第11話 『最初は読み合わせ!』

ようこそ演劇サークルへ ~大学で冴えない俺が演劇サークルに出会って人生変わった話~


第11話 『最初は読み合わせ!』

作 えりんぎ♂


【吉田のマンション】


プリティ『ダーティ!!』

ダーティ『わかってる!!』

プリティ『可愛いは正義!くらいなさい!!正義の断罪!!』

ダーティ『混沌に染め上げろ!漆黒の力!』


 プリティとダーティは腕を前に突き出す。


プリティ『プリティジャッジメント!!』

ダーティ『ダーティエクスプロージョン!!』


 2人の声を合図に桃色と紫色の光線が発生する。


敵らしきもの『ぐわぁぁぁ!!』


 大爆発する。

 吉田がテレビでアニメを見ている。内容は子供向けの魔法少女もののようだ。


吉田「(魔法戦士プリティ&ダーティ…朝のヒーロー番組を観る流れで、ちょうど近い時間にやってたから、たまたま観てからというもの…妙な爽快感のある勢いのいい展開が面白くってハマってしまった…まさか、子供向けのアニメにハマるとは…)ん?」


 テレビでは今度ある映画版『魔法戦士プリティ&ダーティ』ついて声優がコメントしていた。


小早川『こんにちは!テレビの前の皆さん『プリティ』役の『小早川(こばやかわ)みやび』です。映画では『プリティ』と『ダーティ』の意外な一面が観れたり、カッコイイアクションや、もちろん可愛いところも凄くいっぱい詰め込んだとても楽しめる内容になってると思います。是非、劇場に足を運んでみて下さい』


 『プリティ』役の声優は黒髪でとてもお淑やな雰囲気の女性だった。


吉田「(へぇ、この人が声優さんなんだ…)」


【部室】


井上「みんな~、台本には目を通して来たかな?」

みんな「はーい」


 部室にはいつものサークルメンバーに加え、水戸瀬詩(みとせうた)がいる。


井上「みんな偉いね!それじゃあ、今日は読み合わせしよう」

みんな「はーい」

吉田「…読み合わせって、みんなで台本を読むってことですよね?」

井上「うん、端的に言えばそうだね」

間島「読み合わせは台本の台詞をそれぞれの役で読む事で、実際に動く前にそれぞれの演技のバランスや方向性のすり合わせができ単純に台詞を覚える練習にもなるんだ!」

吉田「なるほど」

水戸瀬「わたし、空いてる役やっていいけ?」

井上「どうぞ」

吉田「(…なんで水戸瀬さんいるんだろう?)」

水戸瀬「今日は暇じゃっでね!」

吉田「心を読まれた!?」

水戸瀬「顔にかいちょるよ」

吉田「え!?嘘!?」

水戸瀬「ここ、ここ」


 水戸瀬は吉田の頬をツンツンする。


吉田「ちょっ!」

水戸瀬「ニシシッ」

川村「あんまからかうなよ」

水戸瀬「ヒヒッごめんごめん」

井上「えーと、じゃあ、『ト書』きは僕が読むね」

吉田「…『ト書き』?」

間島「『ト書き』とはコレの事さ!」


 間島は自分の台本を吉田に見せ、台本の一文を指す。

 

 『委員長と副委員長は下手からはける。』


間島「『ト書き』はこういう風に人物の動きとかが説明されてる文の事さ!」

吉田「あ~、前に練習で使った台本にも書かれてた説明みたいなヤツの事を『ト書き』っていうんですね」

間島「そうだね!」

吉田「ん?…これはなんですか?」


 吉田は台本の<BGM FO>と書かれているとを指す。


間島「これはBGMがフェードアウト、つまりBGM…ここで掛かっている曲が段々小さくなって消えることを示しているのさ!」

吉田「へぇ、そういう意味なんだ」

間島「こっちには照明の事が書いてるね!」

 

 間島は台本の<上手サス CI>と書かれているところを指す。


吉田「上手サス?CI?」

間島「上手サス、カットインさ!つまり、上手側の『サス』が段々じゃなくパッとつくことを示しているのさ」

吉田「あの『サス』って?」

間島「えっと、『サス』というのはなんていうんだろ…スポットライト?いや、スポットは別にあるから…」

井上「『サス』というのは『サスペンションライト』っていう舞台の上から吊るされた照明の事で、スポットライトみたいに一部分だけ明るくする演出に使われたりするんだ」

吉田「…なるほど?」

井上「まあ、照明とかの説明は実際に使うときに見せながら教えるからそういうのもあるんだなって感じで今は置いといて大丈夫だよ」

吉田「わかりました。でも、台本って役者さんの動きだけではなく照明や音響の事とかも書いてるんですね」

井上「台本は照明さんや音響さんも見るからね。それに、照明や音響が場面転換や演技のきっかけになる事もあるから役者さんにとってもどこで照明や音響が変わるのかを把握する事も大事だからね」

吉田「なるほど」

福島「せやから、読み合わせのときにも実際の舞台がどういう状況なんか想像しやすくして、把握できるように『ト書き』もちゃんと読むんやで~」

吉田「なるほど!」

井上「それじゃあ、読み合わせ始めようか」

みんな「はーい」


≪読み合わせ≫


川村「『はい!というわけでここが演劇サークルの部室です!』」

吉田「『はあ』」

川村「『ようこそ演劇サークルへ!!』」

井上「『部長はようこそのポーズを取る。』」

吉田「『…他の方はいないんですか?』(棒)」

川村「『おぉ!そう!それだよ!よく聞いてくれた!実は…かくかくしかじか!』」

吉田「『なるほど、つまり現在演劇サークルは…』」

福島「あ?」

井上「ん?」

吉田「え?」

川村「台詞飛んだぜ、ここ」


 川村は吉田の台本に指さす。


吉田「あ、すいません…えっと『…かくかくしかじかって最近、聞かない表現ですね』」

川村「『いいの!わかれば!とにかくそういう事!分かってくれた?』」

吉田「『なるほど、つまり現在演劇サークルは人とか実績が無いから部室が無くなってしまう窮地に立たされていて』…え?あれ?」

川村「ここ」

吉田「あ、すいません…『それを何とかする為に先ずは人員確保から始めようという事で呼び込みをしていたと…』(棒)」

川村「『そういう事!いやー良かったよ!早速1人目が見つかって!』」

吉田「『逆になんで入ると思うんですか?』(棒)」

川村「飛んだぜ」

吉田「え?あ!すいません」

水戸瀬「目がすべっちょるね~」

吉田「え?」

水戸瀬「吉田くん、自分の台詞に色とか塗っとっけ?」

吉田「え?色?」

間島「あぁ!確かに!それは教えてないですね!」

吉田「え?」

川村「吉田これ」


 川村は自分の台本を見せる。川村の台本は川村の役の台詞すべてに蛍光ペンで色が塗ってあった。


吉田「色が塗ってある」

水戸瀬「声に出しながら文章読むのは慣れちょらんと難しかでね。声を出すのに気を取られて自分の台詞がどこか分からなくもんじゃ。分かりやすい色で自分の台詞を塗っと見失いにくくなる。これ単純だけどオススメじゃっど」

吉田「なるほど」

川村「ほら」


 川村は蛍光ペンを吉田に渡す。


吉田「ありがとうございます」


 吉田は自分の台詞に線を引いた。


≪読み合わせ終了≫


井上「<暗転>…はい、みんな、お疲れ~」

吉田「…なんとか、最後までいけた…」

間島「吉田くん!凄いじゃないか!」

吉田「あ、ありがとうございます」

水戸瀬「少しは読みやすくなったけ?」

吉田「あ、はい!だいぶ、自分の台詞が分からなくなる事は減りました」

水戸瀬「そいはよかったね!」

吉田「でも、結構つっかえちゃってました…」

水戸瀬「最初はそげんもんよ、ようは慣れよ!慣れ!」

吉田「慣れですか、やっぱり本とか朗読するといいんですかね?」

水戸瀬「よかね!声を出して読む事が大事だから、活字が書いてる本なら物語でもエッセイでも自己啓発本でもなんでもOK!」

吉田「なるほど」

水戸瀬「本がないときは、ニュース記事もオススメ!」

吉田「ニュース記事?」

水戸瀬「インターネットの無料のニュース記事があるでしょ?ヤッホーニュースとかなんでもいいけど、そこに掲載されてる文章を読むのは効果的!ニュース記事は難しい言い回しや言いにくい言葉とか割と出てくるし、しかも毎日更新されるから練習題材として尽きる事がない、おまけに世間の情報も知れるからいいこと尽くしって訳!」

吉田「なるほど、ニュース記事」

間島「そういう練習方法もあるんですね。流石です!」

水戸瀬「まあね!受け売りだけど!」

吉田「…あの」

水戸瀬「ん?」

吉田「水戸瀬さんは演劇サークルの部員じゃないんですよね?」

水戸瀬「うん、そうよ」

吉田「なんで、そういう事に詳しいんですか?」

水戸瀬「あ~、そいわ…」

間島「それは詳しいよ!だって水戸瀬さんはプロの声優さんじゃないか!」

吉田「え?」


 部室内の空気が止まった。


井上「…間島くん」

間島「…あれ?吉田くんは知らなかったんでしたっけ?」

川村「おい」

福島「あかん」

間島「申し訳ない!水戸瀬さん!」

水戸瀬「あ~…よかよ!!吉田くんは他に言いふらしたりせんやろし!」

吉田「…え?声優さんって、あのアニメとかに声をあてる声優さんってことですか?」

水戸瀬「…フッフッフッ、そう、女子大生水戸瀬詩とは世を忍ぶ仮の姿」


 そう言いながら水戸瀬は部室の真ん中に移動する。


水戸瀬「その正体は!声優『小早川(こばやかわ)みやび』じゃっど!」

吉田「『小早川(こばやかわ)みやび』…」


 小早川『こんにちは!テレビの前の皆さん『プリティ』役の『小早川みやび』です』

 

吉田「ッ!?『小早川みやび』って…『魔法戦士プリティ&ダーティ』の『プリティ』役の!?」

水戸瀬「ほう!知っちょるねぇ!そう!『プリティ』役の『小早川みやび』でーす!」

吉田「う、嘘…」

水戸瀬「『可愛いは正義!くらいなさい!!正義の断罪!!プリティジャッジメント!!』」


 水戸瀬はキメポーズを取る。


吉田「ッ!!…ほ、本物だ…いや、でも…インタビューで見た小早川さんはそもそも黒髪だったし雰囲気も違うし喋り方も全然違ったような…」

川村「おまえ、詳しいな」

吉田「え?い、いや!それは、その…アニメとかたまに見たりするのでたまたまですよ!たまたま!」

水戸瀬「あれはキャラ付け、こっちが素。若いから身バレすっと大変っち、事務所がキャラ付けした方がよかって事でああなったんよ」

吉田「な、なるほど」

川村「んで、こいつがサークルに入ってないのはバレたとき色々面倒にならない為だ」

福島「みとっち目的でサークルに入って来られたり、プロの声優がサークルの公演に参加するとかなったら大変やもんね」

水戸瀬「そう…本当はわたしもみんなとサークル活動したいけど、迷惑かけられないからたまにお忍びでサークルの練習に参加したり、お手伝いしたりしかできんのよ」

間島「くっ!…それを僕は口が滑って…!申し訳ない!」

水戸瀬「だから、もう、よかってぇ~」

吉田「…なるほど、そういう事だったんですね…ちなみに『小早川みやび』って名前は…」

水戸瀬「清楚っぽい名前じゃろ?」

吉田「あぁ、そんな感じなんだ」

水戸瀬「まぁとりあえず、わたしが『小早川みやび』って事はオフレコじゃっで、よろしく!」

吉田「オフレコ?」

永田「オフレコとは…」


 水戸瀬は手で永田を制し、ニコッと笑い吉田の耳に口を近づけ。


水戸瀬「『バラさないでって事♪』」

吉田「ッ!!」

水戸瀬「『プリティとの約束だよ♪吉田くん♪』」

吉田「あ…ひゃい…」


【吉田のマンション】


 吉田はPCで『魔法戦士プリティ&ダーティー』を見ている。


カニ怪人『カニ!カニ!カニ!このまま世界中のカニカマにカニを混入させてカニアレルギーの人間にカニを喰わせてやるわ!』

ダーティ『くそ!やめろ!アレルギー持ちの人にアレルギー反応の出る食いもんを食わせんのは犯罪だぞ!』


 ダーティはカニカマのような触手に捕まっている。


カニ怪人『カニ!カニ!カニ!偉大なるカニを喰えない人間等滅びて当然!おまえはそこで、100g50円の低品質なカニカマでも喰いながら見ているんだな!』


 ダーティの口にカニカマのような触手が突っ込まれる。


ダーディ『ムぐッ!…ゲハッ!ゲホッ!ゲホッ!嫌なすぱっさ!これ、傷んでるんじゃねえか!?』

カニ怪人『カニ!カニ!カニ!どうやら期限が切れてたようだな!残念だが貴様はお腹を壊す運命…!!』

プリティ『そこまでよ!』

カニ怪人『な!?この声は!?』

ダーティ『プリティ!?』

カニ怪人『馬鹿な!カニカマの海に沈めたはず!』

プリティ『残念だったわね!可愛いに不可能は無いの!大食い女子属性は可愛いのよ!』

カニ怪人『カニィィィ!?あの量を喰ったのか!?あれを喰いきるのは大食い女子というよりもはや化けも…』

プリティ『可愛いは正義!くらいなさい!!正義の断罪!!』


 プリティの声と同時に超巨大なカニバサミが出現する。


カニ怪人『待っっ!!』

プリティ『プリティジャッジメント!!』

 

 問答用無用で超巨大カニバサミが振り下ろされ

 

カニ怪人『ガニィィィィ!!』

 

 ドゴオォォッ!!

 大爆発した。

 

プリティ『大丈夫?ダーティ?」

ダーティ『あぁ、なんとかな』


 煙の中からダーティを抱えたプリティが現れる。


ダーティ『…腹の調子もなんとか大丈夫そうだ…また助けられちまったな…ありがとよ』

プリティ『ふふ、どういたしまして…』


 そう言って、プリティはダーティを降ろす。

 プリティが周りを見渡すと辺りにはカニの破片らしきものが散らばっている。


プリティ『うーん、今日の夕飯はカニ雑炊ね』

ダーティ『ふっ、こんな状況で…おまえは本当にたくましい…』

プリティ『ん?何?』

ダーティ『いや!…か、可愛いな…』

プリティ『ふふ、ありがとう♪…あ!そうだ!』


 プリティはカメラ目線になる。


プリティ『良い子のみんなアレルギーは本当に怖いからアレルギーを持ってる人に無理やり食べさせちゃダメだからね?』


 プリティがアップになる。


プリティ『プリティとの約束だよ♪』


 『魔法戦士プリティ&ダーティ』のEDが流れ始める。

 吉田はそれをボケーっと見ていた。


吉田「……」


 吉田は自分の耳に手を当てる。


水戸瀬「『プリティとの約束だよ♪吉田くん♪』」


吉田「……凄いな声優さんって」


■登場人物


小早川(こばやかわ)みやび…最近、売り出し中の声優。『魔法戦士プリティ&ダーティ』の『プリティ』役を務める。清楚で真面目な印象を与える雰囲気を醸し出しているが、その正体は水戸瀬詩の仮の姿であった。ちなみに黒のロングヘアーはウィッグを使っている。


水戸瀬詩(みとせうた)…大学2年生。身長は160ないくらい。ピンクのボブヘアに青、緑、黄、のグラデーションやメッシュの入った髪に丸いサングラスをよく掛けている。基本は鹿児島訛りだが、標準語も普通に喋れるらしい。


吉田康太(よしだこうた)…大学2年生。身長は170cmないくらい。髪の長さは長すぎず短すぎず。外を歩いているとよく知らない人に道を聞かれる。


川村(かわむら)あかね…大学2年生。身長は160前半。金髪プリンショートポニテ。小麦色の日焼け肌。学校や近所を徘徊するときはジャージかパーカー。


間島真(まじままこと)…大学2年生。身長は180前半。すっきりしたスポーツ刈り。黒ぶちの四角い眼鏡を愛用。ベンチプレス150kg挑戦中。


福島(ふくしま)しおり…大学3年生。身長は140前半。前髪ぱっつんショートヘア―。年齢確認率100%。


井上博人(いのうえひろひと)…大学3年生。身長は170前半。茶髪のミディアムショート。特技は後方保護者面。

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