エピソード2 もう一つの情景
明るい朝の陽ざしが、窓の向こう側。
普通教室棟の校舎を照らしている。
ガヤガヤと移動中の生徒が。
理科室に向かってくる。
アイツがいる。
ヘタレ野郎だ。
告白に失敗してから。
一週間、たっていた。
暗い顔で黙っている。
いつもは大声でバカ話してるのに。
ほら、スケベの友達が話しかけてるぞ。
お約束のエロい話に、つきあってやれよ。
ヤツのボンヤリした受け答えに。
スケベも物足りなさそうだ。
その何人か挟んだ後ろに。
あの子がいた。
隣りで話している友達に。
相槌、打ちながら。
ときおり。
ジッと、ヤツを見つめている。
大きな瞳が潤んで。
朝の光で、キラキラさせている。
オイ、オイッたら・・・。
俺は思わずヤツに向かって叫んだ。
聞こえないのは分かっているけど。
まだ、可能性があるぞ。
オイッたら・・・。
コピペした俺の声が聞こえたのか。
ヤツは振り向いた。
そして。
大きな瞳と目が合うと。
うつむいちまった~!(笑)
オイオイオイ・・・。
これはコピペじゃないぞぉ。
この、ヘタレ!
視線を外すんじゃ、ねぇ。
あの子。
ジッと、見てるんだよ。
さっきからぁ。
ああ、もう。
じれってぇなぁ。
そのまま俺は。
このヤキモキを。
抱え続けていた。
放課後まで。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「あ、あの・・・」
掠れたヤツの声が、誰もいない廊下に響いた。
あの時と同じだ。
女の子も。
うつむいている。
「ご、ごめん・・何度も・・・」
声を詰まらせる表情が。
泣きそうになっている。
なんか、そのひたむきさが。
ジンと、きた。
女の子の顔が上を向いた。
大きな瞳が見つめている。
今だ、イケッ・・・。
早くっ!
俺は怒鳴った。
聞こえないだろうけど。(笑)
「ど、どうしても・・あきらめられなくて・・・」
じれったくなるほどに。
ようやく、ヤツは口を開いた。
「好きですっ・・・僕と、つきあってください!」
いいぞぉ。
それで、なくっちゃぁ。
彼女は?
あの子の反応は、どうだ?
女の子は?
うつむいていた・・・。
アチャー!
ま、またかよぉ?
ヤツも。
そう、思ったらしい。
でも、今度は。
走り出さずにジッと、返事を待っていた。
すると。
小さな手が。
ポケットから。
何かを取り出し、差し出した。
青い封筒。
可愛いキャラマーク付き!
「えっ・・・?」
ヤツは戸惑いながら受け取った。
目が封筒と、あの子の瞳を往復している。
「あの時は・・・ビックリ・・して・・・」
か細い声が、少女の唇から漏れる。
透き通った、心地良い響きだった。
「電話番号・・・」
恥ずかしそうに。
何度も、瞬きを繰り返している。
「書いてあるの・・良かったら・・・」
ヤツの表情は?
おんなじ。
泣きそうになっている。
「今夜・・・電話してくれる?」
最後の言葉を聞いた瞬間。
ヤツは走り出した。
ええっー・・・?
マジィ・・・?
長い廊下の端まで。
全速力で走っている。
女の子。
呆然と見つめている。
そりゃ、そうだろぉ?
彼女、耳まで真っ赤にして。
やっと、返事したのに。
バカヤロウ!
俺のつぶやきが終わるころ。
ヤツは、もどってきた。
ダッシュで近づいてくる。
満面の笑みで、顔をクシャクシャにして。
ヤッター!
走りながら叫んでいた、ヤツのセリフ。
そのままを、俺も叫んだ。
ウン。
上出来だ!
俺の満足な声は。
ヤツには届かない。
それでも。
俺は嬉しい気持ちで見送っていた。
二人の後姿を・・・。
廊下に薄い影をつくりながら、小さくなっていく。
良かったな。
寝ぐせ、直せよ・・・。
俺は遠ざかるヤツに向けて。
心からの祝福を投げていた。
だけど、ヤツの右手。
その動きを見て、叫んだ。
ケツ・・・かいてんじゃねぇよ!
※※※※※※※※※※※※※※※
続編のエピソードを書いてみました。
「理科室脇の階段」のつぶやき 進藤 進 @0035toto
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