第60話

 碧は戸惑いながらも、石に手を置いてみた。光沢がある割にスベスベはしておらず、ザラザラの表面から、光が発され始めた。

「わっ…!」

 思わず手を離したところ、光は瞬時に消え失せた。その様子に、フィアセン大佐は満足そうに頷いた。

「さて、ロンベル少尉。ほら」

「な、何だってんだよお…!」

 促されて、ロンベルも触ってみる。特に何も起こらない。

「何も起こらねえぞ!」

「少尉、恐れているな?」

「何をだよ!?」

 フィアセンの指摘に、ロンベルは頬を赤く染めて反駁する。

「自身の内なる力を恐れているのだよ。受け入れなければ、力は使えぬ。さあ、固定観念を捨てて、ほら!」

 そう言って促されるままに、ロンベルは深呼吸して岩に手を置いた。岩は光り輝き、10センチほど宙に浮いた。

「浮いたぞ!どうすれば良いんだよ、これ!?」

「思いのままに使いたまえ。最大で144等分した者もいるぞ!」

 そんなこと言われてもなあ…とロンベルは念じ始めた。割れろ、割れろ、割れろ…

「わっ!」

 碧の声が響いたかと思うと、今まで岩を手で支えていた感触がいくらか軽くなったのを、ロンベルは感じていた。

「うむ」

 フィアセンは満足そうに頷くと、ロンベルに元に戻すように指示を出した。

「も、元に戻すぅ!?」

「できるはずだ。やってみたまえ」

「が、頑張れ!」

 碧もエールを送る。次は自分の番なので、実際にやれるところを見せてもらいたいわけだった。

「んなこと言っても…戻れ!」

 号令一下、50余りに分割されていた石は元の塊に戻り始めた。しかし、完全に元通りとはいかなかった。

「なんかえらいゴツゴツしてんな…」

「どう戻るかをイメージしてなかったからです」

 フィアセンの傍らに控えていた女性下士官、ベルグマン二飛曹が言った。フィアセンの紹介によると彼女はだいぶ初期から配属されている能力者で、コメート搭乗員としての実力も確かで部隊のエース候補なんだとか。

「元に戻れって言ったって、元がどんな形か、あなたは覚えてなかったから」

「物質が自分の元の形を覚えているか?そもそも、そういう自我があるか?という話だな」

 フィアセン大佐も元は技術士官だ。軍事研究としてこの「岩」を研究しており、それに実用化の目途を立てたのでその流れで指揮官にされてしまった。

「本当なら、まだまだ研究室にいたかったのだが…」

「それはそうと、この岩は何なんですか?」

「良くぞ聞いてくれた!」

 フィアセンは目を輝かせて語り始めた。

「この岩は、太陽系外から採集した未知の物質…発見者の名を取って『オブシスク』と呼ばれている!」

 曰く、この物質は非常に強固らしく、発見自体はプルート帝国開闢以前にはされていたものの、どのような加工法も受け付けなかったそうな。

「しかし、ある時、革命は起こった!」

 数年前、とある研究者が息子を研究室に連れて来た時、石が輝き始めたと言う。

「オブシディアン博士の大甥だというその少年が念じると、岩はどのようにも形を変えたのだ!」

 発見者の血縁が未知の物質の加工法発見に寄与したというのも出来過ぎた話ではあるが、とにかく岩の加工法に目途がついた。同時に、様々な利用法も考えられていった。

「重量もそれほどなく、バイタルエリア部の防護に非常に適した素材だ。しかし、それほど潤沢な資源ではないため、おいそれと艦船には使えない。では、どうするか?そこに現れたのがコメートなのだよ」

 小型で、防御力に欠けるコメートのコクピット周辺に使うという案が今では主流だ。その他にも、コメートの攻撃オプションに使う試験が現在も行われている。

「単純に質量兵器として使う案もあるが、このオブシスクはそんな単純な使い方で消費するにはもったいない性質がある」

「まだ何かあるんですか!」

 碧もノリノリで先を促した。コメート乗りの生存確率を上げるだけでなく、まだまだ使い道のある新物質…と言われれば、彼女の興奮も仕方ない。

「そう、この物質は形状を記憶するんだ。先ほど、そんな物質はあり得ないと言ったばかりだが、このオブシスクに関してはあり得る。能力者以外に2分割以上にされると、途端に元に戻ろうとするんだ。これを形状復帰現象と名付けた」

「すごい」

 碧はただただ感嘆するばかりだった。

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三星戦争ーテラ・ウォーズー 司書係 @lt056083

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