春宵の森
流崎詠
春宵の森
あの時は私、からっぽになっていたから――。
夜、麗佳は眠る前に必ず剣を手入れする。魔術で作られた焚火に赤々と光る眩しさにもすっかり馴れて、血や滑りを拭い取り、刃こぼれを修復し、曇りなく磨き上げる手際も格段によくなった。もっとも、嫌でもよくなければならない。武器の鈍りは命取りになる。敵は彼女が寝るからと遠慮などしてくれないし、張っている結界も完璧には程遠いのだ。襲撃に備えて片膝でしゃがみ、周囲に気を配りながら丁寧かつ素早く布を剣にかけた。
次いでナイフの残りを数え終えた時、枯れ落ちた枝葉を踏んで近づいてくる気配があった。
機敏に振り仰いだまなざしは、すぐにやわらいだ。安堵の息が漏れる。アスラーダというこの世界のこの国には、漆黒の甲冑を纏う者はただ一人しかいない。麗佳の叔父である、『黒公爵』アルフェスラーン・クレス。お帰りなさい、と涼やかな笑顔を浮かべた姪に笑い返して、彼は首筋を撫でさすりながら均整の素晴らしい肉体をその隣に座らせた。
「ああ、さて飯にするか風呂にするか」
重厚な兜を脱ぎ、傍らに置きつつ頭を振る。甲冑にも増して艶やかな黒の束ね髪がその勢いで顔にかかってくるのを、麗佳はひょいと片手で払った。
「どちらもないです」
彼女の笑みが微苦笑に変わる。獣の殺戮がひどい、と聞いて郊外の森に赴いたところ、森を結界で閉ざされてしまった。つまり、結界の主を探し当てて倒すまでは出られぬ羽目に陥ってしまい、保存食と水筒しか持ち合わせていない。幸い近くに泉はあるが、湯泉ではない。獣に魔術の心得があるらしいのが大誤算だった。魔術が不得手ながらも百戦錬磨のアルフェスラーンが軽口を叩くのは頼もしいが、魔術が素人である麗佳は苦い棘が胸に食い込んでいる。よく言えば豪放磊落、悪く言えば大雑把な彼を補わなければと思うのにみすみす不覚を取った悔しさに、軽口を叩き返せない彼女であった。
見上げても夜空の見えない、鬱蒼とした森の奥深く。禽獣や虫の声もなく炎が燃える音ばかりの、嵐の前の静けさ……禽獣よけにも視界を得るためにも、火は絶対必要だが「ここにいます」と明々と居場所を知らせてもいるのである。危地で夜を明かすのは慣れたものの、恐れはある。今はまだ。麗佳も襟元で切り揃えた黒髪を払った。
「じゃあ君にしようかレイカ」
十一歳上の叔父とはいえ、高雅な整った容貌の青年から肩先で言われると微妙に落ち着かない。日本、というか地球の話をあれこれするのを少しだけ後悔してしまった。平然を装いつつも麗佳はついうっかり、手にしていたナイフを手首でひらひらと振っていた。
「……こちらでも叔父と姪は、いけないのでは」
「いやね、そう真面目に言われても困るんだが」
アルフェスラーンは大きく肩を竦める。確かに、禁忌だからこそ許されたのではないか。「こちら」では結婚していないと変に思われるという十六歳の麗佳が、男と二人で旅するなど。
「……真面目に冗談を言っただけです」
冴え冴えとした碧眼が笑った。半年前に出会った時は茫然とした。澄んだその目で「迎えに来た」と言われて、本当に天使か何かだと思ったのだ。後で「ハーフ?」「親戚?」など色々と考えたが――結局は麗佳がハーフで彼が麗佳の親戚、それも世界を股にかけて、という荒唐無稽な話だった。つまり、叔父といってもまったくの他人同然。彼女の目は黒く、容姿も似ていなかった。
が、アルフェスラーンに出会って麗佳は今、生まれ育った地球の日本からアスラーダのアスラーダ皇国の内外で生きている。母が皇族の血統に連なるクレス公爵家の出身であり、その弟の彼が異名を取るほどの戦士であったのは、本当に幸運であった。
「とりあえず、ここいらには獣の気配はない。君は寝るといい」
「はい、叔父上」
貴族の家だから、教わったアスラーダ語は少々固い。アルフェスラーンのような、くだけた言い方を咄嗟にできないのがこういう時はもどかしくなる。だから麗佳は会話を立ち消えにし、ナイフを所定の場所に差し込んでいった。マントや濃灰色の革の帷子、ズボンの太腿に締めた帯やブーツ。ふと靴元に積もる枯れ枝が目にとまった。アスラーダの生物は、地球と余り変わりがない。行き来ができるのだから、何か繋がりがあるのだろう。次いでアルフェスラーンに、そうして自らの手首で炎を映す白銀色の腕輪に視線を移した。アスラーダの蔓を象った細身のデザインは、彼女の感覚でも優美である。何より人間が変わりなく、生活にほとんど支障がないのも幸運であった。
それは不幸と紙一重だが、麗佳は考えないようにするためにも言われた通り寝ることにした。
「それでは、おやすみなさい」
水筒に口をつけながらアルフェスラーンが頷いた。彼女は長剣を傍らに引きつけ、座って寝る姿勢を取る。敵地で呑気に寝転がるなどできなかった。先程までも下僕の獣と戦っていた……身体はまだ高ぶっているが眠れる時は眠るのが鉄則である、無理やり欠伸をして目を閉じた。
しかし、不意にアルフェスラーンが麗佳を呼んだ。振り仰いだ先で彼は穏やかな、だが真剣な表情をして姪を見据えていた。
「この森を出たら、君はどうする」
それは不意打ちであった。アルフェスラーンを見返す目が強張っていくのを感じるけれども、まなざしを通して有無を言わさぬ力を打ち込まれている気がする。いや、彼女はそう確信し、瞬きもできない硬直に耐えるしかなかった。そして直感した。尋ねてはいるが彼はもう決めてあり、自分がなんと返答してもそれを言い渡すつもりでいるに違いないのを。
果たして、同行者にして保護者であるアルフェスラーンは麗佳の頭に手を置いた。優しくも、大人の親愛と威厳をあえてあからさまにした所作に、思わず睨みつける。が、彼はまさしく大人の余裕で受け流し、異名にふさわしい確固たる風采で続けて言った。
「一度、アスラーダに帰らないか」
叔父の言う「アスラーダ」に、麗佳は痛みに耐える顔になって薄い唇を引き結ぶ。
紛らわしいが、世界の名も皇国の名もその国都の名もすべて『アスラーダ』である。神が愛する常春のアスラーダ、麗しの皇都。しかし、彼女は二度と足を踏み入れたくなかった。
アルフェスラーンは麗佳の気持ちを了解し、同情をもしているはずだ。でなければ、「僕と世界を見て回るか」と手を差し伸べ、生き抜く術を教えながら旅するはずがない。だが、だからこそ彼が強い決意で言い出したのが嫌でもわかってしまい、「帰りません」と小声で呟くのがやっとであった。
そうしてうつむく姪に翻意を促すように、アルフェスラーンが優しく彼女の髪を撫でた。
「レイカ。こんな言い方も悪いが。今なら……帰れば、地位も富も得られるだろう。君はそれだけの戦果を上げた。僕の姪でなくても。ただレイカ・ルシェラ・クレスとして」
「叔父、上」
「これは本当だ。君は強い。本当に強くなった。しつこく突っかかる者がいても、僕は君の実力を保証する。『黒公爵』の名にかけて、果たし合ってでもだ」
淡々と、諭す内に宿る深い強さに麗佳はさらに深くうつむく。いや、顔を隠した。そこまで言われるとは想像しなかった。彼がこんなにも手放しに誉め、認めてくれたのは初めてで驚いた、そして感動すらした――なぜ今この時、この話題でなのだろう。泣きたいほどだった。
今なら。しかし前は。アスラーダに着いた半年前は。
思い出したくもない記憶の波紋に揺らされて、麗佳は拳を握った。昔に読んだ小説では、異世界に呼ばれた女子高生は実はその世界の王族で、大歓迎で玉座に就いた。が、麗佳に向けられたのは、驚きに戸惑いに、……白眼視、とどめに虜囚の境遇であった。
向けられた麗佳にも向けてくるアスラーダ人にも、どうにもならない。だから、アルフェスラーンが自分の力ずくでもと勧めてくるのが真摯な思いやりであるのも嫌でもわかる。「公爵家当主の妹の忘れ形見」という現在の身分は、実はとても脆い。なぜなら母は大罪人だからだ。それで、娘である彼女を救うには、アスラーダに有益で何よりも清廉潔白な身分を持たせようと叔父は考えた。今さらに苦く思い至った。
彼が手を差し伸べたのは、麗佳がアスラーダから離れるためではなくアスラーダで生きるため。が、そのすれ違いを言ってもそれも、どうにもならない。彼女は哀しく半眼を伏せた。
「あそこは、『帰る』ところではないです」
「――……君にとっては『行く』ところ、か」
姪にもまして哀しげに、何より苦渋を露にアルフェスラーンが微笑した瞬間であった。
来る。麗佳は反射で長剣に手を伸ばした。同時に身をひねって起こし、鞘走らせる。木々と結界を破って突進してくる黒いものを見極め、攻撃をかわしざま電光石火で刃を振るった。
絶鳴が響き渡る。一閃で喉を切り裂かれた、馬に似た姿形の獣が倒れる間にアルフェスラーンも立って大剣を抜き払い、新手と戦おうとしていた。が、彼女はやりきれない思いのままに、その熊に似た獣に飛びかかった。首を刎ね飛ばす。宙に軌跡を引く首から、首を失ってまごついたような胴体から、噴き出す黒い体液は防護結界に蒸発した。すべては、身体と装備に施した魔術のなせる業。この半年、叔父から剣技と魔術を学び、鍛えつつ各地で獣との戦闘に明け暮れた。
それでもよかった。なんでもよかった。アルフェスラーンと背中合わせになり、剣を構えて息をつく。こうして彼とともに戦う以外に、この世界に麗佳の生きる場所はなかった。
これらの獣がたとえ、堕落したアスラーダ人のなれの果てであるとしても。
この襲撃は最初だ、続く。肌が痺れる。周囲の木立の向こうで層をなす濃密な気配に、徹夜になるかな、とアルフェスラーンが苦笑いで囁いた。なるかもしれません、と囁き返したが、むしろ安堵があった。徹夜になればうやむやになるかもしれない、と期待して麗佳は苦笑した。
刹那、まるで土石流のように気配が動き出す。
「レイカ!」
「行きます!」
叔父に応えて叫びながら、麗佳は迫る殺気に跳ぶ。どこまで跳べるかは把握してある。茂る梢を突き抜けた麗佳の眼下を、赤黒い影の塊が空を切った。靴底にかかる魔術を制御して、夜空を背に中空に佇む。眺めやると、自分を狙って蠢く気配が陰った。無数の礫が飛来する! 魔術で作られた黒塊、と認めるより早く剣で打ち払い、あるいは防護結界が弾く。無傷でしのぎ、ナイフを投じた。蠢いた気配を、ついでにアルフェスラーンを襲おうとしていた獣を矢継ぎ早に刺し貫く。動きが鈍った隙を逃さず彼が切り込み、大剣で縦横無尽に葬る。つい今までの静寂から一転、森は悲鳴絶叫の巷となった。
自分も切り込もう、と外して懐にしまっていた濃灰色の革の手袋を嵌めようとした一瞬、月光を孕んだ腕輪が麗佳の目に入る。ふっと、暗い空ろに囚われる。
空に、アスラーダと地球を結ぶ境があるという。
父も死んで、独りぼっちになって。頭も心もからっぽになった麗佳の前に空から降り立った、叔父を名乗る青年。それは僕の姉の腕輪でね、だから君は僕の姪なんだ。その言葉を疑う余裕はなかった。確かに腕輪は母の形見であり、青年すなわちアルフェスラーンも母が若ければという顔をしていた。迎えが、来た……ただもう救われた気持ちに突き動かされて、彼女はふらふらと手を取った。
けれどもアスラーダが本当に連れ帰りたかったのは、母だったのである。世界を追放される大罪を犯してなお、母は愛され惜しまれていた。ゆえに特赦まで下りたのだ。だが母は既に亡く、代わりに連れられた麗佳は父親似の地球人で、母の容貌を受け継がなかった。
アスラーダにとって地球は、罪人を追放する牢獄。アスラーダの一年は地球では十年、また地球には季節が存在する。自然に揉まれ、十倍の速さで目まぐるしく生きるのが「懲罰」――麗佳はだから、まるで私生児の扱いであった。父母は仲睦まじく、麗佳も可愛がられたが、生きるために母が心ならずも地球の男の妻になって子を産んだ「悲劇」、望まない娘、と決めつけられた。たまたま腕輪を持っていただけで本当は娘ではないのではないか、という猜疑も浴びせられた。それは彼女を連れ帰ったアルフェスラーンが否定した後に立ち消えたものの、彼女に温かく接してくれたのはアルフェスラーンだけだった。
一人を除いて自分のすべてを否定する世界に、麗佳は傷ついた。地球に帰りたかった。が、帰るには罪を犯すしかない。ゆえに、曲がりなりにも公爵家の一員である麗佳を罪人にさせはしない、と監禁された。生かしも殺しもせずに閉じ込められて、彼女はからっぽになった心どころか器まで壊れそうになった。叔父に声をかけられなければ、とっくに壊れていた。
――……帰りたい。帰れるなら帰りたい。だが帰るためにアスラーダの何かを、誰かを害する気にはなれない。
だから、このどうにもならないやりきれなさ、空しさに耐えて麗佳は戦う。心も身体も空にして。最初はアルフェスラーンの足手まといとなれば後がない、また幽閉されると恐れて戦う術を身につけた。しかし、その中で彼女は自らの意志で決めたのである。戦って生きることを。だからこの森を出てからも。帰れと言われても。
「私は、戦う。戦い続ける」
呟いて意識が醒め、麗佳は嵌めかけの手袋を音が立つほどきつく引っ張った。風が獣の死と血を運んでくる。戦いは、アルフェスラーンが圧倒的に勝っているが終わってはいない。獣の数が多すぎる。徹夜になるか。深呼吸し、腹を括った。
柄を握り直して心を引き締め、彼女は風を切って戦場へ飛び込む。
獣を斬り下げるアルフェスラーンと目が合った瞬間、少しだけ、降り立った自分は今どう見えたのだろうと思った。
葬った最後の獣が、森に棲む獣の首魁であったのかはわからない。
ただ、ミノタウルスを麗佳に連想させる巨大な獣を二人がかりで切り裂いて、それで獣の気配が絶えて結界が消えていることに気づいた。斬って斬って斬りまくったどれかが当たりだったのだろう。結論して、森を出ることにした。空は白みかかり、泉から漂ってきている朝霧に周囲の色が霞んでいる。果たして徹夜で戦い通しになったのであり、二人とも疲労困憊だったものの一も二もなく「出るぞ」「出ましょう」と意見が一致した。立ちこめる血臭や死臭は鼻が麻痺しているからいいが、累々としている獣の死屍は御免であった。
双方怪我がほとんどないのを幸い、重い身体を引きずって麗佳とアルフェスラーンは黙々と歩いた。質より量、その一言に尽きる戦闘だった。――森を出てから? 宿で風呂に入って寝る。彼女の倍は斬ったアルフェスラーンも、今はアスラーダに帰るも何も吹き飛んでそれしか頭にないに違いなかった。
「しばらく斬りたくないな……」
と、薄れた防護結界を張り直す暇がなく、返り血に頭から爪先まで汚れたアルフェスラーンが長嘆息で凭れかかってきた。血がこびりついた黒髪の感触が気持ち悪い。もっとも麗佳も同じ有様だが、それより叔父の身体を咄嗟に押し返せないのが問題であった。重い、転びたくない、とうんざりしつつ慌てた次の瞬間、彼女は軽やかに抱きあげられた。
「君も疲れただろう、レイカ。寝て構わないよ。獣が出れば放り出すが」
笑う彼に、正確には彼の気力体力に敗北感を覚えて、麗佳は曖昧に笑い返すしかなかった。力の抜けた膝から下が、もう感覚を失いかけてしまっている。これでは地位も富も頂けません、と皮肉に思いつつ、ふっと青白い空を見上げた。
戦い始めてから、思い出すようになった光景がある。
母はよく、ベランダで洗濯物を干しがてら空を仰いで歌っていた。好きな歌だと。なんと歌っているのかわからなかったから、洋楽と思い込んだが……わからないまま適当に覚えていたのが、麗佳が母の娘である証明の一つになったのだった。だが、目が黒く、名前も「るい」といった母の本当の名がルシェラといい、堕落した魔女であるとは麗佳は今でも信じきれずにいる。
堕落したアスラーダ人は獣か魔に変移するという。心が闇に食われれば獣に、闇を制すれば魔に。人品いやしからず、求婚者の殺到した「アスラーダの華」が魔女になった理由は誰も知らない。ただ、母は魔女に堕落した自分を法に則って牢獄の世界へ追放するよう願い出た。瞳が漆黒に染まった以外は以前のまま、アスラーダに災いをもたらすことなく潔く罪に服したからこそ、紛糾したものの特赦が下りたのであった。
それなら、闇を制したという母は堕落したどころか、気高く偉いのではないか。だが、アルフェスラーンは麗佳の言葉を寂しげに否定した。獣でも魔でも、堕落すれば罪なんだよ。と。
そうしてアスラーダでは三年、地球では三十年、彼女が生まれてからは十六年が経った。
母の父とのなれそめはわからない。両親に尋ねると秘密だと微笑まれたので、「ごちそうさま」な気分で特に気にしないでいた。そんな普通の仲のいい夫婦と思っていたのが、母が異世界の貴婦人だった。そして一人娘の麗佳がそこで疎まれた挙句、自分の弟と一緒に獣を斬りまくる未来など、魔女でも母は想像しただろうか。
ともかく、その時々の母のまなざしはとても柔らかかった。懐かしむように、愛おしむように、アスラーダを見晴るかしていたように思い出された。
麗佳には冷淡な世界だけれども、今は。今なら。叔父の言葉が急に染み入ってくる。
「これで……この辺は、しばらく獣の被害がなくなる」
独りごちる彼女の表情が、吐息とともに緩む。
この澄んだ空の向こうでは、もう五年もの歳月が経っているはずだ。帰りたい気持ちはあるが、狂おしく絶望的な痛みは鎮まってきた。冷ややかで豪奢な皇都の外は、人々が獣に虐げられて生活に汲々とする世界だった。「レイカ・ルシェラ・クレス」――ルシェラの娘であるクレス家のレイカであっても、命を懸けて獣と戦う麗佳に至極普通に感謝や好意を寄せてくれるアスラーダだった。
麗佳は瞳を細めた。皇都にはやはり行きたくないし、戦うことで心が癒され満たされるとまではいかない。だがそれでも、今なら、虐げられるアスラーダ人のためには戦いたい、それが生きる拠だと思えるようにはなった。「その」アスラーダを、母が空遙かに見つめた故郷として。
柔らかみを帯びた彼女のまなざしが、かつての姉に生き写しであるのを知るアルフェスラーンが密やかに、温かく見守る微笑を浮かべた。
―了―
春宵の森 流崎詠 @nagarezaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます