疎遠になった幼馴染からラブレターが届いたのだけどどうすればいい?

久野真一

疎遠になっていた女の子から「好きでした」という手紙が届いたのだけどどうすればいい?

 新緑の季節。

 マンションの郵便受けに懐かしい人からの手紙が届いていた。

 差出人は浅野あさのかすみ。

 中学へ進学する時に引っ越して以来会っていないかつての親友で幼馴染。

 未だに忘れられない初恋の女の子。


「ただいまーって今日は誰もいないんだけど」


 一人ノリツッコミをして自室に引っ込む。

 父さんと母さんは久しぶりに夫婦水入らずの旅行だそうで。

 時々胸焼けがするけどしょっちゅう喧嘩されるよりはマシか。


 それより、かすみからの手紙だ。

 はやる気持ちを抑えて丁寧にカッターで開封する。

 出てきたのは一通の赤茶色の便箋びんせん

 こんな色の選び方にもかつての彼女を見出してしまって、

 少し胸が苦しくなる。


拝啓はいけい 波多野靖樹はたのやすき様、か」


 書き出しはそんな丁寧なものだった。


(かすみの奴何かあったのか?)


 小学校の頃はご近所さんだったけど連絡先を交換してもいなかった。

 中学生になるからと卒業前に買ってもらったばかりのスマホ。

 彼女に連絡先を交換しようと切り出す勇気がどうしてもなかった。


 本当に疎遠になってしまった。

 だから五月という中途半端な時期に手紙を寄越してくることに違和感を覚える。

 まあ、読んでみないと始まらないか。


『最後に会ってから四年になるかな。毎年、年賀状の近況報告だけになっちゃったけど、きみは元気にしてる?』

「ああ、元気にしてるよ」


 きみ。あんまり使わない二人称だ。

 小説の影響で使い始めたと前に彼女から聞いた覚えがある。

 そんなところも変わっていないんだな。


『私は知っての通り、お嬢様高校に進んだけど、周りは皆いい子たちばかりで元気にしてるよ。誰かさんとずっと連絡取ってないことだけが引っかかってるんだけど』

「え?」


 意外過ぎる続きに、自然と胸が高鳴るのを感じる。

 落ち着け。かすみとは小学校の頃は親しくしてたわけで。

 懐かしくなっただけだろ。


『中学の頃から時々思ってたの。友達はいっぱいできたけど、小学校の頃、君とできた話がわかる子はいなくて、ちょっとだけ寂しいなって。君の方はどうかな?』

「そっか。俺のことをそんなに想ってくれたのか」


 中学に入ってから何度も悩んだことだったけど、少しだけ救われた気がする。


『でも、これだと全然本心書いてないね。単に近況が書きたくて手紙出したみたい。本当はね、私は君がずっと好きだったの。私はいろいろなことを忘れられない・・・・・・から』

「え?ちょっと待て待て」


 かすみが俺のことを好き?唐突過ぎて目を疑ってしまう。

 ならなんで、ロクに連絡もしてくれなかったんだよ。


『きっと君のことだから、好きなのになんでとかツッコミ入れてそうだから言い訳を書いておくけどね。自信がなかったの。小学校の頃は仲良くしてくれてたけど、友達と思ってくれてたのかな?とか色々考えちゃったし、もし鬱陶しがられたらどうしようと思って。それで、年賀状に色々書くくらいならセーフかなって。ずっとそんな風に思ってきたの』

「こいつの年賀状やけに色々書いてあったっけ」


 はがきの裏がびっしりでよく不思議に思ったものだった。

 でも、かすみなりに色々考えた結果だったんだな。

 

 小学校の頃、俺はかすみのことが好きだった。いや、今でも大好きだ。

 俺もいろいろなことが忘れられない・・・・・・から。


『もう告白しちゃったから、色々書いちゃうね。君と仲良くなってからは楽しい思い出が本当にいっぱいなの。林間学校で夜中に二人で抜け出して一緒に星をみたこととか。君の家でゲームを一緒にプレイしたこととか。うちの庭でキャッチボールしたことも、近所の縁日のビンゴ大会で大興奮だったことも、他にもいっぱい。うちは裕福で住んでる家も豪華だったからなのかな。皆少し距離置いてた気がするけど、君は気にせずにいてくれたこともよく覚えてる。ううん、思い出すというより忘れられない・・・・・・というのが正確かな。この意味は君ならわかるよね』

「まったく……。かすみのやつも結構拗らせてたんだな」


 読んでて本当に恥ずかしくなってくる。

 もう過去のことだと思っていた。

 別の中学に行くことになって、繋がりを感じられるような約束もなくて。

 でも、年賀状でも繋がりがあるから―そうでなくても忘れるのは無理だけど。

 

 忘れられない病。あるいは体質と言ってもいいかもしれない。

 俺とかすみの共通点で呪いでもある。

 普通の人は時間が経つといろいろな記憶がぼやけていくらしい。

 でも、俺もかすみも感情が揺さぶられた出来事は決して忘れられない。

 写真や映像として今でも鮮明に再生できる。


 だから、傷ついたことがいつまでも心にひっかかる。

 思い出が思い出になってくれない。

 初恋相手のことをずっと引きずってしまう。


『やすき君も同じように忘れられないで・・・・・・・いてくれたら嬉しい。でもこれは私の願望。君の想い出の中に私が居たらいいなっていうだけの気持ち』

「俺も忘れられるわけないってのに」


 仲良くなってから初めて行った縁日。

 ビンゴ大会でどっちが早くビンゴになるかで競争したっけ。

 格闘ゲームで相手の動きを読み合おうと夢中になった。

 修学旅行では一緒の班になって行き先について頭を悩ませた。


 そういえば、俺とかすみが仲良くなったきっかけはなんだったっけ。

 頭の中の思い出を引っ張り出して再生してみる―

 再生、なんてのが出来てしまうのが我ながら苦笑だけど。


◆◆◆◆数年前◆◆◆◆


 小学校四年の春。桜が散ってしばらくした頃。

 放課後、歩いて数分のうら寂しい公園に彼女はいた。


浅野あさのだ。あいつ何してるんだろ)


 一学年でたった二クラスの小さい小学校。

 浅野かすみと同じクラスになることも何度かあった。


 育ちの良さが伺えるひときわ綺麗な衣服。

 色々なところからわかる品の良さや丁寧さ。

 彼女は別世界の住人のようであまり接点がない相手だった。

 と同時にそんな彼女のことが俺はどこか気になっていた。

 彼女がいつも寂しそうだったからだろうか。


 つい声をかけてしまった。


「浅野。何してるんだ?」 

「うわっ!」

「そんなことされたら傷つくんだけど」


 少し気になっている女の子だからなおさらだ。


波多野はたの君かあ。びっくりさせないでよ、もう」


 胸をなでおろした浅野。小心者っぽい振舞いが意外だった。


「びっくりする方が悪い。なんで公園で本?家で読めばいいだろ」


 浅野の読書好きは学年中がよく知るところだった。

 わざわざ公園で本を読むのが不思議だった。


「うーん……家で読んでもいいんだけど」

「けど?」

「今は暑くもなく寒くもなくて、外で読むのに丁度いいんだよ」


 本から視線を少し外して言った言葉はどこかずれていて。


「浅野って結構面白い奴だったんだな」

「面白いは余計だよ。でも、波多野君も変わり者だね」

「変わり者かなあ。読んでる本、俺も読んだことあるから気になったんだ」


 当時、俺は家にあった書物をかたっぱしから読み漁っていた。

 その中に彼女が読んでいた本もあったから気になったのだ。


「大人向けのやつだけど波多野君はわかったの?本当に?」

「なんとなくは。でも、そんなに難しくもないだろ」

「……意外と趣味があうかもしれないって初めて思えたよ」

「わかるわかる。周りが読んでる本が簡単すぎるんだよな」


 当時、既に小学生向けの簡単すぎる本には飽き飽きしていた。

 だから彼女の気持ちは痛い程よくわかったっけ。


「波多野君は凄いね」

「なにか凄いことでもあるか?」

「君は皆して子どもっぽいこと話してるなって思わない?」

「少しはな」

「でしょ?普通に皆と仲良くできるのがちょっとうらやましい」


 諦めたような声を聞いて俺は一つのことを悟った。

 浅野は頭がよさすぎるから周りが対等に思えないんだって。


「別に浅野が真似しなくてもいいんじゃないか?」

「そうかな」

「そんなの人それぞれ。それより!本色々読んでるんだろ?」

「それなりにはね」

「色々聞かせてくれよ。読んでる本の趣味も合いそうだし」


 この時は本当に物怖じしないやつだったな。


「いいね。日本史とか行ける口?」

「家においてある本を一通り読んだくらいだけど」


 こうして。俺と彼女のちょっと変わった交流が始まった。


◇◇◇◇現在◇◇◇◇


(思い返しても妙なきっかけだったよな)


 他にはどんなことが書かれているのだろう。


『この四年間、何度も君に連絡を取ろうかって迷ったよ。でも、君がよそよそしかったらショックだし、「私のことを想ってくれているかもしれない」ていう幻想・・が本当に壊れちゃう。でも、勇気を振り絞って手紙を出すことにしてみたよ。時々、学校や家でのたわいないことを話したいし、もし叶うならもう一度仲良くしたい。もし私と連絡を取ってくれるならラインで友達登録してくれると嬉しいかな。idはa_kasumiだよ』

「かすみの奴、どれだけ拗らせてたんだよ」


 下手したら俺以上じゃんか。


『もし何とも思ってなかったら、手紙はぽいって捨てちゃって。やすき君が私の知っている頃と同じだったら気を遣って返事してくれちゃいそうだけど、それだけはやめてくれると嬉しいかも』

「やっぱり、変わってないな」


 こんな風に予防線を張る臆病なところとか。


 一人で澄ました顔をしていたのにとても寂しがり屋だった。

 俺を打ち負かしたときはドヤ顔をしていた。

 楽しそうにしている顔や将来の夢を語る姿が大好きだった。

 彼女が落ち込んでる時は俺まで落ち込みそうになった。


 そんな彼女が気になって、いつしか好きになっていた。


「よし、善は急げだ」


 早速友達登録をする。

 まずは何かちょっとした挨拶でも―そう思っていた矢先だった。


【やすき君、友達登録ありがと。改めてよろしくね】

「おいおい。早過ぎだろ」


 ついツッコミを入れてしまう。

 ラインの友達登録してから一分も経っていない。

 もしかしなくても、かすみも相当返事待ってただろ。

 同類だからこそ考えてることがよくわかる。


 衝動に任せて『通話』ボタンを押す。


「もしもし、かすみ。久しぶり。四年ぶりか?」

「やすき君?どうして通話?」


 あの頃とあんまり変わっていない透き通るような高い声。

 電話越しでも動揺してるのが伝わってくる。


「数年越しに突然ラブレターを出して来た誰かさんが、友達登録を今か今かと待っていたみたいだからな」


 ちょっと皮肉ってもいいだろ。


「な、なにを根拠に言うの?挨拶が早かったのは暇してた時だったから……」

「ラブレター出しといて何今更怖気づいてるんだよ」

「……意地悪」


 なんか電話の向こうでふくれっ面をしてるのが目に浮かぶみたいだ。


「ちょっと困惑したけど、俺もずっと忘れられなかったから嬉しかったぞ」


 この言葉の意味が届くだろうか。かつてのかすみならきっと……。


「そっかぁ。やすき君もあの頃からずっと忘れられなかったんだね?」


 万感の想いを込めた嬉しそうな声だった。


「俺だって三年以上拗らせてたんだぞ?」

「引っ越す時に「これからも遊ぼう」くらい言ってくれても良かったのに」

「こっちの台詞。そっちこそ、何か言ってくれりゃ良かっただろ」


 本当にとんだ回り道だ。

 でも、きっと以前みたいにまた仲良くできる。

 夏休みには会って一緒に遊べたりもするかもしれない。


 これからのことに思いを馳せているとー


「こうして電話くれたってことはその……手紙、嫌じゃなかったんだよね」


 少しおどおどしたような声だった。


「ラインで時々おしゃべりでもしようとかか?別に大丈夫だけど」

「そのね。君、私に告白されたこと自覚してる?」


 声はどこか非難の響きをともなっていた。


「悪い。ていうことはその……ええと、かすみは俺のことが好-」

「その先はまだ言わないで!」

「うん?急にどうしたんだ」


 懇願を込めた響きに困惑してしまう。


「あ、大声出しちゃってごめん。でも、手紙でのアレは仮というか……こうして連絡取れたから、改めて正式に気持ちを伝えたいの」

「それはその……ありがとう?」


 でも、ちょっと待て。今から改めてこの場で告白されるのか?

 恥ずかしいなんてもんじゃないぞ。


「今日の午後八時まで待ってもらえる?」

「大丈夫だけど。そういうこと・・・・・・でいいんだよな?」

「うん。やっぱり直接・・伝えないとだから」

「わかった。俺も待ってるから」

「やすき君は変わってないね。また今夜に」


 後に残ったのは、ツー、ツーという無機質な音。


(予想外過ぎだ)


 夢かと思って頬をつねってみると……痛い。

 あいつの言葉、ちゃんと受け止めなきゃな。


(出来れば直接会って聞きたかったな)


 一つ隣の県だから来るのだって時間がかかる。

 そうわかってはいるのだけど。


(でも贅沢ってやつか)


 俺は完全にかすみの行動力を舐めていた。

 数年越しのラブレターにどれほどのエネルギーが必要だったのか。

 そんな彼女が電話で告白なんて中途半端なことするわけがなかったのに。


◇◇◇◇


(もうすぐ午後八時か)


 スマホ片手に今か今かと落ち着かない時間を過ごす俺だ。

 数年間恋焦がれた女の子から告白の言葉を聞けるのだ。

 

(3、2、1……あれ?)


 ピンポーン。何故か通話ではなくインターフォンの音が鳴る。

 偶然とは思えなかった。

 大体、この時間帯にはうちのところには宅急便だって来ない。

 思い出すのは夕方のかすみの言葉。


(まさか)


 今は父さんも母さんも外出中だ。意を決して出ると。


「やっほ。来ちゃった」


 インターフォン越しに見えたのは、綺麗に成長した幼馴染の姿だった。

 

◇◇◇◇


 リビングのソファにて。俺は落ち着かない気持ちで彼女と向かい合っていた。


「なんか思わせぶりだと思ったけど……直接乗り込んでくるかよ」


 憎まれ口をたたいてみるけど、綺麗になった彼女を前にそれどころじゃない。

 明らかにばっちりメイクを決めてきたことがわかる肌つや。

 ほっそりした身体のラインを際立たせる水色のワンピース。

 何やら意識しまくりが伺える装いだった。


「電話でとか中途半端なのは嫌なの。散るにしたって潔く!」


 なんで散るの前提なんだよ。


「まあいいや。その……服、似合ってる」


 しまった。さすがにいきなり服をほめるとか唐突過ぎる。


「うん。ありがとう。急いで準備したから自信なかったけど」


 所在なさげに指をいじいじする姿もどこか可愛らしい。


「やっぱり電話の後にこっち来るの決めたのか?」

「そりゃそうだよ。手紙スルーされたのに来たら私どれだけ痛いのって話だし」

「いきなり家に押し掛けるのも大概だと思うけど」

「ごめん。反省してる」

「別にいいけどさ」


 気まずいのか嬉しいのか。そんな気持ちでさえよくわからない。


「そういえば。手紙、ありがとうな」

「ええと」

「俺も何度かかすみに手紙でもしようか迷ったんだ。また話したいと思ってたからライン交換しようってだけでも良かったし。でも、かすみが俺のこと何とも思ってなかったらって怖かった」

「そっかー。それで年賀状にやたら色々書いてあったんだね?」


 弱みを見つけたとばかりに急に強気になりやがった。

 

「かすみの方だって同じだろ。はがきの裏面にあんなにびっしり書いてさ」

「そ、それは……つい懐かしくなって」

「ま、まあ。そこは俺も同じだし?」


 ああ、会話が続かない。どうすりゃいいんだ。


「それで……告白、してくれるんだよ、な」


 言うに事欠いて何言ってるんだ、俺の馬鹿。


「……っく。君ねえ。もっと上手い言いまわしがあるでしょうに。お腹痛い。「告白、してくれるんだよ、な」とか」


 どこがツボにはまったのか。

 急に笑い転げるかすみの態度に俺は恥ずかしくなって縮こまるばかり。


「悪かったな。言葉選びが悪くて」

「ごめんごめん。でも、ちょっと気が抜けちゃった」

「どっちが告白する側なんだかな」

「うん。やっぱり私は君の事が大好き。恋人になって欲しいな」


 さっきまでの態度が嘘のような堂々とした声と態度。

 今のこれって告白の言葉、だよな?


「俺もずっと好きだった……告白ってこんなのでいいのか?」

「私も自信ないけど。いいのかな?」

「全然締まらない告白だったよな」

「言えてるね」


 なんだかおかしくなって二人して笑い合う。

 しかし、少し気が抜けて来たな。


「でさ。今まで言えてなかった色々話したいんだけど」

「私もこの四年間のこと、色々知りたい」


 こうして。

 中学の三年間どうしていたとか。

 高校に上がってからはどうしているだとか。

 年に一度の手紙では伝えきれないことを色々話したのだった。

 

 話が盛り上がって三時間が経とうという頃。


「あのさ。もう、終電終わってないか?」

「あ!ああ!今何時?」

「午後十一時過ぎ。そっちへの最終が十一時くらいだろ」

「ほんとだ!どうしよう……えーと、あーと」


 立ち上がったかと思えば、あーでもないこーでもないと急にテーブルの周りをぐるぐると周り始める。考え事を始めるとこうするのも昔からの癖だったっけ。


「落ち着けって。おじさんたちにはなんて言ってあるんだ?」

「友達の家に行ってくるって。口裏合わせてくれるように頼んであるよ」

「話が盛り上がって泊まってくることにすればいいんじゃないか?」

「さすが、やすき君。頭いい!」

「普通に考えれば思い浮かぶと思うんだけどな」


 よっぽど動揺してるんだろう。


「友達と父ちゃんたちに連絡するから。待ってて」


 鬼気迫る表情で何やらぽちぽちとしている。

 友達や両親への連絡だろうか。

 

「なんとか連絡完了!明日が土曜日で良かったー」

「ほんとにな。明日学校だったら言い訳も苦しいぞ」

「色々ごめんね。そういえば、君の両親は?」


 他に人の気配がしないのに気付いたんだろう。

 

「夫婦揃って旅行だってさ。夫婦仲がいいのはいいんだけどさ」

「昔からいっつもいちゃいちゃしてたもんねえ」

「そうそう。家でも食事の時でも構わずいちゃつくからな」

「そういうのも素敵じゃない?」

「いやー。お前だって味わってみればわかるぞ。よそでやれって思うから」


 二人が留守で助かった。


「確認してなかったけど、今日はその……」

「来客用布団くらいならあるから、もちろん泊まってってくれ」

「ありがとう。ネカフェで夜明かそうかなって迷ってたから」

「さすがに恋人……でなくてもそんなの出来ないって」

「そりゃそっか」

「でも、恋人になったわけだけど。ぶっちゃけ何するんだろうな」


 明日から。むしろ今夜からか。

 色々調べたことがあるけど、初めての恋人だ。

 しかも四年ぶりに再会した相手と。


「私も体験がないからさっぱり」

「だよなあ」

「私たちはブランクもあるし」

「ほんとそれだわ。色々未体験過ぎる」


 いきなり家に泊める羽目にもなってるし。


「泊まるからっていきなり変なことはナシだからね?」

「するか!俺どんだけ非常識なんだよ」

「わかってるけど。一応、ね?もちろん、いずれは……って思うけど」

「その辺はおいおい話し合って行こうぜ。今日は色々疲れた」


 まずはお風呂沸かして、押し入れから来客用布団取り出して。

 そんなことを考えながら立ち上がると、


「初日から色々至らない不束者だけど……よろしくね」


 不敵に笑いながら手を振りかぶる仕草。

 喜びを分かち合う時の俺たちの挨拶だ。

 そんな些細なことをお互いに覚えていることがとても嬉しい。

 俺たちはやっぱり忘れられない・・・・・・者同士なんだなって。


「こっちこそ色々あるだろうけど、よろしくな」


 春の静かな夜に。

 パァンと甲高いハイタッチの音が響き渡ったのだった。


 これから何が待っているのかわからないけど。

 忘れられない俺と彼女の物語はまだまだ続きそうだ。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

ちょっと久し振りに長めの短編でしたが、いかがでしたか?

仲が良かったけど、色々拗らせた二人のお話を楽しんでいただければ幸いです。


楽しんでいただけたら、応援コメントや★レビューなどお待ちしております。

☆☆☆☆☆☆☆☆


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