大いなる力と大いなる責任
事故より二週間後。
スミレのラボ。
この日も、キャンプスタイルでスミレたちは昼食を楽しんでいる。
「うわっほぅ! また特上なお肉! スペシャルスキヤキが食べられる!」
「任せなさい。城のコックに言えば、あまりの材料なら何でも持ってこられるから」
「エルフリーデ様、本当にこういう時は生き生きしてますね」
まずはすき焼きにして、半分近く平らげたところでトマトペーストと白米を加えてリゾット風に。ルベライトも強い香りのする調味料がなければ楽しめるため、この日は三人一頭全員で楽しんだ。
すると、スミレが言った。
「そう言えば最近、グラニ見てないねえ。騎士団の人から連れ出し禁止って言われた?」
それには、イレーネが答えた。
「そんなことはないよ。ただ、スミレがボクたちのためにチューニングしてくれたライチョウとハチドリの方が乗りやすいってだけさ。フレームも細くて消火ランチャーも取り出しやすいし、おなかが減ったらその場で滞空してハンバーガーも食べられちゃう。ここだけの話だぞ。エルフリーデ様もライチョウに乗りながらハンバーガーをおあがりになられているんだぞ」
「まっ、まあ、誰も見ていないからいいじゃない。人の目のある所ではこんなことは絶対にしないわよ」
「そうだ。乗りやすさと言ったら、お城のグローリアスドラゴンの鞍って硬くてお尻が痛くなるんだよな。騎士団御用達とは言えまあ大量生産品だししょうがないところもあるけど、スミレだったら万人向けの鞍とか作れるんじゃないか?」
「そうだね。ルベライトの鞍を参考にちょっと考えてみるよ。ところでエルフリーデ」
話を振られ、エルフリーデはスミレの方に向き直る。
「何かしら」
「ほら、この前の飛行船墜落事故。あれでさ、船長さんたちや荷運びギルドの人たち、今どうなってる?」
「ああ、そのことね。とりあえず荷運びギルドのコルボーの代表はギルドメンバーの労働時間を削られたことを我が国に訴え、お父様はそれを更なる損害賠償に乗せたわ、仲介手数料込みでね。観測士と操縦士のふたりは岑国での裁判待ち、その先の報告はまだ上がっていないわ。船長の劉五星さんなら」
そのあとを、別の声が引き継いだ。
「私の造船所で働いてもらっているよ」
三人がそちらに振り向くと、そこには馬に乗ってやってきたツェッペリンがいた。
「ツェッペリンさん!」
「ご無沙汰しております殿下、そしてスミレくんたち。彼、五星さんは船長になる前はご自身も飛行船の操縦士だったそうで、今後のフルークツォイクの開発、設計、操縦のアドバイザーになってもらおうと思っている。そしてゆくゆくの話になるが、五星さんのご家族をこの街に招待しようと思うんだ。ヴェステンは王都ほどの教育設備はないが、働き口はいくらでもあるし生活には困らないだろう。お体が悪いというお母さんの面倒も、ここでなら見られるだろうしね」
「そうなんですね! でも、どうしてそこまで社長さんが……?」
「空を飛ぶ船の開発、製造、運用などに関わる者として、放っておけなかったんだ。もちろんこんなことをいくらでも引き受けていたら身が持たないが、今回は特別だ」
「そうなんですね。きっと船長さんの家族の皆さんも、喜んでくれますよ!」
「だと嬉しいな」
そこに、イレーネが意見した。
「はいはいはーい! それだったら、『青空教室』や『家庭教師』の制度をこの街にも作ればいいと思いまーす!」
「何だい、それは?」
「この国のレイゼン侯爵領北方の森に住むガーゴイル族の話です。彼らは魔法と林業のプロフェッショナルですけど、識字率は低く金勘定が苦手で、取引相手次第では搾取されていたって言うことが昔まではありました。今ではボランティアで教育してくれた人のおかげでそう言ったことはなくなりましたけど。どうでしょう。このヴェステン州でもそう言ったことを事業として始めませんか? そうすれば町全体ではなく、いつかやってくる五星さんのお子さんたちのためにもなるはずですよ」
「いいな、それは! よし、ツェッペリン造船は教育方面の事業を始めてみるとしよう」
するとエルフリーデも。
「でしたら、ぜひとも私からも協力させてください。国民の教育の質が上がるということは、すなわちそれだけ国家に還元されるものも大きくなるはずですわ」
「ありがたきお言葉。このツェッペリン、殿下のご期待に応えられるよう尽力してまいります!」
「よかったですね、ツェッペリンさん!」
「ああ。きみたちのおかげでもある。あ、ところで今日きみを訪ねたのは、この前のバードストライクが引き起こす推進器故障の原因究明とフルークツォイク開発時における同件の対処についてぜひともきみたちの見解を……」
大いなる力には、大いなる責任が伴う。
便利な道具の運用には、それ相応の責任が伴う。
預かるモノが人の命なら、その命と責任と責務の重さを忘れてはいけない。
それを軽んじたとき、取り返しのつかない悲劇は起こる。
スミレは決意を新たにする。
このような人災から人命を守ることもまた、防災と救命の魔法士団ツァウバー・リッターの責務であるはずだと。
異世界救国の魔法士団
-エピソード オブ プロジェクト・メイジック!-
第一幕 終
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