第9話 夢のつづき

 まさか俺が助けた子が国王の娘だとは思いもしなかった。

 だが、レインの言葉に引っかかる部分があった。

「その背中の紋様は王家の証なんだろ。見た目や身長的にも国王の娘であることは確実だろう?なんで可能性が高いって言い方なんだ?」

「前にも言った通り、国王は娘を厳重な警備の下で家に暮らさせています。なので、この国にいる人誰一人として彼女の素顔を見たことがありません。勿論私もお嬢様もです。なので、確証がないんですよ。」

「あーそういえばそんな話があったな。」

 あれはひどい話だったな。…ふと疑問におもう。

 …厳重な警備の中、少女はいったいどうやって屋敷の外に出たんだ?

まぁこればっかりは幾ら考えても埒が明かないとおもったが、

「……そういえば、王女って、王技持ってたよな。確か見た相手の王技の詳細がわかるってやつ。」

「はい、そうですね。」

それを使えば、家から何かしらの方法で抜け出せる王技を持っているやつを探し、抜け出した。ってのが有力かな。まぁ後で本人にじっくり聞いてみればいいか。

「…助けたお礼にノアさんの王技がどんなものか、見てもらっては?」

とレインが提案をしてきた。

 …そういえば二人にはまだ王技の能力が判明したと伝えていなかったな。

「そのことなんだけど…じつは俺、王技どんなものかわかっちゃったんだよね。」

二人とも目を見開いて、俺を見てきた。

「うそっっ!!どんな能力だったの!?」

お嬢は身を乗り出して聞いてきた。

「能力に関しては、明日のレインとの対人戦闘の特訓の時にみせますよ。」

俺はレインに向かってにやっと笑った。

「…楽しみです」

レインもにやっと笑っていた。

 話が一区切り、ついたので俺は少女をお風呂に入れる。一通り体を洗い終えたので

体を拭いて、服を着させ寝台に運ぶ。


「…ふぅ」

やっと一息つけた。朝からいままでやる事が多すぎた。

 朝は特訓、昼は買い物と追いかけっこ。夕方は捜索願に目を通し、俺が助けた少女は王女かもしれないときた。

 一日で起こった情報量とは到底思えない。

 ついでに王技の発動条件共に能力も少し判明した。…復習をしておくか。次、この王技を使うとき頭に説明がながれてくるかわからないし、覚えておくにこした事はない。


まず、一の目『一水四見』《いっすいしけん》

 これは、俺を客観的、多角的に見る事が出来る。つまり、上空からみたり、俺の死角を見たりする事ができる。

 この時の映像は右目に映し出され、一回で四つの視点から見る事が出来る。この王技のおかげで、俺は男の攻撃をよける事が出来た。

 ただ制約として、この視点は必ず、おれを捉えていなければならない。


次に、ニの目『罷具還掌』《ひぐかんしょう》

 これは、俺が最後に触れた武器や道具を右手に呼び出す事ができる。だから、武器を奪われたり、武器を遠くに投げられたって状況で使える。 

 制約としては、一定以上の距離が離れると、右手に呼び出すことが出来ない。


 …大方の概要はまとめられただろう。この王技は直接攻撃力や防御力なんかの身体能力をあげるものではないが、使いやすい、汎用性に優れた良い王技だとおもう。

さらにおれにはまだ三、四、五、六の目が残っている。沢山伸び白が有る。

 にまにまと気持ち悪い笑顔を浮かべながら、サイコロを手に取って眺めていたら、

寝てしまったようだ。



 目が覚めるとこの数ヶ月間で見慣れた景色が広がっていた。辺り一面に生える樹木。所々赤く燃えていて、うめき声や叫び声が響いている。

 ……またかと口に出す。この数ヶ月幾度となく夢に出てきた景色だ。

 毎回男の顔にもやがかかっていないか確認をし、一歩踏み出せば体が沈み、目が覚める。

 …それだけだ。

 


 ただ今回は少し違う。どこが違うのかというと、はじめの視点や体勢がちがった。

いつもなら、視点は低く、岩に体をもたれかかせた体勢でこの夢ははじまる。

 なのに、今回は視点は高く、しっかりと立っていた。しかも、岩もおれの視界のうちにおさまっている。

 …いったいこれは。と思っていると、視界の端でのそっと誰かが立ち上がった。

 ……俺だ。岩に隠れていて気づかなかったが、そこには俺がいた。

 俺が二人いる?そう疑問に思っていると、彼は突然叫ぶように泣き始めた。

 …顔にもやがかかっていた男の前に手をついて。

 ただ今回はもやはついてなどいなかった。もやのかかっていた男のしょうたいは…なんとレインだった。なんでレインがここに……


 すると彼は何かを思い出したような顔をしてこの場を立ち去っていった。歩いているのか、走っているのか分からない速度で……。

 俺はついていこうと決め一歩足を踏み出した。地面は沈まなかった。


 森を抜けると、見た事もない生物がいた。

 それは、宙を舞い、口から炎を吐き、翼で風を起こしていた。その飛行生物に人間は必死に抵抗していたが……人間が劣勢なのは火を見るより明らかだった。

 さらに驚くべき光景を見た。この戦いは人間対飛行生物だと思っていたのだが、

……人間が人間を攻撃していた。ある男は鎖でつながれた三本の棒で敵をなぎ倒し、

ある男は、大剣を振り回し、少年のような見た目をしているやつは、見えないほどの早さで剣をふっていた。するとそこに遠方から緑色の弓が降って来た。どうやら弓使いもいるらしい。

 もっと彼らの戦いを見ていたかったが、彼は先にずんずんと進んでいき、見失いそうだったので、見るのをあきらめ彼を追いかけた。



 暫く歩くと、目の前には死体の山が築かれていた。その山の麓にある一つの死体を彼はじっと見つめていた。

 俺は彼の真後ろにいたので、はっきりと表情は見えなかったが、歯を食いしばっているように見えた。彼は俯きながらその死体を抱いて今きた道を戻っていく。

 その死体は胸のふくらみ具合から女性だとわかった。だが肝心のだれかまではわからなかった。だって……

 首から先がなかったのだから。


 レインの死体があった場所まで戻ってくると、彼は岩にその死体をもたれかかせた。

 よく見ると、その子は槍を握っていた。彼は死後硬直で固くなった指を一本一本、丁寧に指を緩めていった。

 そして死体の指から外れた槍を右手に持ち、顔を耳に近づけて、

「………すぐ……もどるから」

 その言葉には、怒りや悲しみ、負の感情全てが乗っかっていた。

 彼は振り返り、俺と初めて目が合った。その目はこの世のものとは思えないほど、黒く淀んでいた。そこで俺の意識はぷつんと途切れた。






 

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