エピソード1 夕暮れの情景
とある、田舎の中学校。
築20年。
鉄筋コンクリート造。
この時代の学校建築は。
日本中どこでも。
同じような。
設計とデザイン。
冷たい塩ビタイルの床。
コンクリートむき出し、ペンキの壁。
そして。
薬品の匂い。
ここは北側、一般教室棟から離れた特別棟。
1階、理科室脇の階段前。
放課後は誰もこない。
だから・・・。
告(こく)るには。
最適の場所だ。
何百回も飛び交った。
少年少女の、熱い恋心が。
俺という「意識」を生み出した。
「理科室脇の階段」
それが、俺の名前。
色んな人達の情念が混ざり合った。
混沌とした「意識」だ。
やがて。
放課後になった。
今日も、夕日に照らされたシルエットが。
2つの長い影を俺に落としている。
小さい女の子。
顔も小さいから、瞳の大きさが目立つ。
まるで。
アニメの少女みたいだ。
相手を見上げた一瞬。
見えた瞳だ。
恥ずかしがり屋らしい。
すぐに、うつむいてしまった。
運動部なのか。
日焼けした肌。
でも、染み一つない。
ツヤツヤだ。
14歳だもんな。
若いよなぁ。
可愛い。
一言でいえば。
向かい合う男の子。
中肉中背。
ちょっと。
足、短い。
まあまあ、イケメン。
かな・・・?
でも、さあ。
寝ぐせ、立ってるぞぉ。
たぶん、夜。
眠れなかったのだろう。
目が腫れている。
その潤んだ瞳が。
ジッと。
女の子を見つめている。
緊張しているのが。
手に取る様にわかる。
中々、話を切り出せず。
足、震わせている。
おいおい、右手・・・。
ケツ、かくなよ。(笑)
早く、言えよ。
告(こく)るんだよ!
じれってぇなぁ。
この、ヘタレが。
「あ、あの・・・。」
やっと、言った。
「と、突然・・ゴメン・・・」
何で、あやまんだよ。
「俺・・ぼ、僕は・・・」
ようし、いいぞぉ。
「前から・・その・・ずっと・・・」
そうそう。
「君のこと・・か、かわいい・・って・・・」
おっ・・・いいじゃない?
「いいなぁっ・・て・・・」
ぎこちないけど、いい線いってるぞぉ。
「ほ、ほんとうに・・すごく・・・
かわいいって・・・」
ちょっと、くどいけど。
「だから・・・つ、つきあってくださいっ!」
よく、言ったぁ。
ヘタレなりに夜中、ずっと。
考えてきたんだろう。
今まで聞いてきた告白と比べても。
まあまあ、上出来だ。
よくやった!
で・・・?
彼女の反応は?
うつむいたまま。
返事、なし。
男の子。
唇ギュッと、してる。
その時。
階段の上から声が。
「それでさー・・・」
「そうそう・・アハハ・・・」
女の子二人。
楽器のケースを持っている。
吹奏楽部らしい。
「あっ・・・?」
階段下の二人に気づいたようだ。
小走りに通り過ぎていく。
しばらくあとで。
「あれ・・君と・・さん、だよね?」
「すごい・・・コクッてるのかな?」
ヒソヒソ声が聞こえる。
同じクラスの子かな?
ますます黙り込む女の子。
気まずい時間。
夕日のグラデーションが弱くなっていく。
二人の影も、ほとんど見えなくなった。
「ご、ごめん・・・迷惑だったよね・・・?」
男の子の掠れた声が。
うつむく少女に投げられた。
「わ、わすれて・・ください!」
声をしぼりだす唇が震えている。
そのまま、小走りに離れていく。
ええっー・・・?
俺の絶叫は、ヤツには届かない。
すぐにダッシュになると。
渡り廊下に消えていった。
アチャー・・・。
すぐに、あきらめるなよ。
まだ、返事・・・。
聞いてないだろうがぁ。
そんなに怖いのかよ?
この、ヘタレがぁ。
5分も無かったぞぉ。
バカヤロウ。
見ろよぉ。
女の子、泣いている。
大きな瞳から。
ジワッと涙が。
俺の長い経験によると。
良い結果は、期待できない。
この、ヘタレがぁ。
コピペされた俺のセリフが空しく。
冷たい廊下に響いていった。
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