二人で紡ぐ物語

「この世界は……この物語は、僕がただ一人愛する、“フェリシア=プレイステッド”の物語なんだから」


 そう……僕が書き尽くしたこの世界は、全ては主人公、フェリシア=プレイステッドの活躍を描いたもの。

 何より、前世の僕はシアに“大好き”の全てをつぎ込んだんだから。


「ギル……」


 隣にいるシアが、僕と女神ヘカテイアの会話について行けず、オロオロしている。

 そんな彼女が、どうしようもなく愛おしくなって。


「あ……」

「シア……全てが・・・終わったら・・・・・、あなたに話したいことがあるんです……どうか、聞いてくださいませんか……?」


 シアを抱きしめ、その耳元でそっとささやく。

 多分シアは、僕の告白・・を聞いたら、幻滅し、そして怒りに震えるだろう。


 何故ならこの僕が、シアの一度目の人生・・・・・・で不幸に導いたのだから。

 この僕が、シアの背中の傷を……心の傷を作ったのだから……って。


「シア……?」

「……そのようなお顔をなさらないでください。あなたが、何かを隠していらっしゃることは、薄々感じておりました」

「え……?」


 切なそうに告げるシアの言葉に、僕は思わず呆けた声を漏らしてしまった。


「初めて女神教会に連れて行ってくださった時、あなたは『夢を見た』とおっしゃいました。私に呪いがかけられていて、祈りを捧げればそれは解かれる、と」

「…………………………」

「その時、あなたはとてもつらそうに、目を伏せていらっしゃいました。本当であれば、誰よりも喜んでくださるはずのあなたが」

「あ……」


 しまった……僕はシアに嘘を吐いたことへの罪悪感から、無意識にそんな態度を見せてしまったのか……。

 自分の馬鹿さ加減に、思わず唇を噛む。


 その時。


「ギル」

「は、はい」


 僕の両頬をその白い手で挟み、サファイアの瞳で見つめるシア。

 その凛とした表情に、瞳に、僕は声を上ずらせながら返事をした。


「私は、あなたが誰だろうと、どのような思惑があろうと、一向に構いません。それよりも、私はあなたにお聞きしたいのです。あなたは……ギルバート=オブ=ブルックスバンクは、この私、フェリシア=プレイステッドを愛してくださっているのか」

「っ! も、もちろんです! 僕はあなたを誰よりも愛しています! 世界中の……いえ、この世界・・・・ではない・・・・世界・・を含めて、誰よりも!」


 シアの想いのこもった問いかけに、僕は即座に答えた。

 僕のシアへの想いだけは、誰にも負けないから。誰にも譲れないから。


「ん……なら、何一つ問題はありませんね」


 そう言うと、シアは蕩けるような笑顔を見せる。

 僕は、その眩しい笑顔にただ心を奪われていた。


「ギル……私の世界一愛しいギル……あなたが何を隠していようと、何を抱えていようと、あなたが私にくださった想いは、温もりは、慈しみは、全て嘘じゃない。だからこそ、私は救われたのです……だからこそ、私は世界一幸せなのです……」

「シア……ッ!」


 ああ……シア……僕の……僕だけの・・・・シア……。

 僕は……あなたに出逢えて、本当に幸せです……っ。


「ふふ……分かったでしょう? ソフィア……いえ、女神ヘカテイア。ここは、私とギルの、二人の世界。あなたが女神であろうが、ギルの全て・・を知っていようが、ギルの心は私だけのもの。所詮、あなたは傍観者でしかないの」

「……傷女・・の分際で……っ!」

「ええ。私の背中は、あなた……ソフィアのせいで傷だらけにされてしまったわ。でもね? この傷こそが、私とギルの絆の証・・・。その絆は、たとえ女神にだって断つことなんてできない!」


 シアの透き通った声が、この世界に響き渡る。

 僕の、大好きな声が。


「ふふ……皮肉なものね。あなたが余計なことをしたばかりに、私とギルがこんなにも強く結ばれたのですから」

「……黙れ」

「いいえ、黙らないわ。女神ヘカテイア、あなたはこの私が退場させてあげる。私とギルの、二人で紡ぐ物語・・から」

「黙れえええええええええええッッッ!」


 女神とは程遠いほどその顔を醜悪に変え、女神ヘカテイアは咆哮した。


「ギル、行きましょう! 女神ヘカテイアに……ソフィアに打ち勝ち、私達は未来をつかむんです! あなたとの、幸せな未来を!」


 シアのその言葉に、僕の魂が震える。


 だって……彼女が告げたその言葉こそが、物語のラストバトルで放った言葉、そのものなのだから。


 本当なら、ニコラス王子、ショーン王子、パスカル皇子、クリスの四人に向けられたもの。


 それが、全て僕だけに向けられているのだから。


 だから。


「はい! 必ずつかんでみせます! あなたとの……幸せな未来を!」

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【6/5発売!】転生先は自作小説の悪役小公爵でした 断罪されたくないので敵対から溺愛に物語を書き換えます サンボン @sammbon

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