第23話「《条件》」
概算して50匹程度の
「はぁ……はぁ……」
僕は肩で息をしながら、後方で援護する予定だったヘザーと合流する。
「ねえねえアレン。これおかしいって」
「……何が?」
「援護する必要ないじゃんヘザー。もしかしてヘザー要らない子?」
「そんな事ないって」
僕が鳴箭魚と乱戦を繰り広げる最中、ヘザーは僕が仕留めきれなかった鳴箭魚の処理へと早々に役割を切り替えた。
元々クロスボウの腕は信用していたが、僕の足下で魔石にならなかった生き残りをヘザーは的確に撃ち抜いた。
いかに水棲種といえども、最期の悪あがきとばかりに足を喰い千切られては
「取り敢えずこれで1セット終了として……《初期化》してもう1戦だ」
「おおアレン……気付かぬ間に戦闘狂になってしまって……ヘザーは悲しいよ」
見るからに疲弊しながらも次戦に備えて闘志を燃やす僕に、ヘザーはなんとも微妙な顔をする。
=================
【名前:アレン・フォージャー】Lv.1
武術:F+(0/50)→E−(0/60)
魔法:F− (0/51)
防御:G+(0/28)
敏捷:F (0/52)→B+(0/221)
器用:G+(0/30)
反応:F+ (0/60)→B+(0/204)
幸運:G+(0/36)→F(0/72)
経験値:0/50
保有技点:4250→5
=================
「これでよしと」
《敏捷》と《反応》のランクをさらに2つ上げ、余った《技点》は《武術》と《幸運》に割り振る。
《幸運》は攻撃の
ただ──会心率を高めるくらいなら《武術》や《魔法》で攻撃力を高めた方が安定する。
回避率を高めるくらいならやはり《防御》や《敏捷》に振った方が安定すると言う理由から、《幸運》に《技点》を割り振る優先度はかなり低い。
僕は魔石と共に収納した、鋭く尖った
鳴箭魚のドロップアイテムである【鳴箭魚の尾鰭】は、主に矢尻や槍の
尾鰭一つ一つの値段は対して高くないが、チリも積もればなんとやらだ。
《武術》に振って撃ち漏らしを減らしつつ、ドロップアイテム狙いで《幸運》にも割り振る事にした。
「ねえアレン」
「ん?」
「今の振り方じゃあの魚撃ち落とせないから、振り方ちょっと変えるね」
僕が仕留め損ねた鳴箭魚の討伐で、ヘザーも数度Lv.upを果たしていた。
真剣な顔でステータスを吟味するヘザーを横目に、僕は
「……嘘でしょ」
僕目掛けて弓矢の如く降り注ぐ鳴箭魚が、次々と撃ち落とされる。
ヘザーによる神業じみた曲射。
空中で変幻自在に曲がるヘザーが放った矢に、鳴箭魚は数匹纏めて射抜かれる。
恐らく《反応》と《器用》辺りに重点的に振ったのだろうが、先程と打って変わって戦場はヘザーの独擅場となっていた。
今度は僕が
ヘザーの矢と鳴箭魚の特攻が途絶えた段階で、僕は2セット目を切り上げて再び合流する。
「いえーい。今度はヘザーの方が討伐数多いー」
「競ってたんだ……」
「冗談冗談。
ヘザーは僕に対して大袈裟に頭を下げてみせると、早速獲得した《技点》を振り分ける。
Lv.が上がり辛くなるまで鳴箭魚を討伐し、休息を挟んで獲得した《技点》を割り振る──このセットの繰り返し。
僕とヘザーはその後もお互い息を合わせて、時に討伐数を競いながら鳴箭魚の討伐に没頭する。
【Lv.5→6に上昇しました。《技点:122》を獲得しました。現在の《保有技点》は631です】
=================
【名前:アレン・フォージャー】Lv.1
武術:F+(0/50)
魔法:F− (0/51)
防御:G+(0/28)
敏捷:S−(0/273)
器用:G+(0/30)
反応:S−(0/252)
幸運:F(0/72)
経験値:0/50
保有技点:631
=================
「……そろそろ帰ろうかヘザー」
「はぁ……はぁ……そうだね」
既に時刻は20:00を回っていた。
僕とヘザーは最終的に討伐から《初期化》までの流れを5セット繰り返した。
獲得した《技点》を振り続けた結果、《敏捷》と《反応》は共にS−まで上昇し、4、5セット目は戦闘中に考え事をする余裕すらできていた。
お互いの同意の末4セット目からヘザーは別行動を始め、単独で鳴箭魚の群れを討伐する様になった。
流石に疲れ切った様子のヘザーが、
「そういえばアレン。手に入れた魔石、どう分配する?」
「そうだね……取り敢えず全部換金、報酬を折半って形で良い?」
「明らかにアレンの方が討伐してたけど、それで良いの?」
「意外かもしれないけど、持ち金には結構余裕があってね」
「あー大鼠討伐の報酬だっけ。話題になってたもんね。なら有難く半分頂戴しちゃおうかな」
総討伐数は300匹を越え、それに伴い膨大な数の魔石とドロップアイテムが手に入った。
ただ、僕は魔石なんかの数よりも《保有技点》の上昇量に目を奪われる。
僕の《保有技点》は昨日と比べて2倍以上の6537。
ヘザーも《技点》を2000以上増やし、最終的に3662となった。
僕達は《防御》と《敏捷》に《技点》を振り直し、迷宮──地層へと帰還を始める。
「いやー《技点》がこうも簡単に集まるなんて……今までの苦労は一体……」
新たに獲得した《技点》を《敏捷》に割り振った結果、行きとは比べ物にならない進行速度で帰還する僕達。
一日にして莫大な《技点》を獲得したヘザーは嬉しいんだが悔しいんだが分からない表情でそう呟く。
僕は改めて《伝説の剣》のチートとしか言えない効果に身震いした。
僕とヘザーは行きの半分程の時間で迷宮一階層──
「今日は付き合ってくれてありがとねアレン」
「こちらこそ。ヘザーから貰った短刀、大切にするよ」
「次は無くさないでね。で、本命のシルバースライム討伐の話なんだけど、アレンは1週間以上迷宮潜れる週ある?」
「正直【朱雀】を追放されてからは予定なんて一つも無いから、いつでも行けるよ」
僕な自嘲気味にそう言い、後に合流するルルの事を思い出して出来れば3週間以内と付け加える。
「オッケー。ヘザーはヘザーで何とか【クラン】から許可もぎ取るから。その時はまたよろしくね」
「了解」
ヘザーは僕の言葉にニッコリと笑うと、ステータスを振り直すべく《伝説の剣》に触れる。
あれ程まで器用にクロスボウを扱うのを見ていると勘違いしそうになるが、ヘザーの本職は《鍛治師》である。
ヘザーは本来のステータス──《器用》極振りに戻すべく《伝説の剣》の使用を僕に求める。
「──あれ?」
「どうしたのヘザー?」
「いやね、なんかS+から《器用》に《技点》を振れなくなっちゃった。なんかこれ以上振るには《条件》……?が必要みたい」
いまいちヘザーの説明で要領を得なかった僕は、ヘザーに促されるままに自身のステータスで検証を始める。
【現在の《保有技点》は6537です。武術に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【武術:F+→E−に上昇しました。現在の《保有技点》は6487です】
【現在の《保有技点》は6487です。武術に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【武術:E−→Eに上昇しました。現在の《保有技点》は6427です】
・
・
・
・
【現在の《保有技点》は4327です。武術に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【武術:S+→S+に上昇しました。現在の《保有技点》は4107です】
ひとまず僕は《武術》をS+まで上昇させる。
数日前は《武術:S》まで振った時点で《保有技点》を全て使い切っていたとは思えない。
僕は未だ4000以上残る《保有技点》にごくりと唾を飲む。
ヘザーが言うには、どうやらこれ以上は《条件》とやらを満たさなければ《技点》を振る事が出来ないらしい。
【現在の《保有技点》は4107です。武術に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
選択画面は問題なく表示されている。
僕は
【《警告》──《条件:全ステータスがS+以上》を満たしていないので《技点》を割り振る事が出来ません】
脳内に表示された《条件》に僕は思わず眉根を寄せる。
今日の調子ならば《武術:SS》の聖剣使いとして名を馳せるのはそう遠く無いと思っていた。
しかしどうやら《武術:SS》には相当に厳しい《条件》があるらしい。ただ──
(──無理な条件じゃない)
《武術》《魔法》《防御》《敏捷》《器用》《反応》《幸運》全てがS+以上。
一体どれ程の《技点》が必要になるか想像しただけで気が遠くなるが、《伝説の剣》がある以上決して無理な条件ではない。
(ここで折れる訳にはいかないよね)
僕は新たに明らかになった条件達成に向け、身を引き締めた。
─────────────────
《後書き》
経験値、《技点》周りの設定を変更します。
それに伴って矛盾が生じないように今までの話を改稿します。
具体的な変更点は以下の通りです。
【改稿前】
敵から貰える経験値は常に一定
↓
【改稿後】
・同じ敵を倒し続けると、その敵から貰える経験値が減っていく
・成長するにつれて自分より弱い魔物から獲得できる経験値が減少する。(総技点が増えるにつれて低位の魔物から獲得できる経験値が減る)
・その他ステータスの上昇に必要な《技点》、ステータスの設定等の細かい部分の変更
変更の理由として、
・現状の設定で物語を進めていった場合、獲得可能な《技点》が成長に必要な《技点》に比べてあまりに多すぎる。
・同じ地点で同じ魔物を討伐(それこそ5階層で魚狩り)し続けるのが最高効率になってしまう。
・わざわざ強い魔物を倒しに行く必要がない。
等の理由で物語の進行上面白くならない、展開に無理が生じると判断した為、設定を変更いたします。
次回更新まで間が空くかもしれませんが、ご容赦くださいませ。
《魔法袋》を手に入れたからと追放された荷物持ち、《伝説の剣》を持ち上げ最強に 生き馬 @reminiscences
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