第5話 かけがえのない大切な宝物。
ある晴れた休日。
部屋の荷物を片付けようと、私は昨日ホームセンターで買ってきておいた段ボールを用意して断捨離作業を始めた。
紺はその様子を隣でおとなしく見ている。
本当は部屋に紺を入れないで作業する予定だったが、そしたら部屋のドアの前で悲しそうな声で鳴かれたので諦めてドアを開けた。
「紺、お願いだから作業の邪魔はしないでね?」
「ニャー」
分かったと言うように鳴き、紺は大人しく私の傍に座り込んだ。
私が今いる部屋は、元カレが使っていた部屋。
元々このマンションは、元カレと2人暮らしだった。
だけど、お互い仕事が忙しくすれ違いと小さな喧嘩が重なり別れることになった。
けど、最悪な別れ方では無かった。私も彼も最後には謝って笑顔で別れた。
今でも、たまに連絡を取り合ってはいるし友達関係は続いている。
そんな彼のことを思い出しながら断捨離作業を再開した。
作業を始めてからどれくらい経っただろう。
気付いたら作業も順調に進み、部屋が綺麗に片付いてきた。
隣にいたはずの紺は、空っぽの段ボールの中で眠っている。
私はその姿に笑みをこぼしながら、起こさないようにリビングへと向かった。
一度作業を中断すると、再びやる気を起こすのに時間がかかるわけで…。
「今日はもうやめようかなぁ。」
取り敢えず目標ラインまでは片付いたし、何より疲れてしまった。
私はソファに横になり、夢の中に落ちていった。
「ニャー…ニャー…」
耳元から紺の鳴き声がする。
重い瞼を開けると、顔の目の前に紺の姿があった。
「紺…?」
「ニャー」
紺の名前を呼ぶと、顔にすりすりと寄ってきた。
いつの間に寝てたのだろう。壁にかかってる時計を見ると、時刻は夕方の5時を指していた。
「やばっ。さすがに寝すぎた…」
ソファから体を起こすと、床に何か落ちた音がした。
落ちたものを拾うと、それはずっと探していたブレスレットだった。
「何でここに…?」
どこを探しても見つからなかったのに…。
「ニャー」
紺がついてきてと言うように、作業をしていた部屋へと歩いて行く。
私もそのあとを追った。
部屋に入ると、紺は元カレが使ってた棚の前に座っていた。
気になってその棚の引き出しの中を見ると、一通の手紙が入っていた。
ーー唯へーー
俺のわがままで唯の事を傷つけてしまってごめんね。
今思うと、自分の気持ちばかり押し付けてたなって後悔している。
今更後悔したって遅いのに…。
もし、もう一度俺にチャンスがあるなら唯とまたよりを戻したい。
今すぐじゃない。今すぐ戻したって同じことの繰り返しになるって思うし。
だからあと2年。2年後の3月に唯の元に行く。
必ず今度は唯に相応しい男になって会いに行くから。
もし待っててくれるなら、このブレスレットをまたつけててほしい。
唯は忘れちゃったかもしれないけど、このブレスレットは唯と喧嘩した時に落としてしまったものなんだ。俺が普通に声をかけて返せれば良かったんだけど、弱い俺には無理だった。
こんな形で返すのもおかしいけど…本当にごめんね。
ーー紅よりーー
こんな手紙があったなんて知らなかった。
私はずっと探してたブレスレットを握りしめて静かに涙をこぼした。
私もわがままで紅を傷つけてたのに…。
「待ってる…紅、待ってるから。」
私の涙を見て紺が足元でそわそわと動き出す。
「ニャー…」
「ごめんね…大丈夫だよ。これは嬉し涙だから。紺、私の宝物を見つけてくれてありがとう。」
私は紺を抱き上げてながら感謝の言葉をこぼした。
数日後。紅との連絡で改めて言葉で約束を交わした。
私は二度とブレスレットを無くさないようにと、大切な家族の一員である紺とお揃いの小さな鈴をブレスレットにつけた。紺には首輪につけてあげた。
このブレスレットは私にとってすごく大切な宝物となったのだった。
ご主人様と野良猫 吟鈴 @gin0328
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