其処にある物 2.『異世界ファンタジー』

『異世界ファンタジー』とは、創作もののいちジャンルだと理解している。


 私なりに定義するならば、『現実の世界とは異なる独自の世界で巻き起こる物語』だろうか。


 では、いざ自分の作品が異世界ファンタジーに該当するのかと考えると、分からなくなる。『異世界ファンタジー』という言葉は、漠然としすぎているように思う。守備範囲が広いように思う。

 ハイファンタジーと言ったりもするらしいが、そう言われると一層分からなくなる。ハイってなんだ? Hight? 高い? 高次元のという意味?



 拙作の話で恐縮だが、私がカクヨムに投稿した物語でいえば、【死霊と暮らす死霊魔術師ネクロマンサー】という物語がある。異世界ファンタジーにカテゴライズして差し支えないと判断して、実際『異世界ファンタジー』を選択し、投稿している。

 あらすじは、死霊魔術師ネクロマンサーとして暮らす主人公が、村に襲い来る死神の厄災という得体のしれない何かに怯え、そして遭遇する物語だ。(機会があれば読んでみてください)


 死霊魔術師ネクロマンサーというもの自体は、現実の世界にもいた(いる?)らしい。まさか、本当に死者を蘇らせて使役できたなんてことはないと思うが、本気で成し遂げようとはしていたようだ。必死で夢見て、時には妄想もしたかもしれないが、現実には起こらなかった──と思う。

 一方で、妄想と現実の区別がつかなくなることは稀にだがある。

 死霊魔術師ネクロマンサーの中にそんな人がいたら、彼の中では現実に死者が蘇っていたのかもしれない。周りの人間が何と言おうと、彼にとってそれは現実だ。彼の脳が映し出す世界には、現実に蘇った死者が存在するわけだ。

 そして、周りの人間にとって、彼は現実に存在する。脳内まで覗き見ることはできないが、彼の脳も現実に存在する。


 ここでふと思う。


【死霊と暮らす死霊魔術師ネクロマンサー】が『今まで巻き起こったすべては植物人間となって病院で眠り続けている主人公(現実世界に即した世界の人間)の妄想でした』という物語だった場合──そういうオチにした場合──それでも『異世界ファンタジー』にカテゴライズしただろうか。

 相当悩んだことだろう。結果、『異世界ファンタジー』を選択したかもしれないし、『現代ドラマ』にしたかもしれない。

 そう考えると、『異世界ファンタジー』と『現代ドラマ』というかけ離れた二つのカテゴリーの境界線が、すごく曖昧なものに思えてくる。



 話は変わるが、『ジャガイモ警察』という人たちがいるらしい。曰く「中世風異世界であるにも関わらず、近世以降に発見されたはずのジャガイモが登場するのはおかしい」ということらしい。(間違っていたらごめんなさい)


『ジャガイモ警察』の言い分は詳しく知らないのだが、「(その時代または世界に)あるはずのないものがあるのはおかしい」ということなのだと思う。しかし、ファンタジー世界にはモンスターだったり、魔法だったり、よく分からない道具だったり……様々な『あるはずのないもの』が登場する。必須ともいえる。モンスター等の存在は許容できてジャガイモの存在は許容できないというのは、私には理解できない。(ジャガイモ警察さん逮捕しないでください)

 リアリティを求めているのか、空想世界に入りたいのかどちらなのだろうか。おそらく、空想世界に入りたいのに中途半端にリアリティのある──リアリティを奪う──ジャガイモの存在が邪魔なのだろうと予想する。どこを探してもまず間違いなく存在しないモンスターと、現代世界には確かに存在するジャガイモとのリアリティの差なのかもしれない。

 ジャガイモもモンスターと同じようにファンタジー世界に登場するアイテムの一つと考えればいいのにと思う。『中世世界にジャガイモが存在するというファンタジー』だ。作者の脳内では、中世であるにも関わらずなんらかの方法によってジャガイモが存在するが構築、許容され、生みだされたというわけだ。


 そう考えるとすべての物語は、『異世界ファンタジー』といえるのかもしれない。作者の脳内で構築される世界は、他人にとってはすべてだ。

 異世界とは『現実の世界とは異なる独自の世界』と定義するなら、作者の脳内世界はまごうことなき異世界だ。その脳内世界が限りなく現実世界に近くても、他者──読者にとっては、実際には存在しない独自の世界なのだから。


 だから、私はこの世に存在する物語は、ノンフィクションを除いてすべて『異世界ファンタジー』なのだと思っている。

 私にとっての『異世界ファンタジー』とは、物語そのものなのだ。


 あなたの『異世界ファンタジー』はどんなものだろうか。

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『私にとって』の森に踏み込んで、そこにある物の周りを深く深く掘ってみる 宇目埜めう @male_fat

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