第2話(最終話) 嬉し恥ずかし交換日記
2つ目が、私の初恋のエピソードです。
私は相当な奥手でした。今風に言えば草食系男子ですね。中学時代は3年になってやっと初オナニーしたくらいですから、キスもセックスも夢のまた夢。私のファーストラブ、初恋の相手は中学1年の時に交換日記をしていたI子という娘です。
私は、中学1年の時に仲が良かった女の子が4人いました。そのうちの1人がI子です。あと3人を簡単に紹介すると、まずうち2人がクラスで目立っていた人気者の女子。だから仲が良いといっても他にも沢山の男子がひしめいていて、私はその中に埋もれていたような感じです。もう1人がI子の親友のJ子です。
I子は決して人気者ではありませんでした。目がクリっとしてよく見るとカワイイのですが、デブと紙一重のぽっちゃり体形だったからです。でも、とても気さくで話しやすく、私と気が合いました。そしてJ子は目鼻立ちのはっきりした綺麗な顔で、ほっそりしてウエストがキュッと閉まったナイスボディ。けっこう人気者です。
当時J子が私の隣の席で、I子は斜め左の席に座っていました。この席は私の後ろに座っていたA男の隣です。A男はお笑いタレントみたいに話が面白く、いつもみんなを笑わせていました。席が近い事もあり、休み時間には主に私とこの3人の計4人で話していたのです。
特にI子はすごいオマセな娘で、良く一緒に恋の話、いわゆる「恋バナ」をしました。
「なあ、М(I子の姓)ってもし男子から告白されるとしたら、何て言われたら嬉しいの?」
「そうだなあ……一言『惚れたよ』って言って欲しい。H(私の姓)は?」
「俺はやっぱり『好きです』だな」
私の地元、群馬県では中学くらいの頃は、男女共お互いに苗字を呼び捨てにしていました。
「Hはどんな人が好き?」
「やっぱり目がぱっちりしてる娘かなあ」
「私結構目は大きいでしょ」
「お前はデメキンみたいだからな。リスみたいな娘がいい。そう言うМはどうなのさ」
「背が高くて優しい人かな」
「そしたら俺みたいなチビは眼中にない?」
「そうかもね」
初めのうちはI子に対して恋愛感情はありませんでした。もしあったら逆にこんな恋バナなんて、とても恥ずかしくて出来ません。どちらかと言えば隣のJ子がかなりお気に入りだったのです。
いったいどんな感情が恋と呼べるのか。これはとても難しいと思います。人それぞれ違うでしょうし、その人自身も年齢と共に恋のとらえ方というのは変わっていくのではないでしょうか。
かなり広い意味で言えば、幼馴染の近所の娘とか、小学校低学年の頃に好きだった娘とかに対して持った感情も恋なのかもしれません。でも、今から考えるとこれらは疑似恋愛だと思います。
当時、クラスの男女間で交換日記をするのが流行っていました。きっかけはS男とJ子が先陣を切って始めた事です。
S男はテニス部で、モデルみたいな顔立ちのモテ男子です。
これは結構ショックでした。なぜなら私はJ子に疑似恋愛感情を有していたからです。
S男とJ子が交換日記をしている事が周りに知られた時、最初はみんなと一緒にからかっていた私は、その後どことなく元気がなくなっていました。
そんな私を見て同情からなのか、I子がこう言ってきました。
「Hも交換日記したくない?」
「したいな~」
「私してあげよっか」
「えー、Мとかよ。まあいっか」
「ひっどーい。嫌ならいいけど」
「嫌じゃないよ。ぜひお願い」
「しょうがないなあ」
こんな感じで私とI子は交換日記をする事になりました。
オマセなI子は、多分意味も良く分かっていないだろうに、日記にアイラブユーなんて書いて来るのです。これはS男とJ子がやっていた事なので、真似しただけだと思います。でもなんか嬉しかったです。私も思わず同じ言葉で返します。
あとは本当に日常の出来事を伝え合うだけの地味な交換日記でしたが、とても楽しかったです。
この頃から、私はI子に恋愛感情を持つようになっていたと思います。他の女の子の事がどうでも良くなって、I子の事だけを知りたいと思うようになっていたからです。
私にとって狭い意味での恋は、「この人の事しか考えられない」という感情だと思います。だからやはり初恋の相手はI子で間違いありません。今まではこんな気持ちになった事はありませんでした。
でも、奥手の私は結局、自分の気持ちは交換日記に文字で示す事しか出来ませんでした。
I子は私の家に何度か電話をくれたのですが、私の両親、特に父親はとても厳しくて、中学生の分際で男女交際なんてとんでもないという思考の持ち主でした。だから取り次いでくれなかったのです。私はその事を知らずにいました。
今から考えれば、男の私の方が積極的にI子に電話して当り前なのに、そんな事すら思いつかなかったのです。
いや、もしかしたら「男はこうあるべき」という考えに無意識のうちに抵抗していたのかもしれません。
更に、ある日私とI子が交換日記をしている事がクラスのみんなにバレた時に、とても恥ずかしかったので、照れ隠しにあまり乗り気でないみたいな事をポロっと言ってしまったのです。
「熱いね~H。でもI子に気があるTはかわいそうだね。彼女取られちゃって」F子がTに言いました。
Tというのは私の
F子はTと仲が悪く、お互いに天敵のように思っていました。だからF子が女性であるにもかかわらず、怒ったTがF子に手を上げようとしました。
これはまずいと思った私は、二人の間に入ってついついこんな事を言ってしまいました。
「いや、そんなんじゃないから。ただ交換日記が流行ってるじゃん、だからやってみたかっただけだよ。別にMじゃなくても良かったし」もちろんこんなのは本心ではありません。でもI子がその場にいなかったので、こんな事を言ってしまったのです。
この時私に勇気があれば、みんなにI子の事が好きだって宣言出来たかもしれないのに。
当然の事ながら、F子を通じて私の発言はその日のうちにI子に伝わる事になりました。
そこで、誤解を解きたくて、この日はI子と途中まで一緒に帰りました。この頃にはお互いに下の名前で呼び合っていました。
「Y男(私の名前)ひどいよ。私の事嫌いなの?」
「そんな訳ないじゃん。今日はごめん。どうしても恥ずかしくてさ」
「私からの電話に出てくれないのは?」
「ってか、I子俺んちに電話したの?」
「何度もしたよ。知らなかったの?」
「うん」
厳格な私の父は、I子から電話が来ても取り次いでくれなかったのです。
後日、私が抗議すると「中学生の分際で男女交際なんてとんでもない」と言われました。父はそれぐらい真面目くさった人だったのです。
「私はY男と色々話したかったのに。学校じゃ出来ない話とかも」
「そうだったんだ」
「バレンタインチョコだって、義理じゃなかったんだからね」
2月14日には、J子を通してチョコをもらいました。一応私とI子の交際(?)はまわりには内緒だったからです。
「すごく嬉しかったよ。もったいなくて食べられなかったくらい」
「本当かなあ……なんか私の一方通行みたいで疲れちゃった。もう交換日記やめようか」
「そんな……俺はこれからも続けたい」
「私はもう無理かな」
私の煮え切らない態度が原因で、I子には愛想をつかされてしまったみたいです。
こうして、私の初恋はあっけなく終わりました。
日記では恥ずかしげもなく「アイラブユー」なんて書いていたのに、実際に好きな人を目の前にしたら何も出来ない私がいました。当時は単に「素直になれなかった」と思いましたが、今から考えるとこれもやはりセクシャルマイノリティの片鱗の表れではないでしょうか。
その後の人生でも、色々な恋をする中でやはり似たような煮え切らなさを発揮する事になります。このあたりは機会があればお話したいと思います。
完
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
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素直になりたくて~交換日記が繋いで、そして壊した青春の甘い思い出 北島 悠 @kitazima
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