どんな召喚士もには勝てない。後は生活管理局を傀儡にして俺たちの天下だ」

「でも生活管理局は【ランカー】を送り込んでくるんじゃ」

「そりゃそうだ。そのために俺たちがいる。なあ№22【喜劇盆栽サボテンテン】no №【心傷外科医トラウマイスター】」

「その通りですわ、№11【強食進化レックス・アダプター】」

「僕はまだno №だからね。影でこそこそやらせてもらうよ」

「頼むぜ二人とも。天下を取ったら地位は山分けだ」

「ええ」

「ふふ」

「さあ、【空白のカード】を持て。出撃だ」



「我々は【シェアグループ】【エンジョイ・プランナー】の者です。みなさん【ランカー】の実力がどれくらいのものか見てみたいとは思いませんか?今日の配信では皆さんがまさに見てみたいと思っているそのことをやってみたいと思います。果たして上位の№を持つ者に下位の者たちは抗えるのか?今回の主役はこちら」

「№11【強食進化レックス・アダプター】だ。俺はどこまでも強くなるぜ」

「№22【喜劇盆栽サボテンテン】よ。さあ人生に彩りを」

「彼らに立ちはだかるは№5【ノーマルチアシープ】だ。なんとまさかの一桁台の№だぞ。さあ彼女の実力はいかに?」

「おなか痛い、テンションダダ下がりです……」

「さあ勝負開始だ!」

「雑魚は任せる。俺は本体を狙う」

「承りました。くれぐれも油断なきよう」


いきなりなんですかこの演出は。これじゃ完全に強者のオーラ出さなくちゃいけなくなるじゃないですか。いやいや無理ですって。しかもすぐに攻撃してくるし、ああもう適当になんとかやるしかないです。


「武装召喚士の皆さん、お願いします」

「了解です。【空白のカード】コアユニット【規格化武装兵】召喚開始」

「とりあえずわたしも【空白のカード】キャラクター【ノーマルチアシープ】召喚」

「迎撃を開始します」


相手はたった二人、しかも周りは観客に囲まれていて逃げる隙間もありません。対してこちらは圧倒的に数的有利があります。いちおうわたしもいますがそれは大したことではありません。この状況では普通にやっても勝負はついています。なんだ、データベースのルート予測も大したことありませんね。


「おせェ!さあ、どんどんよこせ、そのコアユニットをな。そうすりゃもっと強くなるぜ」

「ぐはっ、つ、強すぎる。しかもどんどん力が増して……」

「召喚物も舞台の登場人物、それなら一定の軌道に乗せるのも難しくはありません」

「同士討ち?武装兵の挙動が乗っ取られている!急いで対応を!」


あわわわわ。

どうしようどうしよう。

これじゃ負けちゃうよ。

しかも公衆の面前で『№5は負けた』と宣伝されるの?

うっ、考えただけで悪寒が。


「№5様、落ち着いてください。まだ我らは負けていません。いつも通りやればいいのです」

「い、いつも通りって?」

「配信でやっている通りということですよ」

「えっ?見てたの?」

「はい。ですから頑張ってください」

「……」


視聴者に頑張れと言われてやる気を出さないわけにはいかない。

こんなところで逃げてたら、昔と同じようになってしまう。

それは嫌だ。

わたしについてきてくれるみんなのためにもここで負けられない!


「みんな【夢色泡種シャボンシード】【描華麗々フローラルペイント】【重撃音限グラビティソニック】を用意したよ。これで【規格化武装兵】を自分好みに改変して。わたしはみんなが作ったアートならどんなものでも歓迎だよ」

「これは昨日の配信の時の……」

「俺もその時描いてました。こんな時にもそれをやれるなんて感激です!」

「どんなアレンジをしてもいいんですか。思いっきり自分好みにやっちゃいますよ?」

「全然OK。でも他の視聴者を傷つけるようなものはやめてね。あの二人にはいいけど」

「了解です。さあ派手に行くぜ」

「うん、【応援】するよ!」



「やはり№5は飾りだったか」

心傷外科医トラウマイスター】から聞いていた通りだ。部下の采配に頼り切っていて自分では何もしていない。特に訓練や知的労働に従事しているわけでもない。№を維持するのにたまたま局長から地位を与えられたからその場所にいるだけだ。だが奴の【シェアグループ】だけは強力な規模を持っていた。だからこそグループを作って知名度を上げることでその信用を保っているのだ。もちろんその努力は買おう。それを維持するのがどれだけ難しいか知っているからだ。しかしそれが公衆の面前で壊れればどうなるか?もちろんわかりきったことだ。そのために【喜劇盆栽サボテンテン】が舞台を盛り上げて決して一時の推移でないことを実証する必要がある。そうすれば昔の実力のある人間が人気を博するという時代を取り戻せる。だからこそ俺は___



「おい、どうした。武装兵の制御ができてないぞ!」

「申し訳ありません。なぜか急に動きがおかしくなって」

「ふざけるな、そんなわけが___なんだあれは?」


いままでの武装兵は規格化した動きしかしていなかった。召喚士の腕はもちろんよかったが、それでも反応測度的にこちらが負ける道理はなかった。それが急にすべての個体がてんでばらばらの動きをしだして、ルールなど知らんという顔でこちらを攻撃し始めたのだ。ありえない。こんなめちゃくちゃな行動を一定の強度を保ったまま制御できるわけがない。なのにいくら攻撃を避けて時間を稼いでも統率が乱れる様子が一向に見えない。どんな魔法を使えばこんなことが?


「頑張れ頑張れ!いけーいけー!」

「うおおおおおおおおおおお」


「どうして私の舞台が、そんな……」

いえ、まだ負けられない。私にも意地がある。何十年と積み重ねてきた役作りとシナリオの読み込みで培った経験は生きている。どんなアドリブや解釈にも対応して見せる。それが器の大きさを揺るぎないものにする。さあ、どんなハプニングを起こす?どんな表現で芝居の成長を展開する?


「頑張れ頑張れ!いけーいけー!」

「うおおおおおおおおおおお」


?????????????

それ、だけ?


完全に独自のパターンで行動する武装兵たちが二人を追い詰めていく。

二人も何とか応戦しているが成長速度の伸び方が処理能力を圧倒的に上回っている。

こうなると数的有利の影響が勝敗にとって動かし難いものとなる。


「いやーなんとかなりました。ほんと途中までフルボッコでした。でも頑張れば結果がついてきますね。めでたしめでたし。召喚士さん達も活き活きしてるしこれは勝利では」


「やはり僕が来て正解だね。キャラクター【心傷外科医トラウマイスター】召喚」


時が止まった気がした。

周りから声が聴こえてくる。


(いつもみんなに媚びを売ってるような顔をして、恥ずかしくないの?)

(気持ち悪い、そんなに自分を周りに合わせてよく平気でいられるね)

(それだから、あの時も私を見捨てて大勢の方に就いたんだ)

私は言い返す。

違う。

(じゃあどうしてあの時私を助けてくれなかったの?)

(私を助けてくれる人は誰もいなかった。あなただけが友達だったのに)

(この嘘つき!)

違う!

(何も言い返せないんだね。それはそうだ。だって真実のことだもん)

(真実は覆せない。あの時のことを私は決して忘れない)

(人間が大勢で何をするかわかっていたら、そんな汚らわしいことできるわけない)

違う!!

(いや違わない。何を変えられるというの)

(すべては終わっていて、あなたは人気者、私は落ちこぼれ、この差は埋まらない)

(努力ですべてを変えられるのならどうして周りは何も変わらない)

(自分を変えようとしてももがき苦しむだけ。暗い顔をした人間を周りは避ける)

わたしは、そうは思わない。

(なるほど、なら偽善者の役割を演じ続けるがいい!)

(それがあなたにお似合いよ)


(わたしは、それで、いいんだ)

(わたしが大勢の人と一緒にいた方がいいのは事実だもん)

(でもそれは暗い人を隅に追いやるものじゃないよ)

(ただわたしもあのときのことは誰にも言えなかった)

(もし後悔なんかしたら、自分に嘘をつくことになるんだって思ったから)

(わたしがあの時、あなたを助けなかったのはどちらも何も悪いことをしていなくても、人を追い詰めることはできるということが恐ろしくて身がすくんじゃったんだ)

(だからわたしはどちらが悪いかじゃなくて、わたし自身の灯りの方に向かって歩いて行く。もちろんあなたが私を嫌うのだとしてもそれでいい)

(ただそれだけだよ)


「ああああああああああああああああああああああ!」


わたしが気が付くと周りの人たちが急に叫び声を挙げて暴れ回っているのが見えた。【ランカー】の二人も観客席にいる人たちも、武装召喚士達も。みんな。

この状況を引き起こした人はどこかに行ってしまったみたい。

だけどそんなの関係ない。この状況は私の出番だ。


「みんな聞いて。自分の心の中の灯りを信じるの。その道をゆっくり進んでいくの」

「一人で無理なら私が【応援】する。それでも無理ならもっと【応援】する。それでも無理ならもっともっと【応援】する」

「だらしなくなってもいい、迷子になってもいい、取り残されてもいい、私が【応援】する。だから一緒に歩いていこう」

「頑張れ!」





「勝者№5【ノーマルチアシープ】!」

「えっとわたしは何もしてないだけに複雑な気分ですね……」

「【エンジョイ・プランナー】主催者として、断言できますよ」

「はぁ」


会場は乱闘の結果めちゃくちゃになっていて、とても勝負を続行できないありさまになっていた。結局、誰かの影響で結果はうやむやになってしまったけど、まあ公衆で負けたと宣伝されるよりはましかな。あとはあの二人をどうするかだけど。


「俺達の負けだ。好きにしろ」

「どうぞ煮るなり焼くなりしてください」

「そうは言ってもね……」


ここで処断を下すのもなんか違うし、でも何もしないというのもそれはそれでなあ。


「じゃあチャンネル登録してもらえばどうですか」

「それだとわたしは登録者数を力ずくで増やしているということになるんですが」

「いいんじゃない、本人たちが望めば」


もうやけくそですね。


「そんなことでいいのなら、登録しよう。別に弱くなる事じゃないしな」

「必ずあなたのキャラクターの魅力を探り当てて見せます」


まあそれで、落ち着くのならそれでいいかな。

解散!








「くそ、あいつらもすぐに取り込まれやがって」

「どこに逃げる気だ【心傷外科医トラウマイスター】。いや、旧№5【亀裂残高ローン・ディバイド】」

「な、№1【タキオン・ドライブ】!僕を殺しに来たのか?」

「そうだ、と言ったらどうする?」

「どうもしないさ。僕はおとなしく№1様に殺されるさ」

「そう言うと思ったぞ」

「罪状は?下剋上を企て【ランカー】様に歯向かったことかな?」

「違う。局長は下剋上を禁止したことがない。今回の抜擢はただ局長が№5を個人的に気に入っていただけだ。№11と№22はそれに巻き込まれたにすぎない」

「ほら、えこひいきじゃないか。それで追い出された僕の身にもなってほしいね」

「残念ながらそうはいかない。なぜなら今回のお前の罪は【回帰の鍵】の噂を流したことだからだ」

「はっ、それがどうした?それが禁忌だとでもいうのかい?馬鹿馬鹿しい。組織を抜けた以上、情報をどう扱うかは僕の自由さ」

「その通りだ。だからこそ今回のことは局長の機嫌を損ねた」

「それを№1様が引き受けるって?哀れなものだね」

「違う、それを引き受けたのは昔のお前の部下達だ」

「あ?」

「私はただの見届け人だよ。この件と本質的に関りがない。ただ【アストラルゲート】の問題は私の管轄なのでな」


足音が近づいてくる。


「すでに知っていると思うが、君の行動の選択肢はすべて塞がれている。君自身の新しい意志でこの場を切り抜けるしかない。局長はこの能力を『くそつまらない』『なんでお前が№1なんだ、決めたのは私だけど』と言っていてな」

「や、やめろ!」

「もうひとつ局長が仰っていた。『【回帰】も【壊変】もできずただ対象をどこまでも破壊するだけの生産性のないができてしまった。これじゃ予算の無駄遣いと非難されてもしかたがない。産業廃棄物だから好きに使え』と」

「う、うわ」

「それでちょうど必要としている彼らが買い取ってくれてね。万事めでたしというわけだ」

「【対召喚士用汚染空白銃】構え」

「し、死にたくない死にたくな」

「撃て」

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