キャパシティハートブレイクコアメルトダウンノイズ
オドラデク
第1話
「まーた死んだよ」
これで何度目だろうか。やっぱこれクソゲーじゃないか。
PS低すぎる言い訳を考えながらリザルト画面を見る。やっぱ課金と年季だよ。
「こんな装備じゃ勝てるわけないし、やる気も起きないし、あー最悪」
はぁ、なんもする気が起きない。ばったりと倒れて深呼吸する。もう無理だわ。
すると突然電話が鳴った。ヤバい、バイトだ。
「あのもしもし、え?もう時間すぎてる。あ、本当ですね。いえそうじゃなくてすみませんすみません今すぐ行きます来なくていいですってそんなこと言わないでください」
電話が切れた。時間が過ぎてるな。あーあ。だめじゃん。
「散歩でもするか」
誰に聞かれることもなく部屋から外に出る。日光がうるさい。
少し歩くと、三人の人間が一人の人間を押し倒しながら囲んでいる構図が見えた。うわ絶対に近づきたくないやつじゃん。普通に迂回しとこう。
(なんで私の希望を奪ったの。私の力でみんなを守るはずだったのに。これじゃ普通の人間でしかない。正義が浸食されてもいいの?)
「あのすみません。どうかしたんですか」
「見てわからないのか。彼にビジネスライクな提案をしようとしているんだよ」
「えと、どう考えても…」
「もちろん批判は大歓迎ですよ。あなたが支払ってくれるならね。いまなら追加サービスを上乗せします」
「なんで、余計なことをしたんだよ。おまえのせいで余計に額が増えたじゃないか。どうしてくれるんだ」
「…ここはもっと話し合ってですね」
「ええ、ええ、話し合いですね。承りました。皆さんお願いします」
痛い。痛い。痛い。
「お前、助けに来たんじゃないのかよ。そんな弱さで何とかなると思ってたのかよ」
思わない。
「大丈夫です。彼からの支払いは終わりましたからね。では次はあなたですね」
「おい、やめろ、ふざんけんな、やめろー」
ばかばかしい。滑稽だ。涙が出る。三文芝居だ。まあそれが現実だ。いつものことだ。
再び歩き出す。痛い。
すると今度は道路の真ん中で酔っ払いが倒れていた。どうも飲みすぎて動けないらしい。そしてありきたりにも車が向こうから走ってくるのが見えた。いやヒーローなんかじゃないんだから助けねえよ。
(人を助けるんじゃなかったの。どんな人間でも平等じゃないの。たとえそれが不可能でも)
全速力で駆け出した。酔っ払いの身体を押し出して自分もそのまま移動する。どうやら車は行ったみたいだ。
「ばかやろう、なにぶつかってきてるんだ。このゴミが」
殴られた。まあ命を助けた代価としては安いものだ。そのまま無視して先に進む。痛い。
さらに歩いていくと今度は…何をやっているのか?【キャラクター生活管理局】のマークとそしてあれは【空白のカード】?
「やめろ、それは俺の命に紐づけられた大切なキャラクターなんだ、返してくれよ!」
「君は負けたんだ。おとなしくしなさい。君の命もすぐにこの【空白のカード】に記録されるようになる。悪いようにはしない」
空白のカードを持った男がカードを手にかざすと負けた方の人間からコアの様なものが抉り出されて、空白の模様に色が付いた。それは男が大事にしていたキャラクターだったのかもしれない。コアを抉り出された男はぐったりして虚ろになり、そこから立ち去った。
「そこに隠れている君、用があるのなら早くしてくれ。私は忙しいんだ」
気づかれた。いやでも今から逃げれば
「捕まえた」
肩に手を置かれて動揺して振り返るとさっきの男は別の生活管理局の職員が空白のカードを手ににっこりとした笑顔で逃げ場を封じてきた。
「君もどうやらキャラクターを持っているらしいな。出しなさい。我々が管理してあげよう」
「いや、えっと、実は持ってないんですよ…」
「嘘をつかないでほしい。我々の開発した検知器にははっきりと君はキャラクターを持っているとの反応がでている。それとも抵抗が望みなのかな。いいだろう。勝負しようじゃないか。カードゲームでね。もちろん受けなければ君の生活インフラは停止させてもらうよ。さあどうする?」
「う、受けます」
「ではゲームを始めよう。いくぞ」
そして____
「よしなんとか勝てた!」
「ま、まさか君はこんなに強かったのか?」
危なかった。あやうく濡れ衣で空白のカードを当てられるところだった。しかし勝てたなら何の問題もない。いやカードゲームのアプリ入れてて本当よかった。
「待ちたまえ」
「え?」
「残念だ、非常に残念だよ。これほど強いプレイヤーがまだいたなんてね。もうほとんど【学校】に収容されたかと思ったが、そうではなかったらしい。しかしね君、私は負けるわけにはいかないのだよ」
それは銃だった。いやいやカードゲームに負けたら銃持ち出すって、どんだけこじらせてるの?
「我々【キャラクター生活管理局】の者が【ランカー】でもないキャラクター所持者に負けたとあっては実績に響くからね。君の強さを本当に尊敬するよ。さようなら」
バン、バン、バン
「終わったか?」
「ああ、この地域の掃討もおおよそ完了した。あの方の理想を実現するのにまた一歩近づいたというわけだ。これで諸手を挙げて本社に戻れる」
「私も安堵しているよ。今度妻と共に旅行に出かけたいな」
「私もだ。おいしいものを食べに行こう」
(私の理想、それはね___)
「待てよ」
生活管理局の職員二人は振り返った。驚いてはいない。ただまだ息があるのかといぶかしんだだけだった。ただ、それでもさっき銃撃したはずが銃で撃たれた痕がどこにもない人間を見るのは不思議だった。
「貴様【預言者】だったのか!」
「くっ、このことだけでも報告を__」
「
生活管理局の職員二人は動かなくなり、少し経つと能面が消え、苦虫を噛んだような顔になり、【忘却】し、そのまま立ち去った。何も起こらなかった。そういうことだ。
「さて俺も帰るか」
そうして毎日が何も起こらずに掻き消え、決断も選択もなかったことになり、瞬間が無駄なままで消費され、いつも通りやはり忘却される。
(でも私は忘れないよ、あなたが正義を奪ったこの「恨み」をね)
まあ睡眠は大切だということだ。
「報告します。×××地区で原因不明の障害が発生した模様。現場にいた職員たちが心理的な不調とカウンセリングの要求を訴えています。いかがいたしますか?」
「そのままで結構。矛盾はうつ病ということで薬と希望を与え続けなさい。それと【預言者複製計画】の進展は?」
「いまのところうまくいっていません。被検体の絶対数が少なすぎるのと、それをアーキテクチャとして設計する上での根本的な乖離があります。サンプルを増やしても改善する可能性は低いです」
「そのまま続けて。大丈夫きっとうまくいくわ。あの方が信じた計画だもの。上手くいかないはずがない。そうでしょう?」
「はっ」
「【空白のカード】の生産は?」
「そちらはうまくいっています」
「なら心配ないわ。多くのキャラクターたちが夢を共有すれば、きっと希望があふれる世界を創造できる。そうよね?」
「仰せのままに」
「では未来を変えましょう。私たちの絶え間ない努力で」
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