第2話
「【空白のカード】が輸送中に奪われた?」
「その通りです、【ランカー】№7【ルール・オブ・パラディオン】様」
「生活管理局からの通達は?」
「被害は問わない、殲滅しろ、との命令です」
「わかった。武装召喚士達を集めてくれ」
「了解です」
私はこの状況で起こりそうなパターンをデータベースに問い合わせてみた。大多数は無鉄砲な抵抗者どもにすぎないと出ていた。【空白のカード】はしかるところでは高く売れるのだ。しかし低確率で【悪蝕の鍵】の影響から【空白のカード】の律動性に反応して、それを獲得しようとするというパターンが紹介されていた。私は【悪蝕の鍵】の情報を検索してみた。
『【悪蝕の鍵】
私はため息をついた。生活管理局がこのことを知らないはずがない。だからこそ私に通達が来たのだ。善に介入するのは【ルール】の役目だ。
「全員揃ったか」
「はっ」
「今回の【ルール】は【民間人を逃がし抵抗者を拘束しつつ模造預言者を殲滅する】だ。ここで民間人と抵抗者の違いは我々に物理的な危害を加えるかどうかであり、またその両者と模造預言者の違いは検知器に引っ掛かるかどうかと定義する」
「了解です」
「くれぐれもルールは破るなよ。ルールを破ったものの生死に責任は負えない」
「キャラクター【ルール・オブ・パラディオン】の効果ですね」
「そうだ。【空白のカード】は持ったか?出動だ」
「こんにちは、お昼のニュースです。今日のお天気は……ええと特報です。キャラクター生活管理局から災害規定警報が発令されました。該当区域にいる方は直ちに避難してください。繰り返します。該当区域にいる方は___」
「また預言者騒ぎですか。預言者に対する差別は広がっています。権利から言えば彼らもまた人間です。ここは本腰を入れた議論を」
「預言者周りの被害でどれだけの人命が失われているかご存知ですか?被害者の家族は言いようのない心的外傷を受けています。それに我々の生活を脅かす存在を放置できません」
「預言者とかどうでもいいから補助金を出せ。生活管理局からもらった額じゃ足りねーよ」
「ほんとだよな。しかも管理局も裏で何かやってるらしいし。報道関係者も入れないそうだ」
「いやでも管理局のおかげで地方のインフラとか技術革新の無償提供とかできてるわけじゃん。昔はしがらみとかでめちゃくちゃ非効率だったし。しかも医療や治安維持も兼ねてる。信用するかはともかく現実的には助かってるんじゃね?」
「民間人の避難誘導を開始、取り残されたものを捜索します」
「抵抗者達の身柄を拘束、ただし【空白のカード】は所持していません」
「こちら×××地区、【空白のカード】の追跡信号による地点確認。標的を確認しました。座標を転送します」
「検知器の反応が出ています。やはり【悪蝕の鍵】の模造預言者のようです」
「モニタリング開始、武装召喚士を出せ」
「了解。【空白のカード】コアユニット【規格化武装兵】召喚開始」
貨物に荷積みされていた【空白のカード】に群がる老若男女様々な模造預言者たちを召喚された武装兵たちが攻撃した。普通なら模造預言者たちに物理攻撃は効かない。しかし【空白のカード】から召喚されたコアユニットなら存在に対する打撃を与えられる。そして模造預言者たちの常人をはるかに上回る生体反応の攻撃はキャラクター【ルール・オブ・パラディオン】で防衛する。【ルール】を共有し守る者たちへの危害の停止・遮断。しかしそれだけでなく___
「【追加ルール:侵犯】【対象:侵犯者≠「ルール」を守るもの】【効果:拘束・再現】」
武装兵を無視して武装召喚士部隊に直接攻撃を仕掛けてくる模造預言者たちに対して銀の鎖が現れ、身体を拘束した。彼らの肉体の限界を超えた暴力でも外せそうになかった。物理的暴力でしか実力を行使できない彼らには十分すぎる効果だ。暴れる力がなくなるまで拘束を続けるつもりだったが拍子抜けなほどあっさりと彼らは抵抗を止めた。怯えが消えた?まあ特に問題はない。後は武装兵がとどめを刺すだけだ。
「制圧完了しました。死体の焼却を開始します」
「法的な承認と申請が完了しました。これから行動をすると議会には伝えます」
「環境配置の偽装を設定。模造預言者との交戦の結果を配信します」
「避難警報の発令を維持、目撃者を発見しだい拘束します」
「民間人の偽装した書き込みを一部の真実を加えて混ぜ込みます」
「時間設定を確認、ルール認定の検索から投稿の閲覧情報を削除します」
「よし、【空白のカード】を確保しろ」
終わった。別になんてことはない。いつも通り何も起こらなかった。それだけだ。
「ん、あれはなんだ」
「わかりません。生活管理局のマークがついているので友軍だと思いますが」
「おそらく抵抗者の拠点から資産の徴収を行っているのかと」
またか。また私の仕事が泥棒と同じに……
技術や資金を提供してくれることには感謝している。
しかし___
「気に食わない」
「何か仰いました?」
「いや、なんでもない。撤収するぞ」
「大変です。検知器に反応が!」
「何?」
ありえない。模造預言者が残っている?
もし【悪蝕の鍵】の影響で
そうすれば私の【ルール】に問題があったことになる。
それは断じて許せない。
「すぐに対処する。座標は?」
「(x,x)です。しかしお一人で向かうんですか?」
「君たちにはこの場の処理の采配をお願いしたい。それに君たちも知っていると思うが私はそれなりには強い。大丈夫だ、すぐに戻ってくる」
「了解です。では」
指定された座標地点に向かうと一人の青年が怪我をしているらしく、その場で動けなくなっているのが見えた。おそらく抵抗者達と何かあったのだろう。しかし検知器はきちんと反応した。まちがいない。こいつが例の模造預言者だ。
「【空白のカード】【ルール・オブ・パラディオン】召喚。攻撃」
白銀の騎士が現れると模造預言者と思わしき青年の身体を突き刺した。これで片付いた。よし部下たちのところに戻ろう。
「
(な、なぜ私の【敵から仲間を守れ】という【ルール】が効かない?)
(いやぁ、君の【ルール】は素晴らしい。だから僕が上書きしてあげるよ。安心して、【仲間同士皆殺しにするまで虐殺を続ける】。これで【公平】だね)
(やめろ、やめてくれぇぇぇぇ)
……
(なぜ、私のルールを無視した?)
(だって、俺がかばわなかったら、隊長の心が死んじゃうじゃないですか)
(だからいいんですよ。これはルールを破ったことにはならないんですから)
(馬鹿な、私を殺してルールを無効にすれば、それで終わったはずじゃないか)
(隊長、それはね、誰も望んでないんですよ。もちろん俺もね)
(だから隊長、生きてください)
(それが俺たちの【ルール】です)
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「【忘却】しなかったのか」
青年はそのまま立ち去った。預言者を目の前にして致命的な失態だ。
なのになぜだ、部下たちが私を探しに来てくれたことがこんなにもうれしい?
あれはいったい何だったのか。いや、わかる、あの時のことだ。
忘れたことなど一度もない。だがそれでも薄れていた。
これは報告する価値のあることなのか?
だがそれをしたくない。何かがそれを拒絶する。何も起きなかったからだ。
いいだろう。今回は私の負けだ。だが次は___
「報告は以上です」
「ご苦労様。実験は成功ね」
「はい。【空白のカード】の輸送車に【悪蝕の鍵】の被検体を乗せたままでそのコアの律動性を浴びせ続ければ【空白のカード】の本来の持ち主に向かう。間違いありません」
「今回の№7の報告書もうまくできてるけど、欠けている場面があるのよね。まあもちろんどこがそうであるかは想像がつくけど」
「今回も検知器に異常が発生していたようです」
「それは検知器が【空白のカード】を基にして作られているからよ。そうでなければ【空白のカード】がコアを抜き出してユニットやキャラクターとして利用するなんてことはできないでしょ。検知器はあくまでその信号を受信しているだけ」
「それはつまり……」
「あの方の理想の同志、ということよ」
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