Nirvana

 ――Nirvanaニルヴァーナ.

 ハワード・クロイツは、その言葉を最期に、E・D・E・Nで消息を絶ち、彼の精神は、完全に消滅した。


 涅槃ニルヴァーナ――煩悩の鎖を断ち切り、魂の輪廻から解放されることで、安らぎの境地に達する。ハワード・クロイツ――彼は、E・D・E・Nに、涅槃ニルヴァーナを見いだしたとでもいうのだろうか?

 電脳の海に消え、情報体となったハワード・クロイツ。E・D・E・Nにおいて、彼は万物と一体になった。ハワード・クロイツの精神は、現在、世界のことわりとも、繋がりを持っているのかもしれない。


 情報体データロイド――もし、本当に、愛唯の人格が電脳世界に残っていたとして、新型E・D・E・Nで卯月 愛唯その人として蘇っていたのだとしたら?

 彼女の魂は、ずっと、ずっと、電脳空間をさ迷っていたのかもしれない。それを、世界のことわりDeus ex machinaデウス エクス マキナが繋ぎ止め、復元させていたのだとしたら? それならば、ハワード・クロイツも、また、まだそこに、何らかの形で存在し続けているのかもしれない。


 不変でありながら、常に変化を繰り返している電脳世界――そこは、永遠エタニティ無限インフィニティとを併せ持つ新世界。

 電脳世界では、誰しもが超自我スーパーエゴとなりうる可能性を持つ。そして、超自我スーパーエゴとなって電脳の海へと流れだした自我は、電脳世界の一部となり、世界のことわりと融合する。そうして、世界のことわりは、世界そのものとなるだろう。だが、外部からのエネルギーの供給が途絶えた時、その世界はいったい、どこに存在しているのだろう? アストラル界として、別の次元に存在しているのだろうか? それとも、無に帰すのだろうか? それは、デウスのみぞ知る――


 Deus ex machinaデウス エクス マキナ――機械仕掛けの神。

 その存在は、人のためだけに、人の手により、創り出される。

 そして、人の創造物でありながらも、その存在は、全能なる神となりうる。

 神となったDeus ex machinaデウス エクス マキナは、人の理想を実現するために、その力を行使する――妥協なき、理想の世界を創り出すために。

 人がもし、妥協のない理想を追い求めたとしたら? 人のため、世のため、妥協なき理想を実現させようとしているDeus ex machinaデウス エクス マキナに、何の罪があるのだろうか?

 Deus ex machinaデウス エクス マキナの庇護のもと、電脳世界で生きることが、人にとって、最善の選択だったとしたら? 人々は苦悩から解放され、誰もがハッピーエンドを迎えられる最高の世界。


 肉体からの解放――それこそが、人類が次のステップへと進むための、本当の進化、なのかもしれない――


 それなのに、僕は、Deus ex machinaデウス エクス マキナの意思によって、現実世界で生まれ変わることを許されたんだ――


 現実リアル電脳バーチャルを繋ぐための存在として――


 Rebirthリバース――新世界で僕らは生まれ変わる――

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