第59話

 エルトール中佐によると、能力開発機構は軍が秘密裏に探していた特殊な能力を持った人物を見つけ出すために各自治体で「能力開発事業」と称して催しを行っているらしい。あの日、碧が出くわした一団もそのような形でイベントを開催していたのだ。

「でも、何の能力を開発しようって言うんですか?超能力がどうとか言ってた気がしますけど」

「なあ。俺たちに何ができるってんだ」

 碧もロンベルも疑問を口にする。碧は軍務なら進んでやるが、ロンベルはまだ正式には軍人ではない。軍への忠誠も何もない。

「ウム、君たちはスプーン曲げができたね?」

「ああ!曲がりましたね!帰った後に家のスプーンで試してもうんともすんとも言わなかったから、何かの間違いかと」

「それが大砲の撃ち合いに役立つのか?」

 2人の共通点は、ある特殊素材で作ったスプーンを曲げたところにあった。

「特殊素材、ですか?」

「いよいよ胡散臭えな」

 冥王星は太陽系外縁部にほど近い。ダークマターのみならず、様々な未知の物質が日々発見されている。その中で、ある物質が軍事転用可能になったとエルトールの口から明かされた。

「小官の立場では何に使うのかもわからない。君たちがその物質との親和性が高いということしか知らされてはいない」

「ぐ、軍事機密…!」

 また一つ増えた、と碧は愕然としている。ロンベルは納得の行かない表情をしている。

「中佐閣下ですら知らねえのかあ?」

 本当は知っているのではないのか、と言外に問い詰めている。しかし、エルトールには本当に知らされていなかった。

「ここでは、君たちの所属を明かすだけだ。だが、噂だけは聞いたことがあるよ。特殊能力を持った乗組員たちによる、たった一隻の母艦航空隊の噂だ」

「空母が一隻で行動してるんですか!?」

 碧は自分が教えられた基本から逸脱した部隊の存在を知らされ、狼狽える。ロンベルはピンと来ていないらしいが。

「普通、軍の艦艇は単独行動は基本的にしない。領域内でも船団なり艦隊を組んで移動する。しかし、その艦はある程度の自衛能力を有する専用艦で、主砲は砲艦と同等のものを搭載しているそうだ」

「そ、そうなんですか…」

 通常空母は役割分担によって、直接攻撃は他の戦闘艦に任せている。積極的に砲戦を行おうにも、航空戦と砲撃戦とでCICの運用が難しい。

「まあ、実際に行ってみたまえ。実際に目にしてみないと、分からないこともあるだろう」

 所属と行き先を告げられ、そう促された。


 特務部隊「第一能力者運用部隊」。美称も何もあったものじゃないこの部隊に碧とロンベルは配属された。

「能力者能力者って…何のだよ」

 専用基地へ向かう隣でロンベルがぶつくさ言っている。しかし、碧は深く考え込んでいた。

「金属じゃない、物質を思いのままにできる力…?」

 悶々と思い悩み、ふと思い至った。自分に宿るという力の正体に。そして、その結論はすぐに正しいと証明された。

「良く来てくれた」

 基地の司令官兼部隊専用艦艦長のフィアセン大佐が執務室で迎えた。ここで詳しい説明がなされるとエルトールから聞かされていた。

「さて、君たちがなぜここにいるのか。見せてやろう。格納庫に行こうか?」

 基地の格納庫にはコメート_ツヴァイが数機、駐機されている。その他に、角ばった石のようなものがいくつか置かれていた。

「なんで石…?」

「大理石とかじゃねえよな?」

 大理石としては黒すぎる。どちらかというと、黒曜石に似た輝きを持っていた。

「それが我が隊の一番特徴的な兵器だよ」

「兵器…?」

 ただの岩石が兵器とは?その疑問に答えるかのように、無表情な少女が一歩前に出る。

「ベルグマン二飛曹、お願いできるかね?」

「はい」

 彼女がその片手を岩石に置くや否や、岩石が輝き始めた。そして、思いもよらぬことが起こった。

「浮いてる…」

「マジかよ…」

 ふよふよと黒光りする岩石が浮いていた。そして、瞬時に岩が4つに分かれた。

「増えた…」

「なんでだよ…」

 頭を抱える2人を前に、フィアセンは言い放った。

「君たちもあれと同じことができるはずだ。さあ、やってみよう」

 そんな、とんでもない発言だった。

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