エピローグ
サキちゃんはそれから、俺との同棲をおしまいにした。
彼女は、家に帰って、勉強ばかりするようになった。
髪は少しずつ伸びて、ロングヘアになった。
表情はいつもどこか申し訳なさそうで、「すみません、天馬さん」とよく謝ってきた。
そう、『天馬さん』だ。
『天馬お兄様』じゃない。
彼女の中では、もう面白いお兄ちゃんではなくなってしまったということか?
催眠術の能力は、自己催眠で完全に消してしまったようで、サキちゃんはいつも自信がなさそうだった。
他人との関わりを避けるようになって、たまに俺が遊びにいくと、ペコリと頭を下げてきた。
まるで、昔の道命サキが戻ってきたようだった。
そうなのだ。
もともとこの子は引っ込み思案で、自信をつけるために催眠術を勉強していた。
それが暴走してしまっただけだ。
悪用はしていたが、幸い被害者はいなかった(というか被害の記憶を消されている)ので、彼女が催眠術を使えたことを知っているのは、俺だけになった。
サキちゃんはずっと勉強していた。
何かに取り憑かれたように。
俺が高校を卒業した日、道命サキも中学校を卒業した。
二人で久々に海岸沿いを散歩した。
ベンチに座って潮風を浴びていると、サキちゃんは話してくれた。
「わたしが中学生になると、天馬さんは高校生になりました。わたしが高校生になると、天馬さんは大学生です。まるで、逃げられてるみたいですね……。はー、都会での大学生活、楽しんでください。わたしは、これから一人で生きる道を探っていきます」
「……大学生活は」
俺は、恥ずかしかったけど、ボソッと呟いた。
「四年ある。俺が四年生になった時、サキちゃんは一年生だ」
「え……? でも、嫌いなんでしょ? わたしのこと」
「えっと、サキちゃんは、辛かったろうけど、戻ってきてくれたから。俺の好きな方のサキちゃんだから……」
「もう、前みたいに元気じゃないですよ……?」
「それでも、ずっと可愛くなったとは、思う!」
「えー……」
サキちゃんの幸せそうな微笑みを、久々に見られた気がした。
幸い、近くに人影はない。
サキちゃんは俺の手を握ってきた。
そっと、ひたすら不器用に、初めてのキスを俺の口にしてくれた。
催眠術なんかかかっていなくても、人生で一番嬉しかった。
――――――――
あとがき
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
こういうエンディング、個人的に好きなんですよね……!笑
皆様はどうでしたか? 楽しんでいただけたでしょうか。
幼馴染の催眠術が強すぎるんだが りんごかげき @ringokageki
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