希望の光
冷田かるぼ
1
気が付いたら転落していた。
成績も、運動面でも人間関係もあくまで普通の高校生。
だが、高校選びを失敗したのだろうか。
自分の学力より少し高い高校を受験し、なんとか合格し入学。
そして今現在、全く授業についていけていないのだ。
「はぁ……」
思わずため息をつく。
何せ、分からない問題を先生に聞く勇気も、クラスメイトに聞くコミュニケーション力もない。
ほとんどが違う中学校出身の人で、那津子はまだ馴染めずにいた。
他の女子達はいつの間にそれぞれのグループを作り、一緒に行動している。
そんな仲良しグループに割り込めるほど肝が座っているわけがない。
ノートとにらめっこしながら、解き方を考えてはみるがどうしても分からない。
どうしてこんなにダメなんだろうか。
よし、中学校の時のクラスメイトに聞いてみようと席を立ち、隣のクラスを覗きに行くことに。
教室の人混みの中を眺めつつ、元クラスメイトを探す。
こちらのクラスでもほとんどグループが完成しているみたいだ。
そしてなんとか見つけたクラスメイトを呼ぼうと思ったその瞬間、彼女は他の生徒に話しかけられた。
出かけた声をそっと仕舞い込む。
みんなもう友達ができてるんだ。
まだ馴染めてないのは私だけなんだ。
隣の教室を後にし、自分の席に戻る。
なんで私、こんなに友達ができないんだろう。
自分に原因があるのは分かっているけど、行動出来なかった。
話題だってないし、取り柄だってない。
そんなクソみたいな自分が酸素を消費し生きているのが申し訳なくなってくる。
「ねぇ、今日の課題これだけだったっけ?」
隣の席の女子が話しかけてきた。
那津子は焦って何を言っていいか分からなくなり、声が詰まる。
「えっと、うん、たぶん」
「ありがと〜」
なんとか声を発したものの、かなりどもってしまった。
こんな風に、いつも会話は一瞬で終了してしまう。もはや会話かどうかすら怪しいが。
あともう一歩踏み出して、世間話でも出来ればいいのだろうとは思う。
だがそもそも返事すら上手くできないのだから無理に決まってる。
あーあ、だめだめだな。
そんなことを思いながら机に突っ伏した。
全部なくなればいいのに。
結局、帰ってから夜中まで課題をしていてあまり眠れなかった。
おかげで朝、眠くてしょうがない。
「……ふぁ〜あ」
少々早く登校してしまい誰もいない教室。
欠伸をしたとしても見る人はいないのだ。油断したっていいだろう。
頬杖をついて、うとうととしながら一応教科書を眺める。
勉強のつもりだが意味は無く、眠気が強くなるばかりだ。
気が付くと体は倒れ、机に突っ伏す形で那津子は眠りについていた。
夢の中、那津子は暗闇を歩いている。
真っ暗闇ではない。蛍のような淡い光が点々と見える。
掴もうとすると消えて、他の光も少しずつ減っていくのだ。
ああ、じゃあ諦めて見ないようにしよう。
小さな光を無視していると、奥の方に強い光が見えるようになってくる。
嘲笑うように、誘うように、そして包み込むように。
不安と安心、両方を同時に感じるという矛盾がここには存在していた。
だんだん小さな光は見えなくなる。
もしかしたらそこにあるかもしれないが、大きい光の方が目立って分からない。
近寄れば、それは目の前に。
あまりに強い光に、目が眩みそうになる。耐えて、そっと手を伸ばした。
それと同時に、那津子は目を覚ました。
浮遊感と青い空、そして学校のベランダの柵。
落ちていた。
なんだか全てがスローモーションに感じて、頭の中でたくさんの思考が巡らされる。
いつの間に私はベランダの柵を乗り越えたのだろうか。
そもそも、いつから体は起きていたのだろうか。
考えても意味なんてない。けれど考えてしまった。
これから死ぬであろうこと、死ななくてもそれと同等の苦しみを受けるであろうこと。
分かってはいても、なんだかどうでもいい。
そして気付く。
ああ、私の『希望の光』はこれだったんだ……と。
体感では何十分にも感じられたその時間は、実際数秒間。
そうして、那津子は地へと還った。
希望の光 冷田かるぼ @meimumei
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