外伝(あるいは本編) 少年の昔語り プロジェクト・メイジック!SSSより

少年の昔語り プロジェクト・メイジック!SSSより

 国際防災大学付属高等学校洋上学舎オーバーザホライゾン号。

 同、艦尾展望デッキ。

 この日も、高校生にして『天災』発明家の獅童鐘吾は空を見上げていた。風呂上りなのだろう、黒の作務衣姿だった。

 そこに、同付属小学校六年にして世界唯一の民間の魔法使いアリシア・ユースティティアと、同付属高校教師にして世界初の魔法使いカレン・ベルナデッタがやってきた。やはり彼女たちも風呂上がりのようで、アリシアは桜色の子ども用甚平、カレンも外着とはいえ軽装だった。

「お疲れ様です、カレン先輩。アリシアも、今日もよく頑張った」

 カレンはスウェーデン王朝の第一王女であり国際防災大学(通称IDC)の卒業生でもある。彼女は肩書で呼ばれることを嫌っているため、カレン自身が「先輩」もしくは「シスター/お姉ちゃん」と呼ばせている。

「鐘吾さんもお疲れさまでした!」

「ごきげんよう、シドー。やはり今日もこちらにいらっしゃいましたか」

 すると、カレンが鐘吾に尋ねた。

「ところでシドー。パナマ運河を渡る前でしたでしょうか、そのころにシャワールームで面白い話を小耳にはさんだのですが、聞いていただけますか?」

「はい。ずいぶん前ですねえ」

 地元では問題児扱いされていた情報メディア科のアル=ハマルはエジプトのアル=シシ大統領に見いだされたこと、豪華客船の船長を父に持つ航海技術科のシュゼットは父にあこがれ自分も自分だけの船を持ちたいという夢を抱いたことだった。

「アリー(アリシアのこと)の話もこの前砂浜で聞けましたし、やはり国際防災大学およびその付属校という特殊な学び舎に来たからには、それなりの目標や理由などがあるのではと思いましてね。海技科のエリー・アンドリューは海軍の司令官である父に放り込まれたとか」

 そこに、アリシアが鐘吾に尋ねた。

「はぅ、そうです。鐘吾さんはどうして、IDCに入ろうと思ったんですか? あと楓さんも」

「まあ、アリーったら。それはわたくしがお聞きしたかったのに」

「はぅ……。ごめんなさい、カレンお姉ちゃん」

「まあまあ。んじゃ、ちょっと話しますか。俺の過去の話」

 鐘吾は作務衣のポケットからコインケースを取り出し、自販機で四本の缶ジュースを買ってカレンとアリシア、そしてカレンの護衛ブラックスミスにも手渡した(カレンはスウェーデン王朝第一王女でもある。様々な理由から今の立場にある)。

「どうぞ」

「はぅ、ありがとうございます」

「ご馳走様です」

 四人は一緒に、缶のタブを開けた。

「俺にはひとり弟が、楓にはふたり妹がいて、俺たちはいつも一緒でした。家が隣同士だったので五人が五人とも幼馴染で友達で、でも兄妹みたいな感じで、大家族の中にいるような感じでした。こっちは男所帯、あっちは女所帯、だから俺が楓たちを守ってやろうと思っていて、だけどいつの間にか勉強のできない俺を楓が突っつくようになって。

 で、俺は小さいころからメカいじりが大好きなやつでした。おもちゃのピアノを買ってもらうと弾いて遊ぶんじゃなくてひっくり返してまじまじと見つめたり、音楽の授業ではリコーダーが鳴る仕組みを音楽の先生にぶつけたり、中学の自作ラジオ作りでは半導体を分解して使えなくしてしまったり、そんなことばっかりやってました。

 オヤジにはしょっちゅう殴られてました。勉強ができないことよりも、エジソン式蓄音機やレトロな懐中時計や瓶詰めの帆船模型なんかを分解して。ハーレーのエンジンを最初に分解したときには三日間泣きじゃくるほどオヤジに折檻食らってましたね」

 そこまで聞いて、カレンとアリシアは青ざめた。

「それはお怒りにもなりましょう、たとえ仏陀やキリストでも。……って『最初に』ですって!? その後も!?」

「はうぅぅ。小学生時代の鐘吾さん、とんでもない破壊王だったのですね」

 ふたりの評価を聞き、鐘吾は頭を掻きながら「いやあ、あはは」と恥ずかしそうに笑う。

 そして続ける。

「きっかけはそう、対島家次女の菫ちゃんのひと言でした。菫ちゃんはとある危険な防災設備をどうにかしたいと思っていたんです。俺は菫ちゃんのその想いをもとに、俺なりのつたない知恵と工作力で『防災ジオラマ』を作り上げたんです。それは学校で表彰され、文部科学大臣賞の銅賞ももらえたんです。俺にとってはそれが大きな転機で、俺の工作力をもっとたくさんの人の役に立てたい、そう思うようになってIDCに来たんです。今の俺があるのは、菫ちゃんのおかげなんです」

「はぅ。そうだったんですね。素敵なきっかけですね」

「ありがとう、アリシア。まあ半分は父親による勘当だったけどな。で、楓の入学理由ほうは特になし。俺が危なっかしいことしないようにってお目付け役で入学したも同然なんです。双方の両親からも『鐘吾のことをお願いね』って言われて送り出されたらしくて。もうやってらんねー、お前来るなって思いましたね、マジで」

「その気持ち、分からないでもないわね」

 そしてカレンが思い出す、彼女の学生時代。

――わたくしにも護衛としてブラックスミスがついていましたから。おかげで在学当時、友達なんてひとりもできませんでしたわ。


 そして鐘吾は、語り始めた。

「んじゃあ、ちょっと聞いてくれませんか? 俺が強く防災というものにちゃんと向き合うきっかけとなった菫ちゃんについて」


 


 Continue to "Project MaGIC! / Socond Soul Successors".

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界救国の魔法士団 白銀(しろがね)のスミレ -エピソード オブ プロジェクト・メイジック!- 旅わんこ @tabiwanko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ