後編
コックたちに料理を作ってもらい、みんなは席に着いた。
「せっかくなので、みんなでご飯にしましょう。ジェイコブさんが亡くなって、悲しいでしょう? だから、少しでもその気を紛らわすために」
フィンは適当な理由を述べた。
ハンソンたちを含む料理人たちは、みんな席に着き、ご飯を食べる。
その様子を、メアリは食べながらこっそり観察していた。三人が、どちらの手で食べているのか。
そして、突き止めた。犯人が誰なのか。
メアリは立ち上がり、ハンチング帽をかぶり直す。
「分かったわ。ジェイコブさんを殺した犯人が」
辺りがざわめく。そして、メアリは指をさした。
「犯人は、あなたよ。クロードさん」
指をさされたクロードは、青ざめる。
「ど、どうして俺が犯人なんだよ。証拠はあるのかよ」
「ええ、あるわ。それは、あなたが左利きだということよ」
メアリは先ほどフィンが説明したことをそのまま話した。
「というわけで、足のサイズが二十八センチかつ、左利きなのは、あなただけよ、クロードさん」
メアリがとどめを刺す。
「あと、靴の裏にでも、埃がついているんじゃないかしら?」
メアリがそう言うと、周りの人たちは、クロードの靴を脱がせて確認する。靴の裏の隙間には、あの倉庫にたまっていたものであろう埃が詰まっていた。
クロードは観念したように、その場に跪いた。
彼は、殺した動機を話す。同期であったジェイコブは、料理の才能があって、どんどん昇格していった。そんなジェイコブは、クロードを見下した。顔を合わせれば、嫌味を言い、マウントを取る。それも、周りにはばれないように。どんなに頑張ってもクロードはジェイコブを超えられない。その上、ストレスのはけ口にされる。耐えられなくなったクロードは、倉庫にジェイコブを呼び出し、待ち伏せをして、殺したのだ。
その後、クロードは警察に逮捕された。
「メアリさん、ありがとうございました」
警察はお礼を言う。
「こんなの朝飯前よ。この名探偵メアリに、解けない謎はないんだから」
メアリはそう言って、格好つけるようにレプリカのパイプを口にくわえた。
「お嬢様、やっぱりそのパイプ、無意味ですよね? せっかくなら本物にすればいいのに」
「うるさいわね。私はパイプとかタバコを吸うのがあんまり好きじゃないのだから、しょうがないじゃない。大事なのは雰囲気なの」
メアリはフィンをキーッと睨む。
「メアリお嬢様には、やっぱり頭が上がりません。色んな意味で」
フィンはそんなメアリの様子を見て、苦笑を浮かべた。
***
「皆さん、お疲れ様でした」
フィンは、今回の事件に関わった使用人達を集めて、挨拶をした。
「今回のシナリオも完璧だったな、フィン」
「皆さんのおかげですよ。クロードさんの演技、流石でした」
フィンは、犯人であるクロードに言った。
「いやあ、我ながらに名演技だったと思うよ」
クロードは自慢気に胸を張った。
「それにしても、あの特殊メイク、凄かったな。ほんとに刺されたような気分だったよ」
ジェイコブは、傷一つない自分の腹をさする。
「頑張ったかいがありました!」
メイク師が嬉しそうに言った。
「とにかく、今回も無事に終わって良かったです。メアリお嬢様は、相変わらず、気がついておりません。僕がお嬢様にさりげなくヒントを与えていることも、そもそも僕たちが全てを仕組んでいたこともくんでいたことも」
フィンは言った。
今まで起きた、メアリの周りでの事件。それらは全て、彼ら使用人達が、意図的に起こしたものだった。
以前起きた、壺が割られた事件も、その他のものも。
これは、大旦那の命令だ。ミステリー好きの娘のために、なんでもいいから事件を起こして欲しいと。
警察も、本物ではない。使用人が、扮装していただけだ。
全ては自作自演。大掛かりな探偵ごっこ。もちろん、主役はメアリだ。
そのことに、メアリはまだ気がついていない。本物の事件を解決したと思っているのだ。
「それでは、また次回も頑張りましょう」
フィン以外の使用人たちは、一斉にシリコンでできたリアルマスクを外した。その下から、本物の顔が現れる。
この屋敷には、使用人がたくさんいる。そして、出入りも多いという設定になっているため、メアリは使用人一人一人の顔なんて、覚えてはいない。
使用人たちは、別人の振りをして、また次も、偽物の日常を演じるのだろう。
使用人たちは今日も 秋月未希 @aki_kiki
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