跳べない兎は海に潜る。

@Chanres

Diving.

すでに日は落ちた。

前を向く気にもなれず、道路脇にずるずると延びる白線を目で追いながら歩く帰り道。

僕の人生初のちっぽけな試み。願い。想い。勢いよく飛び出したそれは、その初速を上回る速度で空中分解した。

もう二度と思いだしたくないはずのあの子がまぶたの裏で囁く。

『ごめん。私...』

目を開くと、涙の色で染まった世界に蛍光灯の光が反射してキラキラと滲んでいた。

すでに日は落ちた。それでも道を照らす光はポツポツと先を照らしているから。

僕は重い体を引きずって帰り道を歩く。歩く。

袖で涙を拭い、そしてまた白線を目で追う。

暗闇で白線が霞む。

頭の中で呪文のように繰り返されるのは、あの時の言葉。

『ごめん...ごめん...』

言葉の一つ一つが重しになって、まるで海に沈んでいくように。

それはまるで、底の深さを知らずにダイブしたあの日のように。

水面の光が遠のいて、目の前が真っ暗になった。

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