第10話 目覚め

 ハッと目が覚めた。少し息も荒くなっていて、今になって吐き気が催してきた。

 ウッと嗚咽がこみ上げてきて口を抑えるが、そういえば、昨日の昼から何も食べてないことを思い出した。

 空気を変えるために、寝台から降り、窓を開ける。開けてみると、まだ辺りは暗く太陽もまだ昇っていない。

 そして、ビューーと冷たい風が部屋に入ってくる。少し身震いをし、窓を閉めて、布団に潜る。すると、今の冷たい風で目覚めたのか、少女と目があった。

 …なんて言おう。きまずい空気の中、少女の方から声をかけてくれた。

「ここはどこ?」

「…ここは、ティメール家っていう貴族の家です。奴隷市場じゃありませんよ」

「…そう」

安堵したのか少女はまた眠ってしまった。

 俺も寝よう。とも思ったが、続けてあの夢を見そうだったので、無理矢理体を起こした。

 この時間帯なら、厨房でレインが料理を作っているだろう。

 おれは足音を立てぬよう、忍び足で厨房に向かった。


厨房にいくとやはりそこにはレインがいた。

「おはようございます。お早いですね」

「おはよう、目覚めが悪い夢をみたもんでな」

「そうですか、どんなゆめだったんですか」

 レインが死んでいた夢とは口が裂けても言えない。

「…人間が飛行生物と殺し合う夢だ。…どうだ?目覚めが悪くなると思わんかね?」

 おちゃらけたように言ったつもりだが、なぜかレインは眉間にしわを寄せ、野菜をきっていた手を止めて俺のほうを見た。

「……その飛行生物がどんなものだったか…覚えていますか?」

「ん。あぁ、おぼえているよ。空を飛んで、口から火を吹いて……あぁ、翼も生えてたなぁ。…これがどうかしたのか?」

「…あなたの夢に出てきたその生物は多分ですが、『龍』だと思われます」

「龍、か。俺の夢の生物は実在していたのか」

「もうほとんどいなくなってしまいましたけどね」

レインは自嘲気味に言い放ち、少し悲しい目をしていた。

「そうなのか」

「はい。人間が根も葉もない噂を信じ、龍を殺し始めました」

「その根も葉もない噂っていうのは?」

「龍を殺すと、体内から最高峰の武器の原料が出てくる。というものです」

「実際出てきたのか」

「出てくるわけないでしょう。でも、龍はとても強かった。倒せば何かしら手に入るかも。と思うのは少し仕方ないのかもしれません」

そういったきり、彼は仕事に戻った。

俺はコップ一杯の水を飲み干して食堂でまつことにした。



しばらくすると、お嬢が食堂におりて来た。

「おはよう、はやいわね」

「おはようございます。なんだか目が覚めてしまって」

「彼女はまだおきてないの?」

「…どうでしょう?見てきますね」

そういえばと思い、自分の部屋へと急ぎ足で向かう。

 

 音が出ないよう、ゆっくりと扉をあけると、少女は窓に体を預け、ひんやりと冷たい風で長い髪をたなびかせていた。

 その横顔におれはただ見とれていた。美しいや愛おしいなんて言葉では表し切れなかった。

 そんな視線にきづいたのか彼女はこちらを向いた。

「お、おはようございます」

ぎこちなく挨拶をする。

「おはよう」

その後に続く言葉が見つからない。とりあえず、飯の用意ができたと伝えようか。

「食事の準備ができましたよ。」

「あなたが作ったの?」

「いえ、家の執事が毎朝つくってくれています。」

「…そう」

 そういったきり、彼女は窓の外をぼんやりと眺めているだけでそこを動こうとはしなかった。

「いい景色ね」

「あ、ありがとうございます」

 俺はこの家の設計を担ったわけでも、窓から見える景色をつくった訳でもないのに、感謝の言葉を述べていた。

 …彼女が王族だから、緊張しているんだろうか。

そんな俺の焦りや緊張の色が見えたのか、彼女はクスリと笑った。

「私が王族だから、そんなにかしこまってるの?」

…やはり王族だったのか。

「い、いえ、けっしてそんなことは」

「別に悪いなんて一言もいってないでしょう」

「す、すみませ」

「だから、かしこまらなくていいって。普通にはなしていいよ。」

その提案は嬉しかった。だが、王族の人に対して、敬語をつかっていなかったら、お嬢からどやされる気がした。何の為に敬語の練習をしてきたんだ!と。

「すみませんが、お嬢に目上の人には敬語で話すように。といいつけられていますので。」

「えー、君の顔に敬語は似合わないのに」

 敬語が似合う顔って何だ?レインみたいな顔かなぁ。

 レインの敬語の口調はさまになっている。

「絶対、普通にしゃべったほうが良いよ」

「…善処します」

 そう答えるしかなかった。

 そういったきり、彼女はまた窓の外の景色を見始めた。


 また暫く、沈黙がながれる。気まずいし、おなかも減って来たので

「俺、先に食堂に行ってます。食堂の場所は、階段をおりてすぐ右です。

それじゃまたあとで」

そういっておれは去ろうとすると

「私に聞きたいことないの?」

と彼女が引き止めた。

「え、そりゃあ、色々ありますけど。後で聞きますよ」

彼女には申し訳ないが、俺は一刻もはやく飯にありつきたかった。

「今しか答えないといったら?」

「…じゃあどうやって厳重な警備の中、ぬけだすことができたんだ?」

「それが君の知りたいこと?」

「他にも聞きたい事はあるけど、まぁしりたいことってか気になる事だな。で、どうやったんだ?」

「少し長くなるから、ご飯を食べながら話しましょう。」

彼女は窓をとじてこちらに寄ってくる。

「じゃあ、案内よろしく!」

俺は彼女を連れながら、食堂へ向かった。











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虚の星 鳴成 @meisei_narunaru0

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